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■12 盗賊団を成敗します



「団長! お気を確かに!」

「止めろ! 揺らすな!」

「……うわぁ」


 さっきの一撃が、偶然にもいい所に入ってしまったようで……。

 気絶させてしまった騎士団長が、部下の騎士達に介抱されている様子を眺めていると、少し申し訳ない気持ちになる。

 ……しかしまぁ、私がいつまでもそうしているわけにもいかない。

 気持ちを切り替え、私は盗賊団に占拠された店の方を見る。


「盗賊どもに告ぐ! イクサ王子が参られたぞ!」


 騎士の一人が店に向かってそう叫ぶ。

 すると店の入り口が少しだけ開き、その隙間から誰かが顔を出した――盗賊の一人だろう。

 上手く隠していて、顔はちゃんとは見えない。


「魔道具は持ってきたのか!?」


 盗賊が叫ぶと、イクサが答える。


「ああ! 持ってきた! 僕が渡しに行けばいいのかい!?」

「バカか! 魔道具は無力な一般市民に持って来させろ! 騎士でもお前でもねぇ!」


 盗賊の要求は、魔道具を一般人に持って来させろというもの。

 うん、理想通りの展開だ。


「了承した!」


 言うと、イクサは私のところにやって来る。

 そして、肩から掛けていた鞄を、私に差し出してきた。

 そう、作戦は単純。

 まず私が、無関係で無力な一般人を装い、イクサの鞄を持っていくところから始まる。


「……マコ、本当にいいのかい?」

「大丈夫ですよ、王子」


 私は微笑む。

 半分は虚勢だ。

 …………ごめん、本当はほとんどが虚勢。

 今更になって、自分が何をしているのか、恐ろしくなってきた。

 騎士団の団長を張り倒し、騎士団の動きをイクサの権限で止めさせ、こんな私の作戦を優先させるなんて……。

 ……でも、こうなったからには、やるしかない。


「マウル、メアラ」


 私は二人の顔を思い出し、鞄を担ぎ直す。

 勇気が出た。

 大丈夫、大丈夫。

 こんなのお盆の時期の繁忙期に、アルバイト君もパートさんも帰省して正社員以外の出勤者が0人だった時の絶望感に比べれば、どうって事ない。




※ ※ ※ ※ ※




「お? 来たか」


 店の扉を開けて、中へと入る。

 清潔感と華やかさで満たされた内装は、高級店らしく、そこまで広々としたものではない。

 多種多様なフルーツや果実、野菜、また、それらを使った料理なんかが販売されているのか、テーブルに並んでいる。

 そんな店内に、こんな場所の似合わなさそうな人達がいる。

 その手に剣や斧や、ともかく武器を持った、野蛮そうな格好の屈強な男達。

 彼等は店内の売り物を手に取り、適当にかぶり付きながら、入ってきた私をにやにやとした目で見つめている。

 私は素早く視線を流す。

 入口に立つ私から見て、右側に三人、正面に一人、左側に六人。

 全部で、十人。そこそこの人数だ。


「はっ、まさかここまで上手くいくとはな。なぁ、リーダー」

「まったくだ、アクビが出るぜ」


 仲間の声に、私から見て正面――ちょうど、店の真ん中で椅子に腰掛け、フルーツのパイらしきものを頬張っていた男が答えた。

 強靭な太さの腕や足、胴体、そして傷だらけの顔――威圧感が半端ない。

 この盗賊を束ねるリーダー、らしい。


「おい、お前、言っておくが妙な正義感なんざ振り翳そうとすんなよ」


 リーダーさんが、私を指さし言う。


「俺達の言う通りにしなけりゃ、お前も、この人質達も無残に殺す」


 そう言って、リーダーさんが親指で指し示した先には――店舗左側の盗賊達六人と、その足元に座らされている人質達がいた。

 四、五名の人間がいる。

 彼、彼女等は、この店の従業員と言ったところか、床の上でガタガタと体を震わせている。

 そしてその横に、小さな影が二つ。

 マウルとメアラがいた。

 私が視線を向けると、二人は驚いたように目を見開いた。


「マ――」


 叫び出しそうになったマウルを、咄嗟に、横からメアラが押さえた。

 ナイス、メアラ。

 おそらく今、マウルは思わず私の名前を叫びそうになったのだ。

 二人が知っている私が、無関係の一般人を装って来ている。

 何かの事情があると判断し、私の意図を汲んでメアラはマウルの口を押えてくれたのだろう。


「魔道具は、イクサ王子様から預かったこちらの鞄の中に入っています」


 私は業務的な口調でそう説明し、肩から掛けていた鞄を両手で抱えるようにして持つ。


「よし、持って来い……いや、待て」


 そこでリーダーが、何かを思い付いたように口元に笑みを浮かべた。


「お前、何も仕込んでないだろうな?」

「え?」

「何か、武器やら隠し持っちゃいねぇだろうなっつってんだ」


 ぴっ、と、リーダーは私に人差し指を向ける。


「確認する。服を脱げ」

「……ふ、服を、ですか?」

「いいんすか? リーダー、〝流れ〟と違いますぜ? チンタラやってたら問題なんじゃ」


 そこで、困惑を見せる私の一方、比較的若い盗賊の一人が、そうリーダーに向かって言った。


「いいんだよ、この程度の役得くらい〝アイツ〟も大目に見るだろ。どうせ逃げ道も確保されてんだ、時間なんざ関係ねぇ」


 ……ん? アイツ? 逃げ道?

 何やら、疑問が残る発言ではあるが、私は怪しまれないようにその点に深く突っ込まない事にした。


「おら、何してんだ、とっとと脱げ」


 リーダーが急かし、他の盗賊達もニヤニヤとこちらを見る。

 なるほど、ストリップショーをやらせたいらしい。

 流石は盗賊、発想がゲスい。

 ……だが、ご心配は無用。

 この展開、ある意味、私にとっては願ってもない事態なのだ。

 ……いや、違うよ! 決して人前で裸になりたかったとかそういうわけじゃないよ!

 そうじゃなくて、この後、私が起こそうとする事を考えるなら、十分利用できる流れだ。


「は、はい……」


 私は鞄を足元に置くと、恥じらいを見せながら服に手をかける。

 おずおずと、服の肩口に手を添え、上着を脱ごうとして、そこで止まる。


「あん? どうした?」

「……申し訳ございません。人質の方々には、その……」


 そこで私は、人質達の目にも肌を晒すのに抵抗があるような、生娘じみたキャラを演じる。


「……ちっ、おい!」


 そこでリーダーは、人質側の仲間達の方を振り返り、指示を出す。

 盗賊達は人質の方々を床に寝かせ、更に顔を伏せさせ私の方を見えないようにさせた。

 ……よし、上手くいった。

 どうにかして、人質達を床に伏せさせる口実が欲しかったのだが、渡りに船だった。

 さて、ここまで来たら、もうやる事は一つしかない。

 そこからの私の行動は迅速だった。


「よし、これでいいか……おい! 何してる!」


 私の方を振り返ったリーダーが、いきなり声を荒らげた。

 理由は、私が既に服を脱ぎ終わっていたからだとか、そんな理由じゃない。

 私が、足元に下ろした鞄の口を開け、その中に手を突っ込んでいたことに対してだ。


「はい、皆様に魔道具をお渡しさせていただこうかと」

「んな事はまだいいんだよ! それより服、っつーか、余計なマネを――」


 リーダーの話など聞く耳の無い私は、四次元ポケットのようにあらゆるものが収納されているこの鞄の中で、ある物を掴む。

 それは、先程私が錬成した武器。

 掴み、持ち上げ、その勢いのまま横に思い切り振るう。

 まるで剣から鞘が抜けて飛んでいくように、鞄は店の壁にぶつかった。


「な……」


 現れたそれを見て、盗賊達は茫然としていた。

 今私が手に握っているのは、いわゆる〝パイプ〟だ。

 金属のパイプ。

 手摺や配管に使われる〝アルミパイプ〟や〝ステンレスパイプ〟、〝白管〟〝銅管〟等ではない。

 私が先程錬成し、そしてイクサから預かった鞄の中に隠し持って来たのは、私の身長の優に四倍近い長さの鋼鉄のパイプ――〝単管パイプ〟だ。

 建築作業の際に足場材として使われる、長さ約6m、重量約15㎏の長尺金属である。


「なん、だ、お前――」

「……すぅっ」


 そこからの私の行動は早かった。

 既に魔力を発揮するように意識していたため、私の魔力が伝染した〝単管パイプ〟は、魔道具としての性能を発揮していた。

 約6m近い全長の端を持っているにも拘わらず、まるで羽のように、不思議なほど軽い。

 私は両手で〝単管〟を握り、息を吸って力を籠める。

 そして、驚愕に言葉を失う盗賊達に向け――。


「どっせいッ!」


 まるでバットの全力スイングよろしく、それを振り抜いた。


「な!」

「ご!」

「ば!」


 あたかも豪槍の一閃。

 店内の壁際まで伸びるほどの長さの〝単管〟が振り抜かれた事により、その軌道上にいた盗賊達の体が片っ端から絡め捕られ――。


「どりゃぁあああああ!」


 全員纏めて、壁に叩き付けた。

 だけに留まらず、十人の男達が激突した壁は粉砕され、盗賊達はそのまま店の外にまで吹っ飛んでいった。


「今だ!」


 すっ飛ばされて来た盗賊達に、騒然とする人だかりの一般市民達。

 すかさず外で待機していた騎士達が飛び掛かる。

 エンティアも鬱憤を晴らすように飛び掛かっていた。

 ……しかし。


「……ん?」

「……大丈夫だ、既に気絶している」


 どうやら、私のフルスイングの一撃で、もう全員意識が吹っ飛んでいたらしい。

 盗賊達は白目を剥いていた。


「ふぅ……やれやれ」


 爆砕した壁の前に立ち、私は額の汗を拭う。

 どうやら、上手くいったようだ。よかったぁ。

 緊張から解放されて、私の全身から力が抜ける。

 手に持っていた〝単管〟も、グワングワンと音を立てて床に落ちた。


「「マコ!」」


 そこで、綺麗に重なった声が背後から聞こえ、同時に体に何かがしがみ付いてくる。

 マウルとメアラだった。


「や、二人とも……美味しそうなフルーツは選んでくれた?」


 私が言うと、マウルは涙を滲ませながら私の足に顔を埋め、メアラは表情を隠すようにそっぽを向いた。




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― 新着の感想 ―
[良い点] 単管パイプは最強、はっきりわかるんだね…!! ビニールハウスの骨組み、車庫の屋根、植木の棚に塗り替えの足場、簡単な倉庫だって作れてお値段も安く加工も出来てクランプで止めれば強度もばっちり!…
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