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■10 たまには息抜きです


「では、ひとまずは店舗の完成を祝しまして……かんぱーい!」

「「「「「カンパーイ!」」」」」


 私の音頭に合わせて、皆が持ち上げたジョッキをぶつけ合わせる。

 今夜は、店舗(の建物だけだけど)完成を祝い、皆で宴会をすることになった。

《ベオウルフ》のみんなやガライ、オルキデアさんとフレッサちゃん、マウルにメアラの建設作業メンバー。

 そこにエンティアや、緊急の際のために残ってもらったイノシシ君が二匹。

 全員総出での宴会だ。

 ちなみに会場は、すっかり常連と化してしまった料亭――『黄鱗亭』である。


「あんた達……うち以外に行くところはないのか?」


 料理の乗ったお皿を運んできたのは、先日、うちの建設現場に文句を言いに来た三人組の一人――リーダー格の男だ。

 後で聞いた話だけど、どうやら彼、このお店のシェフの一人だったらしい。


「あれ? シェフが料理を運んだりするんですか?」

「ま、まぁ、いつも利用してもらっているからな……上客には挨拶が必要だし」


 うん、そういえばあの一件以来、すっかり常連になっちゃったからね。

 別に嫌がらせをしているとかではなく、普通においしいからなんだけどね。


「性格は悪いけど、料理の腕は良いからな」

「ああ、十分美味いからな。性格は悪いけど」

「捻じれてるけどな。性格も髪型も」

「く、褒められているのか、貶されているのか……」


 彼は、その捻じれている独特の前髪(スネ夫の前髪を癖がかって伸ばした感じ)を揺らしながら呟く。


『うまいぞ、コラー!』

『流石王都のメシだな、コラー!』


 床の上で、奇麗に盛り付けされていたサラダをガツガツと食べるイノシシ君達も、そう言っている。


「それにしても、ありがとうございます。動物の入店まで許してもらえて」

「……まぁ、上客っていうのもあるが、あんた達、今王都でも結構評判がいいからな。断るのも野暮ってものだろう」


 ほら――と、彼は密かに他の席のお客さんに視線を向ける。

 そのお客さん達は、私達の方をチラチラと見ながら、何やら囁くように小声で話をしている。

 最初は、こんな種族も性別もバラバラの集団だから悪目立ちしてしまっていると思っていたのだが……どうやら、そういうわけでもないらしい。


「あの……」


 そこで、私達の席に一人の青年がやって来て、声をかけられた。


「お話、聞きました。あなた達が、あの狼の群れを倒したっていう方々なんですか?」

「あ、はい、一応」


 軽い防具を身に着け、投げナイフのような武器も所持している。

 おそらく、この青年は冒険者だろうか?


「凄いですね! 数々の冒険者達が手古摺っていたのに!」

「ありがとうございます。あなたも冒険者の方ですか?」

「はい、まだ駆け出しですが。冒険者達の間では、朝からその話で持ち切りでしたよ!」


 青年は興奮した様子で喋り、握手をすると帰っていった。

 冒険者達の間にも噂が広まったのか。

 これは、もしかしたら予想以上に良い効果があったのかも……。


「へぇ、あいつ等が」


 そこで、私の耳に、また別の席の会話が聞こえてきた。


「なんでも、この近くに店を作りに来た、獣人の村の連中なんだと」

「怪しげな奴等だな……本当に信用できるのか?」

「狼の獣人だろ? ほら、例の解決したっていう狼の群れの騒ぎも、こいつらがそもそも嗾けたんじゃないかって話も……」


 ……まぁ、そりゃそうか。

 全てが肯定的なわけじゃない。

 中には、懐疑的な声があるのも当然だ。

 信頼は一分一秒の積み重ねと言うし――地道に誠実にやっていこう。




※ ※ ※ ※ ※




 翌日。


「わぁ! 見て見て、マコ! 人が宙に浮いてるよ!」


 マウルが、大通りの広場で実演中の大道芸人の芸を見て、興奮している。

 作業も一段落ついたということで、今日はリフレッシュ休暇の日にした。

 皆、自由に息抜きをしてもらっている。

 私はと言うと、久しぶりにマウルとメアラ、そしてガライの四人で、王都の町中をぶらぶらと歩く事にした。

 マウルとメアラは、ここ数日ずっと私達のお手伝いをしてもらっていたけど、やっぱり年頃の子供だ。

 華やかで色々な刺激が多い王都の街並みに、興味を惹かれまくっている。


「マコ、ガライ、武器屋に入ってもいい?」


 メアラは武器屋の方を指さして目を輝かせている。

 男の子だねぇ。


「大丈夫かな? 何も買わなかったら、嫌な客だと思われるかな?」

「……問題は無いだろう」


 私自身も、まだこのファンタジー世界の都会に慣れていないので、色々とガライにアドバイスをもらいながらの散策となった。

 道端の芸人さん達の芸を見たり、お菓子を買ったり、ウィンドウショッピングしたり、だらだらしながら街中を歩いていく。


「メアラ、あっちの路地の方も見てみようよ」

「大丈夫? 危なくない?」


 マウルとメアラは、依然としてあっちこっち走り回っている。


「マウル、メアラ、あんまり危険なとこには行かないようにね」


 いやぁ、本当に元気だね。

 まぁ、個人的には私も一緒に走り回りたい気分だけど、そこは大人なので周囲の目を気にしておくことにする。


「ふぅ……」


 街中、適当な建物の外壁に背中を預け、私は空を見上げる。

 雑踏の音の大きさが、現世の都会と大して変わらないくらい、この街は大きい。


「疲れているのか?」


 横に立ち、ガライも壁に体重をかける。


「働き過ぎは、危険だぞ」

「大丈夫、大丈夫。この程度の重労働、慣れっこだからね」


 あははー、と、ホームセンター時代の事を思い出しながら、私は乾いた笑いを漏らす。

 本当に、体力勝負の職場だったからね、あそこは。


「この前の夜の事も、そうだ」

「ごめんってば。でも、ガライもありがとうね。ラム達の意見を汲んでくれて、マウルとメアラを宥めてくれて」

「どこかで信頼していたからな。あんたなら、きっと大丈夫だろうと」


 嬉しい事を言ってくれる。

 そこで、ガライはふっと微笑みを浮かべた。


「街中に、あんたの活躍が広まりつつあるらしい。無償で困っている人間を助ける。まるで、正義のヒーローだと」

「正義のヒーローかぁ」


 そう言ったガライの発言に、私は腕組みして唸る。


「どうした?」

「私はヒーローなんかじゃないよ。打算ありきだし」


『見返りを期待したら、それは正義とは言わない』

 仮●ライダービルドの、キリュウ・セントの言葉を思い出す。


「昨日の、あの貴族の子」


 私はそこで、話題を振る。


「あの子、もしかしてガライが追われる立場になった事に、何か関係があるの?」

「……まぁ、そんなところだ」


 ガライは呟くように言う。


「あの子、凄く幸せそうだったよね」

「………」

「勝手な妄想だけどさ。ガライは、あの子にとってのヒーローだったんじゃないのかな? って、そう思ってるんだよね」

「……そんな大層なものじゃない」


 軽く溜息を吐き、ガライは言う。


「……ん?」


 と、そこで、私達のもとにマウルとメアラが帰ってきた。


「どうしたの? 二人とも。面白いものは見付からなかった?」

「あ……うん」


 なんだろう。

 二人とも、ちょっとよそよそしい雰囲気だ。

 どこに行ってたんだろう?

 私は、二人が入っていった裏路地の方を見る。


「……あ」


 怪しげな色合いの看板に、店先に立つセクシーな恰好をした女性達。

 昼間だというのに、結構な賑わいを見せる歓楽街。

 あっちは、なるほど、『色町』だったか。


「はい、良い子のみんなは表通りの方で遊ぼうね」




※ ※ ※ ※ ※




 その翌日。


「ごきげんよう!」


 店舗が出来上がり、内装もほぼ仕上がった。

 必要な小道具(陳列棚や、その他の営業小物)を、作ったり他の店に買い出しに行ったり、そんな作業を進めていた。

 その最中だった。

 いきなり、お店の入り口に立ち、一人の女の子が声を張り上げてきた。


「えーっと、どちら様で?」


 金髪をツインテールに結わえ、腕組みをし、なんだか自信たっぷりな顔で店舗の中を見回す女の子。


「ふぅん……意外と、ちゃんとしたお店じゃない」


 高飛車そうな声で、彼女は言う。


「あの、お店はまだオープンしてませんよ?」

「知ってるわよ。それに、あたしは客でもないわ。今日は、宣戦布告に来ただけよ」


 ふふん、と、彼女は笑う。

 宣戦布告……と言うことは、他のお店のスタッフとか?


「本来、ウィーブルー家の青果店が立つはずだった場所に、獣人達が店を作っている。最初に聞いた時は、半信半疑だったけど……」

「申し訳ありません、どなたでしょうか?」


 ずっと一人で話を進めている彼女に、私は問い掛ける。


「は!? あたしを知らないの!?」


 すいません、存じ上げません。

 彼女は額を押させながら、深く溜息を吐く。


「私は、レイレ・グロッサム。この国で、青果・果実の卸売りを取り扱う商家――グロッサム家の令嬢よ」



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