■3 王都に到着です
アバトクス村を出発し、私達は王都へと向かった。
受け取っていた地図を見ながら、舗装された街道を真っ直ぐ進む。
エンティアに引かれる荷台の上で、変化する景色を眺めながらの引率となった。
何気に、あの村と市場都市以外、初めての遠出だ。
イノシシ君達はそこそこの遠出にもかかわらず、文句一つ言わない。
『コラー♪』『コラー♪』と楽しそうに鼻歌を歌いながら荷物の運搬を行ってくれている。
……鼻歌だよね?
日が沈み、夜に差し掛かる前に、あらかじめ当主に紹介してもらっていた街道沿いの宿屋を見付け、宿泊。
翌日、日が昇ると同時に出発。
「お、農場が見えてきたな」
ラムの言葉に、皆が視線を向ける。
昼前くらい、街道沿いの風景の中に、農場や牧場が見えてきた。
地図から察するに、王都が近付いてきた証拠だ。
「あー、牛だ! 牛がいっぱいいる!」
「マウル、荷台から乗り出すと危ないぞ」
「羊さんもいるのです!」
「あら~、牧草をおいしそうに食べてますわね」
マウルやメアラ、フレッサちゃんやオルキデアさんが、そんな風景を見ながらはしゃいでいる。
そして――。
「おお! あれか!」
遂に、王都が見えた。
巨大な壁で覆われた外縁。
その向こうに、中央が天へと上るように設計された街並みが見える。
頂点にはお城が見える――あれが、国王の居城なのだろう。
その周囲の高所にある、大きな屋敷の数々には、やはり貴族とかが住んでいるのだろうか。
「すごい……お城だ」
「うん。まぁ、私達が向かう先は、あそこからずっと離れた下の方の市街地だから、あんまり関係ないけどね」
びっくりしているメアラに、私は言う。
王都の入り口の一つ――巨大な門の前で、門番の人に書状を見せる。
ウィーブルー当主の紹介により、王都で店を出すために来たという証明書。
そして、イクサからの書状も一応見せると、当初は怪訝な顔をしていた門番さんも、すんなり私達を通してくれた。
……まぁ、イノシシと狼に荷台を引かせた集団なんて、怪しまれて当然だから仕方がないけど。
とにもかくにも、こうして私達は、遂に王都へと足を踏み入れた。
(……うーん、しかし……)
いきなりの引率で、ちょっと不安もあったけど、大きな問題も起こらなくてよかった。
というか、簡単過ぎたようにも思える。
……多分、社畜時代に、大人の引率の面倒臭さを知っていたからなのかもしれないけど。
上司とか、お偉いさんとか、自分よりも年上の引率。
ああいう人達って、文句ばっかりだからなぁ……。
とにもかくにも街中に入ると、私達はそこで二手に分かれる。
5名の《ベオウルフ》と、オルキデアさんと子供達には、宿泊予定の宿に向かって、色々と手続きをしてもらう。
一方、残りの《ベオウルフ》、私、ガライ、そしてエンティアとイノシシ君達一行は、建設資材を持って早速現場へと向かう事にする。
「マコ殿! こちらです!」
予定の場所に行くと、当主が既にいた。
「そろそろ到着する頃だと思い、お待ちしておりました」
「ありがとうございます、当主」
私は改めて、現在自分が立っている場所を確認する。
広大な王都の一角、商店の並ぶ活気ある区画である。
その中の、主に飲食物を提供する店が軒を連ねた通りだ。
隣接する店は無いが、右を見ても左を見ても、あちこちに商店が並んでいる。
そんな更地に、今私達は荷物を下ろし始める。
「じゃあ、ここにお店を建設させてもらうということで」
「はい……しかし、本当に一から作られるのですね」
次々に運び込まれていく角材等を見て、流石に当主も困惑している。
まぁ、そりゃそうだよね。
「でも、『産地の村から直接持ってきた木材で店舗を作りました!』って、かなりインパクトのある宣伝になると思うんですよね」
「それは、インパクトは当然ありますとも。そこまでの事をしようという発想が、まず思い付きませんから。ううむ、商人として敗北感を覚えます……」
「やめてよ、当主。こんな事、普通はやらないもんなんだから」
私は、アハハと苦笑する。
そう、私の能力と、みんなの協力がなければ、当然できないことだ。
さて。
一通り荷物を下ろすと、運搬係だった二人の《ベオウルフ》とイノシシ君達には、一旦村に帰ってもらう事にする。
念のため、イノシシ君数匹には残ってもらい、他のみんなとは一旦お別れとなった。
「みんな、ここまでありがとう! 帰ったらしっかり休んで、また商品搬入の時に協力お願いねー!」
『じゃあね、姉御、コラー!』
『また来るぞ、コラー!』
去っていくイノシシ君達に、手を振って見送る。
『気を付けて帰れよ、コラー!』
『帰るまでが遠足だぞ、コラー!』
「マコ、今日はこれからどうする?」
ガライに聞かれ、私はあらかじめ作っておいた予定表を取り出す。
「うん、とりあえず今日は計画の最終確認だけして、みんな宿に戻って休もうか。明日から本格的に作業開始だからね」
「ああ、わかった」
※ ※ ※ ※ ※
その後、荷下ろしを完了させた私達は宿屋へと戻った。
行ってみると、結構大きな宿だった。
市場都市で泊まった時の宿くらいは、設備がいい。
私の部屋で、当主も交えて、翌日からの作業の最終確認をする(と言っても、現状、計画にそこまでの修正は無い)。
そして、夜。
「かんぱーい!」
宿の酒場で夕食をいただき、明日のために英気を養う。
で、その後は自由時間となった。
「ちょっと、夜の街でも見てみようかな?」
夜も遅いので、マウルやメアラは早速就寝している。
一方、私は、王都の街に出てみることにした。
やはり、この国で一番栄えている都市だ。
少しは見学してみたい。
「外出か? マコ」
自室を出たところで、偶々通りかかったガライに出会った。
「うん、せっかくだし、王都の街並みも見てみたいしね」
「……時間も時間だ、一緒に行こう」
そう言って、ガライも同行してくれることになった。
もう、別に気を使わなくてもいいのに。
痴漢とか出ても大丈夫だよ? 私。
金属パイプで一蹴できちゃうよ? 私。
……でも改めて考えたら、金属パイプを振り回すってどこのマッド●ックスだよ、私……。
とにもかくにも、紳士的なガライの好意により、私達は二人、夜の王都へ繰り出す事となった。
「すごい……」
そして、近場のメインとなる大通りに差し掛かった時、そこの光景を見て、私は溜息を漏らした。
……これ、現代の新宿とか原宿とかと大差無くない?
王都と言うくらいだから、かなり広大だとは思っていた。
東京都くらいは言い過ぎかもしれないけど、そんな都市の中に様々な区域があり、そこに色んな店や街並みがある。
道を行き交う人々の恰好も様々で、多国籍的だ。
お店も、食事処があれば家具等のインテリアを取り扱ってる店もある。
一方で、武器とか、何か怪しげな薬品とかを扱っている、RPG的なものもある。
「あ、あれってもしかして、冒険者ギルドかな?」
「……ああ、みたいだな」
街中に、一際大きな建物が見えた。
厳かな外見。
その建物に入っていくのは、武器や防具を携えた正に冒険者といった格好の人ばかり。
なんだか、本当にファンタジーの都会といった感じだ。
「……明日から、この町の片隅に私達のお店が作られていくんだね」
そう考えると、ちょっと感動的な気持ちになった。
ふわふわとした感覚が、心の中に生まれる。
「あっ!」
思わずボウっとしてしまった瞬間、行き交う通行人と肩がぶつかってしまい、私はふら付く。
危ない危ない、ちゃんとしないと。
そこで、不意に、私の肩に手が回される。
ガライだった。
「せわしない人間も多い。気をつけろ」
人にぶつかった方の肩を優しく抱かれ、引かれる。
そんな何気ない行動をされ、私は思わずにやけてしまった。
「えへへ」
「……どうした?」
「ガライ、明日から頑張ろうね」
気分が高揚してきた。
でも、きっと悪いことじゃないはずだ。
こういうのは高いテンションを維持して行くのが一番いい。
『勝負はノリの良い方が勝つ』って、仮●ライダー電王のモモタロスも言ってるしね。
今日は早く帰って休んで、MPを回復しておこう。
明日から、金具や工具や、色々と必要になるからね。
「よーっし、やったるぞぉおおおおお!」
「……マコ、いきなり叫ぶクセは、少し抑えた方がいいと思うぞ」
叱られちゃった。
でも、ノリノリで行っちゃうぜ!(これは違うライダーのセリフ)。




