深い森
森は深かった。
苔の生えた大木や、何かが飛び出てきそうな茂み。毒虫が這い出てくる草むら。行く手を阻むとげのあるつる草が、二人の手足を傷つける。
「どこまで行くの?」
ナミホが眉をしかめて言う。
「足が痛い。あたし、歩くのに慣れてないもの」
ぼくは歩みを止めた。
「もう、少しだよ」
とは言ったものの、本当は目的地までかなりかかりそうだった。
ぼくもナミホと同じく歩くのに慣れていない。それに、飛んで行くのと歩いて行くのとでは道のりは全然違う。
引き返すそうか、ぼくは思った。
けれど、せっかくナミホを森に連れてこられたのに、そんなチャンスはめったにないぞ、と思うと引き返す勇気がでない。
ぼくは無言になってナミホの手を引き続けた。
雷がごろごろと鳴り始め、雨もぽつぽつ降りだした。
予定では、嵐が来る前に、あの場所まで行って帰ってくるはずだった。
時間がかかり過ぎている。ぼくは焦った。
雨はだんだん強くなり、木の葉に落ちた雨水は、容赦なく二人に降り注ぐ。
「くそっ」
ぼくは小さな声で言った。
見慣れない大木が立ちふさがる。まるで夜のようになった森はどっちに行けばいいのか、方向もわからない。
どうやら、道に迷ったらしい。
「寒い」
雨に濡れたナミホが言った。
「ごめんね」
申し訳なくて、悲しくなってぼくは言った。
こんなはずじゃなかったのに。
ぼくたちはさまよった挙句、ほら穴を見つけた。二人で入るのに丁度いい大きさの洞穴だった。何とか雨風が防げる。
二人はそこで嵐をやり過ごすことにした。
「本当にごめん」
冷たい石に腰かけぼくは言った。
「ナミホに湖を見せたかったんだ。すごくきれいな湖が森の奥にあったんだ」
ぼくの言い訳にナミホは何も言わず、うつむいたままだ。




