表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

134/168

■プロローグ 久しぶりに宴会です


「はぁ~~~……」


 夜。

 日が沈み、松明の明かりが夜闇を照らしている。

 半壊したアバトクス村名産直営店の敷地内――いつも飲食スペースに使っていた庭にて、私はテーブルの一つに腰掛け深い溜息を吐いていた。


「大丈夫? マコ。具合が悪いの?」


 右隣に座ったマウルが、心配げに私の背中を撫でる。


「……王様に何か言われたの?」


 左隣に座ったメアラが、訝るような表情でそう言った。


「うーん……大丈夫だよ、マウル。体調は悪くないから」

「とんでもない大役を任されてしまったね」


 正面に座ったイクサもまた、困ったような表情を浮かべている。

 そう――今日の昼間、私はグロウガ王から大変な役目を与えられてしまったのだ……。




※ ※ ※ ※ ※




 私――本田真心(ほんだ・まこ)は、かつてホームセンターに勤める普通の現代人だった。

 だがある日、激務続きの仕事から帰還し、家の玄関で寝落ちしてしまったところ、気付くと異世界にいたのである。

 そこで双子の獣人、マウルとメアラに出会ったことで、彼等――《ベオウルフ》の村に案内され、そこで一緒に生活をするようになった。

 この世界では、私には《DIYマスター》《グリーンマスター》《ペットマスター》という三つの称号が授けられており、RPGゲームさながらの……でも、ちょっと変わった……スキルを使用することができる。

 あらゆる金属(但し、ホームセンター商品に限る)を生産する《錬金》や、動物と会話ができる《対話》、植物を育てるための肥料を作成する《液肥》等だ。

 それらのスキルを活用し、私は今日までゆったりのんびり、気儘な異世界生活を送って来ていたのである。

 日々の中で、様々な人達と出会い、そして時には悪魔の陰謀と戦いながら……。

 ……うん、結構ゆったりのんびりって感じじゃないね。

 ともかく、そんな中、遂に魔界から人間界を破壊せんとやって来た、邪悪な種族《悪魔族》の魔の手により、このグロウガ王国の王都が破壊の限りを尽くされてしまった。

 悪魔達は、私に協力してくれた仲間達のおかげで退けることはできたけど、その爪痕は深く王都に刻まれてしまった。

 で――今回、その王都復興の最高責任者に、王様直々に任命されてしまったのが、この私なのである。




※ ※ ※ ※ ※




「ははは、今までになく一番頭を抱えてるね、マコ」

「……笑い事じゃないよ、イクサ」


 ぎろりと、私はイクサを睨む。

「おっと」と、イクサは視線を横に逸らした。

 ほら、後ろでスアロさんも呆れてるよ。


「そう怒らないでくれよ、マコ。無論、僕も仲間として君への協力は厭わないからさ」


 イクサはこの国の現王――グロウガ国王の息子の一人、つまり王子様だ。

 現在、この国では60名以上の王子達が次期王位の継承を争わされており、イクサは現状の、第三位継承権所有者なのである。

 その後ろに仕えるスアロさんは、イクサの護衛である。


「おい、マコ。ちょっと机を空けてくれよ」

「え?」


 机の上に突っ伏していた私の頭上から、声が聞こえた。

 顔を上げると、大皿に乗った巨大な骨付き肉がドカンと置かれる。

 炭火で焼かれた香ばしい匂いが、食欲を刺激してきた。


「どうだ? 旨そうだろ」


 料理を運んできたのは、私の仲間の《ベオウルフ》の一人、料理の得意なラムだった。


「こんな時だからこそ、気分を暗くしたらダメだからな。今日は宴会にしようぜ」


 見ると、お店の庭では、既にバゴズやウーガをはじめとして、皆が焚火を囲い、酒盛りを始めていた。

 本当に宴会が好きだねぇ、《ベオウルフ》のみんなは。

 アバトクス村じゃ毎夜の事だったし、このお店も夜は居酒屋みたいな雰囲気になるからね。

 ……でも。


「そうだね」


 ラムの言う通り、私達は自分達のお店を建て直さなくちゃいけない。

 それは、王都を復興しなくちゃいけないという事と、方針的には変わりないはずだ。

 ……まぁ、ちょっと規模は大きくなりすぎな気もするけど。

 でも、そんな心構えの人間が、最初から落ち込んでたんじゃダメだ。

 前向きに、前向きに。


「よぉし! 今日はお疲れ、みんな! 盛大に飲もう!」

「おおう!」

「マコは酒じゃなくてジュースな!」


 ということで、皆で宴会を開始する。


『コラー! 何はともあれ、みんな生き残ってよかったぞ、コラー!』

『居なくなった時は心配したんだからな、コラー!』

『『『『『こりゃー!』』』』』


 イノシシ君とウリ坊達も、傷物になった果物や野菜をがつがつと食べている。

 ラム、バゴズ、ウーガ達に、王都で雇ったお店のスタッフの人達も、料理を作りお酒を飲み、昼間の疲れを癒す。


「マコ様! お話は聞きましたわ!」

「聞きましたです!」


 そこに、《アルラウネ》の姉妹、オルキデアさんとフレッサちゃんがやってくる。

 オルキデアさんの方はお酒が入っているようで、既にほろ酔いの状態だ。

 あまり強くないのに、お酒好きなんだよね。


「わたくしもマコ様の助けになれるよう、尽力致します! なんでも申し付けてくださいませ!」

「です!」

「うん、ありがとうね、オルキデアさん、フレッサちゃん。オルキデアさんは、ちょっと座って水飲もうか」

「マコ、聞いたわよ」


 ふにゃふにゃしているオルキデアさんを椅子に座らせたところで、今度はレイレがやって来た。

 彼女は、グロッサム家という青果を取り扱う大商家の娘で、お嬢様なのである。


「王都復興の最高責任者に、しかも国王から直々に任命されるなんて、凄いじゃない。流石はマコね」

「いやぁ、過大評価だとは思うけどね」

「最高責任者ってことは、当然色々と好きにできるんだろ?」


 地べたに寝そべりながら、バーベキューを食べていたデルファイが言う。

 彼は《火蜥蜴族(サラマンダー)》の血の混じった、顔の一部に鱗を持つ亜人である。

 同時に、ガラス細工を作る芸術家でもある。


「だったら王都の一角に、俺様の芸術的工房(アトリエ)をドカーンと」

「そんなしょうもないもんにお金を掛けられるわけないでしょ、バカ」

「アアン? 何がしょうもないだ。言っとくがな、今回の大騒ぎで俺様の家も完全に壊されて――」

「はいはい、ストップストップ。大丈夫だよ、デルファイ。君の家も、ちゃんと再建するから」


 さてと。

 私は、盛り上がる庭を抜け、店舗の中へと向かう。

 瓦礫や内装が一旦取り除かれ、今やお店の中はスッキリしている。

 建築していた当初の事を思い出すね。


「ガライ」


 その中で、一人黙々と、補修用の材木を打ち付けている人物がいる。

 長身で引き締まった体格をしている、黒髪に浅黒い肌の男性。

鬼人族(オーガ)》の亜人で、かつて王都の暗部に所属していたエージェント、ガライだ。

 アバトクス村近くの山で出会ってから今日まで、色々な事を手助けしてもらってきた、頼れる仲間である。


「マコ」

「お疲れ様。今日はもう大丈夫だから、外で宴会に参加しよう」

「……城で、大変な仕事を任されたんだってな」


 ガライに言われ、私はふぃーっと嘆息する。


「そうなんだよねー……まぁ、でも、任されちゃったものは仕方がないし。それに、やること自体は規模が大きくなっただけで、そこまで変わらないし」

「……俺にできる事があるなら言ってくれ。いくらでも力を貸す」

「うん、それもいつも通りだね」


 私が背中をポンッと叩くと、ガライは微笑みを浮かべる。

 何かを作る時も、敵と戦う時も、いつだってガライは私に力を貸してくれた。

 彼がいれば、今回の件だって難無く越えられそうだと、そう思わせてくれる。

 信頼感が半端ない。


『コラ貴様! さっきから美味そうな肉ばかり横取りしおって! 病み上がりなんだから大人しくしていろ!』

『うるさい! 傷なら既に完治した! この肉は俺のものだ! マコも俺のものだ!』

『どさくさにまぎれて姉御を取ろうとするな、バカ!』


 庭に出ると、早速エンティアとクロちゃんの喧嘩に遭遇した。

 大きな《神狼》と《黒狼》が、もふもふ絡み合って肉を取り合っている。

 元気だねぇ。


「もう、エンティア、クロちゃん。そんなに喧嘩しなくたって肉はまだ……あれ?」


 そこで、私は気付く。

 すっかり夜になり、松明と焚火の明かりが照らす中――私達のお店の周りに、何人もの人だかりが集まって来ていた。

 王都の市民達だ。

 きっと、宴会の騒ぎと、食べ物の匂いに引き寄せられてきたのかもしれない。


「……そうだ……みなさーん! 今日は、瓦礫の撤去に一日中の作業、お疲れ様でーす!」


 私は大声を張り上げて、集まった人達に言う。


「よかったら、食べ物とお酒、それにお菓子なんかもありますから! 一緒に明日への活力を回復させませんかー!?」


 私が叫ぶと、市民達は驚いたように互いに顔を向け合う。

 そして一人、また一人ずつ、おずおずと宴会の輪の中に加わっていく。


「……まずは、できる事から、しないとだね」


 それが、きっと皆を助ける力になるはず。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ