ねぐら
ほとんど日が落ちて暗くなった時刻。ぼくはねぐらに帰ってきた。
枝にとまっていた仲間たちは、いつものピーチクおしゃべりもやめ、今は羽毛をふくらませ静かに目を閉じている。
ぼくのとまるお気に入りの場所は空いていた。
足に馴染む丁度いい太さの枝、優しく体を隠してくれる常緑の葉。隣りにはいつもコトネがいる。ぼくの特等席。
「ルリハ?」
背中の羽毛に頭をうずめていたコトネが前に向き直って言った。
「あっ、ごめん、おこしちゃった」
「ううん、いいの」
眠そうな目をしばたかせ、コトネが言う。
せっかくのまどろみを邪魔されても、怒りもせずに許してくれる。
そういう時ぼくはコトネを愛おしく思う。
「ごめんね」
ぼくはもう一度言った。
ふんわりと膨らんだ温かそうなコトネの羽毛。ぼくを見つめるつぶらな瞳。
ぼくは自分の体をコトネの体にくっつけた。
温かい。
「ルリハ」
ちょっとかすれた甘え声。
「ん? 何?」
ぼくはありったけの笑顔で答える。
「どこへ行っていたの?」
ドキッ!
コトネは時々この質問をするけれど、そのたびぼくはドキッとする。
コトネは真っ直ぐ前を向いていた。ぼくにきいたのではなく、暗がりの中にいる誰かに内緒で話しかけるようにすごく小さな声。
「コトネ」
ぼくも小さな声でいう。
「ごめんね」
「謝ってばっかり」
ぼくは悲しくなって、何か言わなければと思った。でも、何を言っていいのかわからなくて黙っていた。
コトネは小さなため息をつくと、また背中の羽毛に頭をうずめた。
「おやすみ」
ぼくは言って、ぼくもコトネと同じように羽に頭を突っ込んだ。
コトネは好きだ。でも、ナミホのことも。
つむった目の奥に風に吹かれて海を見つめる、ナミホの横顔が浮かんだ。