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73/168

■5 違和感があります


 昨日一日かけて、遊び、食べ、海を堪能し尽した私達。

 翌日は、観光都市の散策へとやって来た。

 観光客、地元民、商人、様々な人種で賑わう街中を、私達は進む。

 そこでまず、イクサが先に魔法研究院の支部に顔を出しておきたいということで、一旦分かれて行動する事となった。

 その間に、私は私で、ガライと一緒に冒険者ギルドへ挨拶に向かう事にする。

 イクサとスアロさんは研究院へ、それ以外のメンバーは私達と一緒――という組み分けとなった。


「おお、ここだね」


 観光都市バイゼルの冒険者ギルドは、王都の冒険者ギルドに負けず劣らずの大きさの建物だった。

 内装も似たような感じで、訪れている冒険者の量も結構な人数だ。

 ちなみに今更だけど、冒険者ギルドは国内にいくつもの支部があり、ライセンスや功績等の情報は共有されているらしい。

 加えて、名称にギルドとついているけど、ガライがかつて所属していた闇ギルドとは関係ない。

 ギルドとはあくまでも、〝組合〟を意味する言葉だ。

 商人ギルドとか傭兵ギルドとか、そういうのもあるのだとか。


「とりあえず、挨拶って言っても何をすればいいのかな?」

「受付嬢あたりに、しばらくこの街に滞在すると伝えておけばいいだろう。何か情報提供や相談があれば、向こうから持ちかけて来たりするはずだ」


 色々不慣れな私を、ガライがサポートしてくれる。

 というわけで、私達はいくつかある受付窓口の一つに向かう。

 そこを担当している受付嬢の方が、書類作業に手古摺っているようなので、手が空くまでちょっと待たせてもらう事にした。


「おい、聞いたか! また街の外れで獣人の野盗が出没したらしいぞ!」


 そこで、私達の耳に他の冒険者達の話し声が聞こえて来た。


「行商人の荷馬車が襲われたんだとよ」

「またか……本当にロクな連中じゃないぜ」

「これで、獣人絡みの任務がまた増えたな」


 どうやら、獣人が何かをやらかしたという話らしい。

 聞こえて来たその声に、自然とマウルとメアラ、ウーガが体を小さく縮こませる。

 私達も、彼等を隠すように壁となる。


「ふてぇ連中だな。俺達で行って懲らしめて来てやろうぜ」

「ハハッ! お前らの救援なんていらねぇよ! 聞いた話だと、この街から少し離れたところに獣人共の集落があるんだろ? なんだったら、俺一人で行って獣人共を根絶やしにしてきてやるぜ!」


 一人、やたらと息を巻いている冒険者が居る。

 振り向いて確認すると、まだ若い、両の腰に双剣を携えた冒険者だった。

 自身満々の表情。

 首の襟元に冒険者ランクを示すバッジを装着しており――その形から察するにAランクのようだ。


「いや、確かにそうだが、その集落の獣人が野盗の獣人と同じとは――」

「どっちだっていいだろ! どうせ獣人共なんざ、どれも一緒だ! そもそも、その集落の獣人共だって〝事情〟でこの都市から追い出された連中だろ!? 狩られたって文句は言えねぇぜ!」

「………」


 ……これは、あまり良くないね。


「申し訳ありません、時間が掛かってしまい! 今日はどのような――」

「あ、すいません、大丈夫です。また、出直してきます」


 マウルやメアラ、ウーガを一時でも長くこの場に居させたくない。

 雑務を終わらせ、受付嬢の若い三つ編みのお姉さんが声を掛けて来てくれたけど、私達は早急に冒険者ギルドを後にする事にした。




※ ※ ※ ※ ※




 冒険者ギルドを後にして、私達はイクサとの待ち合わせ場所――この街の入り口近くにある、石碑(この都市の歴史が記されているモニュメント)へと向かう。


「なんだかごめんね? 嫌な場所に連れて行っちゃって」

「別に大丈夫だよ、マコ、気にしてないから」


 マウルが言う。


「まぁ、確かに。あのままあの場所にいたら、俺達まで目ぇ付けられそうな感じがあったしな。なんつーか、王都や市場都市以上に険悪な雰囲気っつーか」


 ウーガが腕組みしながら言う。

 獣人絡みの犯罪が〝また〟とも言っていたし、常習犯的な組織が近くに潜伏しているのだろうか?


「……ん?」


 そこで不意に、私は気付く。

 この観光都市に来た時から、なんとなく違和感を覚えていた。

 何故違和感を覚えるのか、自分でもわからなかったが――改めて街の中心部付近にまでやって来て、その正体を理解した。

 街の中に、壁があるのだ。

 王都等、都市の外縁を囲っているような、いわゆる城壁のような壁。

 この観光都市にも外縁の城壁はあるけど、街中にももう一つあるのである。

 まるで、街の中心部を囲うように。

 壁には門が設置されており、門番もいる。

 規模から察するに、あの中は決して狭くないはずだ。

 何なのだろう……。

 そうこうしている内に、私達は待ち合わせ場所へと到着する。

 すると、既にイクサとスアロさんがそこに居た。


「あれ? 早かったね、イクサ。私達も、冒険者ギルドからすぐに出て来ちゃったけど……どうしたの?」

「ん? ああ……」


 イクサが、どこか深刻な顔をしているのに気付く。

 顎に指を当て、何やら思案しているような顔だ。


「……昨日、この街に来た時から、ちょっと違和感を覚えていた」

「イクサも? 実は私もなんだけど、あの壁の事だよね?」

「ああ。僕も久しぶりにこの街に来たけど、かつてはあんなものは無かった」


 イメージとしては、某人食い巨人との戦いを描いた漫画みたいな感じ。

 壁に囲われた街の中に、更にもう一つ壁に囲われた区域がある。

 その壁の方を見ている私に、イクサは続ける。


「加えて、僕が感じた違和感はもう一つある」

「……もう一つ?」

「獣人だ。この街で、獣人を一人も見掛けなかった」

「獣人がいないのが、そんなに珍しい事なの?」


 訝るレイレに対し、イクサは頷く。


「ああ。この観光都市バイゼルは、元々獣人が多く生活していた地域なんだ。海が近く、漁の得意な獣人が多くてね。領主のスティング王子も柔軟な発想の持ち主で、土地にとって有用であれば獣人だって快く受け入れていたんだ」

「……確かに、それらしき獣人が一人もいないね」

「さっき、院に行って研究員達にも聞いてきた。どうやら、ある時からその獣人達の犯罪、横暴な行いが多発するようになったらしい。それが原因で、獣人達は街から排除されてしまったとか」


 獣人達は街から追い出され、辺鄙な土地へと追い遣られたのだという。


「獣人達も、この街で仕事をして生活していた者達だ。簡単には引き下がらなかったし、抗議もした。だが、スティング王子の決定により、冒険者や王子の私設騎士団によって、力尽くで排除されたようだ」


 ちなみに、と、イクサは街の中心部に聳える壁の方を指差す。


「あの壁は、ある時から突然建設されたらしい。領主の住居はあの内側にあるそうだ」

「あの中には、何があるの?」

「……研究院の職員達も詳しくは知らないそうだが、新しい娯楽施設が作られている区域らしい。入り口付近に検問はあるけど、入るのに特別な資格等はいらないそうだ」


 イクサは、眉間を顰める。


「あの区域が出来てから、この街の財政は右肩上がりで上昇したとか……しかし、そこまで景気が良いなら、もっと広く知られていてもいいはず。何か、キナ臭い」

「うん、怪しい匂いがするね」


 私達は、無機質に聳える壁の方を見据える。


「……そういえばさっき、街外れで獣人達の野盗が出るって冒険者ギルドで話がされてたんだ」

「………」

「イクサは、疑問を持ってるって感じだね」


 先刻から、イクサの表情は硬い。

 この状況、この街の変化に、どうも納得のいっていない雰囲気だ。


「……この街で暮らしていた獣人達は比較的温厚で、この観光都市を愛していた。犯罪や横暴が増加したという経緯も、どうにも信憑性に欠ける」

「つまり、何らかの事情があると思ってるんだ」

「ああ」


 ならば、やる事は一つしかない。


「真相を解明しよう、イクサ」


 私の提案に、イクサは目を瞠る。


「いいのかい? せっかくのバカンスなのに」

「こんなシックリしてない状況で、リゾートも何も無いよ。それに、獣人達の犯罪の真相を突き止めるのも、冒険者の任務の一環だしね」


 その任務を正式に引き受けたわけじゃないけどね。

 私の発言に、イクサは苦笑し。


「ありがとう。じゃあ、早速だけど、その獣人達が追い出された先――集落に行きたいと思う」

「うん、わかった」




※ ※ ※ ※ ※




 というわけで、私達は一旦イクサの別荘へと戻る。

 噂の獣人達の集落は、街からそれなりの距離があり、加えて険しい山道が続くらしく、エンティアとクロちゃんの引く荷車で向かう事となった。

 準備を済ませ、私達は早速目的地へと向かう。

 天気は曇天。

 灰色の空模様は、なんだか判然としないこの土地に対する印象を表しているかのようだった。


「マウル、メアラ、本当に付いて来てよかったの? 危ないかもしれないよ?」


 観光都市バイゼルから離れ、森に囲まれた凸凹の激しい山道を進む私達。

 荷車には、マウルとメアラも乗っている。

 もし、野盗が出るという話が本当だとするなら、危険だとは思うけど……。


「獣人の問題なんだし、俺達も知っておきたいんだ」

「もし揉めた時には、同じ獣人の僕達やウーガが居た方が、印象が悪くならないかもしれないし」


 と、二人。

 うーん、随分と逞しい事を言うようになったね。

 それに、確かに一理ある。


「問題無い、マコ。二人は俺が守る」


 そう、ガライも言ってくれた。

 その時だった。


『ッ! 姉御!』


 エンティアが急ブレーキを掛け、叫ぶ。

 瞬時、ガライが何かに反応し、自身の背後に拳を振るった。

 音を立てて粉砕されたのは、弓矢の矢だった。


「……来たようだね」


 イクサが呟き、私達は臨戦態勢に入る。

 後続のクロちゃんが引く荷車でも、スアロさんが構えを取る。

 山道を進む私達の荷車を囲うように、木々の間から複数の影が現れた。

 各々が武器を携えている。

 二足歩行だが、頭部に丸い耳を生やしており、その造形は〝熊〟を彷彿とさせる。

 熊の獣人だ。


「荷車を置いて消えろ」


 先頭に立った獣人が、私達に剣の切っ先を向け、低い声で言う。

 その目は鋭く尖っており、敵意がありありと見える。

 どうやら、噂は本当だったらしい。


「ちょっと待って欲しい。僕達は、君達に話を――」

「黙れ!」


 問答無用だった。

 イクサが言う前に、獣人達は我先にと荷車に襲い掛かって来る。


「仕方が無いね、イクサ」

「……ああ」


 こうなってしまったなら、どうしようもない。

 しかし、ある程度想定していた事態だ。


「みんな!」


 私は仲間達に叫ぶ。


「必要以上に攻撃はしないで! 無力化して、制圧の方向で!」


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