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■5 会議開始です


「会議を開始したいと思います、じゃねぇよ」


 冒険者ギルドの幹部、ウォスローさんの発言の直後、すかさず口を開いたのは《不死鳥》と呼ばれる冒険者――ヴァルタイルだった。

 革製のタイトな服装に加え、乱暴な口調も手伝って、ヤンキーっぽい。

 彼は、その両サイドに流れた鳥の翼のような髪の下――釣り目を更に鋭くさせ、ウォスローさんを睨む。


「悪魔族が出た? 今後の方針? どうでもいいんだよ、ンなことは。俺は俺のやりたいようにやる。そういう条件で冒険者ギルドに籍を置いてるはずだぜ」


 そう言うと、ヴァルタイルは机の上に乗せていた足を下ろし、席を立つ。


「どこに行かれるのですか、ヴァルタイル様!」

「うるせぇ、こっちはわざわざ大事な娘との約束断ってきてんだ。クソどうでもいい話し合いならお前らでやれ」


 そう言って、ヴァルタイルは会議室を出ていこうとする。

 ……っていうか、娘がいるんだ。


「まぁまぁ、ヴァルタイル。そうカッカするなよ」


 そこで口を挟んだのは、あの爽やかな青年――《八卦水晶》カイロン・スイクンだった。

 自身の背後を通過していこうとするヴァルタイルを、そう言って止める。

 彼……見た感じは、この国の人っぽくない。

 服装も、どこか中華風で――第二アバトクス村でお世話になった行商人のアムアムさんを思い出す。


「まず、聞くだけ話を聞いてみよう。そもそも、今日の話し合いの具体的な内容まではコチラも聞かされていないんだから。ね、ウォスロー」

「は、はい」


 屈託ない声で言うカイロンに、ヴァルタイルは「……チッ」と鬱陶しそうに舌打ちをした。


「遅ればせながら、今日皆さんにお集まりいただいた最大の目的を申し上げます」


 その間に、ウォスローさんが言う。

 今回の会議の、最大の目的。

 悪魔族の出現、このグロウガ王国を襲う未曽有の危機に、何故、Sランク冒険者11人が集められたのか。

 私達に、何をして欲しいのか。

 その、冒険主ギルド側からの要望が、発表される。


「簡単に言うならば……皆さんに、仲良くなってもらいたいのです!」


 ………。

 ……はい?

 ウォスローさんの発言に、沈黙が場を包む。

 仲良くなって欲しい……とな?


「今後悪魔族が出現した際には、今回の観光都市バイゼルで起こったような大惨事を起こす可能性も考えられます。悪魔がたった一匹で、この騒動……それこそ、複数出現などということになったら、起こりうる被害は計り知れない!」


 凄く演技がかった動きで喋るウォスローさん。


「もったいつけんな、とっとと言え」


 流石に、ヴァルタイルも正論を言う。


「そうなった場合、皆で力を合わせることが重要なのですが……とにもかくにも、Sランクの皆さんは人格に問題……失敬、人として何かが欠けている……失敬、性格に独創性の高い方が多いため、冒険者ギルドとしましては協調性に心配を覚えた次第なのです!」


 中々、口が悪いぞこの人。

 まぁ、Sランク冒険者は元々クセの強いキャラの集まりだという話は聞いていたので、納得でもあるけど。


「冒険者ギルドに記録されているデータを見るに、この中のほとんどの方が、任務に参加する際にはパーティーを組まず単独で臨むことが多い」

「実際、それで問題ねぇじゃねぇか」


 ヴァルタイルが言う。


「その通りです……しかし、今後のことを考えると、そうは言っていられないのです。それに、皆さんの中には、聖教会、騎士団、王族、様々な重要機関で要職に立つ立場の方々もいる。皆さんが協力できるようになれば、ひいては機関ぐるみでの連携も取れやすくなるはず! そうなれば、悪魔族に対して一致団結し、この危機を乗り越えられます!」

「おい、つまり、俺達は仲良しゴッコさせられるためにここに集められたってことかよ」


 殺気立っているヴァルタイル。

 そんな彼に、ウォスローさんは「はい」と良い笑顔で答えた。


「安心してください! この会を盛り上げるために、我々も色々と用意させてもらいました! ボードゲームも各種ありますし、飲み物も食べ物もご注文いただければすぐに持ってきます!」


 めっちゃ準備してくれている。

 でも……小学生のお友達会じゃないんですから……。

 私は、ホームセンター時代に、正社員、パート社員含めた職場会が開催されていたので、こういうのに抵抗はないけどね。

 ……まぁ、大抵の場合パートのお局のおばちゃんの接待会になるんだけど。


「くだらねぇ、帰る」


 予想通り、ヴァルタイルは再び会議室から出ていこうとする。


「いやいや、面白そうじゃんか」


 それを再び、カイロンが止めた。


「こんな機会もめったにないし、みんなでちょっと遊ぼうよ。ね、ミストガンも」


 カイロンは、隣に座っていた静かな雰囲気の男性――確か、《剣の墓》ロベルト・ミストガンと呼ばれていたか――に、そう話しかける。


「いや……」


 いきなり水を向けられ、若干気遅れ気味ながら。

 ミストガンはしかし、カイロンの提案に対し冷静に返す。


「流石に、気分的に難しいだろう」

「えー、いいじゃんいいじゃん」

「だからテメェ等だけでやってろ。邪魔すんじゃねぇ、燃やすぞ、クソが」


 カイロンに殺気立つヴァルタイル。

 この状況下で他のメンバー達はどうしてるかと言うと……。

 王族のレードラーク・ディアボロス・グロウガは、呆れたように瞑目して動かない。

 その隣の少年、ミナト・スクナも、どうでもよさそうに虚空を眺めている。

 他の皆も、似たように、この状況に対して動くことなく、ウォスローさんだけが慌てている様子だ。

 ……やれやれ。

 確かに、協調性が無いというのも頷ける状況である。


「あのー」


 そこで、私は立ち上がり、声を発した。

 荒れかかっていた状況下で動いた私に、皆がピタリと止まって視線を向ける。


「私、今日お土産持ってきてるんです。うちの店の新作のお菓子、是非皆で食べてください」

「お菓子?」


 と、反応をしたのは、ここに来た時から色々と食べていた少女――《暴食》のリベエラ・ラビエルだった。


「どれどれ? 見せて見せて」


 と、興味津々で私の方に寄ってきた。

 やっぱり、第一印象通り、食べ物に目が無いらしい。

 私は、持参していたポテトチップスを数袋、テーブルの上に広げる。

 紙袋を破って、パーティー仕様である。


「ああ、知ってる知ってる。これ、最近王都で人気なやつだよね」


 リベエラに続きカイロンもやって来て、ポテトチップスに手を伸ばす。


「ぱくぱく」

「うん、おいしい。いけるね」

「ありがとうございます」


 一心不乱に食べるリベエラ。

 カイロンも、一口食べて褒めてくれた。

 そこで、意外にも私の所に寄って来てくれていたヴァルタイルが、ポテトチップスを一枚持ち上げ、頬張る。


「……これ、お前の店で作ってんのか?」


 そう問い掛けて来るヴァルタイル。

 おや、意外な人物が興味を示してくれた。


「はい、アバトクス村で採れた新鮮なジャガイモを使ったポテトチップスですよ」

「……そうか」


 ん? なんだろう。

 なんだか、ちょっと引っ掛かる反応。

 と、そんな感じで私が持ってきお土産は結構好評だった。

 と言っても、大半のメンバーは動かなかったけど。


「ごほん……では、マコ様のおかげで盛り上がっているところですが、改めて今後の方針を」


 ウォスローさんが、そう言い放つ。

 いや、別にそこまで盛り上がっていませんよ。


「再三となりますが、我々はSランク冒険者の皆さんに仲良くなってもらいたいのです。皆さんは強い。その実力は疑いの余地もありません。そんな皆さんが力を合わせられたなら、百人力……否、千人力なのです。加えて、皆さんが所属する組織同士、緊急時には息を合わせられるようならば、これ以上はありません」

「御心配には及びませんわ」


 そこで、熱を帯びた主張を繰り返すウォスローさんに向けて、修道女服の女性が言った。

 綺麗な声音だった。

 彼女は――たびたび話に出て来る、《聖母》のソルマリア・ホリーグレイスさんだ。


「少なくとも、わたくしは聖教会の者。緊急の際に、手と手を取り合って共に助け合うなど、当然の事と認識しております」


 流石は、聖職者。

 彼女は、人柄的に問題はなさそうだけど。


「しかし、ソルマリア様。貴方は以前、ギルドで聖教会の在り方に疑問を呈した冒険者に対して粛清を行ったと記録が……」

「我等が教えに背く者達は滅ぼします」


 ウォスローさんの問いに、彼女は真顔で答えた。

 ……うん、やっぱり問題有りの方ですね。


「と、ともかく、せっかくここには、聖教会に属するソルマリア様に、元騎士団長のミストガン様もいる。加えて、こちらのマコ様は現在、両組織から特別視されていると噂に聞いております」


 ウォスローさんが、私の方を見て言った。

 うん、まぁ、否定はしないけど。


「先程、カイロン様もおっしゃられていましたが、これも良い機会。この危機に是非皆さんで協力して――」

「だから、どうでもいいっつってんだろ」


 しかし、そんなウォスローさんの懇願に対しても、ヴァルタイルは心変わりする事無く言い捨て、その場を後にする。


「あ、ヴァルタイル様!」


 扉を蹴り開けて出て行ったヴァルタイルを、ウォスローさんが追う。

 そこで、ウォスローさんがいなくなったタイミングを合わせるように、他のメンバー達もぞろぞろと会議室から出て行き始めた。


「もぐもぐ、お菓子、ありがとうね」


 リベエラにはそう一言だけ残され、私が止める間も無く、会議室は私とガライ、そしてルナト以外誰もいなくなっていた。

 レードラークや、あの魔女っぽい人などは、いつの間にか消えていた。


「うう……え! マコ様、皆さんどこに行かれたのですか!?」


 そこに戻って来たウォスローさんが(おそらく、ヴァルタイルの説得にも失敗したっぽい)、蛻の殻と化した会議室を見て驚く。


「みんな、帰っちゃいました」

「……ダメだったか」


 嘆息し、落ち込むウォスローさん。

 ……なんだか、中間管理職の悲哀が見える。


「……マコ様、私は……あなたが希望だと思っております」

「はい?」


 ウォスローさんが勢いよく、私の手を掴んできた。


「この人格破綻者達を率いるSランクのトップになる器は、如何なる土地や種族も関係無く、心を開かせ導いてきた実績を持つあなたなら、この人格破綻者を率いSランクのトップに立てる器だと考えているのです!」


 やっぱり、結構口が悪いな、この人。

 ……しかし、みんな、かなり非協力的と言うか……独善的な性格の人が多いように思えた。

 それでも、実力が確かだと言うなら……なるほど、この人達を一つのチームに出来たら、悪魔族が軍隊で来ようと余裕で対抗できるかもしれない。


「……ん?」


 そこで、私は気付く。

 会議室の中に、私とガライ、ルナトさん以外に、もう一人残っているのに。


「えーっと……ソルマリアさん?」

「はい」


 椅子に座ったまま、《聖母》――ソルマリアさんがこっちを見ている。

 いや、両目は瞑られている。

 見ているわけではなく、顔を向けられている状態だけど。


「ホンダ・マコ様……あなたの事は、わたくしもよく存じておりますわ。聖教会の認定する、《聖女》の称号を持つ方」

「え? あ、まだ仮って話ですけど」

「こうしてお会いできて光栄ですわ。では、参りましょう」


 そう言って、彼女は立ち上がった。


「参りましょうって……どちらにですか?」

「あら、決まっていますわ」


 ソルマリアさんは言う。


「我等が聖教会本山にて、悪魔アスモデウスを拘束中です。今後の事を考えるというのなら、話を伺いに向かいましょう」


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