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■14 素材集めクエストです


 ――開店まで、あと三日。

 私達の店舗の近くの料亭――『黄鱗亭』。

 時間は昼頃。

 私、ラム、バゴズ、ウーガの四人は、そこで昼食を取っていた。

 他のメンバー達は既に食事を終えており、内装のレイアウトに関して色々と話し合っていた私達四人だけが、遅れてやって来たというわけだ。


「……おい、見ろよ」


 すると、私達の耳に近くの席に座ったお客さん達の会話が聞こえて来た。

 見た感じ、普通の王都市民と思われる、若い二人組の青年達だ。


「あいつらじゃないか? 例の……」

「ああ、獣人達が、自分達の村で作った質の悪い商品を持って来て、高値で売り捌こうとしてるって話だろ?」


 その発言に、ラム達三人が反応する。

 私は黙って聞く。


「この前の、王都近くの牧場や農場を襲ってたっていう狼の群れを駆除して助けたっていうのも、結局自分達で群れをけしかけさせた自作自演だって噂だからな。この街で、大手を振って商売をできるように……」

「妙な連中だと思ってたが、そういう目的だったのか。嫌な奴等だぜ」

「やっぱり、獣人なんて信用できねぇな」

「あの女も、人間のくせになんで獣人共と一緒にいるんだ? 怪しいもんだ」


 その言葉に、思わず立ち上がろうとしたウーガを、私は目で宥める。

 どうやら、悪い噂が流されているようだ。

 きっと、あのブラド達の仕業だ。

 彼等の攻撃方法は、直接的な暴力か、間接的な暴力。

 今回は、後者の方を使って、事前に店の……というか、私達の評判を落とす作戦なのだろう。


「噂話に踊らされてる人に、当人が絡みに行っても良い結果にはならないよ」

「マコ、けどよぉ……」


 ウーガ達が苛立つのも無理は無い。

 けど、そこで怒りに任せて行動してしまったら相手の思惑通りだ。


「ほら、頭の中でウリ坊のチビちゃんがコロコロ転がってる姿を思い浮かべて。イライラが収まってくるから――」


 すると、その時だった。

『黄鱗亭』の厨房の方から、一人の店員が、噂話を交わしていた青年達の席へとやって来る。

 料理を運びに来たわけではない、手ぶらだ。


「失礼します。お代は結構ですので、お帰りください」


 彼は誰であろう、以前私達の店にやって来た三人組のリーダー格だった。

 独特の長い前髪の彼である。


「なに?」

「他のお客様が不快になられます」


 彼は頭を下げながら、そう言い切った。

 下げた顔は微妙にこちらを向いており、ぱちんとウィンクが飛んでくる。

 もしかして、私達に配慮して言いに来てくれたのか。

 良い人だ。


「不快?」


 しかし、そこで青年二人は表情を顰め立ち上がる。


「事実を言って何が悪いんだよ。お前、まさか獣人を庇うのか?」

「う、え? いや、あの、その……」


 青年二人に逆に言い詰められ、しどろもどろになるシェフ。

 まずい雰囲気かも。

 すかさず、私も席を立って話に割って入ろうと考えるが――。


「おい! お前らに何がわかるってんだよ!」


 それよりも早く、別の席のお客さん達が怒鳴り込んで来た。


「あ」


 やって来たのは、先日、クロちゃん達狼の群れが牧場・農場を襲って被害を出しているという話をしていた――私達を牧場主に紹介してくれた、あの二人組のおじさん達だ。

 牧場や農家から商品を卸してもらってる店の者だと言っていた、あの二人である。


「狼の群れの問題の解決は、俺達が彼女に依頼したんだ! 牧場主達も、今じゃ敷地を守ってくれる猟犬が出来たって、喜んでるんだよ!」

「根も葉もない噂に踊らされてんじゃねぇ、馬鹿ども!」


 おじさん達が、私達を擁護するように青年組に食って掛かる。

 青年達も、流石にその勢いにたじろぎ、そそくさと店から退散していった。


「ったく、しょうもない連中だぜ」

「ああ」

「みんな……」


 三人は、私達の方へと向き直ると笑顔を浮かべる。


「よう、マコさん。妙な噂話がここら辺で流れてるみたいだが、気にすんなよ」

「俺達はあんたの味方だからな」

「……ありがとう」


 私達の味方になって、応援してくれる人もいる。

 この勝負、決して私達にとって不利じゃない。


「シェフも、ありがとうね」

「ははっ……まぁ、最後はあまり恰好が付かなかったけど」




※ ※ ※ ※ ※




 大体のレイアウトは決定。

 つまり、これで店作りの作業は完成したも同然となった。

 後は、計画通りに商品を陳列する。

 それらの作業は、皆に任せる事にして――。


「んじゃ、行こうか。ガライ、イクサ」

「ああ」

「お付き合いしますよ、店長」


 私は、ガライとイクサと一緒に、王都の街に繰り出す事にした。

 無論、ただのショッピングではない。

 ここからは、私の時間。

 店の売り上げを作り、人気を高めるための、様々なアイデアを形にするための時間だ。

 その準備に、色々と素材を集めないといけない。

 ちなみに、お店のボディガードはスアロさん、エンティア、クロちゃんが務めてくれている。


「でも、イクサ。今回は、私とあのヤクザ達との代理人戦争だから、イクサがあんまり直接的に関わって来るのはまずいんじゃないの?」

「そこらへんの裁量は、この戦いを記録している監視官が決めるんだけど、今のところ注意を受けていないからね、スタッフとして参加する程度は大丈夫なんだろう。極論、ネロが自分の王権兵団を率いてあの店を潰しに来るなんてことになったら、流石に止められるだろうけどね」


 懐から王都の地図を取り出し広げ、イクサが言う。


「それで、マコ。まずはどこに行くんだい?」

「うん、目的地はもう決めてるんだ」


 そう言って、私達が向かった先。

 そこは――。


「あ、着いた着いた」

「ここは……」


 昼間だというのに、煌びやかで妖しい雰囲気の漂う路地。

 そう、先日マウルとメアラが迷い込んだ、歓楽街だ。


「マコ、こんな場所に何の用があるんだい? まさか、美女をスカウトして店頭に立たせて、客の引き込みをするなんてアイデアじゃないよね?」

「いやいや、そんなわけないでしょ」


 ここに来たのには、れっきとした理由がある。

 今回、私の作戦は、私の知識をフルに使って『現代の人気ホームセンターグッズ』を、この世界の物資で再現する……というものだ。

 そのための道具が、きっとこの街で手に入るはずなのである。


「よし、まずは……」


 私達は最初の目的地へと向かう。

 ここが歓楽街なら、多分、どこかにあると思うんだけど……。

 と、探し回っていたら、やっぱりあった。


「良い匂いがするね、ここは何だい?」

「オイルショップだよ」


 潤滑油など、様々な用途に使う油――〝オイル〟を扱っているお店だ。

 ん? なんで、歓楽街にオイルショップがあるのかって?

 …………。

 良い子のみんなは、お父さんに聞いてみよう!

 早速、私達は店内に入る。

 かなりの品揃えだ。

 古今東西、様々なオイルを売っているという感じである。


「でも、僕達の店で売るのは青果や野菜だろう? どうして、オイルが必要なんだい?」


 棚に並んだ、小瓶に入った色鮮やかなオイルを見回しながら、疑問符を浮かべるイクサ。


「使い道があるんだよ。あ、すいません」


 そこで私は、店内にいた店員さんに声を掛ける。


「このお店に、〝透明なオイル〟ってありますか?」




※ ※ ※ ※ ※




 オイルショップでの仕入れを終え、続いて私達が向かったのは酒屋だった。


「まぁ、歓楽街なら絶対にあるよね」

「酒屋か……まぁ、確かに、酒盛りもあの村の名物といえば名物だけど」


 店内に入ると、かなりの種類のお酒が取り揃えられている。

 流石、王都の、しかも歓楽街の酒屋。

 品揃え豊富だ。


「ははぁん、わかったよ、マコ。店に来たお客に酒を振る舞い、酔わせて気持ち良くさせて高値で商品を売りつけようという作戦だね」

「いやいや、キャバクラじゃないんだから」


 イクサ、発想が貧困過ぎる問題。

 そんなイクサは放っておいて、私は店員さんと話をしながら、お酒の種類を確認していく。

 現代で、カクテルなんかに使われるような種類のお酒も発見できた。

 ……イクサのアイデアも、そのままではないにしろ、少し取り入れようかな。


「あ、ところで、店員さん」


 それは置いて起き、私はそこで、このお店に来た最大の目的を店員さんに聞く事にする。


「ここに、炭酸水(ソーダ)って売ってます?」




※ ※ ※ ※ ※




「ふむふむ……大分、いけそうだね」


 私は紙に書いたリストをチェックしながら、頷く。

 商品も十分だし、情報も集まった。

 これだけの素材が手に入れば、色々とできる。

 無論、これらをそのまま売るというわけじゃない。

 それじゃあ転売と一緒だし、むしろ損をしてしまうだけだ。

 これらの素材を使って、新しい商品を生み出す。

 村で作られた作物や、私のスキルと組み合わせて。


「とりあえず、必要なものは手に入ったか」


 仕入れた物品はガライに持ってもらい、私達は一旦店舗へと戻った。

 店の裏に併設された、在庫倉庫で集めた物資を広げている。


『こりゃ! こりゃ!』


 するとそこで、聞き覚えのある声と共に、私の足元を何かが突いてきた。


「あれ! チビちゃん!? みんなと一緒に帰ったんじゃなかったの?」

『こりゃこりゃ!』


 見下ろすと、チビちゃんがぴょんぴょんと飛び跳ねていた。

 今日、他のイノシシ君達と一緒に帰るように言ってたのに……。

 ……というか、スアロさんが倉庫の入り口の影からずっとこっちを見てる。


「もう、しょうがないな」


 私はチビちゃんを抱き上げる。


『こりゃ~♪』

「えーっと……うん、大体、今のところ欲しいものは手に入ったかな……ただね」

「まだ、足りないのか?」


 ガライが問う。

 そう、あと一つ。


「あと一つだけ、どうしても欲しいものがあるんだ」

「それは……」

「〝ガラス〟なんだよね」


 これに関しては、流石に歓楽街にもなかった。


「ガラス細工があれば、それこそバリエーションが大きく増えるんだよ」

「……ガラスか」


 そこで、顎に手を当てながら、イクサが呟いた。


「ガラスの工芸品を扱っている店なら、表通りにもいくつかあったはずだよ。行ってみよう」



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