■4 ドワーフという職人達の隠れ里があるそうです
観光都市バイゼルからやって来た冒険者と、《ベルセルク》達が合流したことにより、人手が増えて、少しは作業の効率が上がった。
しかし――。
「やはり、それでもまだそれなりの形にするまでには時間がかかりそうだ」
「……うーん」
横のイクサに言われ、私は唸る。
今日、私達は現状報告のため王城へと行って来た。
その際、王都の中心にあるお城の上から、街を見回すことができたのだけど……。
正直、まだまだ瓦礫とゴミの山が広がっているばかりだった。
街へと戻り、アバトクス村名産直営店へと帰ってきた後、再び色々と思案しているけど……良いアイデアが思いつかない。
私の知っている限りの人脈の中から、人員は引っ張ってきた。
しかし、人数が増えただけで、冒険者達は復興作業に関しては当然、ただの素人。
いや、冒険者だけでなく、今回の復興に参加している市民や他所の領の国民など、大半が素人。
「同盟国との国交会議まで、あと23日しかないんだっけ……」
「このペースじゃあ、会議の頃にはまだ荒廃した街並みが広がっていることになる……か」
イクサが顎元に手を当てて唸る。
うーん……流石に、この行き詰った状態を一瞬で解決できるようなアイデアは、思い付かないなぁ。
「……専門的なノウハウと体力を持った、ハイスペック集団がいればなぁ……」
そう呟いて、私は「えへへ……」と苦笑する。
思わず、夢のようなことを言ってしまった。
すると――。
「…………《ドワーフ族》」
そこで、イクサが呟いた声が聞こえた。
「《ドワーフ族》?」
「ん? ああ、魔族の一種さ」
疑問符を浮かべた私に、イクサが説明する。
「グロウガ国内で存在が確認されている、建築、製造等、独自の技術力を持つ生産能力に長けた種族さ。それが、《ドワーフ族》」
へぇ、凄い。
正にこの状況を解決するのにうってつけの種族だ。
「《ドワーフ族》に関してなら、わたくしも存じ上げておりますわ」
そこで、私とイクサの会話に加わって来たのは、《アルラウネ》のオルキデアさんだった。
「知ってるの? オルキデアさん」
「はい。かつて、わたくし達《アルラウネ》の国の近くに、《ドワーフ族》の隠れ里があったのです」
オルキデアさんによると、《ドワーフ族》はあまり外向的な種族ではなく、自分達だけのコミュニティを作り、隠れ里にこもっているのだという。
但し、《アルラウネ》とは魔族同士、そこそこ親交があったそうだ。
「《アルラウネ》の国の近く……もしかしたら、アンティミシュカの進軍の影響を受けていたりはするのかな?」
イクサが問う。
「どうでしょうか……ほとんど土の下……洞穴のような環境で生活している方々ですので、見付かっている可能性は低いかと」
「うーん……」
ならば、是非とも助けを求めに行きたい。
《ドワーフ族》が協力してくれたなら、この上ない戦力になると考えられる。
「なんとか、助力をお願いに行けないかな?」
私が呟く。
それに対し、イクサもオルキデアさんも渋い顔を浮かべている。
なんだろう?
あまり、《ドワーフ族》への協力依頼を良しと考えていない感じだ。
「何か、問題があるの?」
「うん、大問題があるんだ」
イクサが、苦笑しながら言う。
「さっきも言ったように、《ドワーフ族》は外交的な種族じゃない。人間はおろか、ほとんどの他種族との交流を断っている。そして、その中でも、特に人間族を敵視しているんだ」
「理由は……」
「歴史的に色々あるのさ」
イクサは言う。
まぁ、種族間で色々あるのは、私もこの国で何度も見て来たから、それとなくわかる。
「《ドワーフ族》は、その高い技術力と生産力で様々な発明を生み出してきた。自分達だけで独占している技術も多々あり、かつてこの国の魔道具作成に携わっていたとも言われているほどだ」
「なるほどね……それだけの力を持っていれば、色々と利用されたり、軋轢も生まれるよね」
「正直、関わるのは難しいと僕は思うよ」
……それでも、何もしないよりはマシだ。
熱意を伝え、事情を説明し……何とか、《ドワーフ族》に協力を仰ぎたい。
「イクサ、オルキデアさん。《ドワーフ族》のことを、もっとよく聞かせて欲しいんだけど」
「交渉に行く気かい?」
イクサの問いに、私は頷く。
勝算は、無いわけじゃない。
イクサは、《ドワーフ族》は対外的な交流をほとんどしてこなかった種族。
特に人間とは……と言った。
つまり、今の《ドワーフ族》の内情は、人間側にとってはほとんど知らないという事だ。
何かが変わっている可能性もある。
絶対に無理とは断言できない。
ひとつ引っかかったのは、それだけ外交を嫌うなら、なんで《アルラウネ》とは仲が良かったのか?
分析しよう。
そこに、何か交渉の余地があるかもしれない。
私は、イクサとオルキデアさんと共に、《ドワーフ族》に関する話し合いをする――。
※ ※ ※ ※ ※
「まだ結構かかりそうかな?」
「いや、このままいけば、あと半日ほどだ」
エンティアの引く荷車が、ドワーフの隠れ里へと向かって走る。
その荷車の上で、私とイクサは会話を交える。
王都を出立したのが、昨日の朝。
そこからエンティアにひたすら走ってもらい、途中で一晩明かし、今は二日目の昼頃だ。
大分距離があるとは聞いていたけど、エンティアの足のおかげで移動時間はかなり短縮できているようだ。
ちなみに、今回の旅に同行しているメンバーは……。
まず、イクサと護衛のスアロさん。
そして、ガライ、オルキデアさん、フレッサちゃん。
「くぁ~……まだ着かんのか?」
横になって欠伸を発しているデルファイ。
加えて――。
「……わ、私もご一緒させていただいて、本当によろしかったのでしょうか?」
荷車の隅の方で、恐縮そうに体育座りをしているのは、三角帽を被った魔女。
Sランク冒険者の一人で、魔術学院の講師も務めている、オズさんだ。
「いいんです。むしろ、お願いしたのはこっちなんですから」
そう、今回、私が頼んで彼女にも同行をお願いしたのだ。
理由は――まぁ、後程。
「ほら、そう硬くならずに。もっとこっちに来てもいいんですよ?」
人見知りのオズさんは、まだこの状況に慣れずびくびくしている。
そんな彼女を、荷車の真ん中の方へと引っ張る。
「オズ様、フルーツはいかがですか?」
「おいしいですよ!」
と、オルキデアさんとフレッサちゃんがオズさんに果物を勧める。
「あ、はい……では、お言葉に甘えて」
オズさん、なんとなくオルキデアさんとは仲が良い感じだ。
この前の悪魔の襲撃の際、共闘したから距離が縮まったのかな?
「あら? なんだか、懐かしい雰囲気が感じられますわ」
都市や村を離れ、ほとんど人の手の入っていない、正に自然のままといった風景が広がる地域に入ってきた。
その光景を、オルキデアさんとフレッサちゃんはしみじみとした表情で眺めている。
「《アルラウネ》の国があった森も、すぐ近くだね」
イクサが言う。
「アンティミシュカを倒した後、その所有する基盤は僕が受け継いだ。彼女が侵攻し、力を奪った土地を徐々にではあるけど再興中だ。《アルラウネ》の国のあった場所にも、少しずつ元居た《アルラウネ》達が帰って来ていて、段々と元に戻りつつあると報告を受けているよ」
「まぁ、そうなのですね」
「よかったです!」
《アルラウネ》の国は、小さな村くらいの大きさで、森の奥で暮らす《アルラウネ》達で築かれていた。
オルキデアさんとフレッサちゃんは、その国の女王の末裔なのだけど、今はすっかりアバトクス村の一員となっている。
「ひと段落したら、また里帰りをしてみましょうか、フレッサ」
「はいです!」
本人たちの性格の問題かもしれないけど、オルキデアさんもフレッサちゃんも、自分達が女王だっていう責任感みたいなものはあまりないのかな?
それとも、それだけユルい感じだったのかな、《アルラウネ》の国。
さて、そんな会話を交えながら、しばらく走り――。
「着いたよ」
私達は、遂に目的の場所に到着を果たした。
……のだけど。
「ここが?」
「ああ」
私達の目の前には、大きな滝がある。
轟々と音を立てて流れ落ちる巨大な水の壁。
実際には見たこと無いけど、ナイアガラの滝くらいの大きさがあるかな?
……いや、流石にそこまでじゃないか。
「この滝の裏に、ドワーフの隠れ里に繋がる入り口がある」
オルキデアさんも、こくりと頷く。
エンティアも荷車から解放し、ここからは皆徒歩で向かう。
滝の後ろに回り込むと、そこには確かに大きな横穴の入り口があった。
暗闇の満ちた地下を、前へ下へと進んでいき――。
――やがて、松明の明かりが見えてきた。
「うわぁ……」
そこに広がっていたのは、正に地下都市。
そう表現できるほどの大きな、大地の下に作られた隠れ里が現れた。
ここが、技工士種族、《ドワーフ族》の里だ。
「ん?」
そこで、早速近くを一人の《ドワーフ族》が通りかかった。
年配の男性で、人間と比べて大分背が低く、子供位の大きさだ。
マウルやメアラと同じくらい。
聞いていた通りの見た目である。
「人間? ……お、おい! 人間だぞ!」
そのドワーフが叫ぶと、気付いた他のドワーフ達もこちらを振り返る。
「なんだ、こいつ等!」
「おい、お前等、何の用だ!」
一気に殺気立ち、ドワーフ達が武器を持って集まってくる。
あれ? いきなり一触即発?




