■13 本気の本気で挑みます
「それでは、改めまして勝負のルールを定めさせていただきます」
黒い背広のような衣服を着た、老年の男性。
この前のアンティミシュカとの闘いの時にも現れた、あの老年の監視官がやって来た。
なんという神出鬼没……と思ったけど、よくよく考えれば、ここは国王のお膝元、王都だ。
ここが拠点なら、対応が早いのも当然か。
王子同士の戦い――その審判・記録を行うという監視官により、今回のルールが取り決められていく。
この人達が存在するのは、おそらく王子同士の競争をスムーズに進めるための配慮。
ただ単に国中の至る場所で勝手に王子達が戦い合ってたんじゃ途方も無いし、埒外の被害が出てしまう可能性もある。
そういった不利益を生み出さないための、『直接対決』という形式なのかもしれない。
「今回は少々、変則的な争いとなります。イクサ王子が出店を支援する方々の保有する土地の権利を、ネロ王子と彼から今回の一件を委託されたブラド様用心棒業者組合様が買収したい……ここまでが、そもそもの原因でよろしいですね」
「ええ、構いませんわ」
「ああ」
ブラドとイクサが返答する。
「よろしい。では、これより行われるのは、それぞれが代理人を立てた王位継承権所持者同士の直接対決と記録させていただきます。無論、この時点ではまだネロ王子の同意を得られておりませんので、ネロ王子への確認が済み次第、勝負の開始とさせていただきます」
「助かりますわ。アタシもね、流石にここまでの大事に発展するとは思ってもいなかったんで、勝手に同意すべきかどうか迷ってたところでしてね」
「よく言うよ」
イクサは下らなそうに言う。
「こうなることが、そもそも目的だったんだろう? 確認なんてするまでもない。あいつは、乗るよ」
「………」
イクサ……今回の相手である、第八王子のネロという人物に対し、あまり良い印象は無い様子だ。
いや、むしろ印象は最悪だと見て取れる。
……そういえば、第八王子って、いつかの会話の中で出てきたような……。
「それでは、今回の対決に関してですが……代理人であるマコ様達は、この王都に商店の出店……つまり、商売を行いに来られたのが第一の目的。商売人であるマコ様方には、商売で勝負をしていただくのが最良だと考えます」
そして――と、監視官はブラドを見る。
「ブラド様達の目的は、この土地を奪いたいという点。ならば、ブラド様達も普段の生業である〝用心棒業〟にて争っていただくのが、最も互いの長所を生かしあった戦いとなると考えます」
用心棒……なんて言ってるけど、要はゆすり、たかり、汚れ仕事のヤクザ稼業だ。
だが、監視官の発言で、今回の戦いの概要は大体理解できた。
「提案させていただく勝負の内容を、読み上げさせていただきます」
監視官は、手にした紙にインクで字を綴りながら、述べる。
「本日から三日後。それが、この店舗の開店の日にちで構いませんね」
「はい」
私は答える。
当初の予定通りなら、そのはずだった。
「でも、こうして荒らされてしまった内装の補修等を考慮したいので、あと一日時間が欲しいです」
「よろしい。では、四日後をオープン日とします」
本当なら、プレオープン(試験開店)のはずだったんだけどね……。
でも、こうなってしまったからには、仕方がない。
「開店後は、通常通りに経営をしていただいて構いません。今回、その経営における〝売上〟が、勝敗のカギとなります。対し――ブラド様」
監視官が、ブラドを見る。
「ブラド様は、マコ様達の売上を向上させないよう、その対策を行っていただきます。方法、手段等におきましては、ブラド様が〝普段行っている事〟で構いません。自身のノウハウを駆使してください」
私達は、店を経営して〝売上〟を稼ぐ。
ブラド達は、経営がうまく回らないように邪魔をして、〝売上〟を落とす。
「期間は一週間と定めます。オープンから一週間以内の〝売上額〟で勝負を行います。この地域周辺で、この店と同じく青果・野菜を扱う店舗で最も売上高の良い商店は、グロッサム家の経営する青果店となります。その一週間の売り上げは、およそ500万Gほど」
Gというのが、この国の通貨の単位らしい。
ちなみに、金貨一枚が一万G。
詳しい物価とか貨幣価値が、現代とどれだけ違うのかはわからないけど……まぁ、一万G=一万円くらいに意識しておこう。
「今回、ネロ様及びブラド様は、この土地を当初の倍の値段で買うとおっしゃられました。ですので、一週間で1000万G。マコ様達には、一週間で1000万G以上を稼いでいただきます」
「い、いっせん……っ!」
みんな、当然だけど度肝を抜かれている。
「最後に、勝利した際の互いの報酬ですが、今回互いの利益と希望を均等になるよう配慮させていただき……ネロ王子代理人ブラド様が勝利した場合、土地の権利の無償での取得。イクサ様代理人マコ様が勝利した場合、土地売買・地上げ行為の中止、今回の取引のためにブラド様が提示した金銭の獲得、そして、今後一切、ネロ様がこの土地、この店舗に手を出す事を禁止とさせていただきます。加えて、イクサ王子とネロ王子に関しては、今回の勝負の結果を記録し、国王へと報告。順位変動の参考とさせていただきます」
監視官は、私を見る。
「以上となりますが、よろしいですね?」
ルールを整理する。
私達は、四日後のオープンから一週間内に1000万Gを稼ぐ。
ブラド達は、売り上げがノルマを達成しないように邪魔をする。
私達が負けたら、この土地も、お店も相手に取られる。
私達が勝ったら、相手はこの土地に今後一切関わる事を禁止され、尚且つ最初に『この土地をこの金額で買う』と言っていたお金まで相手からもらえる。
そして、ネロとイクサの王子としての勝敗としても記録される。
「………」
確かに、この周辺で一番売れている競合店の、更に倍の売り上げを出せなんて、そんなの破格のノルマだ。
現代のホームセンターで、私が店長だったら吐いてると思う。
しかも、ヤクザ者達からの妨害があり。
更に言えば、敵はブラドだけではない。
あのグロッサム家のお嬢様をはじめ、事情を知らぬ周囲の店も競争相手だ。
「かしこまりました」
それでも、私は頷く。
ライバル店の倍のノルマ?
ヤクザの嫌がらせ?
一流の競合店が犇めく一等地?
上等だよ。
「私の、全身全霊をかけて挑ませていただきます」
「大層な自信ですなぁ、はぁ、怖い怖い」
わざとらしく身震いするブラドの一方で、監視官は「承知いたしました」と事務的に処理を進める。
「それでは、以上。戦いのすべては、我々監視機関が記録をさせていただきます」
――その日の夜。
内装を補修中の私達のもとに、監視官が再び訪れた。
今回の勝負の内容で、ネロ王子が同意したという。
イクサの想像通りだ。
かくして、すべてのお膳立ては整った。
第三王子イクサvs第八王子ネロ。
その代理人戦争の、開始である。
※ ※ ※ ※ ※
時刻は夜中だけど、私達の作業は終わっていない。
内装を補修し、その他諸々の準備を進める。
プレオープンの余裕もなく、四日後がぶっつけ本番だ。
ここから、急ピッチで作業を進めないといけない。
現在のこちらの戦力は、私、マウルとメアラ、店舗建設時から来ていた18名+今回の商品搬入で合流した12名=合計30名の《ベオウルフ》……うち、二名は明日の朝、イノシシ君達を連れて帰らないといけないので、28名。
ガライ、オルキデアさんにフレッサちゃん。
エンティアと、何故かまだ一緒にいるクロちゃん。
そして、イクサとスアロさん。
合計、37人+2匹。
マウルとメアラ、フレッサちゃんには、もう宿に帰って寝てもいいと言ったが、三人とも手伝うと言って聞かなかった。
アンティミシュカとの戦いの時と一緒だ。
皆が一丸となって、この危機に対応しようとしている。
「本当に、申し訳ない」
監視官が去った後、店舗の外。
私とイクサは、二人きりで話をすることにした。
そして開口一番に、イクサはそう言って、頭を下げた。
「最悪の奴に目をつけられた。こんな事になってしまうなんて、僕の思慮不足だった」
「大丈夫だよ、イクサ。そもそもイクサがいてくれたから、この王都で大手を振ってお店を作れる事になったんだから。気にしないで」
平謝りのイクサに、私は言う。
だって、本当にその通りだからね。
誰が欠けたって、最善の形にはならないのが、今の私達だ。
「ところで、イクサ。今回因縁をつけてきた相手の王子の、ネロって……」
「……危険人物だ」
イクサは、眉間に皺を寄せながら言う。
「あいつは、ある意味、全王子・王女達の中で最も純粋に、この王位継承戦を楽しんでいる」
蹴落としたいのさ、他の全てを。
そう、イクサは語る。
「ネロ・バハムート・グロウガ……年齢は、現在7歳」
「7……」
7歳って……。
ク●ヨンしんちゃんの二歳上じゃん。
「7歳だが、育った環境や、そもそも持って生まれた素質なのか才能なのか……その人格は〝暴君〟と呼んで差し支えない。常識が通用しない」
イクサは額を押さえ、溜息を吐く。
「あいつは今まで、目につく他の王子・王女達をあらゆる手を使って蹴落とし、倒し続け、第八王子の座まで上り詰めた。それこそ、遊戯に熱中する子供のような純粋さで。そして、そんなあいつに目を付けられているのが、一つ上の位の第七王子である僕だった」
思い出した。
イクサと出会った最初の頃。
市場都市で、ウィーブルー当主の青果店が強盗に襲われるという無茶苦茶な事件があったのだ。
マウルとメアラも人質に取られた。
その首謀者……を動かすよう、裏から手を回していたのが、第八王子ではないかと疑われていた。
「今回、第三王子に昇格した事で、あいつのターゲットから外れたと思っていたんだけど、どうやら状況は変わらなかったようだ。すまない」
「だから、大丈夫だってば、イクサ。私もみんなも、よくわかってる」
「……こうなった以上、僕ももう他人事じゃない。まぁ、最初から他人事とは思っていないけどね」
イクサは腕捲りをして、髪をうなじの後ろで縛る。
「店舗運営、僕もスタッフとして手伝わせてもらうよ」
「うん、ありがとう。じゃあ、まずはこれやって」
私は即答で、イクサに木桶と刷毛を手渡した。
あまりの即答っぷりに呆気に取られているイクサには悪いが、今は一人でも人手が欲しいので助かる。
私は、イクサの手に持った桶に、スキル《塗料》で濃い黒色の塗料を注ぐ。
「これで、あのガライに作ってもらった看板や木の板を塗装して欲しいんだ」
「これは?」
「〝黒板塗料〟って言ってね、塗ると黒板になるんだよ。チョークとかで文字を書いて、水で拭けば簡単に落ちる。これで掲示板やメニューボードを作るんだ」
店先に黒板が置いてあるお店って、結構おしゃれっぽいからね。
それに、店内に文字情報(POP)を多く掲示しておくと、お客さんもいちいち店員を呼び止めたりせず詳しい内容を知ることができるので、とても合理的だ。
必要に応じて書き換えられるから、値段表示や『本日のおすすめ!』みたいな表示にも使えるし。
「入荷物の保管の方は大丈夫なのかい?」
「そっちも、一応は大丈夫」
店舗の裏手に作った在庫置き場に、既に商品は収めている。
作物の数々は生物なので、私が《錬金》で生み出した複数の〝真空断熱バケツ〟を冷やし、その中に入れてある。
日の当たらない場所で保管し、鮮度を保たせる。
「オープンまで、色々とアイデアを整理して準備も進めたいんだよね。この王都なら、きっと色々なものが手に入ると思うから。きっと、商品のバリエーションを増やすことができると思う」
「……こんな状況に陥ったっていうのに、逞しいね、マコ。流石だ」
イクサは微笑む。
そう、今回の件に関しては、私も流石にちょっとキレた。
怪我をした《ベオウルフ》達や、荒らされた店の内装を見た時、頭の中が一瞬、真っ白になった。
本気の本気でやらせてもらう。
軽はずみに、私達に手を出した事を後悔させる。
そのためには、まず商品だ。
私のスキルで生み出せるものにも、限度がある。
だから、この世界にある素材を駆使して、〝ホームセンターの人気グッズ〟を作り出し、展開する。
「知識、アイデア、フル稼働で行くよ」




