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■8 白黒モフモフ対決です



『ぐ……』


 大きな黒い体毛に覆われた体を動かし、ボス狼君は目を開けた。

 まだ微睡んでいる金色の瞳が、こちらに向けられる。

 彼は体を起こそうとして、そこで身動きが出来ない事に気付き、不思議そうな目で自身を見る。

 その全身が、金属製のロープ――〝ワイヤー〟で完全に雁字搦めにされている事に、気付いた。


『な、なんだこれは!』

「あ、目が覚めた?」


 私が話し掛けると、彼は微動だにしない体を左右に揺すりながら吠える。


『うぉぉぉぉお! 解け、クソッ! 俺に何をした!』

『静かにしていろ』


 じたばたと暴れるボス君の頭に、エンティアの前足が乗せられた。


『うう……』

『く……少しは見えるように……』

『ぐぅ……な、なんだ……体が……』


 そこで、他の狼達も気絶から目を覚まし始めた。

 無論、彼等の体も既に拘束済みである。

 更に、全員の体に触れ《対話》が出来るように条件も満たしている。


『か、体が動かないぞ!』

『クソ、卑劣な人間め! お前の仕業か!』

『ボス! 助けて、ボス!』


 焦燥し、皆がボス君の方を見る。

 しかし、現在そのボスも同じように捕縛されており、更にエンティアに生殺与奪を握られている体勢となっている。


『『『『『ボス!』』』』』

『無暗に抵抗するなら、頭を潰すぞ』


 エンティアの脅しに、狼達はたじろいでいる。


『く……皆、大人しくしていろ』


 対し、ボス君は抵抗を諦めたのか。

 体から力を抜き、その場に力無く横たわる。


『仕方が無い。我々は敗北した。今は、その結果を素直に受け止めよう』


 潔い。


『ところで、人間』


 そこで、ボス君は改めて私に向き直る。


『我々に、何を要求する』

「うーん、じゃあ、まず名前」


 私は、尋ねる。


「君の名前を教えて」

『……名前、か』


 その質問に、ボス君はふっと鼻で笑う。

 ……何だろう、いちいち態度が中二臭い。


『古より神狼の血を受け継ぐ俺に、名前などという概念は無い。それでも俺を固有の名称で呼びたいのであれば、こう呼ぶがいい――《黒き凶星》と』

『『『『『ボスかっけーーーーー!』』』』』

「うん、わかった。いまいち呼び辛いから、略してクロって呼ぶね」

『……クロ』

「で、クロちゃん達って本当に神狼の末裔なの?」

『……クロちゃん』


 ボス君改めクロちゃんは、私の発言に絶句してしまった。

 ごめん、いちいちつっこむの面倒だから、サクサク行くね。


「クロちゃん達は、本当に神狼の末裔なの?」

『当然だ。俺達こそ太古の昔、この大陸に覇を唱えし伝説の神獣、神狼の血を受け継ぐ一族』

『だーかーらー! 神狼の末裔は我! 我なの! 勝手に名乗るな!』


 ぎゅむー、っとクロちゃんの頭を押さえるエンティア。


『おい、やめろ、貴様! 貴様如きが俺を足蹴にするなど身の程を知れ!』

『なんだと!』

「うーん、それなんだけどね……」


 そこで私は、頭の中でステータスウィンドウを開き、スキル《テイム》を発動する。

 私が触れて《対話》が成立するようになった動物は、全てこの【テイムリスト】の中に載るんだけど……。


――――――――――


■クロ(レベル19)

 種族:黒狼(ブラック・ウルフ)

 魔力:〇

 属性:雷


――――――――――


 ……こう書かれてるんだよね。


「君達、本当は《黒狼》っていう種族なんでしょ?」

『……! 何故それを!』

『お前、やっぱり嘘を吐いていたのか!』


 一層強くぎゅむー、っと踏み付けるエンティア。

 それに対し、クロちゃんは身を揺すりながら吠える。


『違う! 嘘ではない! 我等は高貴なる神狼の末裔なのだ! 神がそう言った!』

「……神? ……まぁ、いいけど、私にはね君達の種族や力を見極める力があるんだ。さっき、エンティアがいきなり魔法を使えるようになったのも、その力のせいなんだけど。で、それによるとエンティアの方が本物の神狼の末裔みたいなんだよね」

『何だと!?』

『ほら見ろ、思い知ったか馬鹿め! バーカバーカ!』

『グググ……俺は認めないぞ! こんな阿呆が神狼の末裔などと!』

「はい、二人ともクールダウン、クールダウン」


 一層激しく喧嘩を始める二匹を、私は制止する。

 今は、その話は一旦置いておこう。


「じゃあ、次の質問。何で君達は、ここら辺の牧場や農場を襲っていたの? さっきはきちんと理解できなかったから、もっとわかりやすく説明して」

『何故? ……ふんっ、そんなもの、人間への報復に決まっているだろう』


 私からの問い掛けに、クロちゃんは鼻を鳴らす。


『元々、俺達は人間に住む場所を奪われた。ゆえに、人間に怨みを持っている。その復讐だ』

「居場所を奪われた……」

『漆黒の鎧を着た兵士達の一団と、それを指揮する高飛車そうな女がやって来て、俺達を土地から追い出したのだ』

「……あ」


 それ完全に、アンティミシュカの事だ。

 やっぱり、あの蛮行は巡り巡って人間側にも被害を齎してたんだね。


『その敵なら、姉御が倒したぞ』

『何!』


 エンティアに言われ、クロちゃんは驚いて私を見上げる。


『馬鹿な、相手は生半可な勢力では……』

「うん、一応事実かな。と言っても、私だけの手柄じゃないけどね。エンティアや、みんなに力を借りて倒したんだ。もう彼女達が無暗やたらに他の種族から居場所を奪うような事は無いよ。あと、奪った土地も、今は別の王子様が元の姿に戻る様に尽力してくれてるんだ」

『……むぅ』


 最初は訝るように見ていたクロちゃんだったが、聞いている内に、徐々にその目から疑いの念が消えて行っていた。


『……確かに、この俺達をここまで窮地に追い込むとは、その実力、紛い物ではなさそうだな』

『何が窮地だ、完全に敗北しているだろうが』

『黙れ! 白い毛むくじゃら!』

『なんだと、黒い毛玉!』

「もー、いちいち喧嘩しないで。それで、クロちゃんは人間に住処を奪われた復讐に、ここら一帯の牧場や農場を襲っていたと」

『ああ……いや、正確には、少し事情がある』

「?」

『先程、俺が神狼の末裔を名乗るのは、神にそう言われたからだと言ったな?』


 うん、確かにそう言っていた。


『その兵団に住処から追い出され、復讐心に身を焦がしていた時、不意に、頭の中に声が響いたのだ』

「声?」

『ああ、『神狼の末裔として、仲間を導き悪しき人間を倒すのだ』と。天啓かと思った。そう言われ、俺は自分達が神狼の末裔だと信じ、この国で最も人間共が集う場所……あの王都を攻撃するつもりで、ここまでやって来たのだ』

「じゃあ、君達にとっての最大の目標は、王都への攻撃だったってこと?」

『ああ。その手始めに、ここら一帯の牧場や農場を襲い、壊滅させ、恐怖を味わわせてやろうとしたのだ』

「………」


 ……なんだか、話が一筋縄でいかない感じになってきた気がする。

 その声って、本当に神様の声?

 いや、神様だとしたら、嘘を吐いている事になるし。

 単なるクロちゃんの勘違い?

 それとも、誰かがクロちゃん達を洗脳しようとした?


『……人間、名前は何という』


 思案する私に、そこでクロちゃんは言う。


「え? 私は、マコ」

『マコ……俺と、そして仲間達の縄を解いてはくれないか? もう抵抗する気は無い』


 先程までと比べ穏やかになった声で、クロちゃんは言う。


「本当?」

『俺は、俺達の土地を奪った人間を倒したというお前に、畏敬の念を覚える。敗北も認めよう……いや、従属を認める』

「じゅう……ぞく?」


 クロちゃんは真剣な顔で言う。


『俺達はお前に忠誠を誓う。マスター・マコと呼ばせてもらおう』

「いや、名前でいいよ。別にそんな変な風に呼ばなくても」

『……変な』

『姉御、我が言うのもなんだが、こいつの声は本気だ』


 エンティアが私を見る。

 うん、クロちゃんの本心は伝わった。

 多分《ペットマスター》の力で、ある程度、感情とか心の機微とかが読み取れるのかもしれない。

 私はクロちゃんと、他の狼達を拘束していた〝ワイヤー〟を消去していく。

 自由を手にした黒い狼達は、しかし逃げたりせず、私の前に整列し腰を下ろした。

 どうやら本気で、私に忠誠を誓うらしい。


『……ところで、お前』


 そこで、クロちゃんは改めてエンティアに話しかける。


『お前は何故、マコと一緒に居る』

『む?』

『どういう馴れ初めがあったのだ。お前、本当の神狼の末裔のようだが、俺はお前を認めてはいないぞ』


 ……おやおや?

 なんだか、雲行きが怪しく。


『マコの傍に立つ騎士として相応しいのは、この俺だ』

『ふーん、貴様、我と姉御の絆をわかっていないな?』


 ふぅんと鼻先を上に持ち上げ、エンティアはニヨニヨと笑いながら言う。


『なに?』

『今しがた出会ったばかりの貴様如きが、傍に立つに相応しいなどとは片腹痛いわ。言っておくが、我はとっくの昔から姉御と一緒に毎晩寝ている仲だぞ?』

『なぁにぃ!?』


 クロちゃんが殺気立つ。

 いや、殺気立たれても。


『更に、姉御にはよく腹をわしゃわしゃしてもらったり、うまい飯を毎日食わせてもらったり、親密な関係なのだ! 貴様如きが入り込む余地も、入れ替わる余地も無いわ、マヌケめ!』

『ぐぐぐぐ……』

『なにより、貴様のようなモフモフから程遠いゴワゴワの毛並みなど、姉御がこの世で最も嫌うもの! そんな無様な毛並みで姉御に近寄るな!』


 いや、別にこの世で最も嫌っては無いけどね。

 でも確かに、エンティアの言う通りクロちゃんの毛並みは、おそらく野生生活の長さも関係しているのだろうけど、手入れがされておらずかなりのゴワゴワだ。


『な、そうだろう? 姉御』

「うーん……まぁ、確かに、毛並み勝負に関してはエンティアに軍配かな」

『な、ななな……………み、認められるかああああああああ!』


 瞬間、クロちゃんは咆哮を上げると、その場から勢いよく走り出した。


『『『『『ボスーーーー!』』』』』


 仲間達も叫ぶ事しかできなかった。

 その間にも、クロちゃんは渓谷の岩肌をぴょんぴょんと飛び越えながら――。


『うおおおおおおおおおおお!』


 その岩肌の隙間に流れていた川(ここまで来る途中に見付けていのだろうか)に、全力で飛び込んだ。


『ぬああああああああああああ!』


 そして、水中でしっちゃかめっちゃかに暴れると、また飛び出し。


『ふんぎいいいいいいいいいい!』


 全身をぶんぶん振るって、水分を飛ばすと。


『どうだぁぁぁああああああああああ!』


 途轍もない勢いで再び帰って来て、そのまま私に体当たりを食らわしてきた。

 吹っ飛ぶかと思ったけど、クロちゃんのふわふわに乾燥され毛羽だった体毛に飲み込まれて吹っ飛ばなかった。

 うわぁ……ふわふわ……。


『どうだどうだ! これでもまだ俺の毛並みはゴワゴワか!』

『な、貴様! 事もあろうに色仕掛けに走るとは! プライドは無いのか!?』


 え、これ色仕掛けだったの?

 と思っている間に、背中側からエンティアが体を押し付けて来た。


『どうだ、姉御! どっちの毛の方が触り心地が良い!? 毎晩一緒に寝たい!?』

『当然、俺の方だ! お前はもうマコに近付くな!』

『貴様こそ近付くな! 黒玉!』

『なんだと、白い埃め!』


 ほらほらぁ、喧嘩しないでってばー。

 特にクロちゃん、仲間達の目の前だよー。



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