■6 ドワーフ達の働きっぷりです
――国交会議まで、残り18日。
行きの道をそのまま逆戻りし、再び二日掛けて私達は王都に帰ってきた。
王都の人々は、既に見慣れたエンティアの引く荷車と――。
「な、なんだあれ……」
ドワーフ達の乗った、見たことのない形の車に度肝を抜かれていた。
やはり、流通の中心にして最先端である王都の人々にとっても、珍しいようだ。
「丸い、石造りの……」
「カマド?」
「カマドが走ってる……」
煙突から蒸気を上げて稼働する車は、走るカマドに見えるようだ。
しかし、走るカマド……。
そう聞くと、どうしてもアンパ●マン号をイメージしてしまう。
「さてさて」
それはさておき、私達はアバトクス村名産直営店の前に到着を果たす。
「マコ、お帰りー!」
「お帰り!」
マウルとメアラが、私を出迎えてくれる。
「あの人達が、ドワーフ?」
「俺達くらいの背丈しかないな」
そして、車から降りてくるドワーフ達を見て、そうコメントする。
「聞いていたよりひでぇ状況だな」
「ああ、あっちもこっちも荒地だ」
「まぁ、かわいそうとは思わねぇが」
再興中の王都の様子を見回し、ドワーフ達はそう会話を交えている。
「おい、責任者のねぇちゃん」
そこで、一人のドワーフが私に声を掛けてきた。
「チンタラやってても仕方がねぇ、俺達の仕事場に案内してくれ」
うーむ、ガテン系な感じ。
なんだか、ホームセンター時代の資材関係のお客さんを思い出すね。
「うん、ありがとう。早速やる気になってくれて。じゃあ……」
私は、ドワーフ達を連れて、近くの再建中の商店街へ向かう。
ちょうど、観光都市バイゼルから来てもらっていた冒険者の人達が作業に当たっている区画だ。
「けっ、人間ばかりがウジャウジャ居やがる」
そう毒づくドワーフを後目に、私は作業途中の冒険者達に、一旦業務を任せてもらうよう言って、段取りの引き継ぎをする。
そして、現場には私と、この場にやって来たドワーフ達だけとなった。
「おい、見ろ。木材の切り出しの形と言い、角度と言い、いびつでぐちゃぐちゃだ」
「素人仕事だな、こりゃ」
再建中の建物を見ながら、ドワーフ達が辛辣なコメントを言う。
「おい、責任者のねぇちゃん。やっぱり、予定変更だ。あんたの指示に従うと言ったが、俺達はまず俺達のやりやすいやり方でやらせてもらうぞ」
人間の指示に従っていたら非効率極まりない――とでも思ったのだろう。
ドワーフ達は、私を振り返りそう宣言した。
「うん、わかった。多分、その方が良いと、私も思う」
対し、私も特に異論は無いので、そう答える。
思いの外、私が素直に返答したので、ドワーフ達も一瞬呆けていた。
しかし、すぐに目を鋭く尖らせる。
「言っておくが、俺達はあんたらの事を完全に信用したわけじゃねぇ! 先遣隊として来たからと言って、俺達がドワーフの中で人間に心を開いている連中ってわけじゃねぇんだ!」
「ああ、むしろ斥候だ。あんた達を疑っているから、ひと際厳しくこの目で審査させてもらうつもりだ」
「うん、大丈夫。わかってるよ」
私の、暖簾に腕押しな態度に、少し気後れしながらも、ドワーフ達はそれぞれ準備に取り掛かり始める。
「マコ」
と、そこで、背後から声を掛けられた。
見ると、イクサとガライがそこに来ていた。
「大丈夫そうかい?」
「人間に恨みの強い種族だ。そんな奴等を、いきなり人間社会の中に放り込んだら、問題が起きるのは時間の問題だと思うが……」
「うん、私もそう思う」
イクサとガライの心配は、私も重々承知している。
「流石に彼等だけで行動させるのは危険だからね。私が一緒にいて、目を光らせておくよ」
※ ※ ※ ※ ※
というわけで、現在の作業工程、道具や材料の場所等、図面を挟みながら私はドワーフ達に説明をしていく。
「よし、大体わかった」
仮●ライダーディケイドのカドヤ・ツカサみたいなことを言って、ドワーフ達は各々作業に取り掛かり始める。
まずは、やりかけだった木材の加工をし始めるのだが――。
「おお!」
大工道具を扱うその手際、寸分の狂いも出さない熟練の技。
凄い、流石大口を叩くだけの事はある。
あれよあれよという間に、必要な建材を調整し、作り出してしまった。
「よし、できたぞ」
「じゃあ、次は実際に組み立てていくぞ。全員の力が必要だな」
「あ、私も手伝うよ」
そこで、私が手を上げる。
木材の加工が終わったので、次は組み立て、となれば私の出番だ。
「ああ? 別に必要は……」
ドワーフ達も、私が木材を支えたり持ち上げたりするのに力を貸すと思ったのだろう。
細腕の女手が加わってどうなる――と考えたのだろうが、意図は違う。
私は、スキル《錬金》を発動。
次々に、建築のための〝足場材〟を生み出していく。
「な、なんだ、こりゃあ!」
生み出された〝足場板〟〝単管パイプ〟〝クランプ〟〝階段梯子〟〝単管杭〟などを見て、ドワーフ達は騒ぎ出す。
「すげぇ! 組み合わせるだけで、簡単に家作りの足場が組み立てられるじゃねぇか!」
「しかも、相当丈夫だぞ!」
「焼き入れしてあるのか? これなら水に濡れても簡単には錆びないな」
「うん。これで、大分作業しやすくなると思うよ」
私の言った通り、足場を組み立てた後、ドワーフ達の仕事は更に迅速に進んでいった。
見る見る内に、店舗の形が出来上がっていく。
流石! 仮●ライダーゼロワンのサイキョウ匠オヤカタのようだ!
「ん?」
そこで、何やら遠くから騒ぎが聞こえた気がした。
なんだろう?
「どっかで、揉め事かな?」
「おい、そういやぁ、次の工程の道具と材料を取りに行った奴等はまだか?」
「遅ぇな」
ドワーフ達の間から、そんな会話が聞こえた。
「……まさか」
嫌な予感がし、私は騒ぎの聞こえる方向へと向かうことにした。
※ ※ ※ ※ ※
「ふざけんな!」
「なんだと貴様ら!」
騒ぎの元へ向かうと、予想通り、材料を取りに行ったドワーフ達が何やら冒険者達と揉めていた。
「俺達も何か手伝うって言っただけだろ!」
「余計なお世話だ、人間共! こっちはお前らの助けなんていらねぇって言ってんだ!」
「なにぃ!」
どうやら、冒険者達がドワーフに声を掛けたことから、諍いに発展してしまったようだ。
「ストップ、ストーップ!」
私は、急いで両者の間に立ち、仲裁する。
冒険者達には、「彼等《ドワーフ族》は今日来たばかりで、しかも慣れない人間の町での作業で神経質になっている。大目に見て欲しい」と説得。
「あんたが言うなら、仕方がない……」
何とか怒りを納めて、立ち去ってもらった。
「おい! やっぱり人間の味方をするのか!」
一方、喧々囂々と文句を言うドワーフ達に、私は振り返り。
「あなた達も言い過ぎだよ!」
声を大にして説教する。
「確かに、お願いしたのは私達だし助けてもらう立場だけど、むやみやたらに争いに発展させるようなことはしないで! 今の人達だって、悪意があったわけじゃないんだから!」
「ぬぐぅ……」
「確かに街の空気はピリピリしてて、みんな緊張してるけど、それは不安だからなんだよ。だから、極力刺激しないであげて。あなた達だって、喧嘩をしに来たんじゃなくて、私達の文化を知って学ぶためにも来た。その交換条件は飲んだはずでしょ?」
私に言われ、その場のドワーフ達は少し大人しくなった。
やれやれ、予想以上に気を付けないといけなさそうだね。
※ ※ ※ ※ ※
その後、私が輪をかけて監視の目を光らせたことによって、ドワーフ達の作業は特に滞りも問題も起こすことなく、順調に進み――。
「おお! 出来上がっちゃった!」
遂に、最初に作業を進めていた店舗を完成させるに至った。
「なんて事はなかったな」
「ああ、工程も道具もしっかりしてたし、多少の事は知識でどうこうできるレベルだったし」
「凄い凄い! 流石、辣腕技巧種族ドワーフ!」
私が褒めたたえると、ドワーフ達は満更でもなさそうな顔をしていた。
「まだ時間もあるし、もう一軒やっちまうか?」
「え! 大丈夫なの!?」
「ああ。おい、足場を解体して運んでくれ」
「あ、いいよいいよ、一旦私のスキルで抹消して、次の現場でもう一度錬成するから」
その後、日が暮れるまでに、更に一気にもう一軒完成させてしまうのだから、感嘆するしかない。
そんな感じで――夜。
今日も、うちの店舗周辺は、昼間作業を頑張った人達や、難民を集めて炊き出しの宴会となっている。
「さて、と」
一通り配分が終わった後、私はドワーフ達がどこに行ったか探し回る。
すると彼等は、隅の方に固まってお酒を飲んでいた。
「どうしたの? みんな、こんなところで。ご飯はもらった?」
「どうしたもこうしたも、俺達が人間共に交じって仲良く同じものを食うわけにいかないだろ」
うんうんと頷くドワーフ達一行に、私は溜息を吐く。
「腹ごしらえしないで大丈夫なの?」
「俺達ゃ、酒が飲めればいいんだよ。ドワーフの里特製の地酒がな」
ドワーフ達が飲んでいるお酒は、どうやら里から持ってきた物らしい。
かなり癖の強いにおいがする。
ドブロクみたいだ。
「ふぅん、じゃあ、お酒の肴はどう?」
「なに?」
そこで私は、ドワーフ達に提案する。
アバトクス村名産直営店は、夜になると野外酒場を展開している。
そこで、お酒のアテになりそうなメニューも、色々と考えているのだ。
「お待たせ」
「なんだ? そりゃ、フライパンか? 鍋か? 中途半端な形だな」
私は、調理器具の〝スキレット〟を持ってくる。
数日前に使う機会が来るかもしれないと思ってスキル《錬金》で錬成していた、鋳鉄製のフライパン鍋だ。
主にBBQやキャンプなどで使う、蓄熱性に優れ、料理を作ったらそのままお皿にもなる優れもののアウトドア用品である。
シーズニング(油でコーティングし、野菜を焼いて鉄の匂いを消す簡単な手入れ作業)は既に済んでいる。
私は続いて〝ポケットストーブ〟も錬成し、種火を焚火からもらってくる。
その上に置き火にかけたスキレットに、燻製の鶏肉を乗せ焼く。
更に、輪切りにしたアバトクス村産のジャガイモを乗せ、更に更に王都外の農場地帯からお裾分けしてもらったチーズを掛け、スパイスで味付けすれば――。
あっという間に、チキンとポテトのチーズ焼きの完成だ。
「おお!」
「こいつは……」
香ばしい鶏肉とチーズの匂いに、ドワーフ達は涎が止まらなくなっている。
早速、みんなで実食してもらうと――「うまい……」「ああ、うまいな……」と心の声が漏れ出してしまっていた。
「人間共の料理も侮れないな……」
「いや、この鍋も中々だぞ。厚みがあるから、熱が均一に伝わりやすいんだろう」
〝スキレット〟を見ながら、一人のドワーフが顎鬚を撫でる。
へぇ、〝スキレット〟の特性を一瞬で見抜くとは、流石ドワーフ。
「あの金属材と言い、この鍋と言い、どうやって作ってるんだ?」
「魔法だよ」
「なに? じゃあ、加工技術じゃないのか」
「魔法を使ってるとはわかっていたが、まさか一から生み出していたとは……」
「いや、俺達《ドワーフ族》には魔力を持つ者はほとんどいないが、実物を参考に方法を考えれば再現できるかもしれねぇぞ」
「流石に、ゴーレムは無理だろうがな」
酔いも回っているからなのか、ドワーフ達の話も盛り上がってきた。
徐々に、談笑も増え始める。
「しかし、不思議に思ってたんだが……」
そこで、周囲の《ベオウルフ》や《ベルセルク》達を見て、ドワーフが呟く。
「何故、狼の獣人や熊の獣人までいるんだ?」
「確かに、獣人は人間に虐げられていただろ。何故、味方なんて……」
「マコのおかげだ」
すると、偶々近くを通りかかった《ベオウルフ》のラムと、《ベルセルク》のブッシが、そう口を挟んだ。
「俺達は、マコのおかげで死に掛けだった村が再生し、色々な産業革命を起こしてもらった。マコのおかげで新しい生き方を見付けることができたんだ」
「マコは凄いんだよ。家を作ったり、野菜を作ったり、しかも戦っても強いし」
一緒にいたマウルが、そう興奮気味に語る。
「《ベルセルク》も、観光都市から追い出されて迫害されかけていたのを彼女に助けられたんだ」
「……なるほどな」
そんな話を聞き、ドワーフ達は私を見る。
「うん?」
「改めて、一目置く必要がありそうだな」
「あんたは人間だが、大した人格者みたいだ」
「ああ」
しかし、そこで、「だが」と続け――。
「だが、だからと言って、すべての人間と仲良くできるなんて思わねぇがな」
「………」
私は再度思う。
ドワーフ達は、基本的に人間の事を嫌っている。
どうすれば、人間と打ち解け合えるだろう?




