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■7《ペットマスター》の新スキルです


 月光が照らす、険しい渓谷の中。

 私とエンティアは、黒色のボス狼と対峙している。


『……姉御』

「うん」


 エンティアが小さく呟く。

 私には、何を言いたいのかわかった。

 気付くと、周囲を囲うように他の黒い狼達が集結している。

 完全に包囲されていた。


『今、何をした、人間』


 相手のボス狼が、私が今し方生み出した〝鉄筋〟を見て、呟く。


『いや、それに、何故俺にはお前の言葉がわかる、そして俺の言葉をお前は理解できる』

「魔法だよ。君と一緒」


 多くは語らず、私はそれだけ告げる。

 するとボス君は、ふんっと鼻を鳴らした。


『愚かな人間と、それに手を貸す獣め……我等を駆除しに来たのか?』

「それは、まだわかんないかな。ねぇ、一つ聞いていい?」


 まずは、話をしてみる。

 彼等なりの事情とか、何かあるかもしれないので。


「君達はどこから来たの? どうして、牧場や農業を襲うの?」

『くくく……決まっている』


 私の質問に、ボス君はおかしそうに喉を鳴らした。


『愚かな人間共から、贄をもらっているに過ぎない』

「贄?」

『我は神狼の末裔。獣も人も関わらず、全ての者の上に立つ存在』


 天を見上げ、彼は語る。


『下等の者達が、我と我の眷属に贄を捧げるのは、当然よ』

「………」


 うーん……この仰々しいと言うか、どこか気取っているつもりが微妙にずれているような喋り口。

 どこかムズムズするなぁ。


「よくわからないけど、とりあえず食料が欲しくて襲ってるって事?」

『贖罪だ』

「え?」

『贄を捧げるのは、相応の罪を犯したという事。言わば、その罰を我々は与えているに過ぎない』


 ………どういう意味?


『そして、これ以上語る事は何もない』


 言うが早いか、彼の黒い毛並みの周囲に再び光が浮かび始める。

 ええ!

 いきなり臨戦態勢!?


『己の愚かさを味わいながら醜く踊るがいい! 混沌の闇に呑まれよ!』


 だから、そのノリ止めて!

 ちょっと、中二病っぽい雰囲気のそれ!

 瞬間――ボス君は空に向かって跳躍する。

 同時、横から飛んで来た一匹の狼が、私の立てた〝鉄筋〟を爪で弾き飛ばした。

 上手い。

 連携が出来ている。

 流石は群れ。

 賞賛している間に、空中のボス君から発生した電撃が、こちらに向かって放たれた。


「エン――」


 名前を呼ぶより早く、エンティアは動いていた。

 放たれた雷撃を寸前で回避。

 なんとか躱すが――そこで、背後に気配を感じる。

 群れの中から、狼の一匹がこちらへと飛び掛かって来ていた。


『チィッ!』


 瞬時、エンティアは背後に向かって後ろ脚を放つ。

 迫って来ていた狼は、蹴りを食らって吹っ飛ばされる。

 しかしその時には既に、また別の狼が間近にまで迫って来ていた。


「おりゃっ!」


 私は手の中に〝アルミパイプ〟を錬成し振るう。

 アルミは他の金属に比べて圧倒的に軽い。

 魔力を込めれば、〝単管パイプ〟よりも速く振り抜けた。

 接近を防ぐためだけの一閃だったため、狼にも大したダメージは加えられていないが、それでも振り払う事が出来た。

 だが、狼達の波状攻撃は止まらない。

 次から次に、こちらに飛び掛かって来る。

 キリが無い。


『どこを見ている』


 そして、その間にも――ボス君のチャージが完了する。


『滅びよ』


 周囲の狼達が一斉に飛びのく。

 真上から、ボス狼の放った雷撃が、稲妻の如く迫る。


「くっ――」


 瞬時、私は再び避雷針にするべく〝鉄筋〟を生み出す。

 が、それを地面に向かって投げようとした瞬間、重さを感じてバランスを崩した。

 一匹の狼が、〝鉄筋〟に噛みついていた。


『オオオオオ!』


 エンティアが、咆哮を上げて地面を蹴り抜く。

 稲妻はすぐ間近を掠め、地面に着弾。

 ギリギリだった。

 エンティアのおかげで、直撃は免れた。

 私は〝鉄筋〟にかぶり付いていた狼を振り解き、エンティアにすぐさま指示を飛ばす。


「あそこの大きな岩の影!」

『おう!』


 指差した先は、渓谷の一部に鎮座する巨大な岩の方向。

 エンティアは跳躍する。

 そして一気に岩の麓まで辿り着くと、その後ろに逃げ込んだ。

 これで、数秒くらいは稼げるはず。


「エンティア!」


 私は、エンティアの前足の一部の毛が、黒く煤けているのに気付く。


「……ごめん」

『気にするな、姉御。こんなものは掠り傷ですらない。我は神狼の末裔だぞ?』

「うん、そうだね」


 明るい声で言うエンティア。

 私は彼の頭を撫でながら、岩の影から遠方を見る。

 黒い狼達の群れは、警戒しながらも徐々にこちらへと近付いて来ている。


『しかし、我に無断で神狼の末裔を名乗るなど、不届きな連中だ』


 横で、エンティアが鼻息荒く言う。


『絶対にこらしめてやる』


 そんな彼を見て、私は小さく微笑む。


「うん、そうだね」


 しかし、そのためには、この状況を突破する策が必要だ。

 何か、ないだろうか……。


「……そうだ」


 そこで、私は思い出す。

 先日、私の中に新しく目覚めたスキルは、確か一つではなかったはずだ。

 瞬時、私は頭の中でステータスウィンドウを開く。

 何か、こんな時に役に立ちそうなスキル。

 そんなスキルが、目覚めていることを信じて――。


――――――――――


 名前:ホンダ=マコ

 スキル:《錬金Lv,2》《塗料》《対話》《テイム》《土壌調査》……


――――――――――


「……《テイム》?」


《テイム》、確かにそう書かれている。

 なんだろう……どこかで聞いた覚えのある単語だけど……。


「《テイム》って、ええっと……どんな能力なんだろう?」


 試しに、私は頭の中で新スキル《テイム》を発動してみるよう意識する。

 すると、ステータスウィンドウに変化が起きた。

 あの《土壌調査》を発動した時と、同じような変化だ。


――――――――――


【テイムリスト】

■エンティア(レベル23) 神狼 魔力〇……

■猪A(レベル1) 猪 魔力× 突進力〇……

■猪B(レベル1) 猪 魔力× 突進力〇……

■猪C(レベル1) 猪 魔力× 突進力〇……

 …………


――――――――――


 新たに開いたウィンドウの中には、こんな文字列が箇条書きされていた。


(……これって……)


 私が触れて、《対話》をできるようにしてきた動物達ばかりだ。

 察するに、最初が名前。

 次が、おそらく種族。

 そしてその次が、簡易的なステータス?


(……《対話》できる動物の、能力がわかる? ……)


 私は試しに、エンティアの項目を開いてみることにした。


――――――――――


■エンティア(レベル23)

 種族:神狼

 魔力:〇

 属性:光


――――――――――


 そこには、やはりエンティアの簡単なステータスが載っていた。

 というか、これが本当なら……。


「あれ、エンティア。もしかして魔法使える?」

『なに!?』


 私が言うと、エンティアが驚いたように顔を上げた。


『どういうことだ、姉御!』

「うん、今ね、私の新しい能力で確認したら、エンティアの中には魔力があるっぽいって出たんだよね」

『うぬぅ……しかし、我には魔法の使い方などわからぬぞ? 今まで考えたこともなかった』


 うぬぬぬぬ……と首を傾げるエンティア。

 その間にも、黒い狼達はこちらに迫ってきている。


「やるしかないよ、エンティア」


 もしかしたら、エンティアの未知の魔法が突破口になるかもしれない。

 私は、エンティアの体に触れる。


『姉御?』

「試しにだけど、エンティアの中の魔力を、私の力で動かしたりできないかな?」


《テイム》という単語の意味。

 思い出した。

 ホームセンターの中のペットショップで、しつけ教室が行われていた時に出てきた単語だ。

 飼い慣らす、とか、手懐けるっていう意味。

 もしかしたら、エンティアは私の力で育てられるのかもしれない。


『……あ、姉御!』


 私がエンティアの体に触れながら、自分自身の魔力を使う時の要領で、エンティアの中の魔力を動かすよう意識した。

 そこで、エンティアが驚いたように声を上げた。


『わかるぞ! 我の体の内側で、魔力が動いているのがわかる!』

「本当!?」

『なんか行ける気がする! 行くぞ、姉御!』


 ハイテンションに叫ぶと、エンティアは体を躍動させる。

 私は慌ててエンティアの背中に掴まり、彼と一緒に岩陰から飛び出した。

 目の前には、すぐそこまで迫っていた黒狼の一団。


『くくく……遂に観念したか、その潔い心意気や良し』


 軍団の後方に控えたボス狼が、そんな言葉を口走る。


『気取るな、偽物が!』


 それに対し、エンティアが吠える、


『……偽物?』

『神狼の末裔を名乗る偽物だろうが! この真の神狼の末裔である我が、不届き者を成敗してやる!』

『貴様っ……』


 ボス狼は、歯を食い縛り鼻先を落とす。

 怒っているのだろう。


『滅せよ!』


 その雄叫びと共に、配下の狼達が一気に私達へと襲い掛かってきた。


「エンティア!」

『おう! 飛び出せ、我が魔法!』


 エンティアが、自身の中にある魔力を意識し、一気に開放するようイメージした。

 刹那、エンティアの体から、微かな光が――。


「え?」


 いや、違う――。

 私は嫌な予感を覚え、咄嗟に顔を覆う。

 エンティアの全身が、途轍もない光を放った。

 まるで太陽のような眩い光源と化したエンティアの光が、夜闇に満ちた周囲を昼間のように照らす。


「ギャッ!」


 その光量は只事ではない。

 あたかもスタングレネード。

 間近でそれを見た狼達は、悲鳴を上げて地面に落下していく。

 あまりの眩しさに、目をやられたのだろうか。


「……エンティア、もう大丈夫?」

『ふははは! やったぞ、姉御! 神狼の末裔たる我の神々しさの前に、敵は皆正気を保てず気絶したようだ!』


 ううん、単純に眩し過ぎただけだよ、エンティア。

 っていうか、このめちゃくちゃ眩しいっていうのが、エンティアの魔法なのか……。

 まぁ、光属性には違いないだろうけど……。

 早目に顔を隠してよかった。


『ぐぅ……』


 一方、部下達を一網打尽にされ、そして少なからず発光を直視してしまったボス君も、足元をふらつかせ狼狽している。


『貴様らぁ、この期に及んで目潰しとは、卑怯な!』


 おそらく、視力は回復していない。

 それでも、ボス君は体に電気を帯電させ始める。

 チャンスだ。

 私は静かに、エンティアに合図する。


『どこだ! クソっ! 前が見えぬ! どこに行――』


 私はボス君の近くに〝鉄筋〟を錬成し、それを地面に突き立てた。


『っ! そこか!』


 その物音を、私達が接近したのだと勘違いしたボス君は、闇雲に充電していた電撃を放つ。

 電撃は見事、〝鉄筋〟に命中した。

 だが、その時には既に――。


『オラぁっ!』

『ぐふっ!? ……』


 肉薄したエンティアの腕の一閃が、彼の脳天に叩き込まれていた。

 ボス狼君は数歩足元をふらつかせ。


『おの、れ……』


 そのまま横たわり、昏倒した。


「……ふぅ」

『やったな、姉御』


 とりあえず、パワーアップした私のスキルとエンティアの魔法によって、危機を脱することはできたようだ。


「……さぁて」



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