■7《金豹》と仲良くなりたいです
『私はミレニエ。この《金豹》の群れを司る、リーダーだ』
昼間に大量生産したケリグルミの魔力により、一網打尽にされてしまった《金豹》達。
やがて、夢中になっていた《金豹》達の中で、一番最初に正気に戻ったのは、やはりリーダーの雌豹ちゃんだった。
『この戦いは我々の負けだ。潔く認めよう』
彼女――ミレニエは、素直にそう言った。
『お前達の望む情報を伝える』
……まるで武士のように誠実な態度を取っているけど、しっかりケリグルミを抱きかかえたまま寝転がっているあたり、まだ本能に逆らいきれてない感じがする。
「わかった。じゃあ、まずは自己紹介だね、ミレニエちゃん」
そんな彼女を前に、私は名乗る。
「私はマコ。この土地の、新しい領主になった人間です」
『……領主……しばらくこの土地に近付く人間がいないと思っていたら、まだ諦めていなかったのか』
そんな私を、ミレニエは胡乱そうに睨む。
「あなた達は、どうして私達を攻撃してきたの? 私達には、反撃する気も攻撃の意思も無いよ。むしろ、友好的な関係を築きたいと思ってるくらいだよ」
『わかった、説明しよう。お前は、名前をマコと言ったな。マコ、お前達の前に見える、あの広大な森は通称〝七獣王の森〟と呼ばれている。七つの魔獣種族がそれぞれの縄張りを持って――ええい、お前らいい加減やめろ!』
そこまでまじめなトーンで話していたミレニエが、思わず振り返り声を荒げる。
『ケリャケリャ!』
『ケリャリャ!』
そこには、ケリグルミと戯れる事を止めない仲間の《金豹》達の姿があった。
「けりゃけりゃ!」
「ぐしぐし!」
「かみかみ!」
一方で、ミミ、メメ、モモもケリグルミに夢中になっている。
転がったケリグルミの一つに抱き着いて、蹴ったり噛んだり爪を立てたり、ぞっこんだ。
「おい、うちの娘どもが野生に戻ってるぞ、どうしてくれる」
「ごめんね、ヴァルタイル。でも、ヤマネコの亜人だからね。仕方が無いね」
『おい、七獣王の森とか言ったか』
そこで、エンティアとクロちゃんがやって来て、ミレニエとの会話に入ってくる。
『その中に、《神狼》や《黒狼》はいるのか?』
『いない。なんだ、お前等は』
エンティアとクロちゃんの姿を見て、怪訝な顔になるミレニエ。
『我は誇り高き《神狼》の末裔、エンティアだ』
『くくく……俺は気高き種族、《黒狼》の長、《黒き稲妻》と――』
『話を戻すぞ』
そんな二匹の自己紹介を無視し、ミレニエは私に向き直った。
『魔獣達が支配するその森の中心に、エルフの国がある。ちなみに、《エルフ族》と我等魔獣の仲は良好だ。皆人間が嫌いなので、互いに協力関係にある』
そして、ここの領土近くの森は《金豹》達の縄張り。
だから、彼女達は嫌いな人間を追い払うため、襲って来たのだという。
「そうだったんだね」
事情を理解し、私は深く頷く。
そして、改めてミレニエを見据え。
「ねぇ、仲良くしようよ」
私は提案する。
まず彼女達と仲良くならねば、この土地での生活は不可能だろう。
そのために、歩み寄る。
『舐めてもらっては困る』
それに対し、ミレニエは見下すように鼻を鳴らした。
『お前達の用意した道具により、我々は本能を逆手に取られこのような醜態をさらしてしまった。しかし、我々は誇り高き種族。人間などに、簡単に心を開いたりはしない』
『こいつら、負けを認めないつもりか?』
エンティアが言うと、ミレニエが彼を睨む。
『当然だ。我々の真の敗北は、群れの消滅。そんなにこの場所での生活を望むのであれば、歩み寄り、仲良くするなどという空言を捨て、私達を殺して目的を達成するがいい』
『そんなことするわけがないだろう!』
あまりにも頑ななミレニエの発言に、焦るエンティア。
『マコ……この《金豹》達の覚悟は本物だ。人間に心を許すくらいなら、死を選ぶだろう』
そんな彼女を見て、クロちゃんが私に言う。
『どうする?』
「………」
私は、そっぽを向くミレニエを、黙ってじっと見つめる。
そして――。
「じゃん!」
私はあるものを取り出す。
木の枝の先端に、羽毛をくっつけた簡易的なおもちゃ。
手作りの猫じゃらしだ。
それをフリフリと、ミレニエの前で振るうと。
『にゃん!』
ミレニエは、元気良く猫じゃらしに飛び掛かって来た。
右に振れば、右にぴょん。
左に振れば、左にぴょん。
『はっ! 私は一体何を!』
しばらく続けていたら、やっと正気に戻ったミレニエが叫ぶ。
「もういっそのこと、素直になっちゃいなよ?」
『黙れ! 信じるわけにいかないだろう! そうやって心を許したところを裏切り、我等の土地を奪う気だろう!』
ミレニエの意思は固い。
本当に心の底から、人間を信用していない。
もしかしたら、人間に嫌な仕打ちをされた過去があるのかもしれない。
なんだろう……《ドワーフ族》との一件を思い出す。
「ねぇ、もしかしたらあなた達《金豹》も、前に人間に酷い目に合わされたりした経験があるの?」
『……以前、問答無用で無理やり攻撃を仕掛けてきた王女の軍がいた。この土地を含め、我々の暮らす森をも奪おうとしてきた』
アンティミシュカだ……。
また出て来たよ、あの人。
まぁ確かに、魔獣や《エルフ族》の住む森となれば、魔力に満ちた土地だとも考えられる。
標的にされるのも当然か……。
『最終的には、我々と《エルフ族》の協力により追い払ったが……貴様等があの女達と違うと言い切れる確証はない』
「その人達なら、私達が成敗したよ」
私はミレニエに、アンティミシュカとの戦いを語る。
彼女を叩きのめし、もう表舞台には出られないようにしたこと。
ここにいるメンバー達が、その時一緒に戦ってくれた協力者達だということ。
『なんだと……』
『信じたか、雌豹。姉御達は、魔獣に対しても友好的だぞ』
「私達はあなた達に迷惑をかけるつもりはないし、ここから追い出すつもりもない。ただ、仲良くやっていきたいだけ」
今一度、私はミレニエに本心を伝える。
「私達の仲間には、魔獣もいっぱいいる。《神狼》や《黒狼》、それに《不死鳥》なんかも」
ミレニエはエンティア、クロちゃん、それと木の上で寝転がっているヴァルタイルを見る。
「魔獣以外に獣人だって、色んな種族が多種多様にここにはいる。しばらくは様子見で良いから、私達が信用に値する者かどうか、審査する時間をくれないかな?」
『………ふん』




