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■プロローグ 貴族になるそうです


「『ホンダ・マコ。王都を邪竜の魔の手から守り、観光都市バイゼルに潜む悪魔の陰謀を打破し、《悪魔族》の侵攻を退けた……更に、王都の復興支援。度重なる貴殿の働きを評価し、グロウガ王の名の元、来たる日、貴殿に爵位と領地の授与を決定する』」


 アバトクス村へとやって来た、王城からの使者達。

 彼の発した言葉に、私の周囲のみんながざわつきだした。

 今まで積み上げてきた数々の功績が認められ、グロウガ王国より、私に爵位と領土が与えられることになった――という。

 つまり、領主……貴族になるということらしい。


「えーっと、私もよくわからないんだけど……貴族になったらどうなるの?」


 私は、周りの《ベオウルフ》達に質問する。


「俺達だって当然、詳しくはないけど……」

「ああ、貴族なんて一番嫌いな連中だったからな」


《ベオウルフ》のバゴズとウーガが、そう会話する。

 この国の貴族や王族は、獣人に対する偏見が強い。

 ゆえに、彼等はかつて人間達から多くの差別を受けていた。

 だから、《ベオウルフ》達にとっては一番印象の悪い存在だろう。


「土地がもらえるってことは、領主になるってことだろ? その領土を使って得た土地の利益の一部を、領主として徴収できるってことだ」


 ラムがそう説明をしてくれる。


「領民に作物を作らせたりとか、生産品を出荷したりとか……要は、俺達が市場都市や王都で物を売るみたいに、商品を販売して利益を得られるんだ。あと、個人で騎士団を所有したりとか、お屋敷を持ったりとか……ほら、観光都市バイゼルのスティング領主みたいな感じだ。他にも色々恩恵があるはずだぜ」

「なるほど」


 ラムの説明で、なんとなくわかった。

 領主生活……土地運営か。

 領民達に利益を出させて税とか年貢をもらったりする、要はブルジョア生活ができるってことかな。


「なんだか楽しそうだね」

「楽しいなんてもんじゃないぞ」

「勝ち組だな、勝ち組」

「上級国民」

「毎日パーティー」


 そんな風に、みんな「すげー」「すげー」と盛り上がっている。

 しかし、一方――。


「……? マウル、メアラ、どうしたの?」


 マウルとメアラは、どこか不安そうな顔をしている。


「マコ……貴族になっちゃうの?」


 マウルが、そう寂しそうな声を発した。

 ……あ、そうか。

 どこの領地をもらうのかは知らないけど、貴族になって領土を持ったら、場合によってはこの村を出る事になるのかな……。


「何はともあれ、近々、王城にて王都復興と国交会議成功を祝うパーティーが開かれます」


 使者の男の人が、説明を続ける。


「そのパーティーにて、現王位継承権順位の変動報告と共に、マコ様への爵位授与も行われる予定ですので、王都へいらしてください」


 そう言い残し、伝令の方々は帰って行った。




※ ※ ※ ※ ※




「……はぁ」


 ――その夜。

 夕飯も終え、マウルとメアラ、エンティアも寝静まった後。

 家の庭のテーブルに腰掛け、私はぼうっとランタンの炎を見詰めていた。

 広場の方からは、今日も《ベオウルフ》のみんなのどんちゃん騒ぎが聞こえてくる。


「………」

「寝付けないのか?」


 気付くと、そこにガライが立っていた。

 浅黒い肌に引き締まった肉体の、《鬼人族オーガ》の亜人である彼は、両手にカップを持っている。

 お茶を淹れてきてくれたようだ。


「ありがとう」


 差し出された一方のカップを受け取り、私は唇につける。


「悩んでいるのは、貴族の件か」


 私の対面に座りながら、ガライが言う。

 お見通しのようだ。


「うーん……うん、どうしようかなって」


 貴族になるとなれば、今と生活が大きく変わる事になる。

 この世界における一般市民ではなく、ある程度の地位と責任を持った存在になるのだ。

 当然、このアバトクス村を離れ、マウルやメアラ達ともお別れしなければいけなくなるかもしれない。

 しかし、もし断るにしても、断れるのだろうか。

 そもそも、断っていいものなのだろうか……。


「貴族になるって、かなりの大事だもんね。しかも、国王が直々に国の領土の一部を分け与えるんだから……『遠慮しておきます』で済む話なのかな?」


 何分――当たり前の事だけど――貴族になるなんて体験は、生まれて初めてのことである。

 どう判断すればいいのかわからない。


「……現状だけでは、まだ何とも言えない状況だな」


 瞑目して私の話を静かに聞いていたガライが、やがて口を開いた。


「グロウガ王や城の重臣、責任者から詳細を聞かなければ、適切な判断はできない。ひとまず、王都に出向いて話を聞いてからでいいだろう」

「……そうだね」

「場合によっては、イクサ王子に何とかしてもらうよう頼んでみてもいいかもしれないし、必要があれば俺も力になる」


 ……そうか。

 ガライが口にしたのは、とても当たり前の言葉だ。

 その通り、としか言えない。

 きっと、私自身も本当はわかっていたはずだ。

 でも、しばらくノンビリとした生活を続けていて、初めて直面する事態に頭が働かず、弱気になってしまっていたようだ。


「マコ……王都への出店や、《ベルセルク》の村の再生。Sランク冒険者の統括に、王都の復興。今まで色々と重責を担わされてきたが、その度にあんたは、周囲の協力や絆を力に変えて、一緒に乗り越えてきた。今回も同じだ」

「……うん、そうだね」


 精神的に頼りになるなぁ、ガライは。

 本当、惚れるよ。

 そう、まずはみんなで王都へ向かい、詳細を確認しよう。

 何かを判断するのは、それからでいい。



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