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ルリハとナミホ 1  作者: カワラヒワ
7/15

見たんだ



「ぼくナミホのことが少し怖いよ」

 ぼくは顔を上げて海を見ながら言った。

 海は凪いで穏やかだった。波の音だけが砂浜に響いている。


 ぼくは砂浜に座った。

 昼間に太陽の光をいっぱい吸い込んだ砂は温かい。

「どうして?」

 ナミホがぼくの横に座って言った。


 ぼくをからかうように微笑んでいる唇。ぼくが暗い気持ちでいるのを楽しんでいるようなまなざしで。

 それで、ぼくはちょっと嫌な気分になる。


「ぼく、この前見たんだ」

 ぼくは小さな声で言う。


「ナミホが小鳥を食べるところを」


 海の上をアジサシが群れて飛んでいく。

 僕とナミホはしばらくの間、アジサシが飛んで行った方を眺めていた。


 風が吹いて、ナミホの長い髪がなびく。

「いけなかった?」

 ナミホは乱れた髪を直しながら言った。


「ううん」

 ぼくはまた首を振った。


「ぼくはナミホのことを知りたいと思っていたけれど、知らなくてもよかったんだ。」

 ぼくは握った砂をさらさらと下に落とした。

「ナミホと時々ここで会って、ちょっと話しをして海を見てる。それだけでよかったのに」

 下を向いたままぼくは言った。


 ふう~と息を吐きながらナミホが砂の上に寝転ぶ。

「それで?」

 ナミホは笑って砂の上に置いた頭をぼくの方に向けた。

 ぼくもナミホの横に寝転ぶ。

 空には星が瞬き始めた。


「いやになったのね」

ナミホはまだ笑っている。


「ううん、ちがうよ。でも、いつかぼくもあんなふうに・・・」

「あんなふうに?」

「ううん、ううん!」

 ぼくは体を起こして頭を振った。

 あたりはいやにしんとしている。


「ナミホはぼくを食べないって知っているよ。だってぼくたち恋人同士だろ」


 無表情で首を横に向けたまま、ナミホが体を起こす。それがちょっと不気味だった。

 でも、ナミホは急ににっこりした。


「わからないわよ。恋人同士でもお腹がすけば」

「えっ」

 ぼくは小さな声を出した。もし、その時ナミホがぼくの方に手を伸ばしていたら、ぼくは叫んでいたかもしれない。


 ぼくはぶるっと体を震わせた。

 ナミホはくすくす笑い出す。


「うそよ。食べたりしないわよ」 

 わかっている。ナミホはぼくを食べたりしない。

「よかったあ」

 ぼくは大げさに笑ってみせた。

 ナミホはゆっくりと首を動かして前を向いた。


挿絵(By みてみん)


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