■8《金豹》と仲良くなりたいです2
――それから数日。
『いいのですか? リーダー』
マコとその仲間達は、領地を発展させるための作業を再開。
その様子を、《金豹》達が監視するという形となった。
『本当に、奴等に時間を与えても……』
『……致し方ない』
《金豹》の群れは、マコ達の作業の様子を、少し離れたところから見ている。
ミレニエをはじめとし、何か怪しい動きをしないように目を光らせているのだ。
『ともかく、何か危険な動きや疑う要素があれば私に伝えろ。即刻、向こう側のトップのマコとかいう女に――』
「おーい、お前達」
そこで、数人の男達が《金豹》へと声を掛けてきた。
《ベオウルフ》のラム、バゴズ、ウーガ。
それに、王都からやって来た騎士達だ。
「こっちに来てみろ。いいもんがあるぞー」
彼等の足元には、開拓作業と並行して用意された猫用のおもちゃの山があった。
木の板で作った大きな箱。
同じく、丸太に麻のロープを巻き付けた爪とぎ。
更に、木天蓼の粉。
猫受け要素抜群のグッズ達である。
『うおー! 箱ー!』
『あ!』
それを見るや否や、ミレニエの制止も聞かず飛んで走っていく《金豹》達。
大きな箱の中に、ずぽっ! と、我先にと滑り込む。
『ふにゃ~』
『むへへ~』
他の《金豹》達も木天蓼で酔っぱらったり。
『バリバリ!』
爪とぎに爪を立てまくる。
「なんだこいつら、危険な魔獣かと思っていたが、こうなると大きな猫みたいでかわいいな」
その様子を見て、騎士達も心を奪われたようだ。
遊んでいる《金豹》の腹や顎を撫でる。
『くっ、あいつら……人間相手に簡単に腹を出して、情けなくないのか……』
そんな彼等に、ミレニエはイライラした雰囲気で呟く。
『うー、うー……』
しかし、そのイライラの原因は仲間達というよりも、自分も玩具で遊びたいという欲求から来ているのかもしれない。
はしゃぎ転げる仲間達を遠目に見ながら、ミレニエは唸る。
そこで――。
「我慢しなくてもいいのよー?」
「一緒にあそぼー!」
ミレニエの元にやって来たのは、ヤマネコの亜人――ヴァルタイルの娘である、三つ子のミミ、メメ、モモだった。
『なんだお前達は、私はそう簡単には屈服しない……』
ミレニエはミミ達から顔をそむける。
しかし――。
「「「あそぼー!」」」
三つ子はミレニエに飛び付く。
背中に乗ったり、お腹に引っ付いたり、勝手に遊びだした。
『近寄るな、ひっかくぞ!』
ミレニエは体を振るい、牙を剥いて三つ子に吠える。
「へっへーん!」
「怖くないもんねー!」
だが――ミミ、メメ、モモはそんなことは気にしない。
『こ、こいつら! ナマイキだぞ!』
ミレニエは三つ子に爪を振るう(手加減しながらだが)。
だが、ミミもメメもモモも、そんなミレニエの攻撃を軽やかに躱し、引っ付いてきて離れない。
――そんな感じで、かなりに時間が経過した。
『はぁ……はぁ……』
「スヤァ……」
「ぐーぐー」
「むにゃむにゃ」
やがてそこには、へとへとのミレニエと、ミレニエに引っ付いたまま眠る三つ子の姿があった。
「随分暴れたな」
そこに、ヴァルタイルがやって来た。
シーツを持ってきたようで、眠った三つ子の上にそれを掛ける。
『……私は布団ではないぞ』
「娘どもが世話になった」
ドカッと、ヴァルタイルはミレニエの横に座る。
『お前は、《不死鳥》なのか』
「おう」
ヴァルタイルは長い時を生きる不死の魔獣――《不死鳥》が人間の姿をした存在である。
ゆえに、ミレニエとは普通に会話が出来る。
『あの女……マコが、各地を回って大地を奪っていた王女を、成敗したというのは本当か』
「らしいな、詳しくは知らねぇが」
『……様々な種族が、あの人間を中心として周りにいる』
「ああ、気付いたらな」
ヴァルタイルは寝ころびながら言う。
「あいつは、王都で《ドワーフ族》と人間の関係改善の橋渡しになった。長い間、断絶関係にあった種族同士を、仲直りさせたんだ」
『………』
「俺には関係ねぇ話だし、どうでもいいが、あいつの言ってることに嘘はねぇよ」
遠く。
仲間達と話し合いながら、指示を出すマコの姿を、ミレニエは見据える。
「あいつは、人間も獣も魔物も関係無く、助けられる奴等を助けてる。まぁ、悪い奴じゃねぇんじゃねぇのか」
『………』
※ ※ ※ ※ ※
――その翌日の事。
「え?」
『ここ数日監視していたが、お前が悪い人間ではないことはわかった』
ミレニエ達《金豹》が、私の前にやって来て言った。
『現状、至急に攻撃せねばならない対象ではないと判断できた』
「それじゃあ……」
『だが』
安堵の表情を浮かべた私に、ミレニエはすかさず言い足す。
『それはあくまでも現状における判断だ。まだ断定はできない。森に住む他の魔獣達や《エルフ族》は簡単には心を許さないだろう。もうしばらく監視を続け、完全に悪意が無いと断定できた時、我々が橋渡しになろう』
「うふふ、ありがとう、ミレニエ」
完全には信用していない――だが、その言葉からは、私達の味方をしてくれるという意思が読み取れた。
というわけで、私達は《金豹》とも仲良くなる事に成功したらしい。
領地開拓活動の上で、最初の問題を、ひとまずは解決できたようだ。
「みんな! もう《金豹》達は私達の味方だって!」
「おう、そうか! ようしお前等、今日は木天蓼パーティーだ!」
『『『にゃーん!』』』
調子に乗ったウーガが木天蓼をばらまくと、《金豹》達はたちまち泥酔してしまった。
頭を抱えるミレニエを見て、私も苦笑する。




