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■20 お別れです


 ――さて、そんなこんなで。

 ホウレイ郷に潜む悪意が発覚し、その阻止に成功した日。

 あれから、数日が経過していた。

 国交会議に関しては、残りの同盟国――グロウガ王国、イル=ヴェガ共和国、ドルメルツ帝国、聖凱楽土の四国で通常通り議会を終結。

 今回降って湧いた最大の問題点、ホウレイ郷の件が嫌が応にも絡むため、かなり難航したみたいだけど――とりあえずの目途は立ったらしい。

 悪魔と共謀する国――ホウレイ郷に関しては、各国が協力し処理と解決に向かう形となった。


「その件に関しては、我々で対処する」


 会議終了後――謁見の間にて、私は玉座に座ったグロウガ王より、そう言い渡された。

 横には、イクサもいる。

 何分、国が相手の事だ。

 流石に大事も大事なので、言っても私のような個人が中心的に関与するわけにはいかない。

 だからと言って、私も無関係というわけでもない。

 何か必要があったら、応援をお願いする事もある。

 そんな形で、ひとまず、今回の件に関しては幕引きとなった。


 ――さて。

 国交会議を終え、各国の代表の方々も帰国の時が来た。

 短い間だったけど、出迎え、もてなし、なんやかんやで色々と関わる事となった皆さん。

 迎賓館の敷地の中で、私は代表の方々と別れの挨拶を交える。


「貴殿には感謝している」


 イル=ヴェガ共和国代表、ガガルバン首相はそう言って、私に手を差し出してきた。

 その大きな手と、私は握手をする。


「王都の復興、国交会議の成功、それらはきっと、貴殿の存在なしには無し得なかったことだろう。いつか、我が国に是非訪れて欲しい。その時には、国賓としてもてなそう」

「はい、ありがとうございます、首相」

「本官達も同意だ」


 ドルメルツ帝国、ワグナーさんとも私は握手をする。


「同じ女として、軍人として、そして神獣を愛する者として、貴殿には尊敬の念を覚える」

「ワグナーさん、ありがとうございます」

「バウム様も、貴殿の事をとても慕っている。それに、この地で多くの友達も出来たようだ。また近々来訪するかもしれないので、その時はよろしく頼む」


 見ると、ポメちゃんがチビちゃんやポコタ達とお別れの挨拶をしている。


『ぽめー!』

『こりゃー!』

『ぽんぽこー!』


 と、涙を浮かべながら、別れを惜しんでいる。

 本当に、仲良しになってたもんね。


「いやぁ、短い滞在期間ではあったが、中々楽しかったぞ、マコ!」


 聖凱楽土の代表にして《仙人》、チグハさんも、私の手を取ってブンブンと勢いよく振る。


「またショーを開催する時は、是非儂を呼んでくれ! 国から駆け付けるのでな!」

「あ、はい」


 本当に来そうなんだよね、この人……。


「いやぁ、しかし、このような有能な参謀を手に入れるとは、お主も中々、絶好調と言った感じではないか、イクサ」


 そこで、チグハさんは、横にいたイクサに言う。


「……優秀な手駒も揃ってきておるようじゃし、計画は順調なようで何よりじゃ」

「………」


 何やら、含みのある台詞を述べるチグハさんと、無言のイクサ。

 何だろう?

 込み入った話かな?




※ ※ ※ ※ ※




 と、いうわけで。

 何はともあれ、こうして私の、一ヶ月に及ぶ王都復興責任者としての役務は、終了となった。

 復興活動や支援に関しても、ひとまずは軌道に乗ったので、後処理や雑事は王城の重役の方々が引き継いでくれる事となった。

 私は一旦、本来の立場に戻ることに。

 と言っても、国内・国外問わず、色々影響は及ぼしてしまった以上、何かあったら関わらざるを得ないけど。


「《ベルセルク》のみんなも、本当にありがとうね! 凄く助かったよ!」


 第二アバトクス村の面々も、復興作業がひと段落したので観光都市バイゼルに帰る事になった。


「おうよ、またいつでも呼んでくれよ」

「困ってることがあったら、助けに行くからよ」

「また、料理の腕を磨いておくぜ」


 私と《ベオウルフ》達に言って、ブッシをはじめとした《ベルセルク》達は帰って行った。

 それに、向こうを活動の拠点にしている冒険者のみんなや、行商人達も。


「ただ、行商人の中には、王都の自然公園でまだ店を開いていたいという者達もいてね。彼等に関しては、まだ残るそうだ」


 と、イクサが言っていた。

 ……そういえば、五ノ国や日ノ国からの輸入品を卸してくれていた行商人、アムアムさんはあれからどこに消えちゃったのかな?

 宴会の夜、カイロンの姿を見た時から、姿を晦ましちゃったみたいだけど。

 やっぱり、カイロンが何か関係しているのだろうか?


「じゃあな、マコ。それに、他の連中も」


 私達に力を貸してくれていた《ドワーフ族》のみんなも、元の隠れ里に帰る準備を始めている。

 と言っても、全員ではなく、数名は王都に残って、ここで仕事をすることにしたらしい。

 今や、少なくともこの王都では、《ドワーフ族》と人間の軋轢は解消に向かっている。

 彼等も、ここで色々な情報や技術を手に入れたいのだそうだ。


「マコ殿、それに、オルキデア様。此度の件に関し、我々の里を頼っていただけたこと、心より感謝いたします」


《ドワーフ族》の長老が、そう言って私とオルキデアさんに頭を下げる。


「いえいえ、そんな、むしろ感謝すべきは私達の方ですから」

「そうですわ、長老様」

「貴女達が我等の里を訪れてくれた。だからこそ、こうして長年凝り固まっていた人間や他種族との関係性も変化させることができた。これはきっと、良い兆候なのです」


《ドワーフ族》は、かつて人間に奴隷として支配されそうになった歴史がある。

 それゆえ、人間との関係性は当然、良好なものではなく、彼等は穴倉で密かに隠れ住む生き方を選んだ。

 でも、こうして王都復興に関わってくれたことで、人間は彼等に感謝し、彼等も人間に対し偏見で接することも無くなった。


「マコ殿もオルキデア様も、いつでも我等の里に来てくだされ。里の者全員で出迎えますゆえ……ああ、それにオズ殿やスアロ殿や、他の女性の方々もいつでも歓迎しますぞ」


 もう完全に女好きを隠す気の無くなった長老は、デレデレ顔でそう言っていた。


「それでは、女王様。また機会がございましたら」

「姫様も、お元気で!」


《アルラウネ》の皆さんも、《ドワーフ族》と一緒に、アルラウネの国に帰って行く事に。


「ええ、みんな、お元気で!」

「またですー!」


 オルキデアさんとフレッサちゃんは、手を振って皆を見送っていた。

 ――そんな感じで、協力してくれたみんなを見送り終えた私は……。


「皆さんも、今回は本当にありがとうございました」


 王都冒険者ギルドに来ていた。

 そこに集まった、今回の復興作業に協力してくれた冒険者のみんなに、私は頭を下げる。

 横には、同じく王都復興の責任代表者として、イクサも同行してきている。


「いいって事よ」

「Sランク冒険者からの依頼だ。断るはずもない」

「あんた達には、悪魔の襲撃を退けてもらったっつぅ恩もあるしな」


 そこに集まった、ウルシマさんやアカシ君、ブーマとその仲間達をはじめとした冒険者達が口々に言う。

 王都の日常も戻り始めてきたということで、彼等も元通り、冒険者の仕事を再開し始めていた。


「マコ様達が、今回密かに悪事を行っていた暗黒街の住人達を検挙したことにより、王都の犯罪率も低下しております」


 受付のカウンターの一つ。

 そこに立つ受付嬢のベルトナさんが、私とイクサに言う。


「あの件で、少し暗黒街の住人達の活動も縮小方向に向かったようです」

「そうなんですね、よかった」


 と言っても、低下は一時的なものだろう。

 ほとぼりが冷めれば、今は大人しくしているならず者達も活発化する。

 それでも、十分成果と呼んでいいはずだ。

 そこで――。


「……一つ、気になることがあるんだ」


 イクサが、そう呟いた。


「聖凱楽土からホウレイ郷へ《魔石》を運び出したり、今回の王都で孤児となった子供達を攫い売買を行おうとする……何か巨大な組織が存在すると思われる」

「組織……」

「しかし、僕が闇社会に張っている情報網にも、いまいち存在が引っかからない。こいつらは、今後も僕達に関わってくるかもしれない。注意が必要だ」

「かしこまりました。我々冒険者ギルドでも、《悪魔族》の動き同様、注意を行いたいと思います」


 そんな話をしていると――。

 いきなり、ギルドの扉が蹴り開けられた。


「おらぁ! ここか、王都の冒険者ギルドってのは!?」


 ずかずかと入って来た男が、大声を上げている。

 見覚えのある人物だった。

 彼は――。


「あ、サイラスだ。冒険者ギルドから追い出された後、洗脳されていたスティング領主の部下に再就職したのち、借金で首が回らなくなって闘技場の戦士になって、色々あって酷い目に遭った呪い使いのサイラス・イエローストンだ」

「その紹介はもういい!」


 観光都市バイゼルを拠点に活動しているはずのFランク冒険者、サイラスが私達の姿を発見する。


「くそっ! なんでタイミング悪くお前らがいるんだよ!」

「それは知らないよ。ところで、何用でここに?」


 私が聞くと、サイラスは「おら!」と、背負っていた大きな麻袋を床に置く。

 封を開けると、中には薬草がぎっしり詰まっていた。


「薬草摘みの任務を請け負ってたんだよ! 王都が大変で、被害者が山ほど出たんだってな! だから、大量の薬草が必要だと聞いてるぜ!」

「あー」

「それに、王都の冒険者達は全滅してるんだろ!? これで大恩が売れるな! 有難く使えよ!」

「あ、もう大丈夫だよ。見ての通り、ほぼみんな復活してるから」

「……は?」




※ ※ ※ ※ ※




 ――そんな感じで。


「はーあ……久しぶりだなぁ、こんなノンビリした時間を過ごすの」


 騒がしかった日々が嘘のように、今の私の日常には、一時の平穏が訪れていた。

 完全復活を果たしたアバトクス村名産直営店の店先。

 敷地内の飲食スペースにあるテーブルの一つに座りながら、私はゆったりと、アバトクス村で採れた果物を使ったミックスジュースを飲んでいる。


「しかし、色々あったなぁ……」


 と、感慨に耽る。

 気付けばこの世界にやって来ていて。

 アバトクス村に住まわせてもらい、王都で出店して。

 観光都市で《ベルセルク》達の村を再生し、Sランク冒険者のみんなと協力して悪魔と戦い……。

 騎士団とか、聖教会とか、なんだか色んな組織とも関わっちゃって。


「………」


 王都の日常も、元に戻りつつある。

 冒険者達も、通常の冒険者稼業に戻っている。

 さて、これから自分はどうしよう?


「一回、アバトクス村に帰らない? マコ」


 テーブルの縁から、ぴょこんと顔を出したのは、メアラだった。


「うん、久しぶりに、ガライやエンティアや、みんなと一緒に」


 隣に、マウルもぴょこんと顔を出す。


「んー……そうだね!」


 という事で、方針が決まった。

 久しぶりの、アバトクス村に戻ってのスローライフ。

 初心に返る感じで、楽しそうだ!



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