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■プロローグ 本田真心(ほんだ・まこ) ホームセンター店員

 ホームセンター店員の女の子が、異世界で気儘に生活します。

 よろしくお願いいたします。



「うううう……づがれたよぉ……」


 夕飯の詰まったコンビニ袋を片手に、私は夜道を歩いている。

 私の名前は、本田(ほんだ) 真心(まこ)

 職業は、ホームセンターの店員。

 今日も一日中売り場を走り回り、疲労困憊になりながら帰宅している途中である。


「アルバイト君やパートさん達が辞めちゃって、人手不足なのはわかってるんだけど……結局人員の補充が無いと残った人間にシワ寄せが来ちゃうだけなんだよねぇ……」


 今の時代、どこもかしこも人手不足だ。

 しかし、だからと言って仕事が減ってくれるわけではない。

 本来、数人がかりでやらなければならない仕事を一人でやるのだ。辛いのは当然である。

 今日も私は、新商品の売り場を作り、レジのローテーションを組み、植物の水やりをし、クレーム応対をし、メーカーの営業さんや本部SVと打ち合わせをした。無論、その間100人近いお客さんの接客も行う。

 もうクタクタだ。


「もう無理ぃ……死んじゃうよぉ……」


 でも、明日は久しぶりの休日。

 13時間勤務(無論、休憩なんて取れないので実質14時間)×6日連勤明けの体を、やっとまともに休められる。


「うふふ……帰ったら録画しておいた、プ●キュアと仮●ライダーと●●レンジャーを見るんだ……」


 説明しよう。

 私には基本的に土日休みが無い。

 何故なら、世間が休日の日こそ接客業にとっては繁忙日になるからだ!

 そんな私にとって最大の楽しみは、録画したニチアサ(日曜朝の子供向け番組)の視聴である。

 中でもメインで楽しみにしているのは、仮●ライダー。最早、毎週の仮●ライダーを見るために生きていると言っても過言ではない。

 先週の放送の次回予告を脳内で再生し、それに基づく本編を妄想しながら、私はにやにやと笑みを浮かべる。


 瞬間、目前の電信柱の影から、一人の中年男性が姿を現した。

 禿げ上がった頭に眼鏡をかけ、体を丈の長いトレンチコートで覆い隠している。

 見て一瞬で痴漢とわかった。


「ひひひ……お姉ちゃん、いいもの見せて――」

「………」


 私は中年男性を見詰める。


「……ひひ?」

「………」


 私は中年男性を見詰める。


「………ひ」

「………」

「………」

「………」

「………あの」

「殺すぞ」


 私は無表情のまま低い声で言った。

 もう無駄な体力を一ミリも使いたくないのだ。

 中年男性はそんな私の反応に顔を青褪めさせ、全力で明後日の方向へと逃げて行った。

 ……やれやれ、夜道を歩くか弱い女性を狙うなんて、本当に卑怯な存在である、痴漢とは。

 大嫌いだ。

 仮●ライダー一号、ホンゴウ・タケシを見習って欲しい。


(……いや、タケシは痴漢なんて絶対にしないんだけど……)


 そんなこんなで、私はやっとこさ、自身の暮らすアパートへと到着を果たした。

 解錠し、扉を開け、部屋へと入る。


「ふぃぃ……」


 そして、靴を脱いで玄関に上がると同時に、そのまま床に崩れ落ちた。

 私の疲労は、私の想像以上にこの体を蝕んでいたようだ。


「あ……ダメ……化粧落として……服も着替えないと……」


 でも、玄関マットの肌触りが心地良すぎて顔をうずめちゃう……。

 傍から見たら、相当末期な姿だろうな、私……。


「うぅーん……ちょっとだけ……ちょっとだけ休んだら――」


 意思に反して、体が言うことを聞いてくれない。

 脳がぼやけて、思考もままならない。

 ああ、寝ちゃう、寝落ちしちゃう……。

 でも、なんだろう……気持ちが良いって言うより、体が静かになっていくような……。

 ……あれ……私、息してる?

 苦しい……でも、疲れて呼吸もできない……。

 これって、寝るって言うより……。


(……最後に、今週の仮●ライダーだけでも観たかった……)


 そこで私の意識は、ぷっつりと途絶えて闇の中に消えていった――。




※ ※ ※ ※ ※




「ううーん……」


 肌を撫でる心地良い感覚。

 ……そっか、私、寝てたんだ。

 この感覚は……お布団?

 ……あれ? 私、いつの間に布団まで辿り着いたんだろう。

 そこで、嗅覚がどこか懐かしい香りを感じ取る。

 違う、この匂いは、お布団さんじゃない……この感じは……。


「……草?」


 瞼を上げた私の視界の中、目と鼻の先に、地面から生えた草が見える。

 肌を撫でるのは、雑草の穂先と吹き抜ける風の感覚だった。

 外? 私、屋外にいるの?

 頭の中を疑問符が埋め尽くす。

 私は、横たわっていた体を起こした。

 一面に広がる草原。真っ青な空に白い雲。彼方には山々。


「なに……これ……」

「わ! 気付いた!」

「逃げろ!」


 すぐ近くから、そんな声が聞こえて、視線を向ける。

 子供だった。

 二人の子供が、私に背を向けて走っていくのが見える。


「……今の子供たち、変な恰好してたなぁ……」


 頭から犬みたいな耳が生えてるように見えたし。

 それに、服装も……まるでゲームとか漫画の中に出てくるような、ファンタジー染みた容貌だった。


「と言うか……ここどこ?」


 私、確か……仕事から家に帰って、疲労困憊でそのまま寝ちゃって。

 でも、寝るって言うより、なんだかまるで死んじゃうような気がしたんだよなぁ……あれ。

 でも、だとすると。


「もしかして、天国? それとも、夢?」


 私は周囲を見回す。

 あの子供達もどこかに行ってしまって、あたりには人影一つ見当たらない。

 依然、牧歌的な風景が広がっているだけだ。


「……あのー、ここってどこですかー?」


 そんな風に、誰もいない世界に向かって問い掛けてみる。

 当然、返事はない。

 ……と、思っていたら。


「え?」


 不意に、頭の中に文字が浮かび上がった。

 脳内に、線で縁取られた、まるで窓のようなものが浮かび、そこに文字が刻まれている。

 目を瞑っているわけでもないのに、まるで目前に表示されているかのように妙に克明だ。


「これって……ステータスウィンドウ、ってやつなのかな?」


 ゲームに詳しくはないが、その程度の知識ならある。

 RPGゲームとかでよくあるアレ。

 何故そう思ったかというと、書かれている文字もそれっぽいからだ。


――――――――――


 名前:ホンダ=マコ

 スキル:なし

 属性:なし

 HP:100/100

 MP:100/100


――――――――――


「……うん、夢だね、これ」


 そうとしか思えない。

 いきなり知らない場所で目を覚まし、意味の分からない言葉と数字の羅列が頭の中に浮かんで。

 こんなの、夢じゃなかったらなんだと言うんだろう。


「あーもー……早く起きよう。愛すべきニチアサ達が私を待ってるんだから……ん?」


 そこで、頭の中に浮かんだウィンドウの中。

 最後に表記されていた文字を見て、私は小首を傾げた。

 そこだけ、妙に気になった……というか。

 この夢としか思えない世界観の中で、嫌に現実味の有るワードが目についたわけで。


――――――――――


【称号】《DIYマスター》《グリーンマスター》《ペットマスター》


――――――――――



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― 新着の感想 ―
[一言] コミックウォーカーでコミック版を見て続きが気になり原作を探して来ました。(´・ω・`)面白すぎる。
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