2ー4 キング・ガラムマサラ
「君に頼んで良かったよ! 君は凄いな!」
「うああぁぁぁぁぁぁ…………」
「ペッパー! 加減しなさいよ!!」
敵への陽動からレッド・ペッパーは戻って来るやいなや僕の肩を掴んで嬉しそうに話しかけるが、相当興奮しているのだろう。頭がシェイクされて気持ちが悪い。ソルト・ザ・ホワイトが止めてくれなかったら吐いてたかもしれない。
カレーを吐くなんて、あってはならないことだ。
「ああ、すまない。しかし……」
「ペッパー。それよりもやることがあるだろう」
「ああ、そうだね。それじゃあ、また後で」
まだ何かを言おうとしているのをブルー・ビネガーから止められたレッド・ペッパーは、他のメンバーがいるところへ向かう。
止めに来たブルー・ビネガーから不穏な何かを感じたけど、一体何なんだろうか。
「皆、定位置についたわね?」
シュガー・ザ・パールの言葉に全員が頷く。彼女も頷き返すと、地面に向かって手をかざす。
「いくわよ!」
「応!」
その掛け声で、全員が一斉に同じ言葉を発する
ー我等が呼び声に、世界を越えて応えよ! 機械仕掛けの英雄王!!ー
その言葉が終わるとともに、まばゆいまでの光が辺りを包む。
僕は、余りの眩しさに目を閉じる。何が起きているかわからないが、“召喚“なので、キング・ガラムマサラは異世界のロボットなのだろう。僕らの科学技術だと戦闘用ロボットも、巨大ロボットも作れないしね。
そんなことを思っていると光がおさまったので、僕は目を開ける。
そこには、白と青と赤に彩られた敵の機械生命体と大きさがほぼ同じの、騎士をモチーフにしたようなロボット“機械仕掛けの英雄王がそこにいた。
しかし、なかなか動かない。なぜなんだろう?
「おい、お前は俺と来い。お前が近くにいると戦闘に支障が発生する」
急に声をかけられて驚いた僕は、声をかけられた方を見る。そこには、カフェイン・ザ・ブラックがいた。
彼に背負われて少し離れた場所へ移動を開始する。
僕たちがある程度離れると、キング・ガラムマサラは敵の機械生命体にむけて攻撃を開始する。
機械生命体は、キング・ガラムマサラにむけて熱線を発射する。
しかし、キング・ガラムマサラはマントのようなバリアでそれを防ぐ。
ちょっと! あんなの撃てたの!? もしもこっちに撃たれてたら一瞬でアウトだったじゃんか!!
カフェイン・ザ・ブラックの背中を下ろされた僕は、非常に危険な状態だったことに内心焦りながら戦況を見守る。
キング・ガラムマサラは右手を前に出す。すると、そこに魔法陣が現れ、無数の光の弾が機械生命体に放たれる。
機械生命体もバリアのような物を発生させる。
バリアは光の弾を防いでいるが、その数の圧力に屈していくつかの弾がバリアを貫通して機械生命体に襲いかかる。
弾をその身に受けた機械生命体は、バランスを大きく崩す。そのタイミングで、キング・ガラムマサラはランスのような物を召喚すると、背中と足裏のバーナーを使い突進する。
機械生命体は、避けようとするのだが地面に魔法陣が現れ、そこから出現した青白い鎖のような物で足を繋がれて移動を疎外され、そこをキング・ガラムマサラが勢いよく突っ込んでいく。
金属同士がぶつかり合う音が鳴り響き、火花が飛び散る。ランスが機械生命体から突き抜けたのが一瞬見えた。
その時、
機械生命体の何かに引火したのか爆発が起こるのだった。
暫くして煙がおさまると、今の一撃の威力が見えてきた。
ランスで腰の辺りを串刺しにされた機械生命体は、左肩部分の一部が先ほどの爆発で吹き飛び、両足部分ももげてしまっている。
それでも何か抵抗しようと弱々しく動いていたが、暫くすると動きが止まる。
どうやら、今の一撃で勝負が付いたようだ。
「すげぇ……」
「終わったな。見ろ」
上空に魔法陣が現れると、機械生命体は分解されるように光の粒子になり、魔法陣に吸い込まれるように消えていく。
「消したんですか?」
「もとの世界に転送しただけだ」
カフェイン・ザ・ブラックは、そう言ったかと思うと僕の腕を掴んできた。
「な、なんですか……?」
「さっきシュガーとペッパーから、お前を確保しておけと通信があったからな」
「機密保持で……僕、記憶とか消されますか?」
僕の言葉を聞き、カフェイン・ザ・ブラックは口を歪めて笑いだす。
「くっくっく……よくわかったな……ってアニメの見すぎだよ。冗談だよ、冗談」
カフェイン・ザ・ブラックの笑えない冗談に僕はドン引きだ。
どうやら、勧誘らしい。
「な……なんでですか?」
「あいつらが来るまでに、お前が何をやったか説明しておいてやるよ。それが理由だ」
戦闘は終わったが、面倒事は続くみたいだ。
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「やあ、さっきはありがとう。おかげで一気に片が付いたよ」
「勘違いするなよ。貴様を見出したペッパーが凄いんだ」
カフェイン・ザ・ブラックの説明を聞いて、大体の事情を理解した僕の前に、上機嫌のレッドペッパーと、なぜか感じの悪いブルー・ビネガーがやってくる。僕は、なんでいきなり突っかけられてるんだろう。
「キング・ガラムマサラの召喚に、高出力モードでの戦闘、そして異世界転送の魔法発動のエネルギー全てを一人で賄うって、こいつ本当に人間なの? 人の皮を被った化け物じゃないの?」
「私たちのピンチを救ってくれた恩人に向かって言う言葉じゃないわね、ソルト。彼に失礼よ」
「わ、分かってるわよ! ……感謝してあげるわよ。だから感謝しなさいよね!」
「あ、うん。ありがとう……」
「何やってんだ、お前らは」
なぜか、ディスられたうえに感謝する羽目になった僕と満足そうなソルト・ザ・ホワイトに呆れるカフェイン・ザ・ブラックと、笑うレッド・ペッパーとシュガー・ザ・パール。そして完全無視のブルー・ビネガー。
「フフ……ソルトがごめんなさいね。それで、カフィから説明はあったかしら?」
「はい。大体は聞きました」
彼らフレーバーズの抱える弱点と、それを補うサポートメンバーの存在、
そして、僕がカレーだと思って飲んでいた万能エネルギーの存在と、今回の戦闘で、エネルギーストックが終わってしまった事。
そして、それを補うものが現在いない事を。
「そう、それなら早いわ。あな……」
「僕たちのサポートメンバー“カリィ“になってくれないか? “カリィライッソォ“をあれだけ摂取しても平気な人なんて初めてだよ。君は、まさに僕たちと一緒に世界の平和を守る為に生まれた……」
「あんた何、シュガーの話遮ってんのよ! それにこいつドン引きじゃないの!」
「ソルト! ペッパーに何をする!」
シュガー・ザ・パールを押し退け、レッド・ペッパーが僕の手を取って話しはじめる。急にぐいぐい来られて、僕は若干引く。
それに気付かないで、さらに押して来るレッド・ペッパーの後頭部を蹴飛ばして止めるソルト・ザ・ホワイトと、それを見て激昂して詰め寄るブルー・ビネガー。
なんだろう。僕が思っていたヒーローとは何か違う。
僕は、思い描いていたヒーロー像と現実の違いに何とも言えない気分になっていると、残りの二人が僕に話しかけてくる。
「悪いな。だが、ペッパーでは無いが、お前のそのカレーへの深すぎるほどの愛情は、俺達のエネルギーである“カリィライッソォ“との相性が物凄く良い。お前の力が俺達には必要だ」
「私たちとともに、この世界を異世界の簒奪者から守るために戦ってくれませんか?」
二人の声は優しい。優しくて力強く僕を求めてくる。
レッド・ペッパーも僕を必要としてくれている。
ソルト・ザ・ホワイトも悪いふうには思ってないと思う。
ブルー・ビネガーは、レッド・ペッパーが気に入った人間にはいつもあんな感じらしい。
「でも、気を許してる人の前でないと、ビネガーもあんな風にしないのよ。私たち、ヒーローが仕事だからね」
「子供達の憧れでいないとだからな」
嬉しくない気の許され方だなぁ。
それはさておき。
彼らの事情はよくわかった。僕も出来れば力になりたい。
だけど。
「僕も皆さんの力になりたいです。でも、無理です」
僕は、僕の抱える事情を二人に話すのだった。