■17 いざ、芸術家捜索&悪魔討伐に出発です
「私にできるなら、悪魔を討伐し、行方知れずになっている芸術家――デルファイさんの救出に向かいたいんです」
冒険者ギルドの中は、異様な雰囲気に包まれている。
そもそも私が現れた事によって起きた騒乱。
悪魔の出現というニュース。
そして、そんな私が悪魔を倒しに行くと言い出したのだ。
空気は不穏だ。
「何言ってんだ! そんな簡単に、悪魔族を倒せるわけねぇだろ! 何人もの冒険者が過去に恐怖を味わわされた相手だぞ!」
ブーマ達が口々に叫ぶ。
「その芸術家のナントカだって、とっくに殺されてるはずだ!」
「悪いことは言わねぇから、やめとけ!」
「私も反対です」
受付嬢のベルトナさんも、ブーマ達に続いてそう言った。
「ここは万全を期すために、騎士団等にも救援を要請――」
「しかし、正直言って、彼女の能力はA級……いや、S級にも相当する、そうわたくしは思いますよ」
対し、モグロさんは――大分落ち着いてきたのか、レンズの無くなった眼鏡を指先で持ち上げながら、そう言った。
「モグロさん……」
「どうでしょう。彼女のステータスを鑑みて、ここは特例的にB級任務への参加を許可するというのは」
「しかし……」
苦い顔をするベルトナさん。
彼女もギルドの受付嬢として、正しく冒険者を導く役目を担っているのだ。
軽々しく、うんとは言い切れないのだろう。
その時だった。
「もし、ルール的に難しいようなら――俺との共同参加という形は取れないか?」
冒険者達の中から、一人の男性が前へと出た。
長身の体に、鍛え上げられた体。
全身を覆う装備に、背中には巨大な剣を背負っている。
切り揃えられた黒髪の下に、傷だらけの面貌。
年齢はかなり上だろう……見るからに、歴戦の勇士といった風格だ。
「ウルシマ様……」
ベルトナさんが驚いたような顔をする。
周囲の冒険者達も、彼の登場に少なからずざわついている。
「彼は? 見るからに、ベテランっぽいけど」
イクサがベルトナさんへと問い掛ける。
「……あの方は」
「いや、いい、自分で名乗ろう。俺はウルシマ。A級冒険者だ」
そう言って、彼は冒険者を表す紋章を見せてくる。
以前、ガライが持っていたものとは違う形……おそらく、この冒険者ギルドの紋章なのだろう。
わざわざ見せてきたということは、あの意匠がA級を表すものなのかもしれない。
「称号は《大剣士》。属性は力。スキルは《加速》だ」
ウルシマさんは名乗ると、続いてベルトナさんの方を見る。
「『該当ランクの冒険者がいれば、低ランクの冒険者も任務に同行する事ができる』……確か、そういった制度が昔に作られていたと記憶しているが」
「そんな制度があるんですか?」
私も、ベルトナさんに問う。
「……昔、まだ人手不足だった時代に作られた制度です。今じゃ、ほとんど利用されません。実力の足らない冒険者を仲間に入れても足手纏いになるだけで、任務の達成率は悪くなりますし、報酬の分配も必ず揉めるので」
「憶えているのは、ベテランの俺くらいか?」
そう言って、ウルシマさんは苦笑する。
「ありがとうございます、ウルシマさん。よければ、助けてもらえますか?」
「自分の娘ほどの子が行くと言っているのに、怖気づいている場合でもないからな。で、実際に参加するのは何人だ?」
「無論、僕も行くよ」
そう言って、イクサが挙手する。
「俺もだ」
ガライも手を挙げる。
「……かしこまりました。では、マコ様他三名は、これから冒険者としてのお手続きをお願いいたします。それが済み次第、任務の詳細な資料を――」
「俺も行きます!」
そこで、更に一人、冒険者達の輪の中から飛び出て来た。
「あれ? 君は……」
「お久しぶりです、マコさん!」
そう、彼は先日、『黄鱗亭』で話した若手の冒険者だ。
クロちゃん達の狼の群れの問題を解決した件で、私に声をかけてきてくれた。
「自分はアカシ! ランクはDランクで、称号は《レンジャー》っす! 属性は力! スキルは《忍足》です! 自分も、マコさんの近くで勉強させていただきます!」
「いや、勉強するところなんてないと思うよ?」
そう言って苦笑する私。
アカシ君、目のキラキラが凄い。
かくして、私達五名は件の任務に挑む事となった。
ベルトナさんの指示通り、私とイクサ、ガライは形式上、冒険者としての登録を済ませる。
「でも、王子が自分の国の冒険者になるって、凄いね」
書類を書きながら、私はそうイクサに言う。
「いや、そうでもないよ。王子・王女達の中には、今も現役で冒険者をやってる変わり者もいるからね」
「そうなんだ」
61人もいるんだから、そういう人も中にはいるか。
「さて、イクサ王子、ガライ氏」
手続きを終えると、モグロさんがイクサとガライに声をかけた。
「よろしければ、あなた達のステータスも鑑定させていただきますが?」
「僕はいいよ、昔見てもらったことがあるからね」
「……俺も、遠慮しておこう」
イクサはともかく、ガライはやっぱり断るか。
この王都で、自分の正確な素性を見られたくはないだろうからね。
「さて、目的の場所だが、ここからかなりの距離がある」
諸々の手続き終了後、ウルシマさんが私達を集めて説明を開始した。
「徒歩で六時間くらいだ、今から出発すれば夜中になるだろう」
「じゃあ、急がないとだね」
当然のように今から行くと言う私に、ウルシマさんもびっくりしている。
残念ながら、私達には時間がない。
芸術家――デルファイさんの安否を、早急に知りたいのだ。
「流石ですね、マコさん。そのバイタリティ、マジで見習わないとです!」
横からアカシ君が言う。
凄いやる気のある若者だね、君。
「では、ここにいる全員準備は万端というわけだな。出発するとしよう」
ウルシマさんの発言と共に、私達は目的の地へと歩き出した。
※ ※ ※ ※ ※
目的地は、その財宝が眠るという噂のある洞穴――のある山。
王都を出て、この前の牧場や農場方面とは逆方向に進むこと数時間――険しい山道を、私達は進んでいた。
「君……タフだな」
先行するウルシマさんが、額の汗を拭いながら振り返り、私に言う。
「えへへ、体力には自信があるので」
「本当っすよ、俺だって結構疲れて来たのに」
アカシ君も苦笑いしながら言う。
「……目的地まで、あと半分ってところか」
列の一番後ろで、ガライが後方を見張りながらそう呟く。
「半分!? まだ、半分もあるのかい!?」
イクサが一番ヘトヘトになっている。
と言っても、まだ付いてきているだけ十分な体力だ。
「半分か……ウルシマさん、ここらへんで一回休憩を挟みませんか?」
私は提案する。
確かに急がなくちゃいけないけど、辿り着いた時にみんな体力の限界じゃ意味がない。
「それもそうだな。よし、休憩にしよう。アカシ、何か腹に入れられるものはあるか?」
「はい、いくつか」
アカシ君が、自分の荷物の中から干し肉や、加熱処理された野菜なんかを取り出す。
「そのまま食えるものだな。よし、ひとまずはこれで腹ごしらえするか」
「あ、でもどうせ食べるなら、温かいものが食べたくないですか?」
そう言う私に、ウルシマさんが訝る。
「確かに、それはそうだが……流石に鍋なんて持ってきてないぞ。炙り焼きにするのか?」
「いえいえ、こういう時に便利なものがあるんです」
私は《錬金》を発動。
作り出したのは〝お鍋〟と、丸い円筒型のストーブ……いわゆる〝缶ストーブ〟と呼ばれるものだ。
この〝缶ストーブ〟は、薪や木炭のみならず、そこらへんの落ち葉や枝も燃やせる構造をしており、上に鍋を乗せれば加熱もできる、災害現場などで重宝される金属ストーブである。
「凄いな……そんなものも作れるのか」
私は〝缶ストーブ〟で火を熾すと、上の鍋に水と野菜、干し肉を切って入れていく。
即席のスープだけど、これで体力はかなり回復するはずだ。
「おお、スープだ。流石に、標高も高くなってそろそろ肌寒くなり始めていたからね。ちょうど良い」
〝缶ストーブ〟を五人で囲む。
ガライと取り分けをし、皆で食事の時間となった。
夕日が沈み始めている。
そろそろ、夜になる。
「そもそも、悪魔って何なんですか?」
不意に、私はウルシマさんに質問する。
「俺も永いこと冒険者稼業をやっているが、こいつらの正体は色々と謎に包まれている」
器に注がれたスープを、スプーンで掬いながら(ちなみに、食器類も私が錬成した)、ウルシマさんは語る。
「そもそも、出自がわからない。どこからやって来たのかも不明。伝承によると、違う世界……闇の世界から、こっち側の世界にやって来たなんて話もある」
「ふぅん……」
悪魔っていうと、生き物っていうよりも精霊とか幽霊とか、そっちの存在っぽいと思ってたんだけど。
そうか……違う世界か……。
「奴等は狡猾な種族で、知恵が働く。加えて、残忍な性格で、人間だけではなく様々な生き物を騙して弄ぶ事を楽しみとしている」
「狡猾で残忍な種族、か。人間も似たようなものだけど」
イクサがそう言って、乾いた笑いを漏らす。
「人間だけじゃなくて、様々な生き物を騙す……」
私は、その言葉を繰り返す。
そういえば以前、クロちゃんがどうして王都を襲おうとしていたのか……という話をした時。
彼は、頭の中に声が聞こえたと言っていた。
《黒狼》の彼を、《神狼》だと言って騙した声。
「………まさかね」
※ ※ ※ ※ ※
その後、食事を終えて体力を回復した私達は、進行を再開する。
既に日は落ち、夜の時間。
進み、進み――そして、目的の場所の近くにまで辿り着いた。
険しい岩肌と、槍のように隆起した岩石が転がる山間地帯。
この前、クロちゃん達と戦った場所に地形は近いかもしれない。
「……止まれ!」
先頭を歩いていたウルシマさんが手を挙げ、後方の私達を制する。
瞬時、私達は近くの岩の影に身を隠す。
空を見上げる。
天に上った月に被さるように、何かが飛んでいる。
背中から翼を生やしたそれが、浮いている。
「まさか、あれが……」
「ふむ」
それは、身を隠している私達の方を見下ろした。
見た目は、人間と変わらない。
黒い衣服、黒い髪。
但し、その頭部からは角が生えており。
そして両目は、白目まで真っ黒だった。
そいつは、牙のように鋭い歯を見せ付け、ニタリと笑う。
「来たか、吾輩の新しい玩具が」




