小鳥たち
森の奥に入ると、きれいな声で鳴いていた鳥たちは、一斉に鳴くのをやめた。
「ルリハだ」
一羽の鳥が言うと、
「ルリハだ」
「ルリハだ」
と、何羽の鳥たちが同じように繰り返した。
「人間に化けたルリハだ」
「変なのを連れてきたぞ」
「海へびが化けた人間だ」
「あいつだよ、ルリハを惑わしているのは」
「なんて恐ろしい」
「そんなやつを連れて来るなんて」
「いつか、ひどい目に遭うぞ」
鳥たちは口々に言い合った。
その鳥たちの中にコトネの姿もあった。
「ルリハ」
コトネが心配そうにつぶやく。
涙が出そうなくらいに悲しい気持ちで。
「コトネ、もう、あんなやつと付き合うのはやめろ」
隣りにいたコトネの兄さん鳥が言った。
「兄さん、ルリハは悪い人じゃないわ」
コトネが小さな声で言う。
コトネは、人間の姿のルリハに助けられたことがある。野良猫にもう少しで仕留められそうになったのを、ルリハが助けてくれたのだ。
簡単に猫を追い払える人間の強さ。恐怖で動けなかったコトネを、手のひらで包んでくれた手の温もり。優しい笑顔。コトネはその時、人間の姿のルリハにも恋をした。
「人?」
兄さん鳥は大きな声で言う。
「それが問題なんだ」
「あっ・・」
コトネは言葉につまった。
「人、人間! あんなやつらろくなもんじゃない。人間なんて自分勝手な生き物なんだ。そんなものに化けて、海へび人間なんかと仲良くして喜ぶ、鳥の気が知れん!」
兄さん鳥は吐き捨てるように言った。
「わかってる、わかってるけど」
涙ぐんでコトネが言った。
「もう金輪際、ルリハと話すのを禁じる。お前のためだ。仲間のためでもあるんだぞ」
兄さん鳥はきつく言って、人間の姿など見たくないというふうに、翼をばたつかせ飛んで行った。
「ルリハ」
また、コトネがつぶやく。
しかし、二人は鳥たちが木の上で騒いでいたのも気づかず、コトネが悲しんでいるのも気づかず、森の奥へと進んで行った。




