■9 七獣王の森と《エルフ族》です
《金豹》の群れと仲良くなったことで、私達一行は、一応は彼女達に認められる立ち位置となれた。
というわけで、ミレニエから、私達の暮らすこの領土と、隣接する七獣王の森と《エルフ族》に関して改めて説明してもらい、今の状況を再確認させてもらうことになった。
『この樹海は七種の魔獣種族が住み着いており、その中央は《エルフ族》が支配している』
がりがりと、地面に爪で器用に円を描くミレニエ。
大きな丸の中に、小さな丸を描く。
ドーナッツを想像すると分かりやすい。
真ん中の丸が《エルフ族》の国で、その周囲のドーナッツ部分が樹海……つまり、ミレニエ達の住む領域というわけだ。
「その、七獣王といったかな……他にはどんな魔獣達が住み着いているんだい?」
イクサからの質問を受け、私がミレニエへと問う。
称号に基づくスキル、《対話》を持つ私じゃないと、彼女と会話できないからだ(エンティアやクロちゃん、ヴァルタイルは例外)。
『《水馬》という鱗を持ち水陸で活動する馬や、《角猪》と呼ばれる強靭な角を持つ猪、などといったところだな。我々も共存こそしているが、全ての魔獣達と積極的に交流しているというわけではない。それでも、皆気高い魔獣の一族だ』
そう、ミレニエは誇り高そうに語る。
「イノシシか……」
ミレニエの発言を聞き、私はちらっと後方を見た。
『こりゃー!』
一緒に付いてきたウリ坊のチビちゃんが、聖教会の信徒の人達と楽しそうに遊んでいる。
『この土地は、我々《金豹》の縄張りに最も近い場所のため、現在は我々が監視する形となっている』
そんな私の一方、ミレニエは説明を続ける。
『人間を寄り付かせない――それが、この樹海の中に住む《エルフ族》を中心とした共存関係にある我々の、第一の鉄則だ』
しかし今回、私達は、ミレニエ達からひとまず害の無い存在と認めてもらえた。
『だからと言って、他の魔獣族や《エルフ族》を簡単に説得できるわけではない』
まぁ、そうだろう。
そっちの話も、おいおい時間をかけて解決していくしかない。
とにもかくに、当面の最大の障害は解決されたのだ。
今はともかく、私達の当初の目的である開拓作業を進めるのみである。
※ ※ ※ ※ ※
――爵位と共に私へ与えられた、ウーデウス地方の領地。
この土地にやって来てから、数日が経過していた。
「おー、良い感じじゃないか」
「様になって来たな」
「まだ小さいけど、村って雰囲気が出て来たな」
当初何もなく、荒れ果てた大地だけが広がっていたこの場所に、簡単ではあるが建物がいくつか建設された。
その光景を見回し、騎士の方々が感嘆の言葉を漏らす。
冒険者ギルドに教会、騎士団の詰め所。
それに、各人の生活用の家。
みんなが住む家屋と、各組織の本部は滞りなく完成した形だ。
当然、私とマウルとメアラ、ガライとエンティアの暮らす家も作った。
「わぁ、僕達の家だ!」
「アバトクス村と一緒だ」
マウルとメアラが、内装を見回し感動している。
この地に作ったものも、アバトクス村の家と同じ造りである。
「そういえば、アバトクス村の家も私とガライで作ったんだよね」
「ああ、随分と懐かしい気がするな」
「色んなことがあったもんね」
「本当、本当」
『我等も長い付き合いとなったものだな、姉御』
出来上がった家の中。
寝転がったエンティアをソファのようにして、私とマウルとメアラはくつろぐ。
「おじいちゃんみたいな事言ってるよ、エンティア」
そんな私達を見ながら、ガライは優しく微笑んでいた。
――さて、設備の次は、流通の話。
「イクサ王子、王都からの使者が来ています」
「ああ、今行くよ」
イクサがスアロさんに呼ばれ、村の入り口の方へと向かう。
王都とこの土地の連絡役として、王城から派遣された使者が行ったり来たりしているのだ。
現在その対応をしてくれているのが、イクサだ。
「マコ、朗報だ」
「なになに?」
イクサが手を振りながら、料理の支度をしている私の元にやって来る。
「『ウーデウス地方の開拓は、問題無く進みつつある』と王都へ伝達をしてもらったのだけど、近々、この土地に移住したいという者や、この土地で商売をしたいという者達が来るそうだ」
「おお!」
現在、この土地の発展には多くの行商人の方々のご協力が関わっている。
一部の行商人の人達が、移動しながら各地で宣伝して回ってくれているようで、日に日にこの土地にやって来る商人の数は増え、そんな彼等も発展のために資材を提供したりしてくれているのだ。
お礼というわけではないけど、彼等にも早く稼げるような状態になって欲しいと思っていた。
王都をはじめ、国中から人がやって来て、流通が出来るならこれ以上の事はない。
――更に。
「マコ、来客だ」
「来客?」
ガライに呼ばれて見に行くと、何やら騒がしい雰囲気になっている。
「おう、ラム、バゴズ、ウーガ、久しぶりだな」
「マコは元気か?」
「お前等!」
そこに、見知った《ベオウルフ》達が何人かいた。
「みんな、来たんだ!」
「おう、王都でも作業は順調に進んでるって聞いてな」
「下見に行くっつって、そのまま開拓を始めちまうんだからな。流石はマコだぜ」
「ああ、そういえばそんな感じだったね」
本当は下見だけのはずが、色んな人達が一気にやって来て、そのまま開拓を始めちゃったんだよね。
「で、俺達も向こうでの仕事がひと段落付いたから、こっちの協力にやって来たんだ」
「王都だけじゃなく、アバトクス村からも何人か来てるぜ」
「うん、凄く有難いよ!」
「ようし、お前等! じゃあ、早速畑を耕すぞ!」
そう言って、ウーガが鍬(私が《錬金》で生み出した頭に、木の柄をつけたもの)を持ってくる。
既にウーガ達は、この土地で農作を始めており、畑を耕している最中だったのだ。
そこに、経験者の《ベオウルフ》達が合流してくれたのはありがたい。
更に更に――。
『俺達もいるぞ、コラー!』
『コラー!』
「あ! イノシシ君達!」
《ベオウルフ》のみんなの後ろには、荷車に繋がったイノシシ君達がいた。
ここまで馬車の代わりに《ベオウルフ》達を運んできたのは、イノシシ君達だったようだ。
というわけで、ウーガをはじめ、アバトクス村や王都からやって来た《ベオウルフ》達で、畑や作物の作成が始まる。
イノシシ君達も農耕馬のように、畑を耕すお手伝いをしてくれている。
そんな感じで、私達の領土は着々と発展していく。
「なんだか、《ベルセルク》達の土地を復興させて、一大観光地にしていた時と似た感覚だなぁ」
※ ※ ※ ※ ※
――そして、そんな日々が続き……。
「おい、マコ」
「どうしたの、ヴァルタイル?」
基本、木の上で寝転がって仕事にはあまり参加しないヴァルタイルが、私の前に着地した。
仕事をしない――と言っても、ヴァルタイルは常に高い場所から危険が無いか、私達の周りを見張ってくれているのは知っている。
「馬車がいくつもぞろぞろと、ここに近付いてきてるぞ」
「あ、遂に来たんだ」
私達をはじめ、皆がこちらへとやって来る馬車の大群に気付く。
おそらく――王都からの来客に、商人等。
人の流れの始まりだ。
グロウガ王国、ウーデウス地方、ホンダ・マコ第五等爵領。
本格始動である。




