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■26 敵の巨魁です


「ったく、様子見してやがったのか、リベエラの奴。やっと出てきやがった」


 滑空し、悪魔達を火炎で焼き尽くしていくヴァルタイル。

《不死鳥》である彼の放つ炎の規模は、さながら大地を焼き尽くす終末の煉獄と言った感じだ(厨二並感)。

 一方、巨大な岩石や瓦礫を放り投げて、悪魔達を一網打尽に潰していくリベエラ。

 凄い怪力だ。

 いや、もう怪力とかそういうレベルじゃない。

 ホームセンター時代、お店でフォークリフトや玉掛けのクレーンなんかを見てきた私だけど、彼女の姿はそれを想起させる。

 つまり、まるで重機である。


「マコ、ありがとうよ」


 と、そんな風に感想を抱いていた私に、ミストガンさんが言ってくる。


「実質、あんたのおかげで助かったようなもんだ」

「いやいや、ミストガンさんや騎士さん達の頑張りがあったからだよ」

「……ああ、そうだな。こいつらはよくやってくれてる」


 周囲の騎士さん達を見回して、ミストガンさんは言う。

 現在、騎士さん達は、悪魔達に致命傷を与えるよりも、牽制しながらヴァルタイルやリベエラのサポートに回っている様子だ。

 私達が駆け付けるまでにも、懸命に戦ってくれてたのだろう。


「マコ」


 そこで、先行していた私とエンティアの元に、後から追い駆けてきていたイクサとスアロさんが到着した。


「どうやら、応援は間に合ったようだね」

「うん、何とかね」

「ところで」


 ミストガンさんが、私から受け取った刀の握りを確かめるように振るいつつ、 背後の王国騎士団本部の方を見ながら言った。


「ここに、何か用があったんじゃないのか?」

「うん、そうなんだけど……」

「ここは俺達に任せて、行け」


 体に馴染ませ終わったのだろう。

 改めて刀を構え、ミストガンさんは言う。

 風貌も相俟って、正に武士という感じだ。

 彼の言う通り、ここの悪魔達の掃討は、ミストガンさんとヴァルタイル、リベエラに任せて大丈夫だろう。


「ありがとう。じゃあ、今の内に」


 言うが早いか、私とエンティア、イクサとスアロさんは騎士団本部の敷地内に向かう。

 走って、向かう先は牢獄の方。

 前回一度訪れたので、場所はなんとなくわかる。

 牢獄の更に奥の奥、ワルカさんが幽閉されている牢屋が目的地だ。

 そう、私がここに来た最大の理由は、ワルカさんと会話するため。

 ワルカさんを説得し、アスモデウスの宿主になってくれれば、強力な力を発揮してくれるはず。

 私が思うに、アスモデウスとワルカさんが契約した際に使用可能になる〝能力〟は、こういう大災害のような状況では、かなりの効果を期待できる力のはずだ。

 無論、逃げ出したり裏切ったりしないように、ソルマリアさんに制御のための聖魔法はかけてもらうが。

 とにもかくにも、私達はワルカさんの元へと向かってひた走る。




※ ※ ※ ※ ※




 ――王都上層区、上空。

 Sランク冒険者、カイロン・スイクンvs《宝石の悪魔》、ウーサー。

 空中戦を交える二人の戦いは、拮抗していた。


「……練り上げられた体術だ。興味深い」


 牽制から数度の接触を交え、時々距離を取り、ウーサーは空を飛び回る。

 一方、カイロンは飛空するドラゴン達を上手く足場に使いながら、何とかウーサーの攻撃を捌いているという様子だ。


「よっ、と」


 単純な個体としての武力は、カイロンの方が上回っている。

 が、ウーサーは配下のドラゴン達を操り、援護をさせている。

 なるだけ足場にさせないため、ドラゴン達をカイロンの周囲から遠ざけるように動かし、また、距離を取ってブレス等で牽制攻撃を仕掛ける。

 圧倒的に不利な状況下――カイロンはじわじわと、追い詰められつつあった。

 その時。


「!」


 ウーサーは、急激な上昇気流を感じた。

 下から突き上げてくる風に、体が上へと飛ばされないように翼を動かす。

 見下ろす。

 ドラゴン達だった。

《聖域》が張られる前に上層区の街中へと降下していたため、地上に取り残されていたドラゴン達が、雄叫びを上げながら飛んでくる。

 ウーサーは、《宝石の悪魔》と呼ばれる血族の出身であり、様々な石に宿った力を操ることができる能力を持っている。

 中でも、人間界で〝魔石〟と呼ばれている宝石には、ドラゴン族の力や凶暴性を高め、支配できる効果を持っていると知り、彼はその力の研究を密かに行っていた。

 上昇してくるドラゴン達は、胸の魔石を破壊されている。

 しかも明らかに、自分に向けて敵意を向けている。

 人間達に、味方をしている?


「バカな」


 魔石を破壊されるまでなら納得できる……既に、目前の男にも幾度か破壊されている。

 だが、どうやって支配を解かれた後の、事情も知らぬ混乱状態のドラゴンを説得し、仲間にした?

 考えられない――。

 ウーサーが混乱している間にも、宝石の支配から解き放たれたドラゴン達は、他のドラゴン達に体当たりを仕掛け、胸の魔石の破壊を行おうとしていく。

 状況が一気に攪乱され、動揺するウーサー。

 異常事態は、更に続く――。


「――っ」


 何かが、背後に迫る気配を感じた。

 振り返ったウーサーの目前に、逆さまの状態で空中に跳躍した、一人の女の姿があった。


「……見付けた」


 その人物の名は、ルナト。

 11人のSランク冒険者の一人、兎の獣人(ラビニア)、《跳天妖精》――ルナト。

 こと、脚力、跳躍力に特化した彼女は、ドラゴン達の上昇に混ざり、瞬く間にウーサーの背後にまで接近したのだ。

 そして――もしも、ここにマコがいたなら、まるで仮●ライダーキバの必殺技(ライダーキック)、ダークネスムーンブレイクのようだと例えただろう。

 逆さまの状態から、空中で身を翻し、彼女の前蹴りが、ウーサーの腹部に叩き込まれた。


「ご、はっ」


 特大のダメージを打ち込まれ、ウーサーの体は乱回転しながら吹き飛ばされる。


「ナイスアシストだ、ルナト」


 その吹き飛ばされた先には、構えを作ったカイロンがいた。


「《八卦発勁》――粉になるまで勁をぶち込む」


 連打が開始する。

 彼の用いる武術――《八卦発勁》は、頭、肩、腕、肘、手先、足、爪先に至るまで、全身六十四ヵ所を、〝勁〟――体内で練り上げた運動エネルギー――の発射点として、対象に打ち込む技術。

 その時ウーサーを襲ったのは、まるでマシンガンの掃射を受けたような衝撃。

 全身を弾丸の雨霰で撃ち抜かれたような打撃を見舞われ、ウーサーの肉体は断末魔の叫びすら残す間もなく、チリとなって消滅した。

 二人の戦士による体術により、ドラゴンを操る悪魔は屠られた。


「よう、ルナト。来てくれたのか」


 勝利を収めた二人は、そのまま地上へと落下していく。

 そして、何の問題もなく、《聖域》の上に着地を果たし――カイロンはルナトへと声を掛けた。

 それに対し、ペコリ、と頭を下げ返すルナト。


「弟君は大丈夫なのか?」

「……はい、ここに向かう途中出会ったマコ様に、聖教会に避難するようにと指示をいただきましたので」

「そうか」


 さてと――と、首を左右に曲げ骨を鳴らし、カイロンは空を見上げる。


「じゃあ次は、まだ暴走させられているドラゴン達の後始末だ」




※ ※ ※ ※ ※




 ――王都近郊、上空。


「アスモデウスの処理に失敗した、か」

「……申し訳ございません」


 そこに、二体の悪魔が滞空している。

 その内の一方――ルッカループは、空中でありながら跪いた姿勢を取っていた。


「貴様が直接手を下し、吾輩に対する忠誠心の証明に替えると、そう言ったのではなかったのか?」

「………」

「まぁ、いい。情報は得た。少なくとも奴が弱体化しているのは確実。そして、人間側には想定以上の戦力がいる」


 跪くルッカループの目前。

 背中から一対の羽を広げ、威厳を放つ、長い顎鬚に皺の刻まれた顔の、老年の悪魔が言う。


「貴様が出会ったという、クロロトレスを屠ったと嘯く者。加え、ゲラムエルとウーサーの軍の戦局が傾きつつあるようだな」

「は……しかし、問題はありません。まだ、ドルムエルとベレクシオンもおります。加え、我々の軍の内、全体の七割近くは問題なく進軍中。この国を落とすため、最大の拠点である王城へと向かっております」

「……いいだろう。もしもの際には、吾輩が出れば終わるだけのこと」


 主の言葉に、ルッカループはこくりと頷きを返す。




※ ※ ※ ※ ※




 ――王国騎士団本部、牢獄。


「……何の用?」


 私達は、ワルカさんの牢屋へと到着を果たした。

 彼女は檻の中、椅子に腰掛け無為に壁の方を眺めていた。


「何やら、外が騒がしいようね」

「……今、悪魔の軍勢がこの国に攻めてきています」

「前に言っていた通り、アスモデウスを救いに来たのね」

「ところが、ちょっと事情が違うんです」


 私は、ワルカさんに状況を説明する。


「アスモデウスは、どうやら腹心の配下に裏切られたみたいなんです」

「………」

「で、その悪魔に暗殺されそうになって、流れで私達人間側に味方することになった感じです」

「……そう」


 私の超適当な説明でも、ワルカさんは理解したようだ。


「まぁ、悪魔達の間にも色々あるのね」

「はい。で、ワルカさんにお願いがあるんですけど」


 私は、本題を切り出す。


「アスモデウスの宿主として、私達に協力して欲しいんです」

「………」

「今、この状況では、観光都市バイゼルでワルカさんとアスモデウスが使っていた力が、大きな効力を発揮すると思うんです。具体的に言うと、どうすればいいのかわからず彷徨っている人や混乱している人、錯乱して集団パニックに陥ってる人達を一時的に洗脳して、避難所まで誘導したり――」

「何故、私がそんなことを?」


 当然の疑問を、ワルカさんは口にする。


「人間側について戦えば、恩赦で罪状も軽くなるかもしれません」

「……以前にも言ったはずよ、私は決して人間には協力しないと」


 ワルカさんの返答は、非協力的なものだった。

 まぁ、そりゃ、そうだろう。


「……ところで、今の外の状況はどうなってるの?」


 そこで、ワルカさんが聞いてきた。


「私の予想通り、人間達は悪魔の猛威の前に結託もできず劣勢……という感じかしら? 聖教会は教会に閉じこもって無駄な祈りを捧げ、冒険者や騎士は互いに手柄を競い合って足の引っ張り合いにでもなってるんじゃない?」

「……私が聖教会を避難所にするように申告して、今は市民を受け入れてもらってるよ」


 そんな彼女に、私は答える。


「悪魔との戦いにはSランク冒険者達が主力として協力してくれてる。この騎士団本部の前で、騎士のみんなと協力して戦ってくれてる」


 私の言葉に、ワルカさんは驚いたように目を瞠っている。


「まさか、そんな……」

「みんな協力し合って、今のところ、悪魔に対抗できている状況かな」


 ワルカさんは、私を見据える。


「……あなたが中心になって、人間を統率しているの?」

「そんなんじゃ――」


 ――瞬間、牢獄の壁を貫通し、何かがワルカさんの肩を撃ち抜いた。


「っっ!?」


 あまりにもいきなりの出来事に、私を含め、その場にいる全員が反応できなかった。

 壁に丸い穴が空いている。

 その延長線上にいたワルカさんの肩にも、同様に穴が空いた。

 鮮血が空中に舞う。

 これは、まるで……そう、狙撃?


「スアロさん!」


 私は即刻、決断する。

 意図を汲み取ってくれたスアロさんが、腰の刀を抜き、一瞬で目前の鉄格子を切り刻んだ。

 私は牢屋の中に飛込み、倒れたワルカさんを抱き上げる。


「マコ! 追撃が来る可能性が」


 イクサの言葉の途中、再び壁に穴が空き、今度はワルカさんの頭部を狙って目には見えない何かが撃ち込まれた。

 寸前、私は《錬金》を発動――眼前に〝鉄板〟を生み出す。

 盾となった〝鉄板〟に、透明な弾丸は弾かれ、私の腕をかすめた。

 切り傷が走る――けど、致命傷は免れた。


「スアロ!」


 イクサが事態を察知し、バッと、両腕を左右に振るう。

 刹那――何か、上手く表現できないけど、何か、自分達が〝巨大な容器〟の内側に入ったかのような、そんな感覚がした。


「《結界》を周囲に張った! 狙撃をしてきた奴は、まだ内側にいる! 行け!」

「はっ!」


 正に阿吽の呼吸。

 イクサが言うや否や、スアロさんは目視不能の居合抜きで壁を破壊しながら、狙撃手の退治へと向かっていった。




※ ※ ※ ※ ※




「……失敗」


 王国騎士団本部、牢獄の外――ある建物の屋根の上。

 黒いマントのような布で口元から下を覆った、一人の少女が立っていた。

 片手を前に突き出した状態で、その目は白目まで黒く、額からは銀色の一本角が生えている。

 彼女は――《銃撃の悪魔》、名前をベレクシオン。

 魔力を硬質な球体に変え、高速で撃ち出すことのできる悪魔の血族だ。

 万が一、アスモデウスが宿主と再び力を合わせる状況にならないよう、宿主であるワルカの処分もしなければならない。

 ルッカループの言ったその言葉を、他の誰よりも早く実行しようとして、ベレクシオンはここまでたどり着いたのだ。

 そして、狙撃には失敗した。

 彼女の額の一本角は、ソナーのように周囲一帯の状況を把握する機能を持つ。

 対象はまだ生きている。

 加えて、牢獄の奥から、何かがこちらに向かって壁を破壊しながらやってくる。


「位置がばれた。逃げる」


 呟き、ベレクシオンはその場から退避しようと――。


「逃がさないよ」


 気付けば、彼女の背後にそれは居た。


「なんとなく、勘を頼りに駆け付けてみたけど、運がよかったみたいだ」


 ベレクシオンのソナーでも感知できないほどの、無軌道な動きと速度を使い。

 野生の勘にも近い直感を頼りに。

 ここまで到達したミナト・スクナが、腰の二刀を抜き、振るい、ベレクシオンの角と右腕を同時に斬り裂いていた。


「殺す」



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