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■16 鑑定されました


「鑑定、ですか?」

「おや? ご存じない?」


 眼鏡をくいっくいっと持ち上げながら、《鑑定士》と名乗るモグロさんは言う。


「わたくしは《鑑定》というスキルを持っており、その力を使って人の持つ能力を数値化・文章化することができるのです。この数値や文章は『神の定めた特有の言語』であり、それを翻訳するのがわたくしの能力、と言ってもいいですね」


 妙に気取った喋り方が、正にインテリ……なんだけど、芝居がかりすぎてちょっとクドい。

 受付嬢のベルトナさんも、少し引き気味の顔をしている。


「そして、翻訳した数値・文章はステータスと呼び、その冒険者の能力として記録されるのです。例えば――」


 するとモグロさんは、近くにいた冒険者――さっき、私をからかってきた男達の一人――の方を見ると、「はあっ!」と眼鏡に指をあてて叫ぶ。

 ビームが出るのかと思った。


「今、彼のステータスを鑑定させてもらったのですが……ほほう、これはこれは」


 モグロさんは懐から紙を取り出すと、そこに筆を走らせていく。


――――――――――


 名前:ブーマ=ガゼル

 冒険者ランク:C

 称号:《重戦士》

 属性:力

 スキル:《裂帛》

 HP:800/800

 MP:0/0

 パワー:B

 テクニック:D

 スピード:D


――――――――――


 書かれたのは、私がいつも見ているステータス画面のような数値だった。

 更にその下には、パワーやスピードといった、他の細かい内容まで書き出されている。


「また腕を上げましたね、ブーマ氏」

「へへっ、いつもながら正確な鑑定、流石だなモグロさん」


 冒険者達から、結構信頼されている様子だ。

 このモグロという人物、言動はクドいけど実力は確かなようである。


「あ、ちなみにパワーやテクニック等に関しては詳しく数値も出ていますが、わかりやすくギルドの定めた基準に基づきランクで表現しております。どうです? これが、鑑定の力です」


 さて――と、モグロさんはそこで、改めて私を見る。


「ではでは、失礼ながら貴方のステータスを見させていただきますよ、お嬢さん」

「あ、お願いします」


 そう言われると、少し緊張するな。

 私は背筋を伸ばし、モグロさんの方を向く。


「大抵の新人は、理想と現実の差にショックを受けるからなぁ」

「予想外に結果が悪くても、落ち込むなよ? お嬢ちゃん」

「へへへっ」


 ブーマをはじめ、冒険者の男達がそう囃し立ててくる。

 一方で、ガライはくだらなそうに溜息を洩らし、イクサはこれから起こる何かを期待しているかのようにニヤニヤしている。


「では……」


 モグロさんが、私の方を見て、眼鏡に指をかける。


「はぁっ!」


 そして、力を籠めるように叫び――。


「……――ぎゃああああああああああああああ!」


 絶叫してひっくり返った。

 後頭部をめちゃくちゃ床に叩き付けた。

 その衝撃で眼鏡が割れた。


「モグロさん!?」

「おい、どうした! モグロさん!」


 冒険者達が、その反応に困惑している。


「あ、あの、大丈夫ですか?」

「あ、あが、あがが」


 私とガライが、慌ててモグロさんを抱き起こす。

 イクサが「くっくっ」と、楽しそうに笑っている。

 君も手伝いなさい。


「モグロさん、オーバーリアクションでギルドの床を壊さないでください」


 受付嬢のベルトナさんが冷静に言う。

 いや、君も冷たいな。


「べ、ベルトナ嬢……か、紙と筆を……」

「はい?」


 モグロさんは、転倒した衝撃で吹っ飛んだ紙と筆を、ベルトナさんから受け取る。

 そこに、震える手で文字を連ねていく。


「こ、これが……この方の……マコ嬢のステータスです」


 そして、その場にいる皆に見えるように、その用紙を掲げた。


――――――――――


 名前:ホンダ=マコ

 冒険者ランク:―(冒険者として未登録のため、無)

 称号:《DIYマスター》《グリーンマスター》《ペットマスター》

 属性:なし

 スキル:《錬金Lv,2》《塗料》《対話》《テイム》《土壌調査》《液肥》《殺虫》

 HP:750/750

 MP:1470/1600

 パワー:C

 テクニック:A

 スピード:C


――――――――――


「「「「「なんじゃ、このステータスはぁぁぁあああああああああ!!!?」」」」」


 冒険者の男達が絶叫を上げた。

 その声のせいで、ギルド内の皆がこっちを見てくる。

 恥ずかしい……。

 ベルトナさんは口に手を当てて絶句している。

 冒険者達は、私のステータスが書かれた紙に群がり、本当に信じられないものを見るように声を上げていく。


「なんで称号が三つもある!? 普通は一人一つだろ!」

「いや、それよりもこのスキルの数だ! 何がどうなってんだ!? しかも、どれも見たこともねぇものばっかりだ!」

「MP最大値1600!? 1600ってなんだ!? Aランクの魔術師より上だぞ!?」

「どうして、テクニックとスピードが俺よりも高いんだよ!」


 喧々囂々、騒ぐ男達。

 そろそろ静かになって欲しいかな……。

 周りに、他の冒険者達の人だかりができている。

 というか、私のステータスって今こうなってたんだ。

 最近見てなかったから、すっかり忘れてた。


「ま、待て待て……数に圧倒されちまったが、問題はスキルの内容の方だろう」


 そこで、ブーマ達が落ち着きを取り戻そうとしているのか、そう口走った。


「そうだな、スキルの内容によって使える魔法が決まるんだ」

「数が多いだけで、ゴミスキルだったら意味ないぞ」


 そう話すブーマ達。


「だ、そうだよ? マコ」


 イクサが、そこで私の方へと声をかけた。


「試しに……そうだな。《錬金》あたりでも使ってみたらどうだい?」


 ニヤニヤしながら言うイクサ。

 ……この男、さてはこの状況を楽しんでるな?


「おう、そうだ見せてくれよ! 試しにその《錬金》とやらを!」

「わ、わたくしも一目見たいものですね……」


 ふらふらと立ち上がりながら、モグロさんも言う。

 あなたは、もう寝てた方がいいんじゃないですか?

 眼鏡も割れてるし。


「はぁ……わかりました」


 私はとりあえず、《錬金》を発動する。

 淡い光が浮かび始めると、ブーマ達は勿論、人だかりの中からもどよめきが起こった。

 やっぱり、魔法を使える人間は珍しいようだ。


「よっと」


 光が収まり、私の生み出した金属が手中に収まる。

 とりあえず、長さ一メートルほどの〝アルミパイプ〟を作ってみた。


「……と、いった感じですが。どうでしょう?」

「な、なんだそりゃ、金属の棒か?」

「僕が説明しよう」


 そこで、イクサが前に躍り出た。

 嫌な予感がする……。

 イクサは私の手から〝アルミパイプ〟を受け取ると、力を籠める。

〝アルミパイプ〟の表面に、光の粒子が舞い出した。

 その現象に、またざわめき起きる。


「ご覧の通り、彼女が今生み出したこれは魔道具。そう、彼女の《錬金》とは魔道具を自在に生み出す力なのさ!」


 いや、間違ってないけどさ!

 その発言に、ブーマ達は完全に魂が抜けたかのように呆けてしまい、ギャラリー達のどよめきは大きくなる一方だ。


「ちなみに、この魔道具は『名槍タンカンパイプ』と言ってね、今はこの程度だが長さを自在に変えられるんだ。その一閃は鎧袖一触にして一騎当千! 一薙ぎで一ツ目巨人(タイタン)の胴を両断すると言われる代物だよ!」


 ノリノリだな、こいつ!

 嘘も混ざっているが、イクサは本当に楽しそうである。


「そ、そういえば……」


 そこで、受付嬢のベルトナさんが、イクサを見ておずおずと言う。


「先刻から気になっていたのですが、その、貴方様は……」

「ん? お察しの通りさ。僕はイクサ。イクサ・レイブン・グロウガ。今は第三王子だったかな」


 その発言にもまた、皆が驚愕している。

 王子が規格外のステータスを持つ女を連れて冒険者ギルドに現れたのだから、まぁそうなるでしょうけど。


「で、えっと、あの、話を戻しますけど」


 この雰囲気……ずっと前の、あの市場都市で盗賊を倒した直後の時と同じ気配を感じる。

 なので、私は早々にキリをつけるべく、モグロさんに話しかける。


「私達、さっき言ってた任務を請け負うことは――」

「た、大変だぁ!」


 そこで、だった。

 ギルドの玄関扉が開き、数人の男達が転がり込んできた。


「おい、あいつら……」

「確か、例の山の任務に行ってた……」


 その男達はボロボロだ。

 体中に、負傷の痕がある。


「あの人達は?」

「先程話していた、例の任務に挑んだBランク冒険者の方々です」


 ベルトナさんが、ひそひそ声で言う。


「どうやら……今回も失敗だったようですね」

「おい、お前ら! 一体何があったんだ!」


 ズタボロで、息も絶え絶えにうずくまるBランク冒険者達に、他の冒険者が近付く。


「……あ、悪魔だ」


 Bランク冒険者の内の一人が呟いた。


「敵のモンスターの正体がわかった! 奴は、悪魔族だ!」


 その発言に、ギルド内の空気が凍り付いたのがわかった。


「あ、悪魔……本当か?」

「なんで、そんなところに悪魔が……」

「見間違いじゃないのか?」

「見間違いなものか! まるで歯が立たなかった……いいように弄ばれて、命からがら逃げ帰ってきたんだ……」


 Bランク冒険者達は震えている。

 先程までの空気とは違った意味で、ざわめきが起こる。

 私が横を見ると、ベルトナさんも蒼白な顔をしていた。


「ベルトナさん、悪魔って……」

「……悪魔族。魔族の一種です」


 ベルトナさんは言う。


「非常に知能が高く、狡猾且つ残忍……ドラゴン族に並ぶ超危険指定種族です」

「………」


 悪魔族……その詳細はわからないが、相当恐ろしい存在なのだということは空気でわかった。


「嘘だろ……悪魔が関わってるなんて」

「大丈夫なのか? そんな奴等に下手に手を出したら、ここに報復に来ないか?」

「俺達の手じゃ負えねぇよ……A級……いや、S級が討伐に向かうべきだろ」


 悪魔、という単語が出ただけで、血気盛んな冒険者達が水を引いたように及び腰になっている。


「モグロさん」


 そんな中、私はモグロさんとベルトナさんに言う。


「私のステータス、ランク的にはどれくらいですか?」

「マコ嬢……何を……」


 割れた眼鏡を律義にかけたままのモグロさんに、私は問う。


「もし許されるなら、この任務、私が参加できませんか? 他に行く人がいないなら、私が行きます」



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