■13 ポメちゃん達も復興作業に参加です
ドルメルツ帝国からの使者の皆さんと合流した私達は、早速、一緒に王都の中へと向かう事にした。
『ぽめ!』
ちなみに、バウム様ことポメちゃんはいまだに私の腕の中から離れようとしない。
「……中々、手酷くやられたのだな」
道を進む馬車の中。
同席したワグナーさんが、侵略の爪痕が残る街の風景を見て、表情を歪めて言った。
「はい、でも、そんなに辛いことばかりでもないですよ」
「……? これほどまでに深刻なダメージを受けていてか?」
私の言葉に訝るワグナーさん。
だが、彼女も徐々にその意味を理解することになる。
私達が最初に見たのは、まだ作業が序盤の区域。
そこからは、比較的復興が進んでいる地域へと入っていく。
そして、既に再興の完了した街の風景へ移り変わった。
「こ、ここら一帯は、被害の薄い区域だったのか?」
「いいえ、むしろ悪魔の侵攻のメイン被害を被った場所です」
そう聞かされ、ワグナーさんは驚きを顔に浮かべる。
ちょっと納得がいっていないような表情だ。
彼女も、グロウガ王国の王都が《悪魔族》に侵略され、なんとか退けたものの、都市の五分の一近い範囲が壊滅的被害を受けたという情報は知っているはずだ。
だからこそ、予想を遥かに越える再興のスピードに呆気に取られているのかもしれない。
さて。
そうこうしている内に、私達を乗せた馬車が停車する。
到着したのは、現在造園進行中の自然公園予定地である。
私達が馬車から下りると、主要メンバーのみんなが今日もガンガン作業を進めてくれている。
「あ、マコ! イクサも!」
「おかえりー」
マウルとメアラが、私達に気付いてやって来る。
「なんだなんだ? やけに仰々しいのが来たな」
「そちらの人達は誰だ?」
「ドルメルツ帝国の使者の方々だよ。軍人さん達と、こちらがワグナー・アルセルド・ドルメルツ大尉」
ラム、バゴズ、ウーガをはじめとした《ベオウルフ》のみんなに、私達に続いてやって来た軍人さん達を紹介する。
「よろしくな、大尉さん。俺ぁ《ベオウルフ》のウーガだ」
「わたくし、《アルラウネ》のオルキデアと申しますわ」
「あ、ああ、よろしく……」
挨拶を交わす私達。
「あ! イッヌだ!」
「イッヌ!」
「イッヌがいる!」
私の抱きかかえたポメちゃんを発見し、ヤマネコの亜人の三つ子、ミミ、メメ、モモが騒ぐ。
「イッヌ!」「イッヌ!」と、私の周りではしゃぎ出す。
『こりゃー!』
『ぽんぽこー!』
『きゅーん!』
『ぷー』
そこで、動物達のかわいらしい鳴き声が聞こえた。
自然公園の原っぱの上で遊んでいたウリ坊のチビちゃん。
それに、ポコタ、バンビちゃん、子豚ちゃんがこっちに走って来た。
『こりゃー! ……こりゃ?』
チビちゃんは、久しぶりに私の胸に飛び込もうと助走をつけてきていた。
しかし、ジャンプする直前、私の腕の中に先客がいることに気付く。
『ぽめ?』
『……こりゃー』
何かを察したチビちゃんは、静かにポメちゃんを見据える。
『……ぽめ』
ポメちゃんも何かを察し、チビちゃんを見下ろす。
二匹の間に、バチバチと火花が散って見える。
『ぽめっ!』
「あ!」
瞬間、私の腕から飛び出し、ポメちゃんはチビちゃんの前に着地する。
『こりゃあ?』
『ぽめぇ?』
ヤンキー同士が「あーん?」「あーん?」とメンチを切り合うような感じで、睨み合う二匹。
こりゃやばい。
一触即発だ。
「こらこら、チビちゃんもポメちゃんも落ち着いて――」
私が慌てて止めようとした。
その時だった。
『こりゃー!』
『ぽめー!』
遅かった! 喧嘩が勃発してしまった!
二匹はお互いの前脚でパンチを繰り出す!
『こりゃこりゃこりゃこりゃ!』
『ぽめぽめぽめぽめ!』
凄い! ラッシュの速さ比べだ!
でもパンチに威力が無いから、お互いの体をもふもふぷにぷにしているだけで、全然ダメージが無さそう!
『こりゃあ……』
『ぽめぇ……』
その内、体力の限界が訪れたのだろう。
二匹はお互い、疲れてその場にクタりこむ。
『こりゃ!』
『ぽめ!』
そして、「お前なかなかやるな!」「お前こそ!」と、タイマン張った後のヤンキーみたいに、お互い肩を組んで仲良くなっていた。
なんだこれ。
「バウム様……異国の地で早々にお友達を……なんという獣王の器……」
隣では、ワグナーさんをはじめとして軍人の皆さんが、感動したようにうるうるしている。
この人達もちょっとおかしい。
――さてさて、そんな感じで挨拶も終えまして。
「しかし、これはすさまじい……」
開発中の自然公園を見て、そう感想を漏らすワグナーさん。
「ええ、本当に。王都のど真ん中に、こんな立派な緑の風景が生み出せるなんて、みんなの力のおかげです」
「いや、それもそうだが……」
どうやら、ワグナーさんは別の部分に着目していたようだった。
「魔獣、多様な職業・役職の人間、多種の魔族が、互いに協力し合っている。その点に驚いているのだ。グロウガ王国は、獣人や魔族など、他種族間での種族問題が多くある国と有名だからな……」
「今変わりつつあるのかもね、彼女のおかげで」
隣で、私の方を見ながら、イクサが言った。
※ ※ ※ ※ ※
なにはともあれ、早速ドルメルツ帝国の軍人の方々にも、復興作業に参加してもらう形となった。
『ぽめー! ぽめー!』
ポメちゃんが魔法を使い、重量物の物資を浮遊させる。
そうすることによって、通常なら数人がかりになったり、台車等を使って運ばなくちゃいけないものも、少しの力で押して運ぶことができる。
さながらクレーン重機だ。
「さてさて」
軍人の方々に仕事場の指示を行った後、私は、街中の他の区域の様子を見て回ることにする。
昼食時も近付いているので、お弁当を片手に。
復興がある程度軌道に乗っている区域を越え、まだ被害の色濃い地域にまでやって来る。
そこで、近くから「おお!」と歓声が聞こえた。
何事かと見に行くと、見上げる程の巨大な瓦礫が動かされている。
どうやって動かされているのかというと、その瓦礫を手で持ち上げて運んでいる人物がいるのだ。
団栗眼の、まだ幼い少女だ。
「あ、リベエラ」
彼女はリベエラ・ラビエル。
Sランク冒険者の一人である。
「あ、店長さん」
運び終えた瓦礫をドォンッ! と地面に置くと、彼女は私の存在に気付いてやって来る。
「ありがとう、リベエラ。重量物の搬送を手伝ってくれてたんだね」
「うん。復興のお手伝いすれば、減刑の対象になるって言われたからねー」
そこで、ぐー、とリベエラのお腹が鳴る。
「あー、働いたらおなかすいたなー」
そう言うリベエラの目は、ちらちらと私の持っているバスケットに向けられている。
こやつめ、既に私のお弁当に目を付けていたか。
「わかってるわかってる、偶然お弁当があるんだけど食べる?」
「わーい、店長さん好きー」
というわけで、リベエラと近くの休憩用の椅子に腰かけ、昼食を取ることに。
お弁当のバスケットを開ける。
「今日はホットドッグだよ」
「おおー!」
村で作ったキャベツを千切りにして、それを一週間ほど塩漬けにしたザワークラウト。
それを、牧場から提供してもらったソーセージと一緒にパンにはさんだホットドックだ。
ちょうど二つ作ってあったので、リベエラと一個ずつ分け合うことに。
「いただきますー」
一緒にぱくりと、ホットドッグを頬張る。
美味い!
ジューシーなソーセージと酸っぱいザワークラウトが合う!
「うー、おいしいー、やっぱり店長さんの持ってくる食べ物は最強だねー」
「気に入ってくれて何よりだよ」
リベエラと二人、長閑な昼食の時間を送る。
「でも、さっきの瓦礫もそうだけど、リベエラって凄い力だよね」
ホットドッグも食べ終わり、私はリベエラへ、そんな風に会話を切り出す。
「うん、そういう体質だからねー」
リベエラは答える。
……そういえば、Sランク冒険者の中でも彼女はひと際謎が多い。
あの怪力。
《暴食》という二つ名を付けられる程の、大食家。
それに、服役中の囚人で、一時は死刑が求刑されていたというのも。
「気になるー?」
私の沈黙に気付き、リベエラが言う。
「うん、ちょっとね」
「あたしねー、昔、人の命をいっぱい奪っちゃったんだー」
「え?」
あっさりと、そう言い放つリベエラ。
「……『ステルベル村壊滅事件』」
彼女は、自身の過去を語り出す。
「グロウガ国の端も端にあった小さな村がね、ある時災害のせいで孤立無援状態に陥っちゃったんだー」
結果、訪れる食糧難。
そんな中、パニックを起こした村人達は、村の古い言い伝えに乗っ取り、神に生贄を捧げることにした。
「生贄?」
「何百年も前に廃れた古文書レベルの文化だよー。でも、みんな妄想と現実の区別がつかなくなってたんだろうねー」
そして、リベエラが生贄に捧げられることになったそうだ。
「で、その結果、あたしの中に《神》が宿っちゃった」
「神……」
「あたしにもわかんないけど、本当に封印されてたのかもね、その土地に神様って呼ばれるものが、もしくは悪霊とか? まさか、悪魔だったりしてー」
「………」
生贄として捧げられたリベエラは、逆に《神》の依り代となった。
そして、《神》の力が暴走。
リベエラを救うため、リベエラを殺そうとする村の住人達の生命力が食らい尽くされた。
――と言うのが、後にこの事件を調査した騎士団及び冒険者ギルドの見識だという。
「この人間離れした怪力も、あたしの中の神様の力なんだってさー。ま、その結果、大量殺人の犯人として、死刑囚になっちゃったんだけどねー」
「………」
「でも、国も《神》を宿したあたしが貴重な存在だと思ったのかもねー。表向きは色々理屈をこねて延命してるけど、本当は前の《悪魔族》との戦いの時とか、こういう復興作業の時に有効活用するために首輪をつけて生かしておきたいんじゃないかなー」
ま、今はひもじい思いもせずに、ご飯が食べられるからいいんだけどね――と、リベエラは語る。
「特に、店長さんのお店で売ってるお菓子や食べ物がねー、一番いいんだ」
「え?」
「おいしいし、あたしの中の神様も、満足して大人しくなってくれるんだよー」
「そうなんだ」
「一時期はひどかったからねー」
溜息を吐くリベエラに、私は微笑む。
彼女も彼女で、とても苦労をしているようだ。
頑張ろう――と、そんな気分になれた。
「それで神様が大人しくなってくれるなら、安心だね」
「うん、あたしも嬉しー」
※ ※ ※ ※ ※
――そして、数日後。
国交会議――当日。




