冷たい
いつまでも抱き合っている二人。
「歩こうか」
ぼくは言って手すりから離れた。
歩道橋を降りて、手をつないで砂浜を歩く。
好き同士、あんなにずっと抱き合っているんだもの、あの二人は好き同士なんだ。そんなことを考えていた。
相変わらずナミホの手は冷たい。
振り向くと大分遠くに、ぼくたちと同じように手をつないで歩く、さっきの二人の姿があった。
「ねえ」
ぼくは思い付いて歩みを止めた。
「ぼくたちも恋人同士だろ。だから、ぼくたちも試してみようよ」
ぼくはナミホの手を放して言った。
「何を?」
ナミホがきく。
「こうやって」
ぼくはナミホの前に一歩出て、ナミホの背中に手をまわした。
「抱き合って確かめるんだ」
ぼくはナミホを抱きしめた。
ナミホは少し体をこわけばらせた。けれど、嫌がる様子はなかった。
でもぼくは、はっとしてナミホから体を離した。
自分からいきなり抱きしめておいて、すぐに突き放すように離すなんて、失礼なことだと思う。
わかっているけれど、ぼくはびっくりしたのだ。ナミホの体がすごく冷たかったから。
「もう、好き同士かわかったの?」
ナミホが不思議そうにきく。
ぼくは首を振り、黙って下を向いた。
「どうしたの?」
「なんでもない」
ぼくは言った。
確かめなくても知っていたのに。ぼくはナミホのことが好き、ナミホもぼくのことが好きだって。
ナミホの体が冷たいってことも知っていたのに。