おばさん
青空が広がっていた。薄い雲がゆっくり流れていく。
陽も大分高く昇り、ほとんどの生き物たちは忙しく動きまわっている。
ぼくの仲間たちも食べ物を探すこと、食べること、なわばりを守ることなどに忙しい。
ぼくはその慌ただしさに乗じて、森を抜けだし海に来た。
ナミホを探して海岸を飛び回っている。
ナミホは気まぐれだ。海から離れることはないけれど、いつ、どの辺りに姿を現すかわからない。
二、三日見つからない時もあるし、二、三日続けて会える日もある。
それは、ぼくの探す場所や時間帯、根気にもよるのだけど。
ナミホに会えた時をぼくはキセキと呼んで、このキセキを大事にしている。
そう、初めてナミホを見た時の気持ちもキセキだった。
飛びながらぼくはナミホに出会った時のことを思い出していた。
美しかったなあ。
ぼくはその時のことをさっき見たことのように思い出せる。
ベッドに横たわった、長い黒髪のナミホ。
白い肌、閉じたまつ毛、薄桃色のくちびる。
人形を寝かしているのかと最初思った。
へびのままじゃ死んじゃうからと、おばさんは言った。
おばさんのことは、ナミホとの出会いを思い出す時必ず一緒に思い出す。
おばさんはぼくの命の恩人。カラスに襲われていた巣立ちしたばかりのぼくを助けてくれた。
ぼくもナミホと同じように小鳥のままじゃ死んでしまっていたのだろう。ナミホに出会う一年前、ぼくもナミホと同じように人間の姿にされて、ベッドに横たわっていたのだ。
優しい目をしたおばさんだった。笑うと目尻にたくさんのしわがよった。
読んでいただいて、ありがとうございました。
挿絵は中村さん(https://26201.mitemin.net/)に描いてもらいました。