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■8 自然公園を作ります


 ――国交会議まで、あと10日。


 王城では、国交会議のための準備も始まっているそうだ。

 私達は、復興作業を進める傍らで、王都の中に造園が決まった自然公園を、どんな形にするかをみんなで話し合っていた。


「やはり、自然公園と言うからには、彩り鮮やかで香しいお花の絨毯が必要ですわね」

「一面、綺麗なお花畑にしますです!」


 広げた大きな紙の上に、皆の思い思いのアイデアを絵や文字で書いてもらう。

 オルキデアさんとフレッサちゃんは、やっぱりお花や木を生やす提案をしている。


「でも、こんなに広い公園……わたしたちの力だけで、お花や木々を元気にできるでしょうか? 姉様」

「大丈夫ですわ、マコ様からあの薬をもらえば!」


 そう言って、ふんすふんすっ! と興奮気味に拳を握るオルキデアさん。

 彼女が言っているのは、私の生み出す《液肥》のことだ。

 でも、大丈夫? オルキデアさん。

 依存症とかになってないよね?

 しかし、この自然公園造園に際し、そこで育成する植物をアルラウネに協力してもらえれば、それもまた種族間の友好の証になる。

 彼女達の参加は、是非とも欠かせないところ――。


「……あ、そうだ」


 そこで私は、あるアイデアを思いつき、イクサとエンティアに密かに相談を持ち掛ける。


「ちょっと、エンティアに荷車を引いて行って欲しいところがあるんだけど」

「僕も行くのかい?」


 その内容を説明すると、イクサもエンティアも納得したようだ。


『わかったぞ、姉御。我に任せておけ。全速力で仕事を進めてやる』

「うん、あ、クロちゃんも動けそうならクロちゃんにも同行お願いしたいな」

『ふふっ、俺は既に体も万全快調だ。任せろ、マコ』

『どこから湧いて出てきた、貴様』


 先日の悪魔との戦いでの傷もすっかり癒え、仲間の《黒狼》達と一緒に瓦礫の撤去と運び出しを手伝ってくれていたクロちゃんにも、協力を依頼。

 イクサ、護衛のスアロさん、エンティア、クロちゃんにある場所へと出発してもらった。


「そうだ、バカでかい公園にするんだよな? だったら、果樹なんか植えてもいいんじゃねぇか?」


 そこで、会議に参加していた《ベオウルフ》――ウーガからも意見が出される。


「手入れは大変かもだけど、もしもの時には非常食にもなるしよう」

「いいね、ブドウ狩りとかリンゴ狩りとかイチゴ狩りとか、みんなでフルーツを楽しめる施設にもできそう」

「それは名案ですな、マコ殿ぉぉぉぉぉぉおおおお!」


 突然、遠くから聞き覚えのある大声が聞こえた。

 振り向くと、物凄い勢いで誰かがこっちに走ってくる。

 あ、以前からお世話になっている青果業の大商家――ウィーブルー家の当主さんだ。

 久々の登場ではある。


「ぉぉぉぉおおおおおおお!」と雄叫びを上げながら、彼は私の前に到着を果たした。


「申し訳ない! 被害に遭った自家店舗の立て直しや、同じく青果業を営む他家店舗への支援等を行っていましてな、駆け付けるのが遅れてしまいました!」

「ありがとう、当主。でも、私達のアバトクス村名産直営店は、もうほとんど回復したから大丈夫だよ」

「なんと、それは素晴らしい! やはりマコ殿とそのお仲間の方々は逞しいですな! ところで、先程のわたくしの耳に届いたお話ですが!」


 もしかして、果樹園造園に関する話だろうか?

 いや、耳に届いたって……。

 どの距離の段階で聞こえてたんだろう……。


「様々なフルーツの実る果樹の園をこの王都の中に作るとは、なんとも面白いアイデア! よろしければ、わたくしからも樹木等の提供を考えさせていただきたい!」

「え、いいんですか!?」

「いいわね。せっかく、色んな種族の友好の証を作るっていうんだから、人間だって協力しないとね。あたしも、お父様達にこの話をしてみようかしら」


 ウィーブルー当主の発言に、レイレも乗り出す。

 ただの自然公園じゃなくて、四季折々様々なフルーツが提供できる農園テーマパーク。

 これは、思っていた以上に大掛かりな事業に発展しそうだ。




※ ※ ※ ※ ※




 アイデアも一通り集まったので、並行して造園のための前準備も進めていく。

《ベオウルフ》や《ベルセルク》達獣人、《黒狼》達魔獣ドワーフ族、冒険者……他のみんなの力も借りて、瓦礫や材木の撤去を進める。

 一方で、王都にやって来たドワーフ達の協力により、復興作業もどんどん進んでいく。

 遂に、商店街の店舗や家屋が、ある程度であるが完成に至ったらしい。

 お店の一部では、営業を再開できる店も出始めてきたそうだ。

 更に更に――。


「マコさん! お久しぶりです!」


 作業を行っている私達の元に、ぞろぞろと何人もの屈強な男性達がやって来た。

 その先頭に立っている若い青年が、私に手を振るう。


「アカシ君!」


 冒険者のアカシ君だ。

 という事は、その後ろに続く一団は、皆王都の冒険者だろう。

 悪魔の侵攻によって、ほとんど負傷、壊滅状態だったと聞いていたけど――みんな、元気になったようだ。


「心配かけたな!」

「ウルシマさんも! もう大丈夫なんですか?」


 更に、ウルシマさんも現れる。

 彼はほとんど寝たきりで、意識も取り戻していなかったと聞いていたけど……。


「久しぶりの肉体労働だ! 鈍った体を動かすにはちょうどいいぜ!」

「やるぞ、お前等!」


 ブーマ達も、そう言って意気揚々と声を上げている。


「この通り、体は完全に回復した」

「聖教会の方々が、《治癒》を施しに来てくれたんです!」

「聖教会が?」

「ええ」


 そこで、冒険者達とともにやって来ていた、聖教会のプリーストさん達の存在に気付く。

 何より、その一番前に立つのは、Sランク冒険者にして聖教会の《聖母》――ソルマリアさんだった。


「ソルマリアさん!」

「聖教会が、王都の総本山のみならず、各地に散らばっていた《治癒》の奇跡を扱える信者達を集結させ、冒険者の方々をはじめとした負傷者の治療を一挙に引き受けたのです」


 確か、《治癒》の奇跡を扱える人自体はそこまで多くなく、加えて使用者の消耗も激しい。

 ソルマリアさんクラスは別格だけど、それゆえに聖教会も、むやみやたらにその力を使わせないようにしていると聞いている。

 あくまでも、聖教会の布教活動に役立たせるため、王族や貴族、金持ちの治療。

 後は、人の集まりが良かったり、功績を広められるような体の良い仕事に参加できる冒険者ギルドへの協力、なんかを指示しているはずだ。


「なるほど……この未曽有の大惨事を、聖教会の権威を見せ付ける絶好のチャンスだと考えたのかな」

「いえいえ、マコ様。これもすべて、マコ様の影響ですわ」


 ソルマリアさんに言われ、私は「へ?」と頭の上に?を浮かべる。


「マコ様があの日、上も下も、信者も何も関係なく救う道を示したからこそ、聖教会の上層部も柔軟な対応を許したのだと思われます」

「うーん、そうなのかな?」

「まぁ、何はともあれ、俺達もこの復興事業に参加させてもらうぞ」


 ウルシマさんが、にこやかに言う。


「怪我や負傷をしたり、古傷が痛むなどの症状がありましたら、わたくし達に言ってください」

「ありがとよ、プリーストさん。だが、あんた等もその力を使うと結構疲れるんだろ? あまり無理するなよ」


 こうして、王都冒険者ギルドの冒険者たち参戦により、人手が一気に増加。

 更に作業が捗ることとなった。




※ ※ ※ ※ ※




 ――そして、数日が経過し。

 ――国交会議まで、あと7日。


 街並みの復興は、当初に比べてかなりのスピードで進められている。

 一方で、王城の方でも会議のための準備が着々と進んでおり、徐々にではあるが大イベントの到来が近付いているのを、肌で感じられるようになってきた。


「よし、一通り見晴らしは良くなったね」


 瓦礫等、邪魔なものが撤去され、ほとんど更地となった自然公園造園予定地を前に、私は立っている。

 ここも、みんなの努力の甲斐あって、順調に整備が進んでいる感じだ。


『姉御ーーー!』

『マコーーー!』


 そこで、ドドドドドドと、地響きが聞こえてくる。

 エンティアとクロちゃんだ。

 それぞれの荷車を引き、二匹の巨大な魔獣がこちらへとやって来る。

 エンティアの引く荷車の上にはイクサが、クロちゃんの方にはスアロさんが乗っているのが見える。

 それぞれの荷車が停車する。

 そして、ぞろぞろと、その上からイクサとスアロさんに続いて降りて来たのは、美しい花の妖精と言った感じの女性達だった。

 それを見て、冒険者や町の人達も見惚れている。


「あれは……一体……」

「王子の妾の者達か?」

「失礼だね、まったく」


 イクサは私の隣に来ると、パチンとウィンクする。


「無事、送迎完了したよ、マコ」

「ありがとう、イクサ」


 女性達は、皆、頭部に花を実らせ、その伸びた蔦を体に纏わせている。

 そう、この人達は《アルラウネ》だ。


「ほ、本当にここに、女王様達がいらっしゃるのですか?」


 周囲を人間に囲まれ、おっかなびっくりと言った感じの《アルラウネ》さん達。

 その中の一人が、イクサにおずおずと問う。

 彼女からの質問に、イクサはオルキデアさんとフレッサちゃんの居る方向を指で示す。


「じょ、女王様! 姫さまぁ!」


 二人を発見した《アルラウネ》達は、我先にと彼女達に駆け寄る。


「……みんな!」


 オルキデアさんもフレッサちゃんも、驚いている。

 今回、《アルラウネ》さん達を王都に招集することを、あえてオルキデアさん達に内緒にしていたのは、彼女達へのサプライズの意味もあったからだ。


「マコの発案でね、僕から彼女達に協力をお願いしたんだよ」


 オルキデアさんに縋りつき、えんえんと笑い泣きしている《アルラウネ》達。

 そこに、イクサがやって来て説明する。


「《アルラウネ》の国は、徐々にだけど僕の権力で再生に漕ぎ出している。アンティミシュカが活力を奪った土地も少しずつ、マコからもらった《液肥》によって力を取り戻しつつあり、散り散りとなっていた《アルラウネ》達の中にも帰ってくる者が見え始めた。で、その《アルラウネ》達に、女王オルキデアとフレッサが、王都で巨大な造園事業に携わっていると説明した」

「で、その上でお願いなんですけど」


 そこで、私が《アルラウネ》達へと頭を下げる。


「この自然公園を作り出すうえで、皆さんにも力を貸して欲しいんです」

「「「「「もちろんです!」」」」」


《アルラウネ》達が、声を揃えてそう言った。

 あまりの二つ返事に、私は目をパチクリと丸めてしまう。


「ここに来る途中、イクサ王子様から、マコ様に関するお話は伺いました!」

「私達の国を襲ったアンティミシュカ王子を懲らしめ、再生のためにイクサ王子と協力し、何よりオルキデア様とフレッサ様に大層信頼されていらっしゃると!」

「オルキデア様の嫁ぎ先であると!」

「旦那様であると!」


 おい、イクサ、後半。


「まぁまぁ、多少の脚色はね」

「脚色にも程があるよ」


 何はともあれ、《アルラウネ》さん達は喜んで私達に力を貸してくれるそうだ。

 これで、《アルラウネ》さん達魔族とも友好を示す証となる。

 公園だから、広場や運動ができるようなスペースが欲しい――となれば、芝生がいいだろう。

 果樹や樹木も、彼女達がいれば健康に育つ。

 和気藹々、キャッキャウフフと相談する《アルラウネ》さん達は、正に花の妖精……花の女神のような様子だ。


「なんていうか、順調そのものだなぁ」


 自分で言っておいてなんだけど、本当に、順調すぎて怖いくらいだ。

 ――しかし、やはり、そう上手く物事は進展しないようである。


「マコ」


 そこで、イクサが私に耳打ちをしてきた。

 とても、真剣な表情だ。


「実は、僕もさっき聞いたばかりなんだけど、少し問題が起こってるんだ」



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― 新着の感想 ―
[気になる点] 第1章 ■25 王族にだって毅然と対応します  第三王女、アンティミシュカ・アンテロープ・グロウガ。 ■26 第三王子と第七王子です 第5章 ■8 自然公園を作ります 「私達の国を襲…
[一言] なろう版はアルファの続きから読んでるんだけど・・・アルファ版ではアンティミシュカは王女じゃなかったっけ?なろう版で王子だったとはΣ(・ω・ノ)ノ!でしたw
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