■プロローグ 焼き芋です
あのリゾート旅行から始まった、観光都市バイゼルでの事件解決後。
私達がアバトクス村に帰ってきてから、数日が経過していた。
「ぬぅ……」
「もう、なんでそんな怖い顔するの? いいじゃん、すごいじゃん」
私がこの世界にやって来て、色々あって王都に出店をしていた辺りが、季節が春から夏に切り替わったくらい。
そして、観光都市バイゼルで過ごした日々が、夏のピークだった。
今は暑さも徐々に弱まり、秋に差し掛かっているくらいだろう。
「ぐぅ、しかし、俺様の芸術的感性としては、なんともつまらん……」
「どうしたの?」
アバトクス村の中にある、《火蜥蜴》の亜人の芸術家――デルファイの家の前。
そこで、何やら言い合っている私とデルファイの姿を発見し、令嬢レイレが声を掛けて来た。
「あ、レイレ。丁度いいところに」
私はそこで、レイレにある物を見せる。
それは、私がデルファイにお願いして作ってもらった、新しいガラス細工だ。
王都で販売する、新しい商品を考えていたのである。
「これ、どうかな?」
そう言って、私がレイレに見せたのは、ガラスを加工して作られた、透明な花だった。
ガラス細工の、一輪の切り花である。
「え! なにこれ、綺麗!」
と、思わずレイレもテンションが上がっている。
よかった、女の子受けも良さそうだ。
「ちなみに、花の形をしてるけど中は空洞になってるんだ。色水を注げば、着色もできるんだよ」
「凄いじゃない! なによ、こういうのも作れるんだ!」
普段は、変人の芸術家といった印象しかなかったからね。
レイレも、この作品を作った事でデルファイに対する印象が大分マシになったようである。
「これからは、こういう方向性のアーティストになればいいのに」
「つまらん!」
対し、デルファイは腕組みをして「ふんっ!」と鼻を鳴らす。
「俺様の感性には合わん! 二度と作らんぞ!」
「えー、もったいない……あ、そうだ、レイレ。ちなみに、デルファイにこんなのも作ってもらったんだけど」
言って、私が取り出したのは、一枚のお皿だった。
ガラス製の透明なお皿で、表面にはフロスト状の凸凹模様が装飾されている。
一見は、まるで氷でできたお皿のようだ。
「へぇ、よく出来てるわね……」
「今度、第二アバトクス村に行く時にでも持っていこうかなと思って」
「ああ、お刺身を盛り付けるのに合いそうなお皿ね」
レイレの尽力のおかげで、刺身の作成に成功はしたけど、あれは凍結の魔法を使える人間がいないとできない。
レイレは基本、私と一緒に行動するので……第二アバトクス村で継続的に刺身を提供できるようにするために、レイレの家――グロッサム家の親族に依頼して、人員を確保できないか、レイレを通して相談してもらっているところだ。
とまぁ、そんな感じで、リゾートから帰って来た後も、私達はアバトクス村でのんびりと暮らしながら、新しい商品や製品の開発をしつつ、平和に暮らしていた。
「「マコ!」」
そこに、マウルとメアラがやって来る。
この世界で私が初めて遭遇し、そして今では一緒に暮らしている、双子の《ベオウルフ》の少年達だ。
「どうしたの?」
「ウーガが、また新しい野菜を作ったんだよ!」
「今度のも芋らしいんだけど……」
以前、ジャガイモの育成に成功したウーガ。
そのジャガイモで作ったポテトチップスが、今では王都の人気商品になっているらしい。
「おう! マコ!」
見に行ってみると、ウーガがその手に長い蔦と、蔦から生えた紫色の芋を見せ付けながら立っていた。
「どうだ!」
「おお! すごい、サツマイモの育成に成功してたんだ」
ウーガが手にしているのは、サツマイモだ。
この村の畑は、私のスキルで生成する《液肥》の効果もあり、実質、季節や気候に関係無くどんな野菜でも育てられる土壌と化している。
ウーガ自身の探求心もあって、ウィーブルー当主を介して手に入れた野菜をどんどん育てまくっているのだ。
「この芋、どういう風にして食うんだ? 焼くのか?」
「うん、正に焼いて食べるのが一番美味しいんだよね」
言って、私は早速スキル《錬金》を使用し、〝アルミホイル〟を生成する。
収穫したサツマイモを洗って、一個一個〝アルミホイル〟で包み――その間に、焚火を起こす。
〝アルミホイル〟で包んだサツマイモを焚火にくべ、数十分後――。
「できた!」
火から取り出して〝アルミホイル〟を開けると、ホカホカの焼き芋が出来上がっていた。
うーん、おいしそう!
屋台の石焼き芋とか、時々無性に食べたくなっちゃうんだよね~。
私は早速、焼き芋を配って皆と試食する。
「うまっ!」
「芋なのにめちゃくちゃ甘いぞ!」
「こいつも王都で売り出そうぜ!」
「はふはふ」「もぐもぐ」とおいしそうに頬張っているマウルとメアラ。
一方で、他の《ベオウルフ》達の間からもそんな声が上がり始める。
「しかし、すげぇ勢いだなウーガ」
「ああ、この前の観光都市の村でも、《ベルセルク》達からかなり頼りにされてたしな」
「おうよ! 今度は畑だけじゃなくて、リンゴとかの果樹にも挑戦しようかと思ってるぜ!」
皆から賞賛されるウーガは、そこで胸を張って宣言した。
おお、果樹とな?
「ウィーブルー当主とも前に話してよ、最近本とか買って勉強してるんだぜ?」
「もしも果樹園まで作っちゃったら、物凄い事だよ」
流石の発想力に、私も驚く。
最早、農業王ウーガである。
「これが、あのウーガとはな……」
「前までアホで有名だったウーガとは……」
と、ラムとバゴズも、ウーガの成長した姿に遠い目をしている。
「あ、そういえばよぉ、マコ。この前、この畑で作った野菜を、第二アバトクス村の《ラビニア》の姉弟に送ったんだよ」
「え? ルナトさん達に?」
へぇ、知らなかった。
確かに、向こうにいた時、ウーガと《ラビニア》姉弟はかなり仲の良い感じになっていたけど。
まさか、そんな事までしていたとは。
「で、そのお礼の手紙が届いててな」
ウーガは、服のポケットから書状を取り出す。
中には折り畳まれた手紙が入っており、そこにルナトさんとムーの感謝の言葉……後、端っこの方にポコタの肉球ハンコが押されていた。
『拝啓、朝夕はめっきり涼やかになり、過ごしやすい季節となりました。ウーガ様は如何お過ごしでしょうか。先日、わたくし共へお送りいただきました農作物、とても美味しく頂戴させていただきました。以前、この地で弟がお世話になった事だけでなく、このようなお心遣いまでしていただき、身に余るほどの光栄――……』
丁寧! 硬い!
真面目だなぁ、ルナトさん。
「あ、あいつ、女子と文通しているのか?」
「リアルが充実してやがる……」
そんなウーガに、ラムとバゴズは再び遠い目をしている。
と、そこで。
「マコ。あんたにも、通知が来てるぞ」
そう言って、ガライが一枚の封筒を持ってやってきた。
長身痩躯の、屈強な《鬼人族》の亜人である。
「私に?」
封筒を受け取り、中身を取り出す。
差出人は、冒険者ギルドだった。
「……もしかして」
「ああ、遂にお呼びがかかった……ってところだろう」
髪をくしゃくしゃと掻きながら、ガライが言う。
私は手紙を取り出し、中の文面を検める。
……簡単にまとめると。
先日の観光都市バイゼルでの一件で、王都に拠点を置く各機関が悪魔族への対応に各々動きを見せ始めているという。
王国騎士団、魔術学院、聖教会……そして、この度、冒険者ギルドも今後の方針を固めるべく、重役と上位実力者……つまり、Sランク冒険者を交えての会合を行いたい、とのことだった。
……それと、王都で私と対面を希望している人達が何人かいる……と、ちょっと不穏な文面もあった。
「忙しくなりそうだね」
嘆息する私。
まぁ、でも、久しぶりに王都の直営店や……それ以外にも、挨拶をしたい人達もいるし、王都に行くこと自体はやぶさかじゃないけど。
「あたしも、久しぶりに実家に挨拶に行きたいわね。お父様とお母様にも心配をかけないように」
レイレが言う。
彼女もそうだけど、みんな付いてくる気満々だ。
「よし、じゃあ、さっそく準備を始めようか」
次の舞台は王都。
そこに、まだ見ぬSランク冒険者をはじめとした、新たな出会いが待ち構えているようだ。




