■22 ガライと家を作ります
翌朝。
「ガライさん、家を作るのを手伝ってくれませんか?」
「………」
出し抜けに言った私の発言に、ガライさんは表情を停止させる。
場所は、私とマウルとメアラの家の外。
昨日の夕飯と同じように、外で朝食を食べている最中の事だった。
「マコ、家作るの!?」
驚きの声を上げるマウルに、私は頷く。
「うん、ガライさんに協力してもらえるなら」
「いきなり、家を作りたいとは……」
流石に、ガライさんも困惑している様子で、髪を掻いている。
「この家もみんなで暮らすには狭くなったので、新しく家を建てたいんです。この場所は村の中でも離れの方で、周囲の土地にも余裕があります。他の家に迷惑も掛かりません。この一帯の土地を使わせてもらう許可は、村の皆にも取りました」
私は、ガライさんの目をまっすぐ見て言う。
「ここに、新しい家を建てられないかと思って。あ、別にそこまできちんとしたものじゃなくて、本当に簡単な造りなんですけど」
「……あんた、家を建てた経験があるのか?」
「あります」
即答する私に、ガライさんは驚いている。マウルとメアラも驚いている。
おっと、誤解を招くかな。私は慌てて訂正する。
「いや、あくまで小屋レベルですけどね。でも、その時の経験を生かして、昨日の夜から一晩かけて、図面を引いてみたんです」
言って、私は昨夜から、《錬金》の力で錬成した〝金尺〟を片手に徹夜で作った家の設計図を見せる。
「わぁ、凄い!」
「マコ、本当にこの通り作れるの?」
家の完成図をはじめ、必要な材料、工程の数々を記した紙の束を見て、興奮するマウルと、冷静に問いかけてくるメアラ。
そして、ガライさんも、その図面を受け取ると目を通していく。
「きっと、ガライさんが協力してくれるなら、上手くいくと思って」
「………」
「多分、一日二日で終わるような作業じゃないかもだけど、手伝ってもらえませんか?」
私は真剣な表情で頼み込む。
家を建て直すという話が出たその日に、ガライさんという貴重な人材に出会う事ができた。
このチャンスを逃してはいけない。
ガライさんは一通り図面に目を通す――そして、何かを考え込むように、数秒黙ると。
「……わかった、手伝わせてもらう」
はっきりと、そう言ってくれた。
「ありがとうございます! じゃあ、朝ご飯も食べ終わったことですし、早速!」
「ああ、まずは何をすればいい?」
「僕達も手伝うよ!」
「マコ、ガライ、俺達に出来る事があったら言って」
※ ※ ※ ※ ※
「よっし、じゃあまずは木材の調達だね」
というわけで早速、現場監督――私、メイン作業員ガライさん、サポート要員マウル&メアラによる建設事業が開始した。
第一に、材料となる木材の確保だ。
木は、森に生えている樹木を使う。
今住んでいる家も、あの森の木を材料にしたと言っていたので問題は無いはずだ。
おそらく、この作業が何よりも大変だろう。
必要な分の木材を揃えるには、途轍も無い量の木を伐採しなくてはならない。
「一応、マウルとメアラの家に、農具に交じって〝斧〟もあったけど、ガライさん用にもっと大きなやつを用意しますね」
「用意? どこかに買いに行くのか?」
疑問符を浮かべるガライさんの目の前で、私は魔力の発光と共に、巨大な斧の刃を錬成する。
ズシン、と、音を立てて地面に落ちる刃。
「一応、これに木の柄をつければ、使えるようにはなります」
「……凄いな、あんた、魔法が使えるのか」
私の錬成した〝斧〟の刃を見て、ガライさんは驚いている。
しかし、自分で作っておいてなんだけど、ちょっと大きいのを作りすぎたかな?
昔、会社の海外研修でアメリカに本場のホームセンターを見学しに行ったのだが、そこで見たバトルアックスみたいな〝斧〟の刃をイメージしたのだけど。
ちなみに向こうのホームセンターって、モノの規格が日本とは全然違うし、普通にショットガンとか売ってたりするからね(※州によります)。
相当な重さのようで、マウルとメアラが「う~~!」「ん~~!」と、二人がかりで持ち上げようとするが微動だにしない。
「うーん……もしあれだったら、もう少し軽量に――」
「いや」
瞬間、ガライさんがその肉厚な刃の端を持つと、グイッと持ち上げて見せた。
「これから、何十本も木を切るんだ。これくらいでちょうどいい」
「す、すごい……」
言葉を失う私達の前で、ガライさんは刃に柄を取り付け、本格的に〝斧〟にすると、それを使って木々の伐採を始めた。
――そこからの光景は、すさまじいものだった。
彼が二、三発〝斧〟を振るうだけで、巨大な樹木が次々に倒されていく。
バンバン倒し、枝や皮を払い、村の中へと次々に運んでいく。
正直、この作業だけで一日使うと思ってたのに、ものの一時間くらいで終わってしまった。
「すご……」
「次は何をすればいい?」
「あ、えーっとですね」
あまりの手際の良さ……いや、もう手際とかそういうレベルじゃないけど……に、少し興奮してきた私に、ガライさんは続いての指示を仰ぐ。
「じゃあ次は、角材作りですね」
私は、事前に用意しておいた〝ノコギリ〟の刃……これもアメリカサイズ……を渡し、切り倒した丸太を木材に加工していく作業を伝える。
根太、柱、梁、垂木……事前に計算したサイズの角材を、複数作成してもらわなくちゃならない。
〝斧〟と同じように、柄の部分に布を巻き付け握りやすくした〝ノコギリ〟を構え、ガライさんは「わかった」と答える。
そして、あれよあれよという間に、必要な角材を切り出してしまった。
「どうだ?」
「……素晴らしいです」
あかん、若干ヒいてしまった。
いや、実際ヒくぐらい素晴らしいのだもん。
そりゃ、手作業だ。そこまで正確な角材には仕上がっていない。凸凹しているところもある。
けど、機械の無いこの時代に、手作業だけでこんなに作れるなんて、素晴らしいにもほどがある。
私の心の中に、うずうずとした何かが湧き上がってくる。
なんだろう……この人と一緒に何かを作ってると、楽しい!
「ガライさん! じゃあ、次! 本格的に作っていくので、まずは整地しましょう!」
……――と、その前に。
切り出した状態の今の木材は、いわゆる生木の状態だ。
建築材として使用するためには、木を乾燥させないといけない。
けれど、自然乾燥させるとなると凄い時間が掛かるし、人工乾燥などする設備も無い。
「というわけで、ご協力お願いしたいんですけど……大丈夫ですか?」
「はい、かしこまりましたわ、マコ様」
用意した木材を前に、オルキデアさんはそう快く返答してくれた。
彼女は木材に手を翳し、その表面をなぞる様に触れていく。
木材の表面から光が浮き上がり、彼女の体に吸い込まれ……そして、空気中に発散されていくのがわかる。
彼女は今、この木達の力を吸い取っているのだ。
生命力を吸い取られた木材はあたかもミイラになる様に、水分が失われて乾燥した木材へと変化していく。
「ごめんね、オルキデアさん」
一応彼女には同意はもらっているが、改めて私は謝罪する。
この行為って、アルラウネの彼女からしたら、半分同族である植物の命を奪ってるようなものなのかな? ――と、そう考えたからだ。
「いえ、マコ様、お気になさらずに」
しかし、オルキデアさんは微笑んで答える。
「植物は、人の食事や動物の餌、そしてこのように生活の基盤ともなるものなのです。逆に動物が絶命した際には、野で朽ちれば草木の源となる。命とは輪廻が巡り、他者を生かすための礎となる、持ちつ持たれつの関係なのです……ですので、大事に使ってあげてくださいね」
※ ※ ※ ※ ※
自前のナイフを使って、角材を更に滑らかにしているガライさんに指示する。
建築予定の場所に向かい、丸太を使って地面を均すのだ。
当然、地盤は水平にしなくちゃいけない。
この時代に〝水平器〟はないと思うので、私は即席の〝水平器〟を作る。
ガラスのコップの表面に、私の道具袋の中に入っていたマーカーを使って、水平の線を引く。
そこに、花の花弁から色を取った色水を注ぐ。
「この線を横から見て、色水の水面が傾いていたら水平じゃないってわかるんです」
「……なるほど、凄いな」
マウルとメアラには、簡単な作業――木屑を片付けてもらったり、ガライさんの指示で道具や、私が随時錬成する〝釘〟や〝アングル〟等の金具を渡したり――をやってもらう。
二人とも、すっかりガライさんの事を信頼しているようで、従順にお手伝いをこなしている。
――そこから、時間は驚くほど早く過ぎていった。
土台を作り、柱を立て、梁を通し、床をつけ、間柱を設置。
棟木に小屋束、そして垂木……。
「できたな」
「……うぉぉ」
時間は、もう夜中。
村の皆も、疲れたマウルとメアラも寝静まっている。
松明の明かりを前に、私は感動で打ち震えていた。
目前には、完全なる家屋の骨組みができあがっているのだ。
建てちゃった……マジで家、建てちゃったよ……。
「ガライさん! もうこうなったら、朝までかかっても完成させましょう! 私、待ちきれません!」
「あ、ああ」
深夜テンションも手伝ってハイになっている私に、ガライさんは臆しながらも応じてくれた。
ここから、玄関の扉など、細かい部分を取り付けていく形となる。
しかし、やるからにはイイものを作りたいと思う私は、そこで《錬金》の力を使ってあるものを生み出すことにした。
「それは?」
「〝ガルバリウム波板〟です!」
私が錬成したのは、金属の屋根材。
錆にも強く強度も高い、この前の嵐にも耐えられるであろう金属の屋根材――〝ガルバリウム〟の波板を複数枚生み出す。
「これを屋根に張りましょう。あと――」
更に私は、続いて壁材も錬成する。
細長い長方形の金属の板を複数枚、次々に生み出していく。
「これは、〝金属サイディング〟です。一枚一枚、パズルみたいに互いに噛み合わせて張ることができるので、施工も簡単ですよ。本来は断熱材が入ってるんですけど、私が生み出せるのはあくまでも金属だけなので、まぁ、化粧の役割しかないんですけど、きっと見栄えが良くなります」
「わかった」
こうして、私とガライさんは一晩中、その体力とテンションが続く限り、家作りに力を注ぎ続けたのだった――。
※ ※ ※ ※ ※
……そして、翌早朝。
「………」
「………」
「……メアラ、これって夢かな」
「………(ほっぺを、ぎゅっ)」
「痛い! ……夢じゃない」
「夢じゃ、ないな……」
起きてきたマウルとメアラが、その光景を見て唖然としている。
二人の前に立つ私とガライさんも、朝日に照らされるそれを見て、言葉を失っていた……自分達が作ったものなのに。
獣人達の村の中――そこに、立派な一軒家が完成していた。
「……やっちゃった」
今更ながら、私は自分のしでかしたことに身震いする。
やっちゃった、ファンタジーの世界に思いっきり近代的な一軒家を建てちゃったよ。
言って、ただのホームセンター店員がありあわせの知識で作った家だ……きっと色々と抜けてる部分はあるかもしれない。
けど、私の魔力が宿った〝金属アングル〟をはじめ、屋根材や壁材で補強しまくっているので、強度もかなり高いだろう。
何はともあれ、出来上がってしまったものは仕方がない。
「あ、マウル、メアラ、おはよう」
「マコ! すごい、すごい! 本当に魔法だよ!」
「たった一日で、こんな大きな家ができちゃうなんて……」
マウルとメアラが興奮した様子で駆け寄ってくる。
私達は早速、家の扉を開けて中へと入る。
「広い!」
まだ内装も何もしていない家の中は、かなりの広さだ。
前の家の何倍も大きい。
これなら、私達にエンティアも加えて、十分過ぎるほど生活できる。
「まだ内装は完成してないから、前の家から家具とかを徐々に持ってきて作って行こっか」
『ぬぉぉ! 凄いではないか、姉御! 広いぞ広いぞ~』
エンティアもやって来て、家の中で飛び跳ねている。
「こらこら、はしゃがないの」
『ふふふ、これで存分に体を伸ばせるな』
床の上で、のびーっと体を横たわらせるエンティア。完全に室内犬だ。
『ほれ、姉御。もふもふするがいい。一晩中作業して、疲れているだろう?』
「そうだよ! マコ、もう休んで! 昨日の夜から、朝まで家を作ってたんでしょ?」
「え? うん、まあそうだけど、ちょっとハイになってたから疲れはあんまり無いんだよね」
私は振り返り、ガライさんを見る。
本当に楽しくて、時間が過ぎるのを忘れてしまっていた。
……ガライさんの方は、どうだったんだろう。
「すいません、ガライさん。一晩中付き合ってもらっちゃって」
「いや……別に大丈夫だ」
「後のことは任せて、もう休んじゃってください。あ、ほら、エンティアの上で寝てください。気持ちいいですよ?」
『ふむ、本来は姉御と小僧達しか許可していないが、大儀であったからな、我の上に身を預けてよいぞ』
エンティアも、偉そうではあるが許可してくれた。ちなみに、マウルとメアラは既にエンティアの上で寝息を立てている。まだ朝も早いからね。
「いや、俺は……」
しかし、そこで、ガライさんはエンティア達を一瞥すると、どこか遠慮がちに声のトーンを落とし。
「……後片付けをしてくる。あんたこそ、もう休んでくれ」
そう言って、彼は扉を開けて出て行った。
「あらら……」
一夜が明けて、私も少し冷静さを取り戻してきた。
そうだ、彼はそもそも、数日前に森で行き倒れているところを助けた、放浪中の人物だ。
助けてもらった恩は返そうという律儀で誠実な性格だけど、どこか、深く踏み込まないように一線を引いている。
こうして家作りの手伝いも終え、もうそろそろ、彼も村を出ていくつもりなのだろうか?
「………」
私は振り返り、エンティアの上で寝息を立てているマウルとメアラを見る。
「うーん……マコ、ガライ、ごはん……」
「四人で、ピクニックに行こう……エンティアも……」
寝息の間から、随分と具体的な寝言が聞こえてくる。
きっと、幸福な夢を見ているのだろう。
私は、クスっと微笑むと、扉を開けて家の外に出る。
昇る朝日を眺めながら立っている、ガライさんがいた。
「……ガライさん……あ、私もガライって呼んでもいい?」
「………」
ガライは、驚いたように目を瞠るが、拒絶はしなかった。
「ガライの所属してたギルドって、どうなったの?」
「………」
彼は黙る。
やはり、色々と事情があるようだ。
そして、心の内は、打ち明けたくないのかもしれない。
「ガライ。私には、あなたの身に何があって、ここまで来たのかは知らないけど――」
でも、私は正直な気持ちを話す。
(……『寂しい時に、ちゃんと寂しいって言えないと、人の痛みのわからない王様になっちゃう』……だもんね、ソウゴ……)
仮●ライダージオウの、トキワ・ソウゴの姿から学んだ、人に素直な気持ちを伝えることの大切さ。
それを思い出し、私は言う。
「けど、まだまだ手伝って欲しい事がいっぱいあるし、もうちょっと、この村にいて欲しいな」
「………」
「この村を出て、また行き倒れになっちゃうかもって考えたら、心配だよ」
私は、何も包み隠さず、本心を告げる。
対し、ガライは――。
「マコ」
視線を逸らしながらではあるけど、言葉を紡ぐ。
「……あんたと一緒に家を作っていて……その、俺も楽しかった、時間を忘れちまった」
「うん」
「……その、あんたがいいなら……」
「いいよ」
ガライはむず痒そうに、髪を掻く。
こうして、私達の村にまた一人、頼りになる仲間が増えた。




