■3 いざ、領地開拓へ、です
「はー、困った困った」
と、私は苦笑を浮かべながら溜息を吐く。
そして、机の上に「うだー」と、上半身を投げ出した。
「結局、爵位を与えるなんていうのは建前で、君の力で国土の抱える問題を解決させる魂胆だったのかもしれないね」
机の対面に座ったイクサが、そう言って苦笑した。
現在は、王城でのパーティーが終了した後。
アバトクス名産直営店の外食スペースに、私とイクサは帰って来ていた。
ちなみに、服装はいつものである。
加えて、今回のパーティーであった話を、マウルとメアラ、ガライ、他のみんなにも説明したところだ。
「なんだよそれ! 王様は、マコの事を便利屋か何かと思ってるのかよ! 体よく利用したいだけなんじゃないのか!?」
と、怒るメアラを、マウルが宥める。
しかし、そんなメアラの一方、私は――。
「でも、別にいいけどね。領地開拓、楽しそうだし」
割と乗り気だ。
なんだか思っていたよりも、いつもと変わらない感じで安心したというのも一因かもしれない。
アバトクス村で野菜を作ったり、王都に出店したり、海沿いの都市で観光地を作ったり、Sランク冒険者達と仲良くなったり、王都を復興した時と、似たような雰囲気だ。
「なぁ、今回一番の問題に上がってる、その《エルフ族》ってのは、そんなに危険な連中なのか?」
と、そこでウーガが質問する。
それに関しては、私もイクサから先に聞いていた。
《エルフ族》。
以前、メイプルちゃんの正体がブランク・エルフだと発覚した時に、ちょっとだけ話が出た時もあった。
「ああ、危険だ」
ウーガの疑問に、イクサが答える。
「《エルフ族》は生まれながらに保有している魔力が非常に高く、卓越した魔法の力を持っている種族だ。そして何より、滅茶苦茶にプライドが高い。森の奥深くに自分達で一つの国を築いていて、それが、今回マコに与えられるウーデウス地方の領土と隣接した巨大な森だ」
イクサは、机の上にグロウガ王国の地図を広げ、国境付近を指さす。
「ウーデウス地方のその領地は、以前にも国が開拓を進めていた。しかし、その開拓の際、愚かにもついでに《エルフ族》の森もグロウガ王国の領土にしようと画策したんだ」
「あちゃー」
完全なる、やっちまった案件だね。
かつての《ドワーフ族》との件といい、そういう確執がとても多い国だ。
「で、そんなグロウガ王国側の態度に、当然《エルフ族》は激昂。彼等による報復を受け、追いやられてしまった」
それ以来、この領地は人間が近付く事すら許されず、未開の土地と化してしまっている――という事らしい。
「だから、下手なことをすれば《エルフ族》が何か攻撃を仕掛けてくるかもしれないんだ」
「そっか、気を付けないとだね」
「……おそらく、今回グロウガ王がマコへの領地授与を行ったのは、その辺の目的もあってのことじゃないかな」
イクサの言葉に、私は「?」を頭の上に浮かべる。
「つまり、マコの力で《エルフ族》との蟠りを解消しようと狙っている……ということですか、イクサ王子」
ガライが問うと、イクサは首肯した。
なるほど……Sランク冒険者達や、《ドワーフ族》との件もあったから、グロウガ王(や、お城に仕える臣下の人達)に期待されてるって事かな。
「まぁ、それも重要だけど……今は何より考えなくちゃいけないのは、領地開拓ってところかな」
私は腕組みし、思案する。
広大な未開の土地を切り開いて、人間の住める場所にする。
当然、そんなの、私一人だけの力じゃ無理だ。
私が使えるスキルは、現在七つ。
《錬金Lv,3》《塗料》《対話》《テイム》《土壌調査》《液肥》《殺虫》。
どれも強力な能力だけど、流石にそれだけでどうにかできる状況ではない。
「とりあえず、実際に行ってみないと分からないけど、王様に相談して開拓のための人員とか機材とかの手配を……」
「何言ってんだよ、マコ」
すると、《ベオウルフ》のラムが「水臭いな」といった感じで、口を開いた。
「当然、俺達はマコに協力するつもりだぜ」
「俺も」
「俺も俺も」
と、ウーガとバゴズも続く。
「俺達も、マコに付いていくよ」
「うん」
そして、メアラとマウルも。
本日のパーティーが終わった後――私はイクサと一緒に、グロウガ王とこの領地授与に関する詳しい話し合いをした。
開拓に必要な準備や、道具、人員等の手配に関する事。
加えて、その場で「できれば、この土地に自分が定住するのは考えさせてほしい」、と、そう言ったのだ。
するとグロウガ王から、領地を開拓し、別の領主を選別し、管理を一任すれば、別に私自身は土地に住み着く必要は無いと、許諾を得られた。
私がアバトクス村を離れるかもしれないと聞いた時は落ち込んでいたが、マウルとメアラにもその話をすると、喜んでくれた。
「よし、頑張ろう」
頼りになる仲間達が、今回も私にはついてくれている。
※ ※ ※ ※ ※
――それから数日間、王都で雑事を行いながら過ごし……。
「じゃあ、早速出発しようか」
私達は、領土開拓に向けてウーデウス地方へと向かう日を迎えた。
と言っても、本格的な移住を意識してのものではない。
今回の出発は、王国側へどんな支援を要求するか具体的に考えるための――言わば、視察を目的としたものだ。
王城から、既に具体的な領地の場所を記した地図はもらってある。
「遂にこの日が来たか」
「楽しみだね」
「です!」
ウーガ、マウル、それにフレッサちゃんがそうわくわくした様子で話している。
ちなみに、今回同行してもらうメンバーは、以下の通り。
マウル、メアラ、そしてガライ。
オルキデアさんにフレッサちゃん。
レイレ、デルファイ。
そして、クロちゃん、エンティア。
《ベオウルフ》からは、ラム、バゴズ、ウーガ。
とりあえずの偵察なので、そこまで大人数ではない。
更に、イクサとスアロさんも同行してくれることになった。
「よし、いざ新天地へ!」
と、私が言うと。
『こりゃ!』
私の服の胸元に収まっていたウリ坊のチビちゃんが、元気良く前脚を上げた。
そうそう、君の事も忘れちゃいけないね。
私の合図を皮切りに、メンバー達が次々に荷車へ乗り込もうとする。
すると、そこで――。
「うわぁ!」
バキッ! と、乾いた音と共に、荷車の縁に手を掛けたウーガが転げ落ちる。
そして、勢いよく地面に頭を打ち付けた。
「ぐぇっ!」
「おい、ウーガ! 荷車壊しちまったのか!」
「何やってんだよ!」
と、ラムとバゴズ。
君達、まずウーガの頭の心配してあげなよ。
「ウーガ、大丈夫?」
「あててて……」
私はウーガの頭を摩りながら、壊れた荷車を見る。
荷台の縁が劣化して、破損してしまったようだ。
うーん……でも、よくよく見ると、壊れちゃうのも仕方が無いか。
アバトクス村と王都の行き来等、この荷車は今日までずっと使い続けてきて、結構ボロボロだ。
「どうする、マコ? 修理をするか?」
と、ガライが言う。
「いや、直してもここからの長旅のどこかで、他の箇所が壊れちゃう可能性もあるし」
どうしよう――と、私が顎に指を当て、思案していると。
「よう、マコ、お困りのようだな」
背中側から、聞き覚えのある声が聞こえた。
私が振り返ると、そこにいるのは、子供位の背丈の髭を蓄えたおじさん達。
「《ドワーフ族》のみんな、久しぶり!」
懐かしい面々を前に、私は興奮し叫ぶ。
《ドワーフ族》。
ここ最近、王都復興の際に世話になった、建築、製造等、独自の技術力を持つ生産能力に長けた種族だ。
復興作業後、ほとんどは隠れ里に帰ったけど、一部のメンバーだけ、王都に残っていたのだ。
「ぶっ壊れちまったのか?」
挨拶もそこそこに、壊れた荷車を見ながら、彼等は言う。
「うん、そうなんだ」
「まぁ、俺達の隠れ里に来てた時から少し怪しい気配を感じてたがな」
「そろそろ寿命だったんだろう」
と、ドワーフ達は口々に言うと。
まるで、何かを勿体ぶっているような口振りだ。
「で、だ」
そして、やっと本題――とでも言うように、揃って後ろを振り返る。
「こんなこともあろうかと、こういうのを作っておいたぜ」
「え?」
見ると、私達のお店の敷地内に、ドワーフ達の車(特殊な蒸気機関で動く)に引かれて、荷車が運び込まれてきていた。
まるで、新車の乗り入れの如く。
「おお!」
大きさは以前と変わらない。
けど、今回作成された荷車は屋根付きで、しかも金属等で補強されており、見た目的にも以前よりもっと強力だとわかる。
かなり頑丈そうだ。
「なんでもあんた、貴族になって領地開拓に行くんだろ?」
「話で聞いたぜ」
「色々と世話になったし、餞別替わりに用意させてもらった」
「ありがとう、みんな! お世話になったのはこっちの方なのに!」
用意してくれた荷車は二台。
エンティアとクロちゃんが、それぞれ引く形だ。
今までの荷車に別れを告げ、早速、ドワーフ達から譲り受けた新しい荷車に乗り込む。
「よし、いざ出発! ウーデウス地方へ!」




