家に巣食う「何か」
我が家には何かいる。
引っ越してきて長男の茉咲はそれに気がついた。正樹は10歳。
新しい我が家は特には少し古いということはなく、和風の家はそれなりに快適だった。
ただ、時折、ギシギシと何かの音がするのを茉咲は感じた。家で留守番してる時などそれは時々、聞こえた。
それでもその時まではただの家鳴りだと思っていた。
しかし、ある日、留守番してるとバンバンバン!と床を叩くような音が聞こえた。正樹がキッチンで手を洗っていたその真後ろで、である。
正樹は怯えた。
こんなこともあった。
夜、父と母と眠っていると上の階でパタパタと音が聞こえた。
「いるね。」
母が言った。
父も
「ああ...。」
と言った。
正樹は何がいるのか確認したいような気持ちになったが、結局しなかった。
はっきりさせないほうがいいこともある。
正樹と父と母は近所の新居に引っ越すことになった。
母は、本当はあまり引っ越したくなさそうだった。引っ越しはお金がかかる。しかし、正樹はその頃になると、家にいる「何か」に怯えて、夜中に騒ぐことが多くなっていたので、それも仕方なかった。
父も「何か」に嫌なものは感じているらしかったので引っ越しすることでとても嬉しそうに笑っていた。
正樹たちの引越しが完了した。
正樹は父と母に笑いかけた。
「これで、俺たち、幸せだね!俺、学校の友達に今、住んでる家のことと幽霊がいた家にいたってこと、自慢しちゃおっかなー!?」
その時、爆音がなった。見ると、正樹の家の居間においたピアノが勝手に鳴り出したのだった。
「付いてきちゃったね…。」
顔面蒼白で母が言った。
次の日、正樹が学校から帰ると母が首を吊っていた。
「なんで...。」
正樹は泣きながら、母を助けようとした。だけど首を吊った人の縄を解くなんてできない。正樹は不器用なのだ。
なんでなんでなんでなんでどうしてこんな簡単なことも出来ないの。なんでなんでなんでなんで。
それは正樹の声だったか。それとも母に言われた言葉だったか。
母の首にからまった縄を一生懸命震える手で取ろうとする中、「何か」の笑い声が聞こえた。
「あはは!」
正樹はその時、気づいてしまった。
もう正樹の幸せは永遠に訪れないのだと。