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■10 一網打尽です


 ガライ達四名が、暗黒街の住人達の首魁が集まる場所へと乗り込んだ――一方、その頃。


「なんだ、お前は――ぎゃぁッ!」


 強面の男が、ドスの利いた声を発した直後、高威力の火炎に吹き飛ばされ、悲鳴を上げながら地面を転がった。


「チッ……下っ端共がぞろぞろと、無駄に雁首だけ揃えやがって」


 洞窟内の、他の部屋。

 一人の男が、集合した暗黒街の住人の下っ端達を、片っ端からのしていっている。

 鳥の翼のように跳ねた髪に、不良のようなオラついた威風の男。

《不死鳥》――ヴァルタイルである。

 彼もまた、今回の悪党一網打尽に協力を要請されたのだ。


「おらッ、無意味な抵抗なんざ考えんじゃねぇ。大人しく捕まってろ、ボケ共」


 視界に入るチンピラ達を、縦横無尽に蹂躙していくヴァルタイル。


「うおおおおおお!」


 一人の男が、剣を大上段に構えながら襲い掛かって来る。

 ヴァルタイルはその男に、火炎の威力を纏った蹴りを叩き込む。

 吹き飛ばされた男の体が、ある部屋の扉に命中し、その扉を破壊した。


「……あぁ?」


 その部屋の中の光景が目に入り、ヴァルタイルは訝るように声を漏らす。

 薄暗い空間の中――そこに、牢屋が作られている。

 そして、その鉄格子の奥に、何人もの子供達が縛られて捕らえられているのが見えたからだ。


「………」

「あ、おい!」


 吠えるチンピラ達を無視し、ヴァルタイルは黙って、その部屋の中へと入っていく。

 牢に捕らえられた子供達は、皆、汚れた格好で、ヴァルタイルに怯えた視線を向けている。

 中には、活力の無い目で虚空を眺めている子もいる。


「……おい、なんだこいつらは……」

「ああ!? 誘拐してきたガキどもだよ!」


 武器を構え、臨戦態勢を取りながら、ヴァルタイルに叫ぶチンピラ達。


「被災の混乱に乗じて誘拐してきた! あと、親と死に別れたガキとかな!そいつらを、とっ捕まえて監禁してんだよ! 身代金を請求したり、奴隷として売ったりする目的でな!」


 刹那、ヴァルタイルの背中から炎が展開した。

 巨大な翼のように左右に広がった火炎が、大きく仰がれる。

 その衝撃に、彼を囲んでいた男達は一瞬にして吹き飛ばされ、壁や天井に体を打ち付けられた。


「………」


 ヴァルタイルは、牢屋の中で震える子供達を見下ろす。


「ちょっと待ってろ」


 そして、背中を向けると、呟く。


「この仕事を速攻で片付けたら、町に戻してやる」

「町に戻すだぁ!?」

「テメェら、こんだけの事しておいて無事に帰れると思ってんのか!?」


 依然、わらわらと湧いてくるチンピラ達。

 そいつらは、ヴァルタイルに罵声を浴びせながら殺気を迸らせる。


「ただじゃおかねぇぞ!」

「……あぁ?」


 それに対し、ヴァルタイルもまた、鬼の形相を携え言う。

 彼の四肢から、全身から、濃密な炎熱が立ち上がった。

 薄暗い洞窟の中が、日中のように照らし上げられる。

 チンピラ達は息苦しさを覚える。

 それは、火炎の発生により酸素が著しく消費されてしまったのか、それとも、目前に立つ男の姿に恐怖を覚えたからなのか――それは、本人達でさえわからなかった。


「やってみろよ。テメェらに、炭になっても反撃できる根性があんならなぁ」




※ ※ ※ ※ ※




 ――一方、洞窟の入り口付近。


「くそっ! やべぇぞ!」

「Sランク冒険者共が来るなんて、完全に想定外だろ!」

「ともかく逃げろ! ずらかれ!」


 洞窟内で応戦している者達の一方で、一部の暗黒街の住人達の中には、逃亡を選択する者達もいた。

 彼等は、稼いだ金や、盗んだ資材等を抱えて、アジトから一目散に退散しようとしている。

 ある意味、今の内部の惨状から考えれば、利口な考えをした者達だとも言える。

 ……但し。


「あ、やっぱり来た」


 それを、私達が想定していないはずがない。


「あ?」

「おい、入口に誰かいるぞ?」

「……あ、あいつ等!?」


 洞窟の入り口――逆光に照らされて立つ私の姿を見て、チンピラ達は疾駆の足を急停止させた。


「残念だけど、一人も逃がさないよ」


 スキル《錬金》で生み出した〝単管パイプ〟を構え、私は言う。

 絶対に逃亡者が現れる――そう考え、入口にて待ち伏せをしていたのだ。


「くっ、散らばれ!」

「相手は一人だ、バラバラに逃げろ!」


 私の姿を見て、チリヂリに逃げようとするチンピラ達。

 私は下手に散開した者達は追わず、目前の一人に〝単管パイプ〟を叩き込んで、昏倒させる。

 一方、バラバラに逃げた者達は――


「残念、逃げられないよ」

「ぐえっ!」


 何か、透明な壁に激突し、それ以上先に行けなくなっていた。

 イクサだ。

 彼の魔法――《結界》で、既に逃げ道は断っている。

 そして。


「がっ」

「ぎゃっ」

「安心しろ、峯打ちだ」


 スアロさんが、神速の居合い抜きで彼等の首筋に刀剣を叩き込んでいく。

 バタバタと倒れていくチンピラ達。


「う、く、くそ!」


 往生際悪く、それでも逃れようとする者が一人。

 しかし、彼の疾走を阻むように、また別の仲間がその前へと立ちはだかった。


「あ、ああ……」

「………」


 そのチンピラの前に立ちはだかったのは、寡黙な男性。

 全身黒づくめの男性だ。

 腰の下まで覆う黒色のコートを着ており、口元まで襟で隠れているため、表情が見えない。

 そのコートの肩には、王章が刻まれている。

 彼は――現在第二位の王位継承権所有者にして、Sランク冒険者の一人。

 レードラーク王子だ。


「ひっ……」


 この国の王子にして、国内最強の魔法使い。

 その醸し出す威厳たるや、暗黒街で生きるチンピラの男一人を視線だけで動けなくさせるのに十分な重みを持っている。

 完全に蛇に睨まれた蛙となってしまった彼を、スアロさんが峯打ちで仕留める。


「とりあえず、今出てきたのはこれだけかな」

「うん」


 イクサと話しながら、私達はレードラークの方を見る。


「しかし、まさか、貴方までこの任務に同行してくれるとは思わなかったよ、レードラーク王子」

「うんうん、私もダメもとでオファーしてみたんだけど、まさか本当に来てくれるとは」

「………」


 私とイクサに言われて、レードラークは静かに視線を伏せる。

 彼は、とても責任感の強い人だ。

 だから、王都を脅かす危機と知って、気兼ねなく手を貸してくれたのかもしれない。


「……まだ、用心を怠るな」


 レードラークは、洞窟の入り口を指さしながら言う。

 奥の方から声が聞こえる。

 どうやら、次の逃亡者達が来たようだ。


「よし! 中の方が片付くまで、私達も油断なく行こう!」




※ ※ ※ ※ ※





 ――一方、洞窟内、暗黒街の住人達、幹部クラスが集合していた部屋。


「ぐあ!」

「がはっ!」


 戦況は一方的なものだった。

 屈強な傭兵も、闇社会で腕を鳴らした各組織の頭や幹部達も、たった四人の冒険者の相手になっていない。

 カイロンの《八卦発勁》が効率的に意識を刈り取り、ガライの剛腕が力尽くで叩きのめしていく。

 その場には、戦闘不能状態にされた者達の体が次々に横たわっていく。


「く、くそ」

「逃げ――」


 そして、狂乱の中、どさくさに紛れて逃げ出そうとする者達も。


「《宵口》」


 ミストガンが突きを放つ。

 マコから授かった魔道具の刀を使ってはいるが、かなり威力を加減した突きだ。

 その突きを胴体に受け、次々に為す術無く倒されていく男達。

 決着まで、もう間も無いだろう。


「くそっ! おい、先生!」


 そこで、一人の頭目格が、部屋の奥で木箱に腰掛けていた、白い長髪の男に向かって叫ぶ。


「用心棒の先生、あんたの力でこいつらを止めてくれ! 有名な殺し屋のあんたを、そのために雇ったんだぞ!」

「………」


 呼ばれた殺し屋の男が、無言のままゆらりと立ち上がる。

 そして、肩に担いでいた長剣の柄に手を掛けると、刃を鞘から抜く――。

 ――決して広くはない空間の中を、長剣の刃が駆け抜けた。


「っ!」

「っとぉ!」


 その間合いの中にいた者達の中で、反応ができたのはガライとカイロンだけだった。

 二人は瞬時、軽やかな身のこなしで剣戟の射程距離から回避を行う。

 しかし、刃の横断の軌道上にいた、数名の暗黒街の住人達は巻き添えになり、体を切られバタバタと倒れていった。


「な、お前……」


 先程、殺し屋に声を掛けた男も、胸を斬られその場に倒れる。

 その場には、攻撃を躱すことができた者と、運良く攻撃の圏外にいた者達だけが残された。


「上手いな」


 と、カイロンが呟く。

 横で、ガライも小さく頷いた。

 殺し屋の持つ剣は、刃渡りにして二メートルに届かないくらいの長さがある。

 この狭い空間でむやみやたらに振り回せば、天井や壁、床に刃が触れてもおかしくはない。

 なのに、殺し屋の刃はどこにも当たらず、高速の剣戟だけを放った。

 相当、手首を使った操作が上手いのだろう。


「いいの? 雇い主まで切っちゃって」


 そこで、ミナトが殺し屋に問い掛ける。


「……巻き込まれたのはこいつらの不注意だ」


 殺し屋は、長い白髪の奥の目で、地面に転がった男達を見下す。


「それよりも、貴様……ミナト・スクナだな」


 そして、そんなものはさして興味も無いというように、ミナトを見た。


「僕を知ってるの?」


「先程から……お前の戦い方を見ていた……観察していた……確かに、スクナ一族の麒麟児と呼ばれるだけはある」


 その言葉に、ミナトは双眸を細める。


「気味が悪いなぁ……僕は別に、君に興味は無いんだけど」

「俺は……お前との戦いを所望する」


 殺し屋は、長剣を構えながら言う。


「俺も剣に携わり生きる立場の人間……あのスクナ一族を代表する天才、ミナト・スクナが目の前にいるのだ……倒せばこれ以上ない名声……是非とも、手合わせ願いたい」

「……さっきからさぁ、なんか面白い事言ってるよね」


 ミナトは、腰の両側に差した刀を抜き、二刀を構える。


「僕如きが天才? 君さ、今まで随分楽な人生を送って来たんだね」



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