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■13 燻製パーティーです


 私達は早速、運んで来てもらった野菜や果物の苗を、昨日作った畑に植えていく。


「ようし! じゃあ、植え方だが俺や他の《ベオウルフ》がやるのをまずは見てくれよ!」


 昨日に引き続きウーガがてきぱきと陣頭に立ち、集落の《ベルセルク》達に農作の仕方を教えている。

 本当に、頼りになるようになったなぁ、ウーガ。

 ちなみに、畑以外でも、ガライ達の方に合流した《ベオウルフ》達は家の修繕。

 まだまだ足りない食料や植物の移送には、イノシシ君達に向かってもらっている。

 本格的に、この集落の発展が起動し出した感じだ。


「ん?」


 ふと、ウーガが森の木陰に、兎の獣人の少年――ムーの姿を発見した。

 いつかのように、彼は木の影に隠れて、彼等の様子を眺めている。


「おう、お前もやるか?」


 そんな彼に、ウーガが声をかける。

 ムー少年は最初呼ばれた事に戸惑い、また隠れようとしたが――そこで、意を決したのか、姿を現した。


「よ……よろしくお願いします」


 こうして、彼も畑づくりに参加となった。

 熊の獣人達が暮らす集落に混じった、兎の獣人。

 ブッシは以前、事情があってここに居付いていると言っていたけど、彼はどんな過去があってここにいるんだろう?

 ――そんな風に考えている内に、あれよあれよと作業は進み……。


「ようし、こんなところだろう!」


 アバトクス村から持ってきた苗の植え替えは、完了となった。


「よし、ではオルキデアさん、よろしくお願いします」

「はい、遂にわたくしの出番ですわね」


 私の《液肥》で栄養満点になった土壌。

 そこへ、更に《アルラウネ》のオルキデアさんが力を注ぐ。

 野菜は急速に、瑞々しく成長し――あっと言う間に大豊作と化した。


「な、なんだこりゃあ!」

「まさか、この集落でこんな光景を見る事になるなんて……」


《ベルセルク》達も困惑している。

 昨日まで緑のみの字も無かった集落の中に、いきなりこんな農園が生まれたら、そりゃあね。


「お、俺、なんだか感動しちまった……」

「俺も……」


 遂には涙ぐむ《ベルセルク》達まで現れ始めた。

 そこまで感無量になってもらえると、こっちとしては嬉しいような照れるような……。


「うふふ、よかったですわね」

「ええ、ありがとうございます、オルキデアさん」


 そんな彼等の姿を見て、オルキデアさんも手を合わせて微笑んでいる。

 すると彼女はそこで、「マコ様」と私の方を見て来た。


「わたくしなどが、マコ様の考えを代弁するのはおこがましいかもしれませんが……マコ様がわたくしをこの方々の集落へ呼んだのは、きっと、これだけのためではないのでしょう?」

「はい。流石オルキデアさん」


 今し方力を使ったばかりの彼女に、更にお願いするのも忍びないと思って黙っていたけど、どうやら読まれていたようだ。

 私と彼女は、同時に、この集落を囲う森の方へと視線を向ける。


「ひどい……」


 と、オルキデアさんも悲痛な表情になる。

 活力を失い、枯れた大地の上に広がる、細く曲がりくねった木々の森。

 私と彼女は、その森の中へと入って行く。


「かなり痩せ細ってしまっていますが……この木々も、きっとこうなる前は頑丈で強い樹木だったはずです」


 萎びた木々に触れながら、オルキデアさんは語る。


「マコ様。マコ様の《液肥》を頂いてもよろしいでしょうか?」

「はい」

「そうですね……可能であれば、各種十本ほど」

「十本!?」


 オルキデアさんの要求に、私は驚きながらも《液肥》を生成する。

 私が《液肥》を生み出すと、それを受け取ったオルキデアさんは、一気にアンプルの中身を飲み干していった。


「うぎゅぅ……」

「オルキデアさん大丈夫!? もしかして、あと二十九本も飲む気!?」


 改めて解説しておくと、この《液肥》――相当苦いらしい。


「だ、大丈夫です……それに、最近はなんだかちょっとおいしく感じるようにもなってきましたので……」

「それは、味覚がおかしくなっちゃったからとかじゃないよね!?」


 とにもかくにも、私の生み出した《液肥》を見事飲み干したオルキデアさん。

 大分顔色が悪い……。

 でも一応、彼女達植物にとっては栄養素なので、体にとっては健康のはずだから……。


「ふぅ……では!」


 気合いを込め、オルキデアさんは自身の中に取り込んだ栄養を、彼女自身が持つ魔力を介して森の木々に与えていく。

 オルキデアさんの体から溢れる神々しい程の光に触れると、周囲の木々がざわざわとざわめき、音を立てて膨張していくのがわかる。

 根も、幹も、枝も葉も、その全てが背筋を伸ばし、急激に若々しく、逞しく成長していく――。


「全出力ですわ!」


 オルキデアさん、ちょっとハイになってる?

 ともかく、全力を出したオルキデアさんのパワーにより、森の木々は目に見える速度で育ち――。


「うおおおおおおおおおおおお!」

「す、スゲェ事になってるぞ!?」


《ベルセルク》達は勿論、《ベオウルフ》達もその光景に声を上げる。

 枯れていた森が、一気に緑に満ちた健康な森に再生したのだ。


「さっすが、オルキデアさん!」

「えっへん、ですわ!」


 私は、オルキデアさんとハイタッチする。

 新鮮な作物が豊富に実った畑。

 青々とした森。

 ここが、遂先刻まで《ベルセルク》達の追放されていた土地だと言って信じる者がどれだけいるだろう?


「へぇ……」


 私は、見事に大樹と化した木の表面に触れながら歩き回る。


「もみの木みたいに山なりになった枝……尖った葉っぱ……針葉樹なんだ……」


 鼻孔を、木々特有のにおいがくすぐる。


「結構、独特なにおいがするね」

「はい、きっとこの樹木独自の香りでしょう」


 でも、決して嫌な香りではない。

 むしろ、清々しいにおいだ。


(……このにおい、ちょっとアレに似てるなぁ……)


 さて――とにもかくにも、オルキデアさんのおかげで木が育った。

 昨日までの細く曲がった木ではなく、真っ直ぐに育った健康的な木。

 材木としては申し分ない。


「おっしゃ! じゃあ、あんな小さな小屋じゃなくて、もっと大きな家を建ててやろうぜ!」

「作り方は王都の時を思い出しながらやれば、大丈夫だろ!」


 王都で店舗を作った際に参加した《ベオウルフ》達、そして私とガライで木材を切り出す。

 オルキデアさんの力で乾燥等をしてもらいながら、次々に必要な材木を確保。

 そして、私の《錬金》で王都の時と同じように〝足場材〟を錬成して組みながら、家の作成を開始する。

《ベルセルク》達も、そのあまりの手際と効率的な作業速度に度肝を抜かれている様子だ。

 しかし、ボウっとはしていない。

 私達の姿を見ながら、学び、一スタッフとして建築に参加してくれている。

 一方で、畑班の方の《ベルセルク》達も、ウーガから農作物の育て方について学んでいる。

 うんうん、よくよく考えてみれば、彼等はそもそも人間と一緒に暮らしていた獣人。

 知識、発展に対する意識は人間と同レベル。

 高度な文明レベルの種族なのだ。

 人間と差なんて無い。


「よーし、ひとまず休憩しよー!」

「なに? もうこんな時間か」


 朝から昼を回ったところまで、皆一心不乱に作業していた。

 疲れも忘れて動いていたようで、私の呼び掛けに驚いた様子で反応していた。

 皆手を止めて、水を飲んだり食料を食べたりしている。


「うーん」


 そんな中、私は材木を作っている最中に出た木屑を拾って、においを嗅ぐ。

 独特なにおいだが、決して強いにおいというわけではない……。

 そこで私の頭に、一つのアイデアが浮かんだ。


「そうだ、燻製でも作ってみようかな?」

「「燻製?」」


 傍にいたマウルとメアラが、反応する。




※ ※ ※ ※ ※




 燻製とは、食材を燻す事によって保存性を高める調理法。

 日本なら『カツオ節』とかが一番有名かな。

 最近では燻製ブームが来ているようで、ホームセンターのキャンプ用品の売り場にバーベキュー用品に混じって、手軽に一般ユーザーでも楽しめるような燻製用品が売っている。

 私は、昨日イクサが街で買って来たものの、残してしまっていた塩漬け肉を使う事にした。

 錬成した燻製用の燻し器――〝燻製器〟を使い、燻製用に燃やすチップ木材には先程切り出した木屑を使用し、塩漬け肉を一時間ほど燻る。


「よし、できた!」


 そして出来上がったのは、肉の燻製。

 早速、皆で試食してみる。


「おいしい! ハムみたい!」

「うん、正にハムって感じ」


 もぐもぐと食べながら、マウルとメアラが感想を言う。


「それに、匂いも良いわね。こうすれば長期保存も可能なんでしょ?」


 そして、レイレも。


「うん、ただの干し肉に飽きた冒険者や旅人には、長旅のお供にもいいかもね」

「そうね、干し肉なんかよりも人気が出るかも」


 燻製と合う木の種類は限られるし、針葉樹は燻製には向かない木なんだけど、この木材は正解だったようだ。


「チーズとかも燻製にするとおいしいんだよ」

「野菜は?」

「水分の多いものはあんまりかな。あと、魚や貝とかもね」


 鮭、イカ、ホタテなんかがポピュラーかな。


「魚か……また漁ができるようになったらいいんだがな」


 同じく燻製に舌鼓を打っていた《ベルセルク》のブッシが、そう呟いた。


『ぽんぽこー!』

『こりゃー!』


 そこで私は、近く、ガライが丸く加工した木のボールを転がしながら遊んでいる、チビちゃんとポコタを見る。


「そういえば、ポコタってずっと前から一緒に旅してるの?」


 私は、ムーに話し掛けた。


「いや……ポコタとは、ここに来た時に仲良くなったんだ」


 豚肉の燻製を嚥下し、ムーは答える。


「じゃあ、元々はあの森に棲んでたの?」

「うん。時々森の中に戻ったりするけど、他の獣に襲われたりせず、問題なく僕のところに帰ってくるんだ」

「………ふぅん」


 そういえば、ポコタはこの森の生き物なのに凶暴化していない。


「ねぇ、ポコタ」


 不思議に思った私は、二匹のところに行ってポコタに話し掛ける。


『ぽこ?』

「ポコタには、仲間のタヌキとかっているの?」

『ぽこぉ……ぽんぽこー!』


 そこで、ポコタはいきなり走り出した。

 向かう先は、森の方。

 その入り口に立って、ぴょんぴょんと飛び跳ねている。


『ぽんぽこー!』


 まるで、私を呼んでいるようだ。


「もしかして、仲間のところに案内してくれようとしてる?」

『こりゃ!』


 ポコタの下に、チビちゃんも走り出す。


「とりあえず、行ってみようかな」


 私は、ポコタに連れられて森の中へと向かう事にした。


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