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■2 第二アバトクス村からの援助です


 かつて、私達が観光都市バイゼルで携わった事件。

 その際に救出した、熊の獣人――《ベルセルク》達が暮らし営む村――第二アバトクス村の門を潜る。

 相変わらずの賑わいを見せる観光地が、そこに広がっていた。

 みんなで協力し、一緒に建てた建造物の数々を見回す。

 近くの森の木々を使って作った工芸品や、畑で収穫された野菜、海で採れた魚を天日干しにして作った干物。

 それに燻製品なんかが、お土産物として店頭に並んでいる。


「ん? な、なんだ、あの巨大な狼……」

「魔獣か!?」


 観光客達の中から、私と一緒にいるエンティアの姿に気付き、そんな声が聞こえ始めた。

 ああ、やっぱり目立つよね、エンティア。

 私達はすっかり慣れちゃってるけど。


「え? 巨大な狼?」

「まさか……」

「あ! やっぱりそうだ! エンティアだぞ!」


 その時だった。

 エンティアに驚くお客さん達の声に気付き、《ベルセルク》の皆がわらわらと集まってきた。


「みんな、久しぶりー」


 私が手を振って挨拶すると、皆、一瞬呆けたような顔になって――。


「マコ!」

「マコじゃねぇか! おいみんな、マコだ!」

「それに、ガライも!」


 みんなが、歓喜の声を上げて集まってくる。

《ベルセルク》達だけじゃなく、騒ぎを聞きつけた行商人の人達もやって来て、一瞬で人だかりが出来上がってしまった。


「久しぶりだな! 元気にしてたか!」

「でも、存外早く戻って来たな!」


 私達が観光都市からアバトクス村に帰って、王都に行き、そして今日まで……大体、一か月弱くらいか。

 確かに、結構早く戻ってきた感じだね。


「おい、ブッシ! マコだぞ! マコ達が帰ってきた!」

「何度も言わなくてもいい。聞こえてる」


 そこに、人込みをかき分け一人の《ベルセルク》がやって来る。

 この村の《ベルセルク》達の中におけるリーダー的存在――ブッシだ。


「ブッシ、久しぶり」

「マコ、また会えて嬉しいぜ」


 握手をしながら、私達は久方ぶりの再会を喜ぶ。


「どう? 食堂の方は。きっと忙しいんだろうけど」


 ブッシは、漁で培った包丁捌きから、この村で料理人として色んな人気メニューを手掛けている。

 新鮮な魚を使った料理――最近では、海鮮丼なんかが話題の品だ。


「ああ、レイレから色々親切に教えてもらって、町の冒険者ギルドに氷の魔法を使える魔法使いを紹介してもらえないか、依頼したんだ。今じゃ、魚の刺身を使ったメニューも更に増やしたぜ」

「おお! 凄い!」


 驚く私。

 すると、《ベルセルク》達がニヤニヤと笑みを浮かべ始める。


「おい、ブッシ。マコに言わなくていいのか?〝アレ〟も作れるようになったって」

「マコが食べたいって言ってたから、お前、かなり真剣に研究して、色々と作り方を勉強してただろ?」

「う、うるさい、後でちゃんと言うつもりだった」

「え? なになに? 何の話?」


 仲間達に何やら急かされ、ブッシが気恥ずかしそうに目線を泳がせている。

 何やら、かなり自信のある新メニューを開拓したようだ。

 これは楽しみだね。


「アイヤー! 村長さん、久しぶりだヨー!」


 行商人達の中から、お団子ヘアーの女の子が飛び出してくる。

 あ、アムアムだ!

 カイロンと同じ五ノ国出身の子で、お米とかお酢とか、色々と貴重な商品を独自ルートで輸入してくれる、頼れる商人だ。


「ブッシちゃん、ブッシちゃん、遂に村長さんにあの料理を食べさせてあげる時が来たネー、アムアムも頑張るヨー」

「余計なことを言うな」


 おや? アムアムも協力してる様子?

 一体、何を作ってるんだろう、気になるな。


「ブッシ、みんな、ありがとう。凄く楽しみだけど……その前に、みんなにお願いがあって来たんだ」

「お願い?」

「なんだ?」

「マコの頼みなら断るはずがないぜ」


《ベルセルク》のみんなが、ノリノリでそう答えてくれる。

 ありがたい。


「みんな、今、この国の王都が大変なことになってるのは知ってる?」

「ああ、話には聞いてるぜ」

「マコも王都にいたのか?」


 私は《ベルセルク》達に、王都が悪魔に襲われたこと、そして、それを私達が撃退したこと。

 そして今回、なんと私が、その被害からの復興責任者に任命されてしまったことを説明する。


「Sランク冒険者達の活躍で悪魔達は倒されたって聞いてたが……まさか、マコが中心になってたとはな」

「中心って言っても、みんなに協力してもらっただけだけどね」

「俺達の時と一緒だ」

「それに、王様に任命されるなんて、流石、頼りにされてるんだな」


 うんうん、と頷く《ベルセルク》達。

 私は言う。


「で、今回、みんなにも王都を救うために一緒に協力して欲しいんだ……どうかな?」

「なるほどな」

「マコ、俺達がノーと言うと思うか?」


 皆、仮●ライダークウガのゴダイ・ユウスケばりに、良い笑顔でサムズアップしてくれた。

 この上無く頼りになる協力者が手に入った。

 本当にありがたい!




※ ※ ※ ※ ※




 ――その後。

《ベルセルク》のみんなに、今後の詳しい説明を終えた後、私達は続いて観光都市バイゼルの街中へと来ていた。


「あの壁に覆われていた中心部も、復旧が続いてるみたいだね」

「ああ」


 エンティアの引く荷車に揺られながら、私とガライは久方ぶりの街中の風景を眺めている。

 ワルカさんとアスモデウスに操られた王族、スティング領主が、この都市の真ん中に賭博や違法薬物など……人間の欲望を暴走させる施設を作り、巨大な壁で隠蔽していた。

 結果、私達が(というか、私が)その壁を破壊したのだけど、その再興が今も進んでいるようだ。

 スティング領主、頑張っているようで安心した。

 イクサから聞いたけど、そんな中でも、王都への支援は惜しまないとスティング領主は言ってくれていたそうだ。

 以前の事を、恩に感じてくれてるのかもしれない。


『姉御、到着したぞ』


 そうこう考えている内に、私達は観光都市バイゼルの冒険者ギルドへやって来た。

 入口の扉を開け、中に入る。

 当然だけど内装も変わっていない。

 今日も、多くの冒険者達で賑わっている。

 ここも懐かしいね。


「いらっしゃいま……ま、マコ様! ガライ様も!」


 そこで、たまたま近くを通りかかった受付嬢の女性がびっくりしたように声を上げた。

 覚えている。

 三つ編みの受付嬢、コルーさんだ。


「お久しぶりです、コルーさん」

「お、お久しぶりですー! どうしたんですか!?」


 コルーさんの声を聞いて、他の冒険者達も私達に気付き始めた。


「……おい、今、マコとガライって言ったか? ……」

「あの、Sランク冒険者のか? ……」

「この観光都市に続いて、王都を襲った悪魔共も撃退したっていう……」


 次第にざわめきが大きくなっていく。

 よく見ると、前にこの冒険者ギルドで見かけた顔ばかりだ。

 根無し草の冒険者だけど、大体活動の拠点をここに決めている人達なのかもしれない。

 すると――。


「おい、何か今聞きたくもねぇ名前が呼ばれた気がするが……」


 机の一つに腰掛け居眠りをしていた、一人の冒険者が顔を上げた。

 そして、苦々しげに呟きながら、私達の方を見て――。


「な!? お、お前等!」


 聞き覚えのある顔に声。

 彼は――かつてこの街で迫害されていた《ベルセルク》達を討伐しようとして、私達と衝突した……。


「あ、サイラスだ。冒険者ギルドから追い出された後、洗脳されていたスティング領主の部下に再就職したのち、借金で首が回らなくなって闘技場の戦士になって、色々あって酷い目に遭った呪い使いのサイラス・イエローストンだ」

「よく覚えてやがったな、チクショウ!」


 サイラスは地団太を踏んでいる。


「こんなところで、どうしたの? 冒険者は廃業したんじゃなかったの?」

「はい。一時は廃業していましたが、就職先を失ったという事で、再び冒険者ギルドへと戻ってこられました。以前のペナルティーに加え、新入りのFランクからの開始でも構わないと泣いておっしゃられていたので、特例で再登録を許可されたんです」


 私の質問に、コルーさんが親切に説明してくれた。

 サイラスは「いちいち詳しく言うな!」と暴れている。


「で、なんでお前らがこんなところ居るんだよ! 王都に居たんじゃねぇのか!?」

「うん、実はね」


 半ば切れ気味のサイラスだけど、皆が私達に注目している状況で、彼がそう切り出してくれたおかげで話がしやすくなった。

 私は、ギルド内の冒険者達を見回しながら言う。


「今日は、この冒険者ギルドに任務を依頼しに来ました」

「任務を……依頼?」

「依頼って言ったか?」


 冒険者達がざわつく。

 そう、今日は私が彼等にお願いする側で来たのだ。


「王都が今大変なことになってるのは、知ってますよね? 復興、復旧、他にも取り締まりや物資の運搬……人手が欲しいんです。王都の冒険者ギルドで活動していた冒険者達は、現在大半が療養中です。なので、皆さんに助けて欲しいんです」


 私は、自身の要望を語る。


「参加人数は無制限。無論、冒険者ギルドへの依頼だから、報酬も約束します。私は今回の王都復興の責任者なので、王城からも支援がもらえます」

「ハンっ、何を言い出すかと思えば」


 私の言葉を聞き、サイラスは鼻を鳴らして椅子の上にのけぞった。


「俺はお前に何度も煮え湯を飲まされたんだぜ! 協力するわけ――」

「わかった! Sランク冒険者の頼みとあらば、断れるはずがない!」


 そこで、一人の冒険者が立ち上がった。


「俺は、前にあんたが《ベルセルク》を救うためにここに来た時、半信半疑で何もできなかった……まぁ、そもそも俺には《治癒》の魔法なんて使えなかったから、どっちにしろ役立たずだったが……だが、今回の事なら力になれそうだな」

「俺も! 俺も参加するぞ!」

「俺も!」


 冒険者達が、一人、また一人と私の任務に参加を表明してくれる。


「皆さん……ありがとうございます!」

「で、いつから始まるんだ?」

「早速、王都に向かった方が良いのか?」


 結果、サイラス以外みんなが協力の姿勢を示してくれた。

 かつて自分のやったことが、ここにきて繋がっている。

 人生とは不思議なものである。

 私は、コルーさんに任務の依頼書を提出し、正式に皆を王都に招くための指示を始める。

 さて、まずは、大きな一歩になりそうだ。




※ ※ ※ ※ ※




 皆が出ていった冒険者ギルド。

 その中に、ぽつんと、サイラス一人だけが残されていた。

 横には、コルーが立っている。


「………」

「あ、サイラス様。王都支援のための、薬草摘みの任務も入っていますけど、どうですか?」

「誰がやるか!」



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