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■17 国王と謁見です


 イクサと再会を果たし、彼の王都の邸宅で話をした――翌日。


「マコ、頑張って来てね」


 アバトクス村名産直営店の前。

 王城へ行く準備を終えた私を、みんなが見送りに出て来ていた。

 マウルやメアラ、エンティア、ガライ、レイレ、オルキデアさんにフレッサちゃん、デルファイ、《ベオウルフ》のみんなにクロちゃん――と、メンバー総出での見送りだ。


「気を付けてな」

「変な質問されても怒っちゃダメだよ」

「危ないと思ったらすぐに逃げろよ」


 皆がそう、口々にアドバイスをくれる。


「みんな、心配し過ぎだよ」


 苦笑する私。

 でもまぁ、みんなにとっては王様なんて、本来なら一生関わる事も無いような存在だ。

 王に対する印象なんて、案外こんな感じなのかな。


「あんまり近付くと、噛み付いてくるかもしれないから距離は取ってね」

「においを覚えられたら追跡して来るから気を付けろよ」

「もしもの時には死んだふりをしてやり過ごすんだぞ!」


 ……いやいや、本当に王様の事をなんだと思ってるの、君達。

 するとそこに、一台の馬車がやって来た。


「お待たせ、マコ。凄いお見送りだね」


 停車した馬車から降りて来たイクサが、店の前に並んだみんなの姿を見てそうコメントした。

 イクサの後ろから、スアロさんも現れる。

 彼女も今日は一緒のようだ。


「じゃあ、早速だけど城に向かおうか」

「あ、待って、イクサ」


 促すイクサを、私は制止する。

 そして、スアロさんへと向き直って言った。


「スアロさん、ちょっとミナト君に付き合ってあげて欲しいんだ」

「む?」


 私はスアロさんに提案し、そして店舗の角の方を指差す。

 昨日と同じように、そこにミナト君が隠れていた。


「ミナト……あんなところで何をしてるんだ?」

「昨日、イクサとスアロさんが席を外した時にちょっと話したんだけど、ミナト君、スアロさんと久しぶりに会ったから稽古を付けて欲しいんだよ」

「しかし……」

「イクサの護衛なら、私がするから」


 戸惑うスアロさんの背中を押す私。

 彼女もイクサの護衛の身だ、その職務を簡単に放棄は出来ないだろう。

 けどまぁ、こんな時くらいはいいんじゃないかな。


「ほら、イクサからも」

「んー、マコがそう言うなら、そうしてみてもいいんじゃないかな、スアロ。ミナトと会うのも久しぶりなんだし、たまには姉弟水入らずでさ」

「お二人がそこまで言われるのであれば……」


 私とイクサに説得されて、スアロさんは困惑しながらも了承した。


「ミナト、そんなところに隠れて何のつもりだ?」

「……! 姉様」


 というわけで、スアロさんはミナト君の所へ向かって行く。

 スアロさんがやって来た事に驚いているミナト君に、私はグッと親指を立てて見せた。

 すると、ミナト君も頬を染めながら、私にグッと親指を立てて返してくる。

 感謝されちゃった。


「マコ……君、ミナトと仲が良いね」


 その様子を見ていたイクサが、なんだかテンションの低い声で言って来た。


「こんな一瞬で仲良くなるなんて、嫉妬するね。まぁ、マコなら仕方が無いのかもしれないけど」

「ほら、拗ねてないで、行くよ行くよ」


 そんなイクサを馬車に押し込み、何はともあれ私達は王城へ向かって出発する。

 街中、石畳の道をひた走り、向かう先は王都の中心。

 市街を越え、王侯貴族の生活区も越えた先――聳え立つ巨大な城門が現れた。

 その門が開き、城の敷地へと入る。

 そこから更に、いくつもの門を潜っていき――やがて、本格的にお城の中に入ったのだろう。

 馬車が停まった。


「さ、到着したよ」


 私はイクサと共に馬車を下りる――。


「ふぉぉぉ……」


 と、思わず溜息が漏れてしまった。

 馬車は既に城内に入っており、目前には豪奢な光景が広がっていた。

 ふかふかの絨毯、壁を彩る絵画や美術品、煌びやかな内装。

 天井にはシャンデリア。

 通り道に沿って立ち並ぶ何十人もの使用人の方々が、左右から首を垂れてイクサをお出迎えしている。

 凄い。

 正に、王様の城だ。


「お待ちしておりました、イクサ王子」


 熟練の、年季の入った老年の男性――ザ・執事といった外見の人物が、イクサの前に立った。


「グロウガ王がお待ちです。どうぞ、こちらへ」

「王の間だろう? マコ、行こう」


 執事の男性と共に、私とイクサはお城の中を進んでいく。

 しかし……本当に凄い内装だ。

 今日まで、冒険者ギルドの本部や、王国騎士団の本部、聖教会総本山に魔術学院、貴族の邸宅等、色んな建物にお邪魔してきたけど――やっぱり、スケールが違う。

 まず、廊下が広い。

 現代でいうところの、高速道路のトンネルくらいある。

 もう廊下に住めるじゃん? ってくらいに広い。


「ほええええ……」

「圧倒されてるね」


 そんな私の表情が珍しいのか、横でイクサがクスクスと笑っている。

 という感じで私達は、王城の中を王の間に向けて進んでいく。

 その途中だった。


「あ」


 イクサがそう発したと同時に、足を止めた。

 執事も立ち止まっている。

 二人の視線が向けられた先。

 廊下の途中に、一人の人物が立っていた。

 全身黒づくめの男性だ。

 腰の下まで覆う黒色のコートを着ており、口元まで襟で隠れているため、表情が見えない。

 そのコートの肩には、王章が刻まれている。


「……レードラーク」


 私は、その名を呟く。

 レードラーク・ディアボロス・グロウガ。

 グロウガ王国、第二位王位継承権所有者。

 国内最強の魔法使い。

 Sランク冒険者。

 彼を形容する単語は、今日までいくつも耳にしてきた。


「お久しぶりです、レードラーク王子」


 無言で立ち塞がるレードラークに対し、イクサは恭しく頭を下げる。


「ご健勝のようで、何より」


 あのイクサが、凄く礼儀正しい……。

 と、ちょっと失礼なところで感心してしまった。


「………」


 対するレードラークは、無言のまま。

 一言も発する事無く、やがて振り向き、先を歩き出した。


「レードラーク王子も、本日グロウガ王にお呼び出しされていたのです」


 彼の後ろに続く形で、私達も歩き出す。

 後続の私に、執事の人がそう説明してくれた。


「寡黙な人ですよね」

「……昔からだよ」


 率直な印象を口にする私に、イクサが言った。


「レードラークは、最上位王位継承権所有者である第一王子が諸事情により戦線を離脱している今、次期後継者の最有力候補だ。王族内でも最強の魔力の持ち主で、その魔法の才能は国王をも凌駕する」


 イクサは、真剣な表情と眼差しで語る。

 彼自身、おそらくレードラークの事を少なからず尊敬……一目置いているのだろう。


「そして、本心は誰も知らず、誰にも語らない。幼い頃から、その圧倒的な力と風格を示し、後から下々の者達を引き連れる……有り体な言葉で表すなら、カリスマってところかな」

「ふーん……」


 先を行くレードラークの背中からは、確かに寡黙な求道者の威風を感じる。

 誰にも本心を語らない……か。

 そんな風な会話を交えながら、私達は更に歩き進み――。


「到着いたしました」


 やがて、巨大な扉の前へと辿り着いた。

 なんだか、異様というか……並々ならぬ雰囲気が、扉の向こう側から発されているのがわかる。

 ちょっと緊張してきた。

 執事が扉の両サイドに控えていた騎士の内、一方に指示を出す。

 扉が、少しだけ開閉した。


「グロウガ王。イクサ王子、レードラーク王子をお連れ致しました」


 執事の声が放たれ、数秒後、大きく音を立てて扉が開いた。


「では」


 一礼し、執事が下がる。


「さ、行こうか」


 先に部屋へと入って行ったレードラークの後に続き、イクサと私も入室する。


(……ここが、王の間)


 広大で、静寂に満ちた部屋。

 窓の外には、空しか見えない――それだけ、高い場所にあるということだ。

 一本道のように敷かれた絨毯の先、左右に騎士を一名ずつ配置し、玉座が見えた。

 そこに、誰かが座っている。

 ある程度歩き進んだところで、イクサが私を手で制した。

 レードラークも立ち止まっている事から、おそらく、それ以上は進んではいけないのだろう。


(……あれが、国王)


 玉座に座った人物は、上半身が影に覆われ、その全容が確かめられない。

 しかし、威圧感と言うか、存在感と言うか……ともかく、普通ではない人物がそこに座っているという事だけは、オーラでわかった。


「お久しぶりです、父上」


 まず口を開いたのは、イクサだった。

 彼らしくない畏まった口調から、緊張が伝わってくる。


「……イクサか」


 威厳に満ちた低音の声が返って来た。


「最近、活躍が目覚ましいな。今まで趣味に呆けていたお前が、何の心変わりだ?」


 国王の見た目も、歳もわからない……けど、その声音からはハッキリとした活力が窺える。

 後継者を選別するための争奪戦なんか開催しているくらいだから、結構お年を召した方なのかと思っていたけど、中々若々しいぞ、この人。


「……理由なんて、些細なものだよ。僕は王位に興味が無いといくら吹聴していても、他の王子達から嫌がらせを受ける事が多々あってね」


 そう、イクサは嘆息混じりに言う。


「僕もそこまで気が長くない。そいつらに抵抗したまでさ」

「……そうか」


 感情の読めない口調で、グロウガ王は答える。


「王位には、興味が無いのか?」

「……無いわけじゃないよ」


 そこでイクサは、隣に立つ私の背中に手を回した。


「僕が王位継承戦への参戦を表明したもう一つの理由は、彼女と出会ったからだ。紹介するよ、あなたが会いたがっていた女性だ」


 私にとっての本題の時間が訪れた。

 グロウガ王は、私に興味を抱いている――それゆえ、イクサへ謁見の命を下したのだと聞く。

 私の存在を、必要以上に尊大に見せる事も、怪奇な存在に見せる事もせず、穏便に、怪しまれず、丸く収めなくてはならない。

 さもないと、王様に、どんな目に遭わせられるかわからない……らしいから。

 まずは、普通に挨拶をしなければ――。


「あ、どうも、ホンダ・マコです」


 ……王様に対してかなりフランクな挨拶になってしまった。


「お前が……か」


 グロウガ王が、私の方を見たのがわかった。


「彼女は、僕が活動の拠点にしている、市場都市ロッシュウッドの近くに暮らしている。ひょんな事から知り合って、商売や戦闘の面から、とても優秀な人材だということがわかってね。僕の参謀として、知恵を借りるようになったんだ。今では、立派な僕の参謀さ」


 すかさず、イクサが説明をする。


「彼女がいたから、僕の最近の名声が手に入ったと言っても過言ではない」

「……それほどまでの存在か」

「ああ、僕にとって彼女はかけがえの無い存在だ。彼女が僕の下を離れたのなら、王位継承も諦めるかもしれない」


 ……なんだか、恥ずかしい言い方な気もするけど。

 でも仕方が無い。

 イクサは、王様が私に対して不用に手を出さないよう、守ってくれているのだ。

 グロウガ王は、どこかイクサの事を特別視している節がある。

 放蕩王子時代、第七位という高い地位を与えていたのも、他の王子達から敵視されるような待遇をしていたのも、それが原因だ。

 だから、イクサが継承戦を下りると言うなら、それに逆らうような事はしないはず。


「……そうか」


 グロウガ王が、イクサの言葉に相槌を打ち……。


「共に、研鑽し励むが良い。次期王として君臨できるように」


 と、イクサを激励して。


「話は以上だ」


 と、言った。

 ……え? 終わり?


「は、では父上、またいつの日か」


 随分とあっさりした終了の合図に対し、イクサもサクサクと一礼する。

 同じく私も頭を下げると、二人揃って王の間を後にした。

 ……終わった。


「えと……終わり、かな?」

「ああ、よかったよ、そこまで込み入った事にならずに済んで」

「う、うん」


 なんだか、拍子抜けしてしまった。

 でも、案外こんなものなのかな?

 昔、自分の勤めるホームセンターの店舗に会社の社長が視察に来るって決まった時があった。

 何日もかけて、事前に掃除やら売り場の作成やら気合を入れて頑張って、で、迎えた当日、結局社長は数分間店の中を歩き回っただけで、すぐに帰って行った事があったし。

 しかし、本当に何気ない会話で終わってしまった。

 私、別に特別な理由があって呼び出されたわけじゃなかったのだろうか。

 運が良かった?

 もしかして、考えすぎだった?

 そう、頭の中で思考が渦巻かせていた――その時。


「イクサ王子!」


 王の間を出て、少し歩いた先。

 大広間のような空間に出たところで、城の従者達が待ち構えていた。

 玄関で出迎えてくれた、使用人や下働き……のような人達ではなく、高貴な身形の人達。

 おそらく、大臣とか家臣とか、そういう重役の人達だろう。


「お久しぶりです、イクサ王子! いやぁ、数年ぶりですね!」

「この度は第三位昇格、おめでとうございます!」


 ……なるほど。

 皆が、第三位継承権所有者のイクサに一目置いている……ご挨拶がしたいとか、そんな感じか。


「あ……レードラーク王子!」


 そこで、誰かの声が聞こえた。

 振り返ると、そこに立つのはレードラーク。

 彼も、グロウガ王との話を終えて、戻って来たのだろう。


「おお……第二位と第三位の筆頭候補が二人揃って」

「第一王子は現在病床の身……となれば、このお二人の内のどちらかが……」


 ざわざわと、周囲の臣下の人達の間にどよめきが広がる。

 彼等にとっては、最大の主君になるかもしれない二人。

 どちらに付くべきか、考えているのかもしれない。


「……ホンダ・マコ」


 そこで、レードラークが声を発した。

 初めて聞いた、彼の声。

 私の名を呼ぶ声だった。


「え?」

「話がある……」


 そう言って、振り向き、大広間の入り口へと向かって歩いて行く。

 ……え、私、指名された?


「……彼が喋るところなんて、随分久しぶりに見たよ」


 レードラークの思い掛けない行動に、臣下達も、イクサも驚いている。


「と、とりあえず、行ってくるね」


 私は慌てて、レードラークの後を追う。

 ……もしかして。

 今日、私を城に呼んだのって、レードラークだったのかな?



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