■11 《エルフ族》の国です
というわけで。
私は、《金豹》ミレニエ達と共に《エルフ族》の国へと向かう事になった。
目的は、人間を嫌悪しているという《エルフ族》から、領地開拓を進める私達へ向けられるであろう敵意を回避するため。
そのための、言わば交渉に向かう形だ。
で、問題は誰が行くのかという話なのだけど……。
「当然、領主である私が先頭に立って行くべきだよね」
私。
それ以外のメンバーに関してだけど……今回は、まず斥候なので、大人数では行けない。
限られた人数で、なおかつ意味のある人員を選出しなければならない。
選考を行い、私以外の面子が決定した。
まず、ブレイン役のイクサ、そしてボディガードのガライ。
案内役のミレニエ。
そして、多様な種族が仲間だということを証明するために、《神狼》のエンティア。
《ベオウルフ》のマウル、メアラ、ラム、バゴズ、ウーガ。
《ラビニア》のルナトさん、ムー。
《不死鳥》のヴァルタイル。
《アルラウネ》のオルキデアさん。
《火蜥蜴族》の亜人であるデルファイも。
『では、向かうぞ』
七獣王の森を抜けるということで、ミレニエには先頭に立って案内をしてもらう形になる。
私達は、彼女の後に続く。
「行ってらっしゃい」
「マコ達がいない間、ここのことは任せろ!」
領地に残った皆が、出発する私達に手を振って送り出してくれる。
心強いエールだ。
※ ※ ※ ※ ※
ミレニエに案内してもらい、私達は遂に七獣王の森の中へと足を踏み入れる。
みんなで周囲に警戒をしながら進んでいく。
森の中は植物が生い茂る、完全に人の手の入っていない野性の世界だ。
荷車も走らせられないので、みんな徒歩である。
ただし、マウルとメアラ、ムーは、エンティアの背中に乗せてもらっているけど。
「ウーガ、どうしたの? その大荷物」
ウーガは、背中に大きなリュックを背負っている。
「おう、俺達の作った野菜や果物を詰め込んできたんだ。《エルフ族》相手に、友好の印にでもなるかと思ってな」
「なるほど、良いお土産になるね」
ウーガ達の作った作物は絶品だ。
きっと、《エルフ族》も気に入ってくれるだろう。
「それにしても、思ったほど野生動物からの攻撃も無いね」
「この森の主であるミレニエがいるからだろうね」
イクサとそう会話を交えていた、その時だった。
『いや、そうとも限らないな』
ミレニエが立ち止まり、呟いた。
『噂をすれば、前方から命知らずが近付いてくるぞ』
見ると、前から草木を掻き分け、一匹の野犬が現れた。
相当お腹を空かせているのか、ミレニエがいるのも気にしていない。
見境が無くなっている様子で、だらだらと涎を垂らして低く唸っている。
「ぐるるぅ……うっ!?」
しかし、そこで野犬は、ガライにヴァルタイル、ルナトさん達を見て唸り声を止めた。
彼等から伝わってくる、圧倒的強者の雰囲気を感じ取ったのだろう。
すぐさま、尻尾を巻いて急いで逃げていった。
「何が出てきても問題無さそうだね」
私は、ガライを振り返って微笑む。
本当に、心強い味方達である。
『しかし、ここはあくまでも《金豹》の縄張りだから大丈夫だが、他の七獣王の領域に入ってしまえば、襲われても言い逃れはできない。気を付けろ』
「うん」
ミレニエから警告を受け、私は頷く。
さて、そんな感じでしばらく歩き進み――私達一行は、遂に森を抜けた。
「到着か!?」
重い荷物を背負っていたウーガが、一番に叫ぶ。
「到着?」
私はミレニエに問い掛ける。
『いや、まだだ』
「まだだって」
「まだなのか!? 結構歩いたぞ!」
『あくまでも森を抜けたにすぎない。ここから、次に山を越える』
見ると、目の前に切り立った岩山がある。
『エルフの国は、この岩山に囲われる形になっている』
「じゃあ、この山を越えたらエルフの国があるんだ」
「ひえー、山登りか」
「大変だなぁ」
ラムとバゴズが、そう呟いた。
瞬間だった。
――風切り音を響かせて、何かが高速で私に向かって飛んできた。
「「マコ!」」
マウルとメアラが叫ぶ。
しかし、私が《錬金》で武器を召喚するまでもなく、ガライとヴァルタイルが反応し、飛んできたものを拳と炎で弾き飛ばしていた。
その正体は、矢だった。
空中に、粉砕された矢の破片が飛び散る。
「早速、お出ましのようだ」
「ハッ、不躾な挨拶だな」
ガライとヴァルタイルの視線の先。
切り立った岩山の岩壁に、一人のエルフが立って、弓を構えていた。
「何者だ、貴様等」
目鼻立ちの整った、まるで作り物のような顔に、金色の髪。
そして、左右の耳はメイプルちゃんみたいに先端が尖っている。
間違いなく、《エルフ族》だ。
かなり警戒しているようで、既に次の矢を番えて、私の方に照準を合わせている。
「おい、まずはその得物を――」
「ヴァルタイル、いいよ」
私は、威嚇するヴァルタイルを制し、矢を向けられたままエルフのお兄さんに話し掛ける。
「すいません、よければ矢を下ろしてもらえませんか? 私達に、戦う意思はありません」
「………」
武器を向けられているのにも関わらず、堂々とした態度を取る私に、エルフのお兄さんは若干戸惑っているのかもしれない。
と、その時だった。
「おい、引くぞ」
そのお兄さんの後ろから、また別のエルフのお兄さんが現れた。
そして、手前のお兄さんの肩に手を置く。
「いいのか? こいつらは例の報告にあった……」
「長老も言っていただろう。今はそれどころじゃない。行く行く対処するが、今は放っておけ、と」
二人のエルフは話し合い、やがて私達に背を向けると、急いで山を登っていく。
「おい、お前達は見逃してやる。一刻も早くここから去れ」
「あ、待って……わ、速い」
二人のエルフは、駆け上がるように山の斜面を登っていく。
流石、地の利は向こうにあるようだ。
「見逃された、のか?」
消え去っていったエルフ達を見て、ガライが呟く。
「いや、何か様子がおかしかったな」
眉間に皺を寄せ、イクサが呟く。
「行ってみよう」
何はともあれ、今更ここで退く気は無い。
私達は、エルフ達の後を追い、山の斜面を登っていくことにした。
いざ、《エルフの国》へ。
※ ※ ※ ※ ※
私達を無視して撤退したエルフ達。
その後を追って、岩山の斜面を登り、そして、下り――。
「ここが……」
『ああ、《エルフ族》の国だ』
先頭のミレニエが言う。
遂に、私達はエルフの国に辿り着いた。
そこは、正に『魔法の国』だった。
空飛ぶ絨毯に乗って、エルフ達が空中を飛び交っている。
綺麗な家々が建ち並び、エルフ達が会話を交わしている。
石畳で舗装された地面に、《エルフ族》の何かを表しているのか……もしくは、国章なのかもしれない模様の入った旗が、色々な場所でたなびいている。
こんな山奥でありながら、その文化レベルは王都の比ではない。
「ここが、エルフの国……」
立ち入り、風景を見回し、私達は思わず呆然としてしまう。
「ん? ……おい、あれ」
そこで、やはりというか、当然というか。
エルフの国へと踏み入った私達に、徐々に住民達が気付き始める。
「お、おい! あれは人間じゃないのか!」
「他種族もいるぞ!」
どこからか高らかな楽器の音が鳴り、武装したエルフ達が集まってくる。
以前、ドワーフの隠れ里に行った時を思い出す。
あの時と、ほとんど同じ流れだ。
私は、やって来た兵士のエルフ達に声を掛ける。
「すいません、話をさせてください。私達は――」
そこで――。
「何の騒ぎだ」
「あ、アイデリアス様!?」
その場に居たエルフ達が跪き、兵士達も畏まる。
現れたのは、長い金色の髪を下ろし、一際高貴そうな衣服を纏った男性だった。
顔立ちは、まるで彫像のように、この世のものとは思えないほど美しく整っている。
高い鼻、碧い目、そして若々しい顔立ち。
にもかかわらず、溢れる威厳。
おそらく、見た目よりも年齢は遙かに高いのだろう――エルフだし。
「私は、このエルフ族を代表する者――アイデリアスだ」
彼――アイデリアスは、言う。
「報告は受けている。そして……忠告されたにも拘わらずやって来たのか。この国に何の用だ? 招かれざる客人達よ」
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