表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

157/168

■1 イクサとお話です


 ――王都からの使者達がアバトクス村を訪れた日から、数日後。

 予定通り、私達一行は王都へと向かっていた。

 方法は今までと同じ、エンティアとクロちゃんの引く荷車に乗って、という移動手段である。

 メンバーも、私、マウル、メアラ、ガライ、オルキデアさんにフレッサちゃん、ラム、バゴズ、ウーガ、デルファイにレイレ、といういつもの布陣だ。


「この道も、もう見慣れたもんだよねー」


 荷車の上から流れていく風景を見渡し、私が呟く。


「ね」

「……うん」

「……」


 そんな私の言葉に、一緒に乗っているマウルとメアラが、気の抜けた返事を返す。

 その表情は、どこか不安そうだ。

 私はガライと顔を見合わせる。

 先日から二人とも、ずっとこんな感じだ。


『『『『『ボスー!』』』』』


 そうこうしていると、聞き慣れた声が聞こえてきた。

 街道沿いの牧場地帯を、何匹もの黒毛の狼が掛けてくる。

 クロちゃんの仲間の《黒狼》達だ。

 王都が目の前まで迫って来ている証拠である。


「うーん……」


 早速門を潜り、王都の中を進む私達。

 流れていく風景を見ながら、私は唸る。


「久しぶりに来たって感覚だったけど、実際はそこまで時間は経っていないんだね」


 復興が済み、以前のような賑わいを見せている街並み。

 もう、すっかり傷跡から立ち戻った、そんな風景を見ながら、私は思う。

 さて――やがて到着したのは、アバトクス村名産直営店。

 せっかく王都に戻って来たのだから、ここにも顔を出しておかないといけない。


「マコ!」

「店長!」


 私達がやって来たのに気付くと、早速、こちらで仕事に従事している《ベオウルフ》達や、人間のスタッフの人達が出迎えてくれた。


「みんな久しぶり、ちょっと所用で王都に戻って来たんだ」


 荷車から下り、私は皆に挨拶を返す。


「喜びなさい! 今日は、新商品のアイデアも持って来たわよ!」


 一方、荷車の上で仁王立ちし、レイレが高らかに叫んでいた。


「新商品?」

「いいねいいね。ここ最近、町も元に戻り始めて、王都の市民も新しい風を欲してるみたいなんだ。一発、インパクトのあるやつを頼むぜ」


 レイレの言葉に、みんなが反応する。


「インパクトならばっちりだと思うよ。ロールアイスって言うんだ」

「ロールアイス?」

「うん、えーっと、作り方は……レイレ、大丈夫?」

「勿論!」


 というわけで、早速私とレイレで新商品――ロールアイスの紹介を開始する。

 スキル《錬金》で〝鉄板〟や、必要な調理器具を錬成。

 レイレも魔力を集中し始める。

 私達が準備を始めると、ちょうどお店に来ていたお客さん達も「なんだなんだ?」と集まってきだした。

 スタッフへの作り方のレクチャーだけじゃなく、お客さん達へのデモンストレーションにもなりそうだ。


「いくよ、レイレ!」

「ええ!」


 そこで、私達はロールアイスを店頭で実際に作り始める。

 鉄板の上で混ぜ合わされていく、アイスクリームと凍った果実。

 軽快な私の手捌き(練習したからね!)により、形作られる氷菓の花束。

 お客さん達も大興奮だ。

「綺麗」「おいしそう」と、ギャラリーの中から声が上がり出す。


「じゃ、みんな、お客さん達にも配って」


 私は、スタッフのみんなに出来上がったロールアイスを配りながら言う。


「今日は初日だから、皆さんに試食してもらおう」


 というわけで、ロールアイスを、タイミングよくお店に来ていたお客さん達に振舞う事にした。

 無論、スタッフのみんなにも実食してもらいながらである。


「マコ、僕達も手伝うよ!」

「どんどん作って」

「マウル、メアラ……ありがとう!」


 ここに来るまで暗い顔をしていた二人だったけど、名産直営店に戻って来て、賑やかなお店の空気に触発されたのか、自ら配膳を買って出てくれた。

 加えて、ガライやオルキデアさん、フレッサちゃんもお客さん達にアイスを配る手伝いをしてくれている。


『こりゃー!』


 そして、毎度のことだけど、いつの間にか紛れ込んでついてきていたウリ坊のチビちゃんも参戦してくれている。

 新商品が無料で振舞われ、更に賑わいを増していく店内。

 うん、この様子を見るに、ロールアイスの人気は上々。

 きっと人気商品になる事は確実だね。

 ――そうしていると……。


「やあ」

「あ、イクサ」


 そこで店を訪ねてきたのは、前回王都を去った時以来会っていなかった、イクサだった。


「凄い繁盛だね。もしかして、新商品かい?」

「うん、イクサも食べてみて」


 私はイクサと、彼の後ろに控えているスアロさんにも、ロールアイスを渡す。


「ん~、疲れた体に甘みが染み渡るね、スアロ」

「本日、イクサ王子はほとんど仕事をしていらっしゃいませんが」


 アイス口にし、二人はそんな会話を交える。


「イクサ、最近はどう?」


 私は、イクサへと近況を聞くことにした。


「わかっていたことだけど、忙しいね。魔術研究院にも、全然顔を出すことが出来ていないよ」

「隙あらば逃げ込もうとしているので、監視の目を強めている」


 たはは~、と笑うイクサに対し、スアロさんは真面目な顔で言った。

 スアロさん、お疲れ様です。


「さて、立ち話もこんなところにして……マコ、ちょっといいかい」

「ん?」


 ロールアイスを食べ終わったイクサが、そこで、私を誘う。

 そういえば、イクサがここに来た目的をまだ聞いてなかった。


「今から、僕の邸宅に来れるかな。明日の王城でのパーティーについて、説明をしておくよ」




※ ※ ※ ※ ※




 というわけで、早速、私達は王都の一角にある、イクサの邸宅へと向かった。

 以前にも行ったことのある、市民街の区域にあるお屋敷だ。

 その広い邸宅の中の一室――高級そうなテーブルに腰掛け、私とイクサは向かい合っている。

 イクサの後方には、スアロさんが立つ。


「王都のみんなは元気かな」


 スアロさんの出してくれたお茶を前に、私が会話を切り出す。


「僕の聞いた限りだけど、Sランク冒険者は皆冒険者としての職務に戻っているらしい」


 お茶に砂糖を入れながら、イクサが答える。


「以前までは魔獣や犯罪組織の討伐をメインに行っていた者達も、それぞれが適した仕事を請け負うようになってきたそうだ。例えば、元王宮騎士団長だったミストガン氏は、王国騎士団本部にて騎士達の教育に当たっていたり、囚人のリベエラ・ラビエルは復興作業の延長で、落石や災害に見舞われた街道などの復旧の助けを行っているそうだ」

「へー、みんな、それぞれの道に進んでるんだね」

「君のおかげだよ」


 そこで、イクサが微笑みを浮かべる。


「皆、君と出会ったからこそ、未来が変わったとも言える」

「そうかなぁ?」


 ちょっと照れるね、そんな風に言われると。

 私は赤面しながら、頭を掻く。


「ちなみに、冒険者ギルドも騎士団も、聖教会も、未だに君が訪ねてくるのを待ち構えているからね」

「ううん、そっちもそっちで面倒そうだなぁ……」

「それと一つ、報告がある」


 ホウレイ郷の件だ――というイクサの言葉に、私は背筋を伸ばす。


「あの後、牢獄に拘束したグェンと憑依している《宝石の悪魔》に関し、同じく拘束中のアスモデウスとワルカの支配能力を用い、詳しい情報を吐かせようとしている」

「アスモデウスと、ワルカさんが?」

「ああ、二人とも協力的だよ」


 よかった。

 ワルカさんはともかく、悪魔の世界も色々と派閥や相関図みたいなのがある事は、この前の王都侵攻の件でわかってたし。

 アスモデウスが協力してくれるなら、心強い。


「で、明日のパーティーの件だ」

「あ、うん」


 そこで、話題は続いての議題に切り替わる。

 というよりも今日の本題――王城でのパーティーについて。


「明日、王城で開催されるパーティーは、王都復興と国交会議の成功を祝してのもので、貴族や王族、大商家の代表なんかも来る予定だ。きっと、レイレの実家のグロッサム家当主や、マコが色々お世話になっているウィーブルー家の当主も来るだろうね」

「おおー、社交界だね」

「君の爵位授与も、この祝典の一大イベントだ。多くの人達が君に挨拶にくるだろうし、若い貴族のイケメン達が繋がりを持とうと迫って来るだろうから覚悟しておくんだね」


 にやにや笑いながら言うイクサに、私は「べっ」と舌を出す。


「加えて、今回の授与式で、僕の王位継承権順位も第二王子に昇格されることが決まった」

「え、そうなの?」

「ああ、監督官から密かに聞いてある。僕が第二王子、レードラークが第三に降格だそうだ。レードラーク本人も、納得している」


 そうか。

 レードラーク、あまり表情や態度には出さないけど、王子としての責務とか責任とか、凄く重く考えてる人なんだよね。

 大丈夫かな? と、少し心配になる。


「………」


 いや、確かにレードラークの事も心配だけど、今は他にも考えなければいけないことがある。


「あのさ、イクサ」

「ん?」

「爵位って、絶対にもらわないといけないものなの、かな?」


 私は、イクサに、爵位を与えられる――貴族になる、という事の不安を吐露する。


「……貴族になれば、今までとは生活や人間関係が一気に変化する。それが心配なのかい?」


 そんな私に、イクサは柔和な態度を崩すことなく答えてくれた。


「無理にもらう必要は無いよ。最終的な判断は君に任せるけど、気分が乗らないなら断るといい。その時には、僕も手助けするよ」

「イクサ……」


 そう言って笑うイクサに、私は心が落ち着くのを感じだ。

 流石、イクサ。

 なんだか最近、彼から王族としての威厳みたいなものを感じるようになってきたんだよね。

 いや、私が気付いてなかっただけで、前からあったのかもしれないけど。


「さ、と言うわけで、だ」


 と、そこで、イクサが勢いよく椅子から立ち上がった。


「マコも、王族や金持ち達が出席するお城のパーティーに参加するんだ。存在感を際立たせるために、豪華に着飾らないといけないね」

「へ?」


 イクサが指を鳴らす。

 瞬間、待ってましたとばかりに、部屋の中に何名もの女性達が入って来た。

 何やら、色鮮やかで、多種多様なデザインのお洋服の掛かったハンガーラックを引っ張りながら。

 他にも、化粧品やら何やら、いっぱい部屋の中に運び込まれてくる。


「え、ええと、この人達は……」

「仕立て屋さ。街中の、貴族御用達の仕立て屋をいくつも呼んだんだ。どこの店も、ホンダ・マコのためならと快く引き受けてくれたよ」

「マコ様! お初にお目にかかります!」


 私の前に行列が作られ、来る人達が目を輝かせながら、「仕立てを行っている〇〇」「化粧品を取り扱っている〇〇」と挨拶をしてくる。

 ……多すぎて覚えられない。


「じゃあ、早速色々着比べしてみよう。僕は外で待ってるよ」

「へ? へ?」


 動揺している私をよそに、イクサはさっさと部屋を後にする。


「よろしくお願いするよ。彼女、あまり自分の外見には頓着しないタイプだけど、素材は申し分ないからさ」

「「「「「はいっ!」」」」」

「ちょ、ちょっと、イクサ!?」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ