2ー5 新″カリィ″誕生
「兄ちゃん、この人って……え? 何で?」
「始めまして、瑠羽君。私を知っててくれて嬉しいわ」
そうい言って“シュガー“こと糖谷 珠美は瑠羽に優しい笑顔を見せる。
シュガーは、素顔でもフレーバーズの広報担当として各メディアに出演しているので、名前は知らなくても、その姿を知らないものなどいないはずだ。
フレーバーズの中でもシュガー・ザ・パールが大好きな瑠羽にとって、彼女の来訪は病気によって沈んだ気持ちを浮上させるのに十分な効果があったようだ。
「内緒にしてたけど、お兄さんとは特別なお付き合いがあってね」
「ぶっ!!!」
「え?兄ちゃんシュガーちゃんと付きあってんの?」
「ち、ちが……げっほ……ちがう」
「うふふ」
何て言う誤解を招くことを! 危うく全国のシュガー・ザ・パール親衛隊を敵に回すところだよ!
「実はお兄ちゃんにいろいろ助けてもらってて、そのお礼で今日はここに来たんだよ」
シュガーはそう言うと、瑠羽の頭に手を置く。
瑠羽は、憧れのシュガーに触れられて恥ずかしいやら嬉しいやらの表情を見せている。
次の瞬間、瑠羽の体全体が淡く発光する。発光はすぐに止まるが、瑠羽は急な出来事に目をぱちくりさせている。
「一体何?」
「瑠羽君の体が良くなるおまじない。ねえ瑠羽君、これを食べてみて」
シュガーが出したのは、白い飯盒に入ったカレーだ。厳密に言うと、“カリィライッソォ“だ。
「僕、味がわからないよシュガーちゃん」
「一口だけ、ね?」
シュガーに言われて瑠羽は渋々カレーを口にする。
最初は複雑な表情をしていた瑠羽だったが、その表情は一変する
「え? おいしい……おいしい! おいしいよ兄ちゃん! カレーがおいしいよ!」
「馬鹿だな、瑠羽。カレーはいつでも美味いんだよ」
そういいながら、僕は目が合ったシュガーに、感謝のお辞儀をする。
シュガーは、そんな僕に笑顔を浮かべて頷くのだった。
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僕は、自分の事情を話しフレーバーズの一員になることを拒否した。
事情を聞いたシュガー・ザ・パールから提案されたのは、“カリィライッソォ“の力で瑠羽を治療することだった。
万能エネルギーの“カリィライッソォ“ならば、失った感覚も補完して治療することができるらしい。
「瑠羽が、瑠羽が治るんですか!」
「一気に治すには大量摂取が必要だから、完治には時間がかかるけどね」
その間だけでも良いから、サポートメンバーとして一緒に戦ってくれないかとシュガー・ザ・パールは頼んできた。
僕の答えは決まっている。
こうして、僕は誰も知らない6人目のフレーバーズ“黄金の縁の下の力持ち“となった。
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「本当にありがとう」
「いいえ、この前も言ったけれど完治には時間がかかるから、定期的に“カリィライッソォ“を食べさせてあげてね」
瑠羽の病室から退室した僕らは、廊下を歩きながら話をする。
「でも、あれ、他の人に食べさせていいの?」
「ヒーロー省の許可が下りれば問題は無いわ」
今回の一件で、シュガーはヒーロー省と掛け合ったらしい。
僕の異常なカレー愛を報告で知っていた上役は、即決で許可を出したらしい。
「むしろ、どんな手を使ってでも逃がすなって言われたわ」
シュガーは、子供のような可愛らしい笑顔を浮かべてそう言った。
それを見て、彼女はこんな顔もできるんだなぁ。と、ふと思い、失礼だな。と反省する。
「シュガーさんが、フレーバーズのリーダーとは知らなかったですよ」
対外的には、レッド・ペッパーがチームリーダーとして認識されている。
シュガーいわく、『だって、特撮ヒーローだって無駄に熱くてイケメンの赤がリーダーでしょ?』だそうだ。
メンバーからも無駄に熱いって思われてるんだな。ペッパーは。
「それよりも、約束守ってね」
「それが条件ですから、当然です。むしろ、瑠羽が治ってからもずっと手伝いますよ」
僕がそう言うと、シュガーはなぜか不満げに頬を膨らませる。
ほかに何かあったっけ?
「そっちじゃないわよ。私の事は、他のメンバーがいない時は名前で呼ぶの」
「え?それは冗談だと……」
「えー? ちゃんと言わないと、許可取下げちゃうぞ」
小悪魔風に、不満を述べる姿は可愛いとは思うけど、この人、案外子供なのかな?
「ちょっと、それパワハラ……」
「リーダーの命令だぞ~」
「……糖谷さん」
「ダメです」
「…………珠……美……さん」
「うふふ。よろしい♪」
「……はぁ……」
戦闘よりもこちらの方の気疲れがきつそうだなと思った僕は、家に帰ったら冷凍庫に残っている瑠羽特製のカレーに慰めてもらおうと誓ったのだった。
そんなわけで、“カリィ“として新たなる一歩を踏み出した僕だけど、僕を取り巻く環境は変わったり変わらなかったり。
そんな中、性懲りもなくまた“あいつ“がやってきた。何回負けたら気が済むんだろう。
次回 ーその者、ハーレムチートご希望につきー
ホント、自分の世界でやってくれよ……