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■7《熊の獣人》達の村を復興します


「は……」

「お、お前等、何を言って……」


 私の発言の意図が汲み取れない《熊の獣人》達の一方、もう既に皆、行動を開始している。

 私とガライは、まず手近な家へと寄っていく。


「このお家の主人の方は?」

「あ、お、俺ですが……」


 先程、私達が拘束した野盗側の中から、一人の獣人が進み出た。


「今からご自宅を修繕させて頂こうと思うのですが、構いませんか?」

「そ、そりゃ、直してもらえるなら嬉しいけど……」

「では」


 私とガライは、小屋の周囲をぐるっと回って観察する。


「見た感じ、壁材の木の質が悪いね。腐ってるところもあるし、ボロボロ」

「この家は、周辺の森の木を使って作ったのか?」

「あ、ああ」


 ガライが問うと、獣人はおずおずと頷く。


「材木も、切り出さないとないようだ。となれば、時間が掛かる」

「仕方が無いね。基礎と枠組みだけ使って、トタン小屋にしよう」


 言うが早いか、私は《錬金》を発動。

 海が近いという事で、サビに強い〝ガルバリウム〟の波板を複数枚錬成する。


「これを外壁と屋根に使えば、潮風関係の塩害にも強い小屋ができると思うから」

「わかった」


 テキパキと迅速に、私が生み出す建築資材を用い、ガライが家の修繕を開始していく。

 その光景を、獣人達はポカンと見ている事しかできずにいた。

 一方――。


「おい、なんでこう村中に生ごみが放置されてるんだ?」


 デルファイが、獣人達と話しながら村の中を歩き回る。


「いや……食料が底を尽いたら、最悪の時には、これを食うしか……」

「芸術的にアホか。こんなもん食ったら死ぬし病気が蔓延するぞ。焼却だ、焼却」


 デルファイが高熱の吐息を吐き、生ゴミを処理する。

 ああ……と声を漏らす住人達が居るところから察するに、本当に非常時の食べ物のつもりだったようだ。

 こんなものを食べなくちゃ生きていけないような生活を強いられてたなんて……。


「ええい、そんな勿体なさそうな顔をするな。食い物なら向こうの《ベオウルフ》共が今用意している」

「あ、生ゴミって使い方によっちゃあ肥料にもなるんだぜ? この村にも、畑とか作れたらいいのにな」


 そう言いながら、ウーガがテキパキと炊き出しの用意を進めていく。

 石を積んで竈を作り、私が錬成した〝大鍋〟を設置。

 そこに、村の《熊の獣人》達に案内してもらい、川に向かったマウルやメアラ、レイレが水を運んで来る。


「結構遠かったよ?」

「あんなに遠くまでいかないと、水も無いなんて……」


 エンティアとクロちゃんに荷車を引いてもらい、水を汲んだ桶を運搬してもらいながら、マウルとメアラが言う。

 知れば知るほど、本当に過酷な環境。

 でも、だからこそ腕が鳴るというものだ。


「よし、みんな頑張っていこう!」

「「「「「おう!」」」」」


 ハキハキと作業する私達に、村人の《熊の獣人》達は始終呆気に取られていた。




※ ※ ※ ※ ※




 ――数時間後。


「お疲れ様、ガライ」

「ああ。マコも、魔力の方は大丈夫か?」

「全然、まだまだ余裕があるよ」


 私とガライは、村の中を見回す。

 先刻まで壊れかけの小屋が点在していた風景は、今や変貌を遂げていた。

 ボロボロだった木製の小屋は、金属製の丈夫な壁と屋根で補強が完了。

 無論、内装も〝アングル金具〟で補強済みである。

 いやぁ、懐かしいね、〝アングル金具〟。

 随分久しぶりに錬成したよ。

 これで、かなりの強度になったはずだ。


「す、すげぇ……」

「夢でも見てるのか?」

「金属の外壁だ……こんな贅沢な使い方していいのか?」


 私達が修繕した小屋を見て、獣人達は茫然とした声を漏らしている。


「あ、デルファイ、そっちは終わった?」

「おう、芸術的に消毒してやったぞ」


 デルファイの焼却処理も済んだようで、村の中に漂っていた腐臭も消えた。

 代わりに、今はとても香ばしい匂いが包み込んでいる。


「うちの村で採れた野菜を片っ端から入れて煮込んだスープだ。王都でも人気の野菜だぜ? きっと美味いに決まってるぞ~」


〝大鍋〟の中で、ぐつぐつと煮込まれているのは乱切りされた野菜や、塩抜きした干し肉だ。

 栄養の染み渡ったスープを前に、獣人達のお腹が片っ端から鳴っているのがわかる。


「どうやら、そろそろみんな我慢の限界みたいだね。配膳しようか」


 料理を手伝っていたイクサが言う。

 というわけで、炊き出しの開始だ。

 他の調理器具同様、私は金属製の〝皿〟や〝スプーン〟を錬成していく。

 村人達は、我先にと大鍋の前に列を作り始めた。


「お、おい、お前達……」


 あまりにもトントン拍子で進んでいく状況に、困惑混じりのリーダー、ブッシが右往左往している。

 彼の仲間の野盗だった獣人達も、すっかり列の一員と化していた。


「おい! 簡単に信用するな! こんな得体の知れない連中――」

「はい、どうぞ」


 私はそう叫ぶブッシに、スープを持っていく。

 なんだかんだ言って、彼もお腹が空いていたのだろう。

 皿に注がれた、肉や野菜がゴロゴロと入ったスープを目の前にし、涎を飲み込んでいる。


「空腹だとイライラするよね。熱い内が食べごろだよ」

「う、うるさい!」


 ブッシは、私から皿とスプーンを受け取る。


「くそっ、ふざけるな……俺達《熊人(ベルセルク)》を良いように利用して、と思っていたら、いきなり虐げて追放して……今度は、突然村に現れて、家を修繕? 料理? ……俺達は、お前等人間に振り回されてばかりだ!」


 心の内を憎々しげに吐き出しながら、ブッシはスープを掬う。


「こんな気持ちで食うものなんざ、美味く感じれるわけ……」


 そして、一口飲み込んだ。


「うまぁぁぁぁ!」


 ブッシは絶叫し、その場に倒れた。

 慌てて仲間達が駆け寄って来る。


「おい、どうしたブッシ!」

「駄目だ……あまりの美味さに気を失ってる……」


 ブッシさん、良い反応(リアクション)するね。

 食レポ芸人の素養あるよ。

 何はともあれ、ウーガ達の手掛けた料理は大好評。

 久しぶりのまともな食事に、獣人達の間からは歓喜の声が漏れて来る。


『こりゃ、こりゃ』


 チビちゃんも、頭の上にスープの皿を器用に乗せて運んでいる。

 王都でのウェイター経験が生きてるね。慣れたものである。

 チビちゃんは、ある家の前、椅子に腰掛けたまま動かない、おばあちゃんの獣人にスープを運ぶ。

 動かないのではなく、きっと足が悪くて動けないのかもしれない。


『こりゃ!』


 おばあちゃんは、チビちゃんからお皿を受け取る。

 スープを口にし、微笑みながら涙を流していた。


「……あんた達、一体何なんだ?」


 ブッシが気絶から覚醒した。

 そして、仲間達と一緒に私へと喋りかけて来る。

 皆、その目の中にあった敵愾心は消失している。

 今は只、この思いもしなかった状況に、純粋に困惑している様子だ。


「家も直して、こんなメシまで……神の使いか何かか?」

「いやいや、そんな大層なものじゃないよ」


 今や村は、来た当初とは全く雰囲気を変えていた。

 そこで、ふと、私はこの集落を囲う森の方を見る。


「しかし、この地帯の木って細いしグニャグニャだね」


〝ガルバリウム波板〟で丈夫な補強は出来たけど、そもそもこの地帯の木は建築には向いていないようだ。

 ……まぁ、アンティミシュカが侵攻で大地から力を奪ったせいなんだけど。

 ……あれじゃ、板や柱を切り出すのも困難だろうなぁ。

 電動工具やエンジン工具みたいなものがあれば話は別だけど。


(……ま、流石にそれは……ん?)


 そういえば――と、私はそこで、以前見た《錬金Lv,3》の説明を思い出す。


『魔力を動力に変える』

「まさか、魔力を動力に変えるって……」


 その時だった。


『こりゃー!』


 どこからか、チビちゃんの叫び声が聞こえた。

 叫び声というか、悲鳴に近い。


「チビちゃん?」

「なんだ? 今の鳴き声」


 それに気付いた私とウーガが、音源へと向かう。


「あ!」


 森の茂みの近くで、チビちゃんが何かに襲われていた。

 チビちゃんと同じくらいの大きさの体のその生き物は、チビちゃんの頭にかじかじと噛み付いている。

 (たぬき)だ。

 まだ全然小さい、子供のマメ狸。


『こりゃー! こりゃー!』


 上に乗っかられ、四本の足をパタパタと動かし抵抗しているチビちゃん。

 私は即座に、チビちゃんとマメ狸を引き剥がす様に手を伸ばす。


『ぽんぽこー!』


 触ったところで、《対話》が発動したようだ。

 マメ狸の声が聞こえた。


『こりゃー! こりゃー!』

『ぽんぽこー! ぽんぽこー!』

『こりゃー!』

『ぽんぽこー!』


 ……うーん、何を言っているのか全然わからない。

 とりあえず、私はチビちゃんの方を持ち上げ、ウーガがマメ狸の方を持つ。

 二匹はまだ喧嘩中のようで、バタバタと暴れながら飛び掛かろうとしている。


「ポコタ!」


 そこで、森の中から一人の獣人が現れた。

 先程チラッとだけ見掛けた、兎を模した獣人の少年だ。


「あ……」


 彼は、ウーガの手の中で『ぽんぽこー!』と暴れているマメ狸を見て、そして私達の方を見て動きを止める。


「ん? この狸は、お前が飼ってるのか?」

「………」


 少年は、ウーガの手からマメ狸を受け取ると、黙ったまま頭を下げる。


「君、お名前は?」

「………あ、えと」

「んん? どうした?」

「そいつは、ムーだ」


 言い淀む彼を前に、首を傾げていた私とウーガの下へ、ブッシが現れた。


「種族が違うみたいだけど、あなた達の仲間なの?」

「そいつは元々、この村の住人じゃなかった。旅をしている獣人なんだが……事情があって、今はここに居付いている。ちなみに、連れている狸はポコタって名前だ」

「君、どういう経緯でこの村に?」

「………」


 やはり、ムーは何も語らない。

 まぁ、初対面の人間には軽々しく話したくない事情なのかもしれない。


「まぁ、いいや。お前等も腹減ってるだろ? 食え食え」


 と、ウーガはムーにもスープを持って来る。


「! ……」


 ムーは驚いた様子だったが、やはりお腹が空いていたのだろう。

 頬を赤らめながらコクリと頷き、ウーガからお皿を受け取った。




※ ※ ※ ※ ※




 その後、村での交流が進む。

 私とイクサは、熊の獣人――種族名は《ベルセルク》というらしい――から、今までの詳しい経緯を話してもらっていた。

 と言っても、大体の流れは先刻聞いた内容とほとんど一緒だ。

 ある時から獣人に対する排斥の意識が強まり、領主のスティング王子が一方的に追放を決断したのだという。

 一方、ガライは村の子供達に木彫りの人形を作ってあげている。

 手先の器用な彼の作る人形は好評で、子供達も大喜びだ。


「あんたも何か作ってあげたら?」


 と、レイレがスープの残りを食べていたデルファイに言う。


「なんで俺様が……」

「あんた、芸術家なんでしょ? こういうところでファンを増やしておくものよ。どんな繋がりが将来に生きるかわからないんだから」

「はんっ、正に商人って発想だな」


 と言いながらも、デルファイは自身が身に着けているガラス玉を加熱し曲げて、ガラス細工のイノシシの人形を作る。

 こちらも大変好評で、子供達も大喜びのようだ。


「くっくっ、もっと俺様を崇め奉っていいんだぞ?」

「馬鹿」


 ちなみに、さっきまで喧嘩をしていたチビちゃんとポコタも、今はもう仲直りしたのか『こりゃー!』『ぽんぽこー!』と村の中を追いかけっこしている。


 何はともあれ、彼等の村で数時間を過ごし、時は夕刻。

 私達は一旦街の方へと帰る事にした。


「今日は、ありがとうな。それと、すまなかった。いきなり襲いかかっちまったりして」


 帰り支度を済ませた私達に、ブッシ達(ベルセルク)の皆が言う。


「いいよ、気にしないで」

「時間は掛かるかもしれないけど、協力して真相を究明していこう。将来的には、皆をまた街に戻せるようにしたいからね」


 私とイクサは、彼等に言う。

 今回の一件の肝は、やはり領主であるスティング王子だと思われる。

 イクサのツテで、その王子に接触するしかない。


「じゃあなぁ!」

「また、来てくれよ!」


 村人達に別れを惜しまれながら、私達は観光都市バイゼルの市街への道を進み始めた。



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