表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/168

■16 マウルも野菜を育ててみます



――――――――――


 名前:ホンダ=マコ

 スキル:《錬金》《対話》《土壌調査》《液肥》

 属性:なし

 HP:500/500

 MP:700/780

 称号:《DIYマスター》《グリーンマスター》《ペットマスター》


――――――――――




「おぉ……」


 久しぶりにステータス画面を開いて見たら、結構色々と変わっていた。

 ここ数日、色んなものを召喚したり、《グリーンマスター》としての力も目覚めたりしたので、それらがステータスの成長に繋がっていたようだ。


「それにしても……」


 新たに目覚めた《土壌調査》と《液肥》、これは結構凄い力かもしれない。

 簡単に言ってしまえば、どんな土地でも、どんな作物も育てられるような土壌に改良する事が出来るのだ。

 無論、その間《液肥》は与え続けないといけないだろうけど。


「ううぉっしゃああああ! 元気に育てよ、俺とマコのカワイイ野菜(こども)達ぃぃぃぃ!」

「えーっと、誤解を招くような言い方は止めてね」


 ウーガはやる気バリバリで、二度に渡る気絶の後遺症もなんのその、今日も裏庭の畑で水やりと雑草の除去を行っている。

 彼には何本か《液肥》を作って渡してある。

 足りなくなったら、また作って渡してあげる予定だ。


「ねぇねぇ、マコ」


 そこで、私はズボンの裾を引っ張られて気付く。

 マウルが、私を見上げていた。


「僕も、野菜作ってみたいな」

「え?」

「ぼ、僕達の家でも野菜が作れて収穫出来たら、お金が稼げるかもしれないし!」

「………」


 私は、楽しそうに農作業をしているウーガの姿を見詰めるマウルの姿を思い出す。

 ……もしかして。


「マウル、ウーガが野菜を育ててるの見て、自分もやってみたいって思ったんだ」

「あう……」


 マウルは顔を赤くして俯く。


「いやいや! 全然恥ずかしがる事じゃないよ! 楽しい事に興味を持つっていう事は良い事だしね。それに、本当に野菜が出来たら、家計の救けにもなるし」


 私が言うと、マウルは嬉しそうに顔を輝かせる。


「やってもいい!?」

「うん、苗はあるの?」

「さっき、ウーガに分けてもらったんだ! ありがとう、マコ!」


 マウルは元気に言って、私の足に抱き着いてきた。

 なんだか、お母さんになった気分だ。




※ ※ ※ ※ ※




 家に帰ると、マウルは早速、家の裏の土を耕し始めた。


「鍬をこういう風に使うのは、初めてかも」

「そういえば、畑が無いのになんで農具があるんだろうって思ってたけど」


 土を一生懸命耕すマウルに、私は尋ねる。


「基本的には、野生の獣と戦うための武器とか、山の中で山菜とかの植物を収穫する時……あとは、雑草を刈るくらいにしか使ってなかったから」

「へぇー」


 そうこう言っている内に、庭に簡単な畑ができた。


「さてと、それじゃ土の質から調べてみるね」

「うん!」


 ウーガにわけてもらった苗は、彼が今育てているのと同じトマトの苗のようだ。

 ということは、土の質や育て方は一緒で大丈夫だろう。

 私は、耕された土に触れ《土壌調査》を発動する。

 出た結果は、やはりウーガの畑と同じものだった。

 しかし……何でここら辺の地域は、こんな変な土地なんだろう。

 栄養が大地に留まらないなんて、なんだか呪われてるみたいだ。


「うん、大丈夫、とりあえず植えてみようか」


 私とマウルは、一緒にウーガからもらった苗を植える。

 苗は全部で十個ほど。小規模な家庭菜園だ。

 でも、マウルの初めての畑なのだから、これくらいでちょうどいいのかもしれない。


「よし、じゃあ《液肥》を差しておくね」


 私は、手の中に《液肥》を生み出すと、調合しトマト用のアンプルを作成――それを、畑の中心に差す。

 ふと気になってMPを見ると、先ほど700あった数値が550にまで減っていた。《液肥》、結構魔力を消費するらしい。


『む? なんだ、これは』


 そこにエンティアがやって来て、植えられたトマトの苗を鼻先でつつく。


「あ、ダメだよ、エンティア! 触るなら優しく触って!」


 マウルが、そんなエンティアに注意する。

 やはり、かなり気に入っている様子だ。


「早く実が付くといいね、マウル」

「うん」


 マウルは嬉しそうに、えへへと笑った。




※ ※ ※ ※ ※




 その夜。

 私達は寝床――即ち、エンティアの上で三人揃って寝息を立てていた。

 あれから、もうすっかりエンティアの体が私達のベッドとなっている。

 もふもふで温かく、沈み込むような柔軟な筋肉は高級ベッドのようだ。

 私の勤めるホームセンターで売っているような、安価のマットレスとはやはり断然寝心地が違う。

 毎日快眠である。

 流石、神狼の末裔の名は伊達ではない。


「……ん?」


 ふと、私の横でマウルが体を起こしたのが分かった。

 マウルはそのまま立ち上がると、そっと、音を立てないように家のドアを開けて、外に出ていく。

 トイレだろうか?


「……もしくは、マウル菜園が気になっちゃったのかな?」


 私は、にやにやと笑みを浮かべる。

 気になって夜も眠れない程とは……マウルはやっぱり純粋でかわいいなぁ。

 などと思っていた、その時だった。


「……っ!」


 マウルが、慌てた様子で戻って来た。

 物音は立てないようにしているが、明らかに焦っている様子がわかる。


「……どうしたの? マウル」


 その様子が気になり、思わず私も起き上がる。


「マコ……大変……」


 私が近付くと、マウルは私の腕にしがみ付いてくる。

 どこか、焦っているような、怖がっているような感じだ。


「マウル……何かあったの?」

「誰か居るんだ」


 私が冷静に聞くと、マウルは囁く。


「僕の畑の前に、誰かが立ってる……」




※ ※ ※ ※ ※




 マウルと共に家の裏手にゆっくり回ると、昼間作ったばかりの畑の前に、確かに人影があった。

 けれど、その人影はかなり小さい。

 マウルと同じくらいの背格好だ。

 その人影は畑の前に立ち、植物の方向に手を翳すように立っており、その体から燐光のような光を発している。

 よく見れば、その光は畑に植えたトマトの苗から発生したものであり、まるで小柄な人影の人物は、その光を吸収しているかのようだった。


「マコ……苗が……」


 マウルの悲しげな声が聞こえる。

 光が溢れる程に、徐々に苗が萎れて行っているのがわかる。

 あの光は、もしかしたら、あの苗の生命力のようなものなのだろうか?

 まさか……栄養を盗んでる?


「ごめんなさい……」


 その時、その人影が漏らす声が聞こえた。

 子供の声だった。

 まるで年端もいかない、女の子の声。


「ごめんなさい、ちょっとだけだから、ごめんなさい……」


 その時、私達の足元でパキッと小枝が折れる音がした。

 マウルが踏んでしまったようだ。

 音に気付いたのか、その小さな人影はビクッと大きく体を揺らすと、こちらを振り返った。


「あ……」


 植物から溢れていた光が止み、月光が地上を照らす。

 その人影の姿が、露わとなった。

 少女だった。

 マウルやメアラと、同い年くらいの女の子。

 ただし、その姿は変わった風体をしている。

 衣服は着ておらず、植物の蔓で体の要所を覆って隠しており、頭部には花が咲いている。

 花の形をした髪留めとかではなく、本当に花に見える。

 そう――まるで、〝花の妖精〟だ。


「あ……あ……」


 その少女は、私達の姿を見て驚いたように目を見開く。

 そして、次の瞬間。


「ごめんなさい……ごめんなさい!」


 慌てた様子で、その場から逃げ出した。


「あ! ま、待って!」

「マウル、とりあえず追うよ」


 その少女が走っていった先は、山間、森の方向だ。

 こんな夜中に、明かりのない森に飛び込むなんて危険だ。

 私とマウルは、慌ててその後を追い掛けた。




※ ※ ※ ※ ※




「……いないね」


 私とマウルは村の敷地を出て、森の入り口付近までやって来た。

 そこから、月の明かりが届く範囲で森の中を探索するが、あの少女の姿は見当たらない。


「仕方がないね、あまり深追いをするわけにはいかないし、ここら辺が引き上げ時かな……」


 これ以上、暗闇に包まれた森の中に入るのは危険だ。

 残念ではあるが、ここで捜索は中断するしかない。

 そう考えていた、その時だった。


「きゃあああ!」


 悲鳴が聞こえた。

 しかも、比較的近い。

 私とマウルは、その音源の方向に向かって走る。

 向かった先、木々に覆われた明かりの無い森の中――微かに差し込む月の明かりに照らされ、あの少女らしき人影を発見した。

 何かに怯えるように、地面にへたり込んでいる。

 そして彼女の向かい側、そこに、巨大な影が見える。


「野生の猪だ!」


 マウルの言う通り、それは野生の猪だった。

 大人のベオウルフほどある巨体に、長く鋭い牙。

 涎を垂らし、爛々と光る眼光を少女の方に向けている。

 見るからに、凶暴さが窺える。

 まずい!


「マウル! ここにいて!」


 私が駆け出したのと、猪が動けない少女に向かって突進を開始したのは、同時だった。


「あの子を助ける!」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ