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■23 ドラゴン達です


 ――王都、上層区域。

 ソルマリアさんの展開した《聖域》の内側。


「うっ!」


 私とソルマリアさんは現在、地上に降り立ったドラゴン達と交戦している。

 ソルマリアさんの張った《聖域》の内部に残されていたドラゴンは、全てで20体ほど。

 ソルマリアさんが、敵の攻撃に対し逐一《障壁》の魔法を発動し、私の前に防御壁を展開してくれているおかげで大丈夫だが、それでもドラゴンの攻撃はかなりの威力を孕んでいる。

 加えて、幸か不幸か、他の市民達が無事避難した事もあり、標的が自分達だけになってしまったため、徐々に私達に向かってドラゴン達が集合して来る形になってしまったのだ。

 正直、苦戦を強いられている。

 ドラゴンの息吹、爪や牙の攻撃を回避しながら、なんとか魔石を狙おうとする私。

 しかし、相手も学習しているのか、身を翻したり回避したり、徐々に攻撃が当たらなくなってきている。

 その時だった。


『姉御!』

『待たせたな、マコ!』


 白色と黒色の巨大な影が、ドラゴン達の頭上に舞った。


「エンティア! クロちゃん!」


 二匹の狼――神狼と黒狼。

 エンティアとクロちゃんが、到着を果たした。


『食らえ、竜共! この神狼の神々しき後光を!』


 エンティアが自身の魔法を発動。

 ドラゴン達の視線を自身に集めると同時に、その全身から眩い光を放つ。

 光魔法、《神狼の後光》である(エンティア命名)。

 突如巻き起こったスタングレネードの如き目晦ましに、ドラゴン達は呻き声を上げて顔を伏せる。


『今だ! この昏き雷の閃光を味わうがいい!』


 と同時に、クロちゃんが何やら格好良い風なセリフを唱えながら、体から雷撃を撃つ。

 その攻撃がドラゴン達の体に命中し、更に動きを弱めていく。

 コンビネーションばっちりだ。


『今だ、姉御!』

「うん! ありがとう、エンティア、クロちゃん!」


 その時だった。

 動きの停滞したドラゴン達の中の一匹が、錯乱し、滅茶苦茶に暴れ始めた。

 周囲のドラゴンを巻き込みながら、腕や尻尾を振り回す。

 その頭部が、私に向かって振り下ろされた。


「マコ様!」


 慌ててソルマリアさんが《障壁》を展開しようとするが、私は微動だにしていない。

 心配要らないからだ。

 振り下ろされたドラゴンの頭部を、すぐ真横に到着したガライが、両腕で受け止めていた。


「サンキュー、ガライ」

「マコ、今の内に」


 ガライの指示と共に、私は瞬時に〝鋸刃〟を稼働。

 刃を旋回させ、次々にドラゴン達の胸の魔石を破壊していく。

 もっと錬成して複数を同時に操った方が効率的に思えるけど、それをやろうとすると痛い目を見るって、観光都市で学んだからね。


「よし」


 何はともあれ、周囲のドラゴン達の魔石の破壊に成功した。

 これで、半数以上のドラゴンの凶暴化は止められたことになる。

 私は即座に、クロちゃんの電撃で体が痺れて動けないドラゴン達にタッチし、《対話》を発動しておく。


「マコ!」


 すぐ間近に、見慣れた荷車が。

 その中からマウルとメアラ、オルキデアさんやフレッサちゃん、レイレにデルファイ、《ベオウルフ》のみんなに、店のスタッフさん達が顔を出している。

 よかった。

 エンティアとクロちゃんがここまで全力で引っ張て来てくれたおかげで、みんな無事だ。


「エンティア、お願い! この近くに聖教会の総本山があるんだけど、みんなをそこに避難させて!」

『了解したぞ!』

「なるほど、これはとんでもない事になってるね」


 そこで、荷車から二つの人影が飛び降りた。

 イクサとスアロさんだ。


「偶々、店でマコの帰りを待っていたのが功を奏したか」

「マコ殿、残りのドラゴンの制圧、お手伝いする」

「イクサ、スアロさん! ありがとう!」


 よし、戦力は一気に強化された。

《聖域》内部のドラゴンも残り数体ほど、おそらく制圧までそれほど時間も手間も要しないだろう。

 ……問題は、その後なんだけど……今は〝彼〟の帰りを待つ他ない。


「クロちゃん!」


 一つの事を考え込んでいても仕方がない。

 私は瞬時に次の指示を飛ばす。

 同時に並行し複数の作業を、マルチタスクで進行する。


『何用だ、マコ。この黒き雷、お前のためなら命も惜しくは――』

「ありがとう! クロちゃんには大切な仕事を任せたいんだけど、王都の外にいる黒狼のみんなに増援をお願いしに行ってくれないかな?」


 今は一匹でも戦力が必要な状況だ。

 彼等は以前、私のスキル《テイム》で魔法の力を目覚めさせたので、かなり強力な助っ人になるはず。

 加えて、複数に分かれて各所に伝令としても走ってもらえるし。

 クロちゃんは『わかった!』と快諾し、《聖域》の外へと走っていく。


「よし、スアロさん! ガライ! もう少しだけ頑張って!」


 私達は、残りのドラゴン達に向かって走り出した。




※ ※ ※ ※ ※




 ――王都上層区、《聖域》上空。


「よっと」


 Sランク冒険者――カイロン・スイクンは、軽快な体捌きで空を駆けていた。

 あたかも散歩でもするかのように……いや、踊りにでも洒落こんでいるかのように、空を飛ぶドラゴンを足場にして。

 そして迅速且つ的確な所作で拳を撃ち、ドラゴン達の胸の魔石を粉砕する。

 ドラゴン達は自身の身に何が起こったのか理解する前に、彼の拳で凶暴化の枷を外され、更に頭部を揺らされ、《聖域》の上へと落下していく。


「なるほど、中々の量だ。これだけの数のドラゴンに何もしない内に襲われたんじゃ、王都も永くは保たなかっただろうな。事前に悪魔の進軍を予測し、情報の交換がされていてよかった」


 ノ国は、武術の国。

 拳法から武器術に至るまで、あらゆる武が長い歴史の中で切磋琢磨されてきた。

 彼の使う《八卦発勁(はっかはっけい)》も多分に漏れず、その強力な制圧力を発揮し、次々にドラゴンを撃墜していっていた。


「ん?」


 その中、カイロンは気付く。

 空を埋め尽くすドラゴンの群れ。

 その中に、一つだけ異質な影があった。


「諸悪発見、ってところかな?」


 竜の群れの中に、一つだけ人型。

 それは正に、悪魔族だった。


「ふむ……」


 と、顎に手を当てながら、《聖域》の下の光景を眺めつつ、その悪魔は唸っている。

 顎髭を生やし、長いクセ髪の、怪し気な悪魔だった。

 背中から両翼を展開し、両方の目は闇のように黒く、頭部からは銀色の角を生やしている。


「マコの言っていた通り、群れの中に潜んでいたってわけだ」

「………」


 瞬時、カイロンはドラゴン達の背中を駆け上がり、その悪魔の真横にまで移動していた。


「お前が、このドラゴン達を凶暴化させた主犯だな?」


 カイロンの問い掛けに、悪魔――ウーサーは、忌々し気に眉間を歪めながら、返す。


「私の実験を、邪魔しないでいただきたいな」




※ ※ ※ ※ ※




 ――《聖域》の内側。


「……よし」


 私とソルマリアさんに、ガライとスアロさんが合流したことによって、作業効率は大幅にアップ。

 結果、《聖域》内のすべてのドラゴンを制圧することに成功した。

 魔石は破壊済。

 そして全員にタッチし、《対話》の発動も行った。


「マコ……問題はここからだ」


 ガライの言う通り、カイロンに昏倒させられていた者も、クロちゃんに痺れさせられていた者も、ドラゴン達が次々に回復し、起き上がり始めている。

 問題はここから――このドラゴン達に、この状況をどう説明するか。


「みんな! 聞いて!」


 私が声を上げると、ドラゴン達が一斉に私の方を向いた。

 凄い迫力だ。

 そして、それ以上の迫力満点な事態が、続いて起こった。


『何者だ、貴様! 我等に何をした!』

『何故、我等が人間の住処にいる!?』

『貴様等が何かしたのか! 答えろ!』


 うわぁ……テーマパークのアトラクションみたいだよ、このスケール。

 声の大きさと吐息だけで体が吹き飛びそうになるのを、ガライに両肩を掴んで支えてもらう。


「違います! みんな、悪魔のせいで――」


 と、説得を試みるけど、みんな思い思いに叫んでいて聞いちゃくれない。

 ……ううん、でも仕方が無い。

 このドラゴン達も、ただ混乱しているだけなのだ。


「まずいね……」


 戦闘が終わると同時に、私達の下にやって来たイクサが呟く。


『ええい! 忌々しい! 誰か答えぬか!』

『踏み潰されたいのか、人間ども!』


 ドラゴン達の気炎が跳ね上がっている。

 このままじゃ、また暴走してもおかしくない。

〝彼〟が早く来てくれれば……。

 その時だった。


「うるっせェぞ! クソドラゴン共!」


 轟くような怒声が響き渡る。

 この声!


「ヴァルタイル!」


 ヴァルタイルだ。

 私のお願いを遂行し、彼がこの《聖域》の内側に帰ってきてくれた。

 だとしたら――。


『マコちゃーん!』


 やった! 連れてきてくれた!

 ヴァルタイルと共に飛んできたのは、先日、魔石を埋め込まれて凶暴化していたところを、私達が元に戻した《エアロドラゴン》だ。

 あの穏やかな下町のおばちゃんみたいな声音で、こちらに手を振りながら飛んでくる。


「オラァ! 連れてきたぞ!」

「ナイスタイミング、ヴァルタイル! これで説得できるよ!」


 そう、遂さっきのSランク冒険者会議において、ヴァルタイルが《エアロドラゴン》と一緒に、周辺のドラゴンの失踪を調べている事はわかっていた。

 同じく被害に遭い、そして私達と情報が共有できている《エアロドラゴン》なら、同族のドラゴン達を説得できると思ったのだ。

 更に――。


「おい、お前等! お前等がいきなりいなくなって、ほったらかしにされてた、お前等のガキ共だ! 俺達で世話してやってたんだぞ!」


 ヴァルタイルが指さした《エアロドラゴン》の背中には、何匹もの小さなドラゴンの赤ちゃん達が乗っていた。

 ベビードラゴン達だ。

 みんな、親のドラゴン達を見てぴーぴーと鳴いている。

『ママー!』『ママー!』と騒いでいるかのようだ。

 瞬間、赤ちゃんドラゴン達を見て、先程まで怒りを露わに咆哮を上げていたドラゴン達が、一気に表情を変えた。


『あらやだ! 坊や達!?』

『どうしたの!? なんでこの子達が、ここに!?』


 ……みんな、おばちゃんだったのか。

 お母さんモードになったドラゴン達は、小さな羽をパタパタと動かしながら飛んでくる我が子を抱きしめていく。


『あら! あなたは南の山の奥さん!』

『あたし達がいなくなってたって、本当!?』

『そうなの! みんないきなり消えちゃったからビックリしたのよ! それでこの子達もみなしごになって泣いてたから、あたしやヴァルタイルちゃんが引き取って面倒を見させてもらってたの!』

『『『『『ごめんなさぁい、お世話掛けちゃって!』』』』』

『いーえー、いいのよー、困ったときはお互い様よー』


 なんだか、ものすっごいおばちゃん同士の会話してる。

 しかし、何はともあれ、自分達の身に何が起こったのか理解してくれたようだ。

 ヴァルタイルと《エアロドラゴン》から説明を受け、私達が彼女達を悪魔の魔の手から救ったのだとわかったようで。


『ごめんなさい! マコちゃん!』

『大変だったでしょう? お世話かけちゃって!』

『まだ若いのにしっかりしてるわね!』

『それにしても、悪魔族、全く許せないわ!』


 と、わちゃわちゃ話し合ったかと思うと、《聖域》の上空を睨み上げた。

 そこには、まだ何体もの操られた同胞の姿があり。

 そして、紛れるようにして浮遊する悪魔の姿があった。


『我々を利用しようなどと、小癪なマネを!』

『目にもの見せてくれるわ!』

(……あ、ドラゴンモード(?)に戻った……)


 正気に戻ったドラゴン達は、こちら側の戦力になってくれた。

 ソルマリアさんが《聖域》の一部を開閉させると、彼女達は上空へと飛翔していく。


『坊や達をお願いね!』

「うん! 任せて!」


 ……よし。


「《エアロドラゴン》さん、というわけで、この子達をお願いね。ヴァルタイルも、カイロンが《聖域》の外のドラゴン達を無力化させてるから、目覚めたら説得をお願い」

「あぁ?」

『わかったけど、マコちゃんはどするの?』


 私は、地上に残されたベビードラゴン達にも一応触れておく。

 予想通り、赤ちゃんドラゴン達は『ママー!』『ママー!』と、空に飛んで行った母親達に叫んでいた。

 確かに、この子達を守らなくちゃいけないけど、それよりも先に行かなくちゃならないところがある。


『姉御!』

「エンティア!」


 ちょうどそこに、マウル達を乗せた荷車を聖教会に届け終えたエンティアが帰ってきた。


「ガライ! スアロさん! イクサ! この《聖域》内に、何人か悪魔が侵入してきてるみたい!」


 ソルマリアさんが、《聖域》の破壊から確認した限り、いくつかの入り口から悪魔が侵入してきている。

 彼等の進む先は、大体見当がつく。

 王城等の地位の高い人間の住む建物……後は。


「その悪魔達を探し出して、倒して! 私は、聖教会に向かう!」


 エンティアの背中に乗りながら、私は皆に指示を飛ばす。


「多分、アスモデウスを救出に向かった悪魔が、聖教会に近付いてるはずだから!」




※ ※ ※ ※ ※




 ――聖教会総本山、その奥の一室。


「お久しぶりです、アスモデウス皇帝」

「………」


 アスモデウスが囚われた部屋の中――一つの黒い影が、まるで液体のように壁から滲み出て、そして彼の傍らに立った。


「やっぱり、君かぁ……ルッカループ」


 人の形を作った黒い影に、アスモデウスは妖しく笑い掛けた。



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― 新着の感想 ―
[良い点] ワクワクが止まりません!!!^^ 読み進んでイメージ広げもう興奮が最高潮に向かって右肩上がり!!!^^ めっちゃ期待してます!!よろしくです!!
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