■32 祝勝会と称して宴会です
「勝ったどぉおおおおおおおおおおおおおお!」
私達の帰りを今か今かと待ってくれていた《ベオウルフ》のみんなは、私達が村へと戻り勝利報告をすると、すぐさま宴会の準備を始めた。
そして、瞬く間に祝勝会が開始する形となった。
本当に酒が絡むと行動が速いね、君達。
とは言え、始まった大宴会。
今回の戦いに関わった存在、全てが村の広場でどんちゃん騒ぎに参加している。
まるでお祭りだ。
……この宴会も、もうアバトクス村の名物と言えば名物じゃないかな。
お祭りにして、観光客を呼び寄せたら盛り上がるのでは。
「お疲れ様、マコ」
端からそんな光景を見て、ぼうっと考えていた私のところにイクサが来た。
彼も、お酒の注がれたグラスを持っている。
ほんのり頬が赤みがかっている様子を見るに、酔っているようだ。
「イクサも、お疲れ。ありがとうね、わざわざ駆けつけてくれて。しかも、色々と手を回してくれたみたいで」
「アンティミシュカに勝利したのも、そのための手段や仲間をかき集められたのも、すべて君の手腕さ。その点に関しては、僕も畏敬の念を覚えるよ」
いやぁ、しかし――と、イクサは村を見回す。
「良い村だね、ここは」
「うん、良い村だよ」
「……僕も、今まで色々と獣人達の村を見てきたけど、ここまで活気のある村は初めてだ」
どこか遠い目をして、イクサは語る。
イクサは、獣人と人間が平等に生きる国を夢見ているらしい。
それは、彼の父親に対する反骨心から生まれた思想なのか。
それとも、彼の過去に何かがあって生まれた願いなのか。
それは、わからないけど――。
「マコのおかげだよ」
そこで、私の隣に腰を下ろしていたマウルとメアラが、イクサに言った。
「マコが僕達の前に現れてから、どんどんこの村が明るくなってきたんだ」
「……そうか。明るくなったか」
酒と料理が飛び交い、《ベオウルフ》達が歌って踊って盛り上がっている。
今回の作戦の立役者である、イノシシ君達をはじめとした野生動物のみんなにも集まってもらい、労いに野菜や果物を食べてもらっている。
『コラー!』『コラー!』と、嬉しそうな鳴き声が聞こえてくる。
……鳴き声、なのかな?
「マコ……やっぱり、君に対する僕の興味は尽きない。むしろ、今回の一件で更に――」
「あ、スアロさーん! イクサ王子、かなりお酒飲んで酔っ払っちゃってるみたいなので、傍に付いてあげててくださいね!」
近くを通り掛かったスアロさんに言って、私はそそくさとその場から撤退する。
後ろの方からイクサが私を呼ぶ声と、スアロさんのお叱りの声が聞こえてきた。
イクサには感謝しているけど、あの迫ってくる圧はどこか怖いものがあるんだよね……。
「おう、マコだ! 今回の勝利の立役者様じゃねぇか!」
「今日ぐらい飲んじまえよ!」
「ありがとう。でも、やっぱりお酒は苦手だから」
盛り上がる《ベオウルフ》達と挨拶を交わす。
私がそう言うと無理強いはしてこない。
うん、酔っ払ってても分別はつくみたいだし、一般の人達が来ても困らせる事もないだろう。
『姉御! また変な奴等が来たら俺達に任せろ、コラー!』
『今回みたいにみんなで追っ払ってやるぜ、コラー!』
「みんなも、今日はありがとう。いっぱい食べていってね」
本当に、今回はイノシシ君達に助けられた。
彼等が住む汚染された森や山も、この機会に良くしていきたいな。
私の《液肥》や、オルキデアさん達の力を使えば、少しは環境改善に繋がるかな?
もしそうなれば、〝野生動物ふれあいの森〟的なテーマパークになって、一般の人達も楽しんでくれるかも……。
……ハッ! 気付いたら、完全に村興しの計画を立ててる自分がいる!
いけないいけない、ちゃんとみんなの許可を取ってから考えないとね。
「マコ様~」
「マコ様!」
そんな風に考えてうろついていると、オルキデアさんとフレッサちゃんに出会った。
半分植物の二人は、私達と同じような食事はしないので、大人しく果実のジュースを飲んでいる様子である。
……ん? オルキデアさん、またほわほわした感じになってない?
「オルキデアさん、またお酒飲んじゃったの?」
「いえ~、この果物のジュースをいただいただけですわ~」
「いや、これ果実酒じゃん!」
「マコ様!」
そこで、私の足にフレッサちゃんがヒシっとしがみ付いてくる。
「わたし達の故郷を奪った悪い人達をこらしめてくれて、ありがとうございますです!」
「え? あ、そっか。でもね、フレッサちゃん。私だけじゃなくて、オルキデアおねえちゃんも凄く活躍したんだよ?」
「そうですよ~、ふれっさ。また悪い人達が来ても、おねえさまがばしーんとやっつけますからねぇ」
オルキデアさん、相当酔ってるね。
言いながら、彼女はフレッサちゃんを抱き寄せる。
「だから、もう心配しなくていいですよ。もう二度と、大切な場所をうしなったりしませんからねぇ」
「………」
大切な場所。
この村を、そういう風に思ってくれてるのは、素直に嬉しい。
「あ、オルキデアさん。今回の戦いで、アンティミシュカの奪った土地の権利はイクサの元に移ったみたいなので、アルラウネの国があった場所もゆくゆくは元に戻ると思いますよ!」
「そうなのですか! それは嬉しいです! ……ただ」
そこで、オルキデアさんは、ちらちらと私の方を上目遣いで見る。
「わたくしは、この村に嫁ぐことを決意した身……アルラウネの村が元に戻ることには尽力したいですが、その、骨を埋める、あ、いえ、根を埋めるお墓はマコ様と同じ場所が良いのですが……」
「またイクサから報告があったら、様子を見に行きましょうね!」
私はまた、逃げるようにその場を後にした。
「マコ様〜、冗談ですからね〜」
※ ※ ※ ※ ※
宴会も一通り盛り上がり、お開きとなった。
イクサとスアロさんを村の外まで見送り、イノシシ君達も山の中へと帰っていった。
これで、今日という日は完全に終わった。
いやぁ、疲れた。
また明日からも、この世界での生活は続くのだ。
今日はもう、大人しく眠るとしよう。
私達は、新築したばかりの一軒家へと帰る。
広々とした内装には、まだ数えるほどの家具しかない。
またガライと協力して、収納家具やキッチンとかも作っていかないとだな……と、考える。
『ふわぁあ、今日は走り回ったし、満腹になったし、我はもう眠たいぞ姉御』
そう言って、エンティアは床の上にのびーっと寝そべる。
彼がいる限り、寝床はしばらく必要無いかな。
「えへへ、お休みエンティア」
「お休み」
『おう、マウル、メアラ、お休みzzz……』
マウルとメアラが上に乗ると、エンティアは早くも寝息を立て始めた。
「さて、と」
「………」
私は、隣に立つガライを見る。
前回、一緒にエンティア布団で寝ようという話になった時、彼は遠慮したわけだが……。
「んじゃ、ガライも」
「いや、俺は……」
やっぱり遠慮するガライ。
私は彼の腕を掴んで、引っ張る。
「お、おい……」
「もう、私ももう眠いんだから、面倒かけさせないで」
「………」
マウルとメアラを挟むようにして、私とガライは対になるようにエンティアの上に身を預ける。
ガライも全力ではエンティアに体重を乗せてはいない。
とは言え、彼が乗っても唸り声一つ上げないのは、流石はエンティアだ。
「……いつもありがとうね、ガライ」
「………」
何気に、今日はガライの事を色々と知った。
あえて言及しないようにしてたけど、彼はかつて上級国民お抱えの闇ギルドに所属していたらしい。
以前、私に語ってくれたギルド時代の話が、嘘だったのか本当だったのかはわからない。
けど、汚れ仕事や暗部に携わる仕事に深く関わりすぎた結果、何かの事情で彼は居場所を失ったようだ。
魔族の血が半分混じった人間……亜人だという、彼。
でも、私達の手助けをしてくれて、この村で色々な作業に尽力してくれる彼には変わりない。
私と一緒にいて楽しいと言ってくれて、私のやりたい事を一緒に楽しんでくれる彼なら、関係無い。
少なくとも、今は。
「明日からも、よろしくね」
「……ああ」
不器用で武骨な相変わらずの声音で、ガライがそう答えてくれた。
私達は目を閉じる。
静寂に満ちた夜、まどろみの中に意識が溶けていく。
ぎゅっと、私の脇腹のあたりをマウルが掴んだ。
私はマウルに体を寄せる。
すると今度は、メアラがマウルの上から私の腕を掴んできた。
二人の体温と、ケモミミの柔らかな感覚が肌に伝わる。
更に身を寄せると、今度はガライの伸ばした腕に頭が触れた。
うひゃー、腕枕だ。
男の人の腕枕って、何気に初めての体験かも。
ガライの逞しくて頼り甲斐のある二の腕に、頭を乗せる。
なんだかそれだけで、意識がスッと気持ち良く落ちていく感じがした。
………。
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称号……
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……ん、なんだろう?
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称号……《DIYマスター》に基づき……
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頭の中で、ステータスウィンドウが開く。
でも、ボウっとして上手く読めない。
寝起きで携帯の画面を見るような、不完全な感覚だ。
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称号……《DIYマスター》に基づき……スキル《――》が……
称……《ペットマスター》に基づき……スキル《――》が目覚めまし……
称号……《グリーンマスター》に基…き……スキ…《――》が目……
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……んー……ぼうっとして良く見えないな。
まぁ、いいや。
明日、明日。
明日からも、この先も、もっとやりたい事があるんだ……。
今はもう、この気持ちの良い状況に身を任せて、寝ちゃおう。




