表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

137/168

■3 観光都市からの増援が来ました


 ――私達が観光都市バイゼルを訪れてから、数日後。

 依然、人々が不安を抱き、鬱屈とした空気が満ちたまま、復興が続く王都。

 かつて、石畳の路の脇に様々な店が並ぶ商店街だった場所は、瓦礫と石塊が積み上げられ、その面影も残っていない。

 皆、静かに黙々と、いつ終わるのかもわからない作業に従事している。


「……ん?」

「あれは……」


 その時だった。

 地面の揺れを感じ取った者が、こちらに向けて何かがやって来ているのに気付く。


『コラー!』

『コラコラー! 急げ急げ、コラー!』


 何匹ものイノシシ達が引っ張る荷車が、隊列のように次々に王都の中を突き進んでいく。


「おう、こりゃひでぇ有様だな」

「働き甲斐がありそうだ」


 その荷車に乗った、観光都市バイゼルの冒険者や《ベルセルク》達が、王都の状況を見て腕を回している。

 皆、やる気満々だ。


「なんだ、あれ……」


 どんどん王都へと入ってくる荷車の列の中に、ある異様なものを見付けて、王都の人々が不思議そうな顔を浮かべている。


『姉御、やはり皆これに注目しているな』

「まぁ、目立っちゃうよね」


 エンティアの背中に乗った私は、そのエンティアが、他のイノシシ君達と一緒になって運んでいる、〝それ〟を振り返ってみる。

 それは、巨大な木の箱。

 見た目だけなら、大型トラックのコンテナくらいのサイズがある、角材を組んで作られた、長方形の物体だ。

 一見は、木製の巨大な箱にしか見えないだろうけど、上から見るとこれが何なのかすぐにわかる。


「……ん? なんだ? 海の匂い?」


 通行人の中から、そんな声が聞こえる。

 そう、この箱の中には海水が満たされ、その中には観光都市バイゼルの海で採れた魚達が泳いでいる。

 これは、生簀(いけす)だ。

 新鮮で大ぶりな魚達を、生きたまま運ぶために、ガライを筆頭に皆で作り上げたのだ。

 やがて、私達は目的地――アバトクス村名産直営店の前に到着する。


「おお! あいつらだ!」

「久しぶりだな、《ベルセルク》達!」


 荷車から下りてくる《ベルセルク》を見て、《ベオウルフ》の皆が駆け寄ってくる。


「そっちこそ、無事で何よりだ!」

「ウーガ、うちの村で採れた野菜も持って来たぜ!」


 皆が、再会を喜び合っている。

 そんな中。


『こりゃー!』

『ぽんぽこー!』


 ウリ坊の群れから飛び出したチビちゃんが、荷車から下りてきたマメ狸のポコタと体を摺り寄せ合う。

 相変わらず仲良しである。

 二匹も、再会が嬉しいようだ。


『きゅーん、きゅーん!』

『ぷー』


 更に、バンビちゃんと子豚も。

 第二アバトクス村から、懐かしのメンバーが皆集まってきた感じである。


「おお、これはこれは、見覚えのある方々ばかり……」

「マコ様、こちらの方々が、観光都市バイゼルの冒険者の皆様ですか?」

「あ、ベルトナさん、モグロさん」


 そこで、一緒に復興作業をしていたベルトナさんとモグロさんが現れる。

 王都冒険者ギルドの受付嬢と、専属鑑定士……この状況なので、二人も今は貴重な人手だ。


「お帰り、マコ」

「イクサ、そっちはどう?」


 私は、二人と一緒にやって来たイクサに問う。

 イクサは、微笑みを浮かべる。


「ああ、問題ない。あっちには既に話を通しておいたよ」


 イクサが、王城の方を指さす。

 復興責任者である私の名のもとに、冒険者を復興支援の人手として雇う任務をギルドに依頼する――その報酬の件は、どうやら承認されたようだ。


「よっし、じゃあ、早速だけどみんな、ご協力お願いします!」

「おう! 力仕事なら任せとけ!」

「とりあえず瓦礫を運べばいいのか?」


 こうして、観光都市バイゼルの冒険者達、そして《ベルセルク》の皆が、王都復興事業に合流を果たした。




※ ※ ※ ※ ※




 増えた人手は数十人かもしれないが、問題はその内容だ。

 体力、膂力……力仕事を常とする冒険者達の増援は、常人の数倍の効力を発揮してくれる。

 更に、《ベルセルク》達に至っては、私達と一緒に、ほとんど0の状態から第二アバトクス村を興した経験がある。

 一般人とはノウハウが違う。


「彼等は、わざわざ王都にまで出向いて復興作業を手伝ってくれてるのか」

「獣人なのに……」

「俺達に協力をしてくれるなんて、ありがたい」


 人間に協力し、力を分けてくれる獣人達に、人々も感謝している。


「マコのおかげで、また獣人に対する偏見が変わったかもな」

「そうかな?」


 材木を運ぶ《ベルセルク》や《ベオウルフ》達に、そう言われた。

 とにもかくにも、強力な助っ人達が合流したことで、少しだけ王都の雰囲気が軽くなったようだ。

 皆が、久しぶりに笑顔を浮かべている気がする。


 ――その夜。


「はぁー、今日も疲れたぜー」

「まぁ、昨日までに比べたら大分進んだんじゃないか?」


 日も落ち、とりあえず今日の作業は終了となった。


「みなさーん、集まってー」

「ん?」

「なんだ?」


 そのタイミングで、私は皆と一緒に街中を歩き回って、王都の人々に呼びかける。


「今日も、うちのお店の前で炊き出しをふるまいますよー!」

「おーい、マコちゃんが呼んでるぞ」

「アバトクス村名産直営店の前に集合だ」

「あー、腹が減ったー」


 呼び掛けを聞き、続々と集まってくる皆さん。

 すっかりこの近辺では、うちのお店の炊き出しが夜の楽しみとなっているようだ。

 しかし、今日の炊き出しはいつもとは一味違うメニューとなっている。


「あ、来た来た」


 アバトクス村名産直営店の庭では、既に皆が準備万端の状態で待っている。


「炊き出しはこっちだよー」

「ですー」


 マウルとメアラ、フレッサちゃんが大きく手を振って皆を誘導する。

 私が錬成した〝大鍋〟から漂う香りが、食欲を誘う。


「今日は、観光都市バイゼルから輸入した、新鮮な海の幸だぜ」

「おお! これが!」


 貝やエビの海鮮バーベキュー、魚を使ったスープ、焼き鮭や焼きマグロ。

《ベルセルク》と《ベオウルフ》達が、食器を手に並んだ市民達に配膳していく。


「ブッシ、大丈夫か?」

「任せろ。出来上がった先から持って行ってくれ。レイレ、頼むぜ」

「刺身の方はあたしに任せなさい」


 更に、ブッシとレイレ達が協力し、名産品の数々を提供していく。

 海鮮丼やチラシ寿司――噂には聞いた品々に、皆舌鼓を打つ。


「あー、スープが体に沁みるなー」

「もう肌寒い季節だからな」


 体も心も温められて、ぽかぽかとした空気に満たされる。

 ここ最近の、ギスギスして辛い雰囲気が、嘘のようだ。


「うん、よかったよかった」

「マコ、ちょっといいか?」


 そこで、ブッシに声を掛けられる。


「ブッシ、どうしたの?」

「この前話してた、新しく考案した料理の事なんだが」


 あ、そうだ。

《ベルセルク》の皆が言っていた。

 なんだか、私が前に食べたいって言ってたのを元に、ブッシが色々と研究して作ってくれたって聞いたけど……。


「ちょうど時間ができたし、披露しようと思ってな」


 ブッシが、空いているテーブルを一つ指し示す。


「いいの? ブッシも疲れてるでしょ」

「俺の今日の仕事は、炊き出しの準備くらいだ。お前こそ、色々責任のある仕事を背負って、俺なんかより遥かに疲れてるだろ。少しは、労わらせてくれ」


 優しいなー、ブッシ。

 私はお言葉に甘えて、指定されたテーブルに座る。


「楽しみだなぁ」


 ワクワクしながら待っていると、ブッシが私の目の前にやって来て、テーブルの上に食材を並べていく。

 これは……寿司用の酢飯だ。

 それに、切り揃えられた刺身……。

 ブッシが、私の前に木の板を一枚置く。

 ん? これって……。


「よし」


 ブッシが、おひつの中から酢飯を指先で救い上げ、手の中できゅっと固める。

 ……やっぱり。

 これは……まさか……。


「もしかして、握り寿司!」

「へい、お待ち。マグロの赤身だ」


 寿司下駄の上に、正に赤身の握り寿司が置かれる。

 おお! 凄い!


「ブッシ! 本物の江戸前寿司職人になったんだ! いや、厳密には本物じゃないんだけど!」

「前に、お前が語ってたのを思い出しながらな。米の握り方から、刺身の切り方まで、色々と研究して作ってみた」


 ううう、やばい、日本人の血が騒ぎ始める。

 我慢などできず、私はお寿司を手に取り、一気に口の中に入れる。

 醤油が無いけど、今はこのままでいい。


「………んんん~~~~~~~~~~~!」


 と、思わず両足をバタバタさせて唸ってしまった。

 美味い!

 口の中でほろりと崩れるシャリ!

 新鮮な触感と旨味の凝縮された赤身!

 正に職人の技!

 銀座●兵衛を思い出す!

 いや、当然食べたことなんて一度も無いんだけどね!


「ど、どうした? マコ」

「ぐす……なんだか、感動して涙が出てきちゃった……」


 そんな感じで、ブッシの熟練(?)の技を堪能し、私は久方ぶりのお寿司に大満足なのでした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
[一言] 醤油なしの山葵抜きなのか?それとも醤油なし山葵ありの握り寿司?醤油なしだと山葵も効くなぁw 外出自粛の今寿司も食べに行けない・・・まぁ近所に回るお寿司店もないし出前なんだが、お店で食べたいw…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ