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■8《ベルセルク》達の村が襲われました


 来た道をそのまま逆に戻り、日も沈んだ頃。

 私達は、観光都市バイゼルへと戻って来た。


「とりあえず、まずは冒険者ギルドに行くべきだと思うけど、どうかな」

「同感だね」


 私の提案に、イクサも頷く。

 今冒険者ギルドには、件の獣人達に関する捕縛・制圧の任務が多く届いている。

 彼等に手出しをされ、余計なイザコザを起こさないためにも、《ベルセルク》達に関連する任務を、全て私達で請け負っておくべきだと思ったからだ。

 私達は冒険者ギルドへと直行。

 中に入り、受付の一つに向かうと、ちょうど朝と同じ、三つ編みの受付嬢が立っていた。


「あ、今朝は失礼いたしました」


 私達の姿を見て、彼女もぺこりと頭を下げる。


「すいません、ちょっと私達で請け負いたい任務があるんですけど……」


 私はその受付嬢に事情を話し、《ベルセルク》に関連する任務を全て自分達に任せて欲しいと、そう伝えた。

 すると彼女は、そこで困惑の表情を浮かべる。


「え? 獣人に関する任務を、ですか? ……そ、それは、その……」

「何か問題があるんですか?」


 焦燥を見せる彼女に、私は問う。


「その……実は遂先刻、獣人の野盗の討伐任務を受けた方がいらっしゃいまして」

「え?」


 彼女の言葉に、私達は絶句する。

 討伐任務?

 つまり、あの獣人達に危害を加えに行ったという事だ。


「向かわれたのは、Aランク冒険者のサイラス・イエローストン様。数名の仲間とパーティーを組まれて向かわれました」

「そのサイラスって人は、どんな奴だい?」


 イクサが問うと、受付嬢は「えーと……」と唸り。


「武器は双剣。最近Aランクに昇格された、まだ若手の、とても好戦的な方です」

「……あの人か」


 私は今朝、ここを訪れた時に見た若い冒険者を思い出す。

 獣人を根絶やしにしてやると息巻いていた、双剣を携えた若い冒険者だ。


「その……集落ごと潰してやる、と、とても張り切っていた様子でしたが……」

「……それは、非常にまずいね」


 私が呟くと、皆も苦い顔をする。


「その人が任務に向かったのは、いつ頃ですか?」

「ほんの三十分ほど前かと……」


 三十分?

 私達があの集落を出たのと、同じくらいの時間だ。


「帰り道で、そんな人達と遭遇したっけ?」

「いや、見ちゃいねぇな」


 私が問うと、ウーガが首を傾げる。

 一体、いつの間に……。


「そ、その、皆様は今し方、獣人の方々と会って来たのでしたよね?」


 どこかビクビクとした様子で、受付嬢は言う。

 ちょっと弱気な性格なのかもしれない。


「はい、どうかしましたか?」

「その、あまり言わない方がいいのかもしれませんが……ここを出て行く時、サイラス様は、仲間の方々と一緒に、獣人を皆殺しにしてやると、そうおっしゃっていまして」

「………もう少し、そのサイラスって人の情報をもらえますか」


 嫌な予感はしている。

 でもまず先に、情報を仕入れておかないと。


「サイラス様は、ここ最近、めきめき頭角を現してきた若手の有望な冒険者です。双剣を使った戦闘は、パワーとスピードで敵を圧倒するスタイル。しかも、サイラス様はイエローストン家という特殊な家の出身なので……呪術を使用されます」

「呪術?」

「病気のように体を蝕む特殊な魔法です」


 こういうのは個人情報になるから言えないのかと思ったけど、受付嬢はすらすらと情報を教えてくれた。


「いいんですか? そんな簡単に教えてくれて」

「はい……その、サイラス様ご本人が、宣伝のために広めてくれとおっしゃっていたので……」


 随分、自己顕示欲の高い人のようだ。

 ……ていう事は、今の内容も受付嬢の評価ではなく、サイラス本人が考えたのかな。

 まぁ、それはどうでもいいけど、ここまで聞いた情報から察するにかなりの危険人物のようだ。

 少なくとも、私達にとっては。


「マコ! 急いで村に戻らないと!」


 マウルが叫ぶ。

 そう、その通りだ。

 今は一刻も早く、あの集落に様子を見に戻るべきだ。


「受付嬢の……えーっと」

「あ、私はコルーと申します!」

「コルーさん、ありがとう!」


 私は彼女に礼を言うと、皆と一緒にギルドを飛び出す。

 エンティアとクロちゃんの荷車に乗り、急いで《ベルセルク》達の集落へと向かった。

 彼等の無事を願いながら……。




※ ※ ※ ※ ※




「うそ……」


 エンティアとクロちゃんにお願いし、出来る限りのスピードで帰還。

 しかし、私の目に映った《ベルセルク》の集落は、ほんの一時間前とは掛け離れた姿になっていた。

 集落のあちこちから黒い煙が上がり、私達の修繕した家々も再びボロボロの状態にされている。

 そして、それ以上に悲惨なのが、あちこちに傷付いて倒れている獣人達の姿だ。


「あ、あんた達……」


 何人か、無事な獣人達もいる。

 その中の一人――リーダー格のブッシが、私達の姿を発見し、負傷した片腕を押さえながらやって来た。

 その傍らに、兎の獣人のムーが付き添い、支えている。


「戻って来たのか……」

「ブッシ! 大丈夫!?」

「俺の傷はまだ軽傷の方だ……それより、皆が……」

「わかった! まずは、怪我人を一ヵ所に集めよう!」


 私の号令と共に、皆が動く。

 呻き声を上げ、痛みに苦しんでいる《ベルセルク》達を助け起こし、ひとまず一カ所に集める。

 集落の中心に、開けた場所がある。

 荷車に積んでいた、荷物に被せる用の布を地面に敷き、皆をその上に寝かせていく。


「……ひどい」


 私は歯を食い縛る。

 集落に暮らす、三十名程の獣人達

 子供も老人も関係無く、そのほとんどが苦痛に呻いている。


「無事なのは、俺を入れて4~5人くらいだ……」


 そうブッシは言うが、無事だという獣人達も少なからず負傷している。

 ムーも、ところどころ切り傷を負っている。


『ぽんぽこぉ……』


 ムーの足元で、マメ狸のポコタが力無く鳴いている。


「その子は? 大丈夫なの?」

「……冒険者の一人に噛み付いて、蹴られたんだ」


 横たわるポコタを見て、ムーが掠れた声を発した。


『こりゃー!』


 私の服の中にいたチビちゃんが慌てて飛び出し、横たわったポコタに寄り添う。


『ぽんぽこぉ……』

『こりゃー! こりゃー!』


 さっきは喧嘩をしていた二匹だったけど、今はボロボロのポコタをチビちゃんが必死に元気づけている。

 ……と、思う。

 会話が成立しているのかは不明なので。


「すぐに医者を呼ばないと!」

「医者なんて、街まで戻らなくちゃいない……」


 焦燥したレイレが叫ぶが、それに対してブッシは沈んだ声を返す。

 私は、重傷を負い、横たわった獣人達の姿を改めて見る。

 見たところ、致命傷を負っている者はいない。

 だからと言って、長く保つ保証のある者も多くはない。

 この状態であと数十分でも放置すれば、危険だ。

 加えて……。


「う、ぐぅ……」


 比較的軽症ではあるけど、苦しそうに呻き声を上げる獣人の体には、何か黒い痣のようなものが滲んでいる。

 もしかしたら、あれが……。


「あれが、呪いだ」


 そこで、負傷した獣人の傷口を強く縛り上げながら、ガライが言った。


「肉体的なダメージは無いが、精神的に痛みを起こさせる特殊な魔法……おそらく、例のAランク冒険者の仕業だな」

「そういうこと、みたいだね」


 ガライは、闇稼業に身を置いていた。

 だから、こういう呪術とかも、きっと何度も見たか聞いたか……もしくは、体験した事があるのかもしれない。


「呪いを解くには、解呪を扱える魔法使いが必要だ」

「じゃあ、お医者さんと、呪いを解く事の出来る魔法使いを連れて来なくちゃだね」


 冷静に言いながらも、私の頭には懸念がある。

 果たして、間に合うか?

 ここまで三十分。

 往復で一時間。

 その時間、彼等を延命させることが可能か……。


「近道がある……」


 そこで、ブッシが、私の心を読んだかのように言った。


「街に行くまでの道は、一本だけじゃない……あの冒険者共も、その道を使って俺達の集落に襲撃を仕掛けたんだ」


 なるほど、そういう事か。

 だから、集落から街に行く間も、そしてこの集落に帰って来る間にも、サイラス達の一団と遭遇しなかったんだ。

 使っていた道が、違ったから。


「森を抜け、川に架けられた橋を渡れば、都市への門がある。その近道を使えば、三分の一の時間で街に行ける」

「本当? じゃあ、そっちを使って――」

「だが、無理だ!」


 ブッシは、悔しそうに地面を殴る。


「あの冒険者の連中が、その道を占拠してやがるんだ!」

「街に向かうための近道に、サイラス達が待ち構えてるってこと?」

「奴等は、ただ俺達を全滅させに来たわけじゃなかったんだよ! 傷が比較的浅かったり、呪いの症状が遅い者もいる! わざと、まだ何人かは身動きできる状態にしてやがるんだ!」


 ブッシは叫ぶ。


「まだ動ける奴等を残しておけば、必ず街に助けを求めに来る! それこそがあいつらの狙いだ! あいつらは、街の近くで俺達が来るのを待ってる! 街の人間達の目が届かないこんな集落で全滅させるよりも、街の前まで来させて討伐する! そうすれば、怒り狂った獣人達が都市に襲撃を仕掛けてきたところを守る正義のヒーローになれるって寸法だ!」

「……正義の、ヒーロー?」


 ついつい。

 私は、ブッシの口走ったそのワードに反応してしまった。


「よくわかったよ、ブッシ」


 私は立ち上がる。


「私が絶対、みんなを助けるから!」


 そして、完全に諦めきってしまっていた、ブッシをはじめとした《ベルセルク》達に叫ぶ。


「え……」

「マウル、メアラ、ウーガ! みんなの容態を見ておいて!」


 驚き、目を見開く彼等の一方、私は仲間達に指示を出していく。


「レイレ! デルファイ! 傷口を焼いたり、凍らせたりすれば応急処置になるかもしれない!」

「わかった」

「マコ! あなたはどうするの!?」


 レイレに問われ、私は答える。


「私は今から街に向かって、お医者さんと解呪を使える魔法使いを呼んで来る!」

「なっ……話を聞いてなかったのか!?」


 私の発言に、ブッシが混乱した様子で立ち上がった。


「ここから街まで三十分近くかかるんだぞ!」

「大丈夫! 近道をエンティアとクロちゃんに走ってもらえば、ものの数分で着くよ!」

「近道は奴等に占拠されてるんだ!」


 私の発言に、ブッシも理解が追い付かない様子だ。


「奴等は強い! 俺達じゃまるで歯が立たなかった! 十人前後のパーティーだが、Aランクのリーダー格を始め、その仲間達もほとんどがBランクだとか言っていた! 魔法を使うのも何人かいるんだぞ!」

「その冒険者達は私がぶっ倒す」


 その発言に、ブッシは絶句した。


「なに……言ってるんだ?」

「私がサイラス達を瞬殺して、そのまま街の門もガライが吹っ飛ばす。お医者さんと、冒険者ギルドで魔法使いを何人か見付けて、この集落まで連れて来る。それまで、みんなの傷を見ておいて。ブッシは、その近道への道案内をお願い」


 早口に言い切ると、私は停止しているブッシの手を引き歩き出す。

 時間が惜しい。

 迅速に動かないといけない。


「行くよ」


 私の言葉に、ガライとイクサが立ち上がる。

 怪我人の看病が必要なので、動くのはこの数が限界だ。


「エンティア!」

『準備オーケーだ、姉御!』


 そして、エンティアの引く荷車に乗り込むと、街の方向へ向かって走り出した。



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