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■6 市場で刀を売ります



 それから数日の間、私はMPが回復するのを見計らい、日本刀の作成を続けた。

 460の最大値にまで全回復したMPも、一回刀を錬成すると、全て消費されてしまう。


(……初日にはわからなかったけど、もしかして《DIYマスター》って称号から考えるに、ホームセンターの金具以外の専門外の金属を錬成すると、所有MPを全部消費するのかも……)


 しかしその甲斐あって、私は全てで五本の日本刀を生成する事に成功した。


 ――そして、迎えた当日。


「今日はよろしくお願いします」

「おう! しかし珍しいな、自分から市場に行きたいだなんて」


 村を代表して、皆から預かった売り物を荷台に乗せ、《ベオウルフ》が三名、市場のある街に向かう日。

 私は、自分の生成した〝刀〟を売るため、彼等に同行させてもらう事にした。

 意気揚々と荷支度をした私に、彼等は苦笑しながら言う。


「言っちゃあなんだが、あんなところは誰でもやって来て好き勝手にモノを売ってる場所だ。あまり綺麗な所とは言い難いぞ」


 なるほど、いわゆる蚤の市……フリーマーケットみたいなところなのかな?


「マコは人間だから、僕達みたいな心配は要らないよ」


 横からマウルが、そうフォローするように言ってくれる。

 今回の旅には、マウルとメアラも一緒に行くと言った。


「マウル、本当についてくるの?」

「当然! マコも、手伝いがいた方がいいでしょ?」


 そう言って、やる気満々のマウル。


「………」

「メアラもごめんね」

「別に……」


 そしてメアラも。

 マウルを一人で行かせるのが心配で、一緒に来るのだろう。

 申し訳ない。何があっても、この二人は守らないと。


『安心しろ、姉御。この我が、何があっても姉御達の身を絶対に守ってみせるぞ』


 そしてエンティアも。

 売り物の商品等を背中に乗せて、今回荷物運びで一緒に行くことになった。


「よし、じゃあ出発!」


 かくして、大人の獣人三人と、マウルとメアラ、そしてエンティアと私達一行は、街の市場に向けて歩き出した。




※ ※ ※ ※ ※




「ふぅ……やっと見えてきた」


 村から街までは、結構距離があった。

 朝一番で出発したのに、到着するころには昼。

 途中で歩き疲れたマウルとメアラを、エンティアの背中に乗せる形となった。

 山の中から獣道が続き、やがて舗装された街道に合流――その街道沿いにしばらく歩いて、やがて見えてきたのは川に囲われた大きな街だった。

 川と言うか、おそらく人工的に作られた堀のようなものなのかもしれない。

 そこにかけられた幾つかの橋を渡り、街の外縁に入っていくようだ。


「しかし、マコ。よく平気な顔してられるなぁ?」


 隣を歩く獣人の一人が、私の顔を見てそう言う。


「マウルとメアラは当然として、俺達大人の男でも結構足に来る距離だぞ?」

「あはは、平気ですよ。こう見えても、体力には自信があるんで」


 さていきなりですが、ここで問題です。

 ホームセンターの店員が、一日に走る(・・)距離って、どのくらいか知ってますか?

 ちなみに、スマホの万歩計機能の計測データですが、私は一日三万歩から四万歩。

 約二十キロ走っています。

 ……まぁ、これは、超激務の私だけかもしれないけど……。

 けれど、そのおかげというか、運動不足にはならないし体力はつくし、結構スタイルも維持できたりしている。

 街道を進み、街の外縁へ。

 そこに門番が待機しており、検問を行っている。


「うお! な、なんだこの狼は!」


 門番と思わしき兵士の人達も、他の通行人も、エンティアの姿にはかなり驚いている様子だ。


『なんだ、この連中は。邪魔するなら食うぞ』

「エンティア、あまり事を荒立てないで」


 その後、同行の《ベオウルフ》達に諸々の手続きを終えてもらい、私達は街の中へと入る。

 入ってすぐ、そこは市場が広がっていた。


「へぇ、凄い」


 連なるテントに、道端に広げられた商品の数々。

 その光景がいたる場所で展開されている。

 本当に、商人も市民も問わずに色んな人達がものを持ち寄って売っている――そんな場所のようだ。


「俺達の場所はもう少し先のようだ」


 所定の場所は、市場の比較的中央だった。


「大通りの前を確保できるなんて、今回は運が良かったな」

「早めに到着できたからな。マコとエンティアのおかげだ」


 獣人達は茣蓙(ござ)を敷き、村の収穫物を並べていく。

 さて、商売だ。

 私も、その場所の端っこを貸してもらい、この日のために用意した〝刀〟を五振り、そこに広げた。


「売れるといいね」


 隣に座ったマウルが、そう言って微笑む。


「うーん……」


 しかし、私は内心で少し心配していた。

 確かに剣が売れるという話を聞いて刀を錬成したのはいいものの、こんな得体の知れないものを買ってくれるのだろうか?

 そもそも呼び込みとかしなくていいのかな?

 販売業ゆえの不安が、色々と頭をよぎる。

 ……しかし、その心配は杞憂だったようだ。

 その理由は――。


『くわぁぁ……姉御、少し寝てもいいか?』


 店先に寝転がった巨大な白毛の狼、エンティア。

 彼の様子は、この市場内でもかなり目立っているようだ。

 何人もの通行人が、エンティアの方を驚いたように二度見しているのがわかった。

 流石、神狼の末裔君(自称)。

 招き猫のようにご利益がありそう。


「おい、お前」


 と思っていたら、本当にお客さんが来てしまった。

 見た目は、軽装の甲冑を装備した――RPGゲームによく出てくるような剣士といった風貌の男性だ。

 彼は私達の店の前に立ち、私に声をかけてきた。


「これは、剣か?」

「はい。えーっと、東方から輸入した剣です」


 何とかそれっぽい事を言って誤魔化す私。


「ほう。お前、人間か」


 男は舐め回すように私の姿を見据える。


「獣人共に交じって商売してるとは、変わった奴だな」


 メアラや《ベオウルフ》の皆も、静かにはしているが彼を睨んでいるのが分かった。

 先日聞かされた通り、やはり人間と獣人との間には溝のようなものがあるのだろう。


「はい、少し事情があって」

「まだ店も屋台も持っていない駆け出しの商人か? まぁ、ここにはそういう奴等が結構いるからな、不思議じゃないが」


 男は訳知り顔で喋る。


「だが中には、優秀な商人の卵も混じってたりしてな、結構な掘り出し物があったりするんだ。だから優秀な冒険者は、こういう下層の市場を見て回ったりする。俺みたいにな」


 そう言って大笑する男。

 ちょっと酔っているのだろうか? 頬が赤らんでいる。


「面白そうだ、一本くれ」


 男はそう言って、刀を一振り持ち上げた。

 おお! 売れた!


「ありがとうございます!」

「いくらだ?」

「……あ」


 しまった、価格の事を考えるのを完全に忘れていた。


「えーっと、じゃあ……」


 困った私が、そこでメアラの方を見る。


「金貨十枚……ふっかけてやれ」


 メアラは視線をそらしながら、そう呟いた。


「じゃあ……金貨十枚です」

「十枚? おいおい、何の冗談だ? こんな下層市場で売ってる武器なんぞに、そんな大金払えるわけないだろ。四枚でも十分なくらいだ」


 そうなのだろうか?

 うーん、この世界に来て数日、幸か不幸かお金とかとは無縁の生活だったからなぁ。

 ちゃんと考えておくべきだった。


「じゃあ、四枚で」

「ほらよ」


 男は布袋から金貨を四枚取り出すと、私に投げて渡し、さっさと行ってしまった。

 まぁ、何はともあれ一本ご売却だ。


「やったね、マコ」


 と、マウルは一緒に喜んでくれる一方。


「ふん、あんな奴に売ってやる事なかったんだ」


 メアラは不機嫌そうだった。




※ ※ ※ ※ ※




 その少し後、事件は起きた。


「おい、お前!」


 先程の冒険者が、再び戻ってきたのだ。

 かなり怒っている様子だ。


「どうされましたか?」

「お前、ナマクラを掴ませたな!」


 男は吠える。


「この剣、全く切れないぞ! どうなってるんだ!」




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