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■12 エアロドラゴンです


 睨み合う《エアロドラゴン》とヴァルタイル。

《エアロドラゴン》の巻き起こした暴風の余波が、周囲の小石や砂を騒々しく巻き上げる。

 発生する砂塵を、ヴァルタイルは自身の両翼を動かし鬱陶しそうに払い除けた。


『……ゴォォオオオオオオオオオ!』


 刹那、咆哮を上げる《エアロドラゴン》。


「きゃっ!」


 その重低音に、フレッサちゃんやミミ達も悲鳴を上げる。

 そして、再び大口を開ける《エアロドラゴン》。

 先程同様、攻撃の構えだ。


「チッ、どうなってやがんだ」


 臨戦態勢を継続する《エアロドラゴン》に対し、ヴァルタイルは苦々しげに呟く。


「正気を失ってんのか? 俺の声が届いてねぇ」

「ヴァルタイル、あのドラゴンの胸を見て」


 そこで、私はヴァルタイルに、《エアロドラゴン》の胸を見るように指をさす。

 そう言われて、ヴァルタイルも《エアロドラゴン》の胸に埋め込まれた魔石に気付いたようだ。


「なんだぁ? ありゃ」

「魔石っていう宝石の一種らしいんだけど、もしかしたら、あれが原因でこのドラゴンは暴走してるのかもしれない」


 私は説明する。


「前に、王都でも同じ事があったからわかるんだ。ほら、例の邪竜の事件は知ってるよね? あのドラゴンも、悪魔の陰謀で魔石が埋め込まれてたんだ」

「………チッ」


 ヴァルタイルが舌打ちをした――瞬間だった。

《エアロドラゴン》の口から放たれた衝撃波が、私達に襲い掛かる。

 瞬時、ヴァルタイルは上空に飛翔――。


「え、あ、わっ!」


 私も腕を掴まれて、一緒に空へと舞い上がった。

 凄い握力。

 流石は猛禽。

 地上では、エンティアとクロちゃんがみんなを背負って、同じように攻撃を回避してくれていた。


「おい、教えろ」


 頭上から、ヴァルタイルが聞いて来る。


「その時、どうやって邪竜を撃退した」

「……ヴァルタイル、協力してくれる?」


 私は、地上のみんなが物影等、安全な場所へ退避したのを確認し、ヴァルタイルに作戦を伝える。

 いや、作戦とまで言えるような代物ではないけど。


「……わかった、下準備は済ませる。テメェもとっとと取り掛かれ」


 言うが早いか、ヴァルタイルは両翼を稼働させると、一気に《エアロドラゴン》に向けて突っ込む。

 まさか、体当たりするつもりか?

 ――と、急接近してくるヴァルタイルを目の前にして、《エアロドラゴン》も思ったのだろう。

 その巨体の動きが、一瞬強張ったのがわかった。

 しかし、《エアロドラゴン》は退かない。

 襲来するヴァルタイルに対し、受けて立つように唸り声を上げる。


『グルォオオオオオオオオオオオオオ!』


 咆哮を上げ、《エアロドラゴン》の前足が飛来するヴァルタイル(と、私)に向けて振るわれた。


「振り落とされんなよ」

「へ?」


 ヴァルタイルの声が聞こえた――と思った瞬間、視界が回転した。

 私の腕を持ったヴァルタイルが、空中で体を捻ったのだ。


「わ、わわわわわわわわわ!」


 物凄いGが私を襲う。

 さながら絶叫マシンだ。

 ヴァルタイルは俊敏な動きで、ドラゴンの腕を躱し、首を躱し、懐に潜り込み、そのまま一気に背後へと回り込んだ。

 そして、ヴァルタイルを見失い焦燥している《エアロドラゴン》の背中に向かって拳を構えると――虚空を殴る様に腕を振るう。

 瞬間、その腕から一閃の炎――火炎の槍が発生し、《エアロドラゴン》の背中へと炸裂した。

 爆炎、爆熱、《エアロドラゴン》の悲鳴が轟く。

 命中した《エアロドラゴン》の背中、翼の付け根や、周囲の鱗が黒く変色している。

 でも、深刻なダメージは負っていないように見える。


「流石ドラゴン、硬いね」

「当たり前だろ。こっちが手ぇ抜いてやってんだよ。この程度、大したダメージにならねぇのはわかってるからな」


 ヴァルタイルが言う。

 なるほど、きっと、ドラゴンを倒そうと思えば、彼にはもっと強力な攻撃方法があるのかもしれない。

 でも、それをせず、相手の翼周辺にダメージを与え、機動力を奪う方法を取ってくれたのは、私の策に乗ってくれている証拠だ。


「ありがとう、ヴァルタイル」

「……無駄口叩いてる暇があんなら、さっさとケリ付ける事考えろ」


 おっとっと、その通りだ。

 そんな会話をしている私達を、《エアロドラゴン》が振り返り、鋭い双眸で睨んで来る。

 動揺こそしているが、攻撃の意思は止んでいないようだ。

《エアロドラゴン》は再び、その口腔を大きく開ける。


「行くぞ!」


 しかし、それよりも早く、ヴァルタイルが滑空の姿勢に入った。

 翼の飛行能力に加え、火力が動力となっているのか――ヴァルタイルのスピードは一瞬で加速される。

 翼にダメージを受けた事で、飛行手段は失った《エアロドラゴン》の懐にもう一度潜りこむ。

《エアロドラゴン》は、再び視界から私達が消えた事に思わず動きを止める。

 この瞬間を逃さない。

 私はスキル《錬金》を発動――手の中に〝回転鋸刃〟を錬成する。

 そして、魔力を動力へと変換し、高速回転する〝鋸刃〟を、《エアロドラゴン》の胸の魔石に向かって発射した。

 あたかもウ●トラマンの八つ裂き光輪が如く、放たれた〝鋸刃〟は魔石に命中。


「せいッ!」


 更に稼働させ、縦横無尽にそれを切り裂いた。

 甲高い音を立てて砕け散る魔石。

《エアロドラゴン》が、悲鳴を上げた。


「やったのか?」

「多分ね」


 私とヴァルタイルは、上空から倒れ伏す《エアロドラゴン》の姿を見る。

 地響きを立てて、腹から崩れ落ちた《エアロドラゴン》は、そのまま昏倒し動かなくなった。




※ ※ ※ ※ ※




「……ほう」


 マコとヴァルタイルが、《エアロドラゴン》を下した――。

 その光景を、少し離れた場所から見ている者がいた。

 背中から生やした羽を羽搏かせ、滞空しているその存在は、倒れた《エアロドラゴン》の姿を見て、顎元に手を添える。


「まさか、ドラゴンを瞬殺する程の手練れがいるとは……適当に経過観察でも、と思っていたが、思いがけない事態だ」


 まぁ、何にせよ面白い――。

 そう呟き、そいつは白目まで真っ黒に染まった目を楽しそうに曲げる。


「実験は、おおむね成功だ。ドラゴンの使役は可能。後は……胸の魔石を防御する方法を考えねば、だな」




※ ※ ※ ※ ※




「マコ!」

「おとうさーん!」


 私達が地上に降り立つと、マウルやミミ、みんなが慌てて駆け寄って来た。


「大丈夫!?」

「こわかった~」


 泣き付いて来るミミ達や、心配してくるマウル達を宥めつつ、私は《エアロドラゴン》の方を振り返る。

 両目を瞑り、まだ眠っている様子だ。


「さて、こいつをどうするか……」


 ヴァルタイルが呟く。

 魔石の力で凶暴化していたとは言え、再び目を覚ました時大丈夫という保証はない。

 と言っている間に、《エアロドラゴン》が体を微弱に揺らした。


「あ! 起き上がるよ!」

「おとうさん……」


 メアラが叫ぶと、ミミ達三姉妹はヴァルタイルの足にしがみ付く。

 ……このままビビっていても、しょうがない。


「ヴァルタイル」


 私は、ヴァルタイルに提案する。


「ここは、私に任せてもらってもいいかな」

「何か、考えがあんのか?」


 ヴァルタイルに頷き返し、私は《エアロドラゴン》の方へと歩み寄っていく。

 一応念のため、エンティアとクロちゃんにもお供に付いて来てもらいながら。

 私は《エアロドラゴン》の元まで行くと、その巨大な頭部――鼻先に、静かに触れる。

 瞬間、スキル《対話》が発動。


『う、ううん……』


 ドラゴンの口から聞こえる唸り声が、人間の言葉に変換され耳に届く。

 少し掠れてはいるが、どこか、女性っぽい高い声音だ。

 もしかして……この《エアロドラゴン》は、メスなのかもしれない。


『……ハッ、私ってば、こんなところで何を……』

「目が覚めましたか?」


 眼を開け、キョロキョロと周囲を見回す《エアロドラゴン》に、私は語り掛ける。


『あなたは……人間? ここは一体……』

「ここは、王都近くの山間地帯です。ここまで飛んできた記憶とかはありませんか?」

『記憶? ……あなた、人間よね? どうして、私の言葉がわかるの?』

「私は《対話》っていうスキルを持っていて、人間以外の動物とも会話をすることができるんです。話を戻しますが、本来遠くの山に住んでいるはずのあなたが、何故かここまでやって来たようで、私達は襲われたんです」


 私は、地面に転がっている魔石の破片を拾いあげる。


「この魔石が胸に埋め込まれていたんですけど、心当たりは有りませんか?」

『魔石? ……そうだ、思い出したわ。餌を取りに狩りに出たところで、得体の知れない奴……そう、《悪魔族》だったわ。いきなり、そいつに襲い掛かられたのよ、私』


 やっぱり、悪魔が関わっていたようだ。

 そこまで語って、《エアロドラゴン》は勢い良く頭を持ち上げた。


『あらやだ! 大変だわ! そういえば私、狩りの最中だったんじゃない! 早く帰らないと、うちの子達がお腹をペコペコにしてるわ!』

「それは大変ですね。こちらの事は気にせず、動けるようならどうぞ、早くお帰り頂いた方が」

『すいませぇえん(↑)ご迷惑をおかけしちゃいまして! このお詫びは日を改めて、またこちらに訪問させていただきますので! 失礼いたします! ああ、大変大変!』


 そう言って、《エアロドラゴン》は――もう回復していたようで――翼を羽搏かせ、空の向こうへと飛んで行った。

 ……なんだか、凄くおばちゃんみたいな喋り方のドラゴンだったな。

 まぁ、主婦さんっぽいし、そういうことなんだろう。


「……ふぅ、何はともあれ、大事無く済んだね」

「おお」


 私の呟きに応えながら、ヴァルタイルは地面に落ちた魔石の破片を拾う。


「お前の言う通り、悪魔が関わってやがったな」


 どうやらヴァルタイルも、先程の私と《エアロドラゴン》の会話を聞いていたようだ。

 欠片となった魔石を眺めながら、小さく舌打ちをする。


「チッ……俺達には関係ねぇ事だと思ってたんだがな。人様の家庭に被害をもたらすんじゃ、無視できなくなっちまったぜ」

「今回の件は、私が王都に帰って冒険者ギルドに報告しておくよ。魔石に関しても、調べておく」


 何はともあれ、暴走したドラゴンの襲撃は、大きな被害を起こす事無く終わった。

 その後、私達はもうしばらくヴァルタイル家で過ごし、夕方前くらいの時間帯になったところで別れを告げる事にした。


「ばいばーい!」

「楽しかったよー! また来てねー!」


 手を振るミミ達に見送られながら、私達は王都へと帰る。




※ ※ ※ ※ ※




「ねぇ、デルファイ。魔石って何?」

「ん?」


 王都へ戻り、アバトクス村名産直営店に向かった私達。

 時間も夜になり、今日も屋外の飲食スペースは美味しいお酒と料理を求めてやって来たお客さん達で賑わっていた。

 そんな中、私はデルファイに質問する。

 魔石は、デルファイがかつて冒険者ギルドから請け負った任務で探していた財宝の一種だったからだ。


「随分、芸術的に懐かしい話だな。何かあったのか?」


火蜥蜴(サラマンダー)》の亜人であるデルファイが、ガラス玉をくにゃくにゃと曲げ、花細工を作りながら私に応える。

 この商品も、やはり私とレイレの見立て通り、人気である。


「うん、ちょっとね」

「魔石ってのは、簡単に言っちまえば宝石だ。神秘的な模様で、かなりの高価で取引もされてる」

「宝石……特に、何かに使うとかじゃなくて?」

「まぁ、一説によると不思議な力が宿っているようだが、まだ詳細は研究途中で、はっきりとしていないらしいな。希少な石として、宝石としての価値の方が見出されてる……あの邪竜の王子の件から察するに、ドラゴン族に何かしらの作用をもたらす力があるんだろう」


 デルファイも察している通り、おそらく《悪魔族》がその特性とドラゴン族を利用し、何か悪だくみをしているのだと思われる。


「ちなみに、魔石はグロウガ国内じゃ、ほとんど採掘されない。主な原産国は……あー、ナントカって国のナントカって鉱山だ」

「そこ、凄くいい加減だね」

「興味無いからな」


 とにもかくにも、やはり魔石がドラゴン族に対して力を与え、そして暴走をさせる作用を齎しているのかもしれない。

 そして、今までこの国で同様の事例があったのかは知らないけど……その力は《悪魔族》だから使える力なのかもしれない。

 となれば、今日のドラゴンの暴走にも、十中八九悪魔が関わっている可能性が高い。


「……もう、そこまで来てるって事なのかな」


 悪魔の魔の手は、もう既に、私達が考えているよりも早く、すぐ近くまで迫ってきているのかもしれない。




※ ※ ※ ※ ※




 ――翌日。


「おお……ここ、だよね」

「……の、ようだな」


 昨日の《エアロドラゴン》に関する報告も冒険者ギルドに済ませ、私が今日訪れたのは、王都の中心部近く。

 先日訪問した王国騎士団の本部よりも、王城寄りの地域――つまり、貴族達の居住区だった。

 私の横には、ガライ。

 そして私達二人の前には、それはそれは立派な作りの豪邸が聳え立っている。

 ここは、貴族ブルードラゴ家。

 そう、かつてガライが助けた《半エルフ》の少女――メイプルちゃんの実家である。

 実は今日は、ブルードラゴ家にお呼ばれされていたのだ。


「ひえぇ、そりゃあ貴族だから当然と言えば当然なんだけど……凄い家だなぁ」


 大豪邸を前にして、少し浮かれ気分になる私。

 ――と。


「……ん?」


 そこで、私はふと、背後を振り返った。


「どうした? マコ」

「……ううん、なんでも」


 振り返った先には、整然と舗装された、高級感漂う石畳の道が見えるのみ。

 ……気のせい、かな?

 何か、気配を感じたような。


「おじさーん!」


 そうこうしている内に、門の向こう。

 邸宅の方から、メイプルちゃんがこっちに向かって駆けて来るのが見えた。



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