■プロローグ 新商品開発会議です
アバトクス村、中央広場。
そこに、私と数名のメンバー達が集まり、腕を組んで「うーん」と唸り声を上げている。
何をしているのかというと、王都に出店したアバトクス村名産直営店に新商品を提供するためのアイデア会議である。
私達が王都から村に帰ってきて、数日が経過していた。
王都での多忙な日々と打って変わって、のんびりとした日常を過ごしていたけど、そろそろ何か仕事をしなければと思い企画会議を提案した次第だ。
しかし、村のみんなを集めてアイデアを出し合ったものの、これというものが決め切れず行き詰っていた。
皆が提供してくれたアイデアは、どれも悪くはないんだけどね……。
『みんな暗い顔だな、コラー。水でも飲んで落ち着け、コラー』
『こりゃー!』
そこに、イノシシ君とウリ坊達が、頭の上にお盆を乗せて、水を運んできてくれた。
「ありがとう」
私はグラスを受け取り、水分を口にしながらイノシシ君達を見詰める。
うーん、どうしたものか。
この村の特性、特徴、この村にしかない名物……それを生かせる商品を作れたらいいんだけど。
……イノシシ君達もある意味、名物だよね。
『姉御、どうしたんだ、コラー?』
思案しながら、ジーっと見詰める私に、イノシシ君が首を傾げる。
『……はっ! わかったぞ! 新しい商品として、俺達をイノシシ鍋にするつもりだな、コラー!』
『こりゃ~!』
警戒するように私から距離を取り、威嚇するイノシシ君。
チビちゃん達も、身を寄せ合ってプルプルと震えている。
大丈夫大丈夫、食べたりなんかしないよ。
「う~ん……あ、そうだ。果実酒なんてどうかな?」
この村の一番のイベントといえば、ほぼ毎夜催される宴だ。
王都のお店でもその雰囲気を取り入れた結果、フードメニューやお酒メニューがかなり人気である。
なら、この村特有のお酒を造るというのはどうだろう。
せっかく、この村では果物を栽培しているのだし、それを利用して果実酒を作るのだ。
ただ、果実酒はリカーに果物を数ヵ月漬け込まなければいけないので、時間はかかるけれど。
「酒か……うーん、悪くはないけど」
「もうちょっとパンチの効いたのが……」
それに対し、《ベオウルフ》のみんなは腕組みし唸る。
さっきから、ずっとこんな感じだ。
まぁ、気持ちはわかるけど。
「パンチが効いたの、かぁ……」
その時だった。
「おーい! どうだ、会議の方は!」
広場に飛んできたのは、ウーガだった。
「おはよう、ウーガ。見ての通り、後一歩って感じかな。どうしたの? ウキウキして」
「ふふふ……これを見ろ!」
そう威勢良く言って、ウーガが見せてきたのは――。
「あ! これ、ジャガイモ!?」
「おうよ! 遂にジャガイモの生産に成功したぜ!」
ウーガが持ってきたのは、木桶いっぱいのジャガイモだった。
凄い、遂に根菜の育成にも成功したんだ。
流石、我が村の農林王ウーガである。
「この前ウーガの畑久しぶりに見たけど、凄い事になってるね」
「ああ、野菜も果物も、興味のあるものは何だって育ててるからな」
私の提供している、魔力の籠った《液肥》の影響だろうか。
どんな野菜も果物も、同じ畑でガンガン育ってしまうので、ウーガの畑はもう季節感とかめちゃくちゃだ。
キュウリの横にミカンが成ってるし……。
「あ」
そこで私は、ウーガの作ってきたジャガイモを見て思い付いた。
「ポテトチップスだ!」
「え?」
突如大声を発した私に、《ベオウルフ》のみんなも反応する。
『お酒』……お酒に合う、つまみ……。
『パンチの効いた』……コンソメパンチ……。
私は皆を振り返り、もう一度言う。
「新メニューは、アバトクス村特製の手作りポテトチップスなんてどうかな!」
※ ※ ※ ※ ※
「じゃ、よろしくね、ラム」
「ああ、一緒に作りながら教えてくれ」
早速、広場の一部のスペースを使い、竈を作成。
そこに、料理に精力的な《ベオウルフ》、ラムに大き目の鍋と調理用の油を用意してもらった。
「おら、これでいけるか? この俺様に雑用をさせるとは、さぞかし芸術的な料理を作るんだろうな?」
「勿論、ガンガン試食してね」
先日から村にやって来た住人の一人、芸術家にして火蜥蜴族の亜人であるデルファイが、火を熾す。
高火力に熱されて、油の準備も万全だ。
まず、ジャガイモの芽を取り、皮を剥く。
それを薄く切って水にさらし、水分を切った後、油で揚げる。
調理はこれだけだ。
でも、香ばしい匂いに誘われて、村のみんなが集まってくる。
「なになに? マコ、何作ってるの?」
「芋?」
マウルとメアラ、それにガライもやって来た。
「うん、ジャガイモを使って、王都のお店で出す新商品を作ってるんだよ」
揚がったポテトチップは鍋から出し、油を切る。
最後に、塩を軽く振るって完成だ。
「さぁ! 試食会だよ! アツアツの内に食べてみて!」
皆が出来上がったポテトチップスに手を伸ばし、そして頬張っていく。
「うま! 何だこりゃ!」
「ただジャガイモを油で揚げただけなのに、すげぇうまいぞ!」
「確かにこれなら酒に合いそうだな! おい、誰か酒持ってきてくれ! 宴会だ!」
いやいや、まだ午前中ですからね。
しかし、ポテトチップスの出来自体は好評なようだ。
「酒と合わせるなら、味付けはもっと濃くてもいいかもしれないな」
「うん、色々な味を楽しめるようにするといいかもね。せっかく野菜も採れるんだし、ブイヨンでコンソメパンチ風味にしてみるのもいいかも」
「うん、おいしい!」
「お菓子にもいいね」
マウルやメアラも、おいしそうに食べている。
女性や子供向けに、チョコレートを付けてチョコチップスにしてみるのも手かも。
「しかし、こんなすげぇもんを生み出されたんじゃ、酒を飲みたくてたまらなくなっちまうぜ……」
「つくづくマコの発想は悪魔じみてるな……」
「悪魔的発想だな……」
褒められてるのか貶されてるのかよくわからない誉め言葉が聞こえてきた。
でもこれと合わせるようにして、お酒も提供できれば強いかもしれない。
「よし、果実酒の作成にも力を入れてみようぜ!」
「もう単純に君達が飲みたいだけになってない? まぁ、いいけど」
「どんな種類の酒を造るんだ?」
「ん~、そうだね、美容や健康にいいグレープフルーツ酒やキウイ酒なら、女性人気が獲得できるかも」
「いいな、俺達も、村でフルーツを作って毎日食うようになってから、なんだか体力がついたような気がするしな」
「豊富にビタミンを摂取できるようになって、健康になったのかもね。後は、料理酒としても使えるのなら、ゆず酒とか……あの界隈って料理店も多いから、他のお店からも需要があったりして」
わいわいと盛り上がる私達。
どうやら、次に出す新商品は確定したようだ。
「……そういえば」
一段落したところで、不意に私は思い出し、自分のステータス画面を頭の中で展開する。
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《錬金Lv,3》
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先日、いきなり成長した《錬金》の力。
レベル3になったようだけど、どんな風に変わったのだろう?
確か、2になった時には、私が《錬金》で生み出した金属を、もう一度触れれば消す事ができるようになってたけど……。
私は頭の中で、《錬金Lv,3》という単語を強く意識する。
すると、いきなり画面が変化し、文字が浮かび上がった。
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《錬金Lv,3》:今までの能力に加え、魔力を動力として使用できる。
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「……動力?」
何の事だろう……。
ますます、疑問は深まってしまった。




